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第七話 黒魔術師の少女、動く!

 

 二人が倒された。

 その連絡を聞き驚きを隠せぬガレフス。

 あの二人は部下の中でもかなりの腕の物だった。

 純粋な実力だけならばバレースと遜色ない。

 それがやられるとは…


「あの二人が倒されました」


「俺が出るか…いや…」


「ガレフス様…」


 まだ自分が出るわけにはいかない。

 自信が無いわけでは無い。

 この立場の者が、単なる二人の旅人の討伐に出陣すれば信用問題にもなりかねない。

 藩将の名を安売りするわけにはいかないのだ。


「暫し様子見といこう。手出しはするな。兵にはそう伝えておけ」


「わかりました」


 そう言って部下は部屋から出て行った。

 残されたのはガレフスと、その使用人の少女。

 二人のみ。


「替えを」


「はい」


 使用人の少女に命じ、替えの酒を運ばせるガレフス。

 飲み干したグラスを渡し、替えを受け取る。

 しかし…


「女、この酒を飲んでみろ」


「そんな、私がガレフス様のお酒などとんでもない…」


「飲めない、というのか?」


 何故か使用人に対し酒を飲ませようとするガレフス。

 一体何を考えているのか…?

 すると彼は酒の入ったグラスを部屋の水槽に投げ入れた。

 中の酒が水に溶けると共に、魚たちが即死した。

 酒には毒が入れられていたのだ。


「この俺をごまかせると思ったか?」


「…たかが地方の藩将、と侮っていたが結構やるようですね」


 そう言って使用人として身に纏っていた服を脱ぎ棄てる少女。

 風に靡く緑色の髪。

 病的なまでに白い透き通るような肌。

 光に照らされ輝く薄い緑色の髪

 それはキルヴァの館に現れた、あの黒魔術師の少女だった。


「服は他の使用人の方からお借りしました。無断でね」


 ふと気が付くと、その服はあの黒いローブに戻っていた。

 どうやったのかはわからぬ早着替えだが、問題はそこでは無い。

 正体不明の少女を潜り込ませてしまった。

 何者かはわからぬが、この少女をそのまま帰してはいけない。


「何者だ?」


「旅の黒魔術師さんですよ」


「目的はなんだ」


「藩将ガレフス、貴方の命!」


 そう言い切る黒魔術師の少女。

 一方のガレフス。

 自身の命を狙っていると聞きながらも軽い笑みを浮かべる。


「どうする、戦うか?」


「ええ」


「ここでは狭い、場所を変えるぞ」


 そう言って窓を叩き割り中庭へと場所を移す。

 先ほどの部屋よりはずっと広く、遮蔽物もほとんどない。

 植木や花壇が少しある程度。


「まずはお手並みを拝見といこうか…」


 ガレフスがそう言うと、物陰から一人の男が現れた。

 彼ほどではないが、そこそこ強そうだ。


「この男は俺の部下の中でもなかなかの腕だ」


「ははは、ガレフス様、相手はこの少女ですか?まだ子供ですよ?」


 笑いながらそう言う部下の男。

 小手調べと言わんばかりに、足のレガースに仕込んだナイフを軽く投げつける。

 しかし黒魔術師の少女はそれを簡単に受け止める。

 そして逆にそのナイフは跳ね返されてしまった。

 持ち主である彼の下へと投げ返され、再び帰って行った。

 投げ返されたナイフはその頬をかすり、背後の柱に突き刺さった。


「結構やるな…」


「そうだ。子供と思うな、やれ!」


「わりました!」


 そう言って黒魔術師の少女に向かって飛び掛かる部下の男。

 渾身のパンチを叩きこみ、一撃で倒そうと言う考えだ。

 だが、その攻撃は軽く避けられてしまう。

 驚く男の腕を握りしめ、その骨を砕いた。

 そして心臓を一突きした。


「ぬあッ…」


 どうやらただの魔術師、という訳ではないようだ。

 そう考えを改めるガレフス。

 部下の死体を隅に寝かせ、藩将であるガレフスが前に出る。


「ではいくぞ!」


 そう言うとガレフスは黒魔術師の少女に向かって飛び掛かった。

 先ほどの男と同じ型。

 しかしわずかに違うものがあった。

 それは右腕。

 右腕で手刀の構えを取り襲い掛かる。

 彼の手刀が空を切り裂く。

 黒魔術師の少女もそれを空中で彼の手刀を受け流す。


「へえ、やるなあ」


「単なる黒魔術師の少女、という訳ではなさそうだ」


 地上に着地し、対峙する二人。

 だが、かわしたにもかかわらず黒魔術師の少女の頬に一筋の傷がついた。

 魔法の類を手刀と同時に使ったわけではない。

 この技の正体は…


「その技、東方の古武術の奥義の一つね?」


 疾風を友とし操る。

 幻空と現空の差圧によって万物を切り裂くという拳法。

 東洋の大陸に伝わるという古武術だ。


「拳法は俺の得意分野だ」


「珍しい技」


 ガレフスが再び手刀の構えを取る。

 警戒しつつ間合いを取る黒魔術師の少女。

 ふと、かかとが花壇に触れた。

 ほんの一瞬だった。


「おっ」


 黒魔術師の少女の注意が逸れた。

 そこを逃すガレフスでは無い。

 すかさずその手を振りかざす。

 高速の手刀となり襲い掛かった。


「…ッ!」


 その衝撃が斬撃となり黒魔術師の少女を襲った。

 もっとも、今の技はただの牽制。

 本気で黒魔術師の少女に当てる気はなかったようだ。

 しかしその攻撃により黒魔術師の少女の後ろにあった木が真っ二つになった。

 単なる怪我では済まない。

 もしこの一撃を喰らってしまえば…


「結構やるね」


「世辞はいい」


「キルヴァ…勇者サマよりも強いんじゃないの?」


「聖剣、武器なしの一対一ならあるいは…な?」


 互いに軽い冗談を言い合う。

 余裕がある、と相手に思わせたいのだろう。

 しかしガレフスの内心は穏やかでは無い。

 牽制の一撃とはいえ、手ごたえが無かった。

 並の技では通用しないということだ。


「ずあッ!」


 そう言ってガレフスが再び斬撃波を繰り出す。

 今度は両手から放たれた二つの斬撃波が黒魔術師の少女を襲った。

 何とか避ける黒魔術師の少女。

 だがその隙を突き、ガレフスが一瞬で間合いを詰める。

 そして黒魔術師の少女の腹に強烈な一撃を叩きこんだ。


「うッ…」


 腹を押さえ、その場に手をつく黒魔術師の少女。

 ガレフスの放つ斬撃波は確かに厄介だ。

 遠距離からだと常に狙われる危険性が孕む。

 仮に近接戦闘に持ち込んだとしよう。

 それでも斬撃波を警戒しながら戦わなければならない。


「ならこちらも攻撃魔法を使わせてもらうからね!連続魔力波!」


 元々高速戦闘が得意なガレフス。

 彼に大型の魔法を当てられるとは思っていなかった。

 威力の低い魔力波を連射し少しずつダメージを蓄積させていく。

 もっともここまで魔法を警戒してくるとは想定外だったが。

 何とか魔力波を受け止める続けるガレフス。

 だが更なる連撃が彼を襲う。


「対抗手段が追いつかん…!」


 初弾を止めても後続の攻撃をまともに喰らってしまう。

 黒魔術師の少女の放つ全ての攻撃を避ける手段は無い。

 全身に複数の魔力波を叩きこまれ、数メートルの距離を吹き飛ばされてしまう。

 さらに追撃とばかりに距離を詰める黒魔術師の少女。

 この攻撃を避ける手段は無い…


「ならば避けない!」


 黒魔術師の少女の拳が直撃する瞬間、ガレフスは衝撃波を放った。

 咄嗟だったため威力は低いが、吹き飛ばすにはちょうどいい。

 それにより二人が吹き飛ばされ、改めて間合いを取る。

 お互いのポジションは最初の位置に戻った。


「ふふふ」


「ハァ…ハァ…ハァ」


 二人のダメージ差は歴然だった。

 威力の高い攻撃を避け、軽い物のみを受けた黒魔術師の少女。

 ほぼすべての攻撃を受けたガレフス。

 全身に魔力波を叩きこまれただけではない。

 自身の放った衝撃波の反動もダメージとしてガレフスの体に蓄積されている。


「魔法、もっとつかおっかな」


 そう言うと、黒魔術師の少女が小声で何かの呪文を詠唱する。

 それを見たガレフスは、速攻で勝負を仕掛けることを決めた。

 魔法の種類によっては勝敗が大きく変わる。

 このまま持久戦に持ち込まれる恐れがもある。

 仮に回復魔法や風を打ち消す魔法等とならばガレフス側に不利になる。

 最大の斬撃波で黒魔術師の少女の身体の両断を目論む。

 腕を大きく振りかざそうとする。

 しかし…


「ありがとう、この技を使わせてくれて」


「なッ…!?」


 呪文の詠唱をが突如止まった。

 それはまさに予想外の動きだった。

 一瞬で間合いを詰める黒魔術師の少女。

 そしてガレフスに強烈な一撃を放った。

 不意を突かれた彼は対応しきれなかったのだ。

 彼女が放った技、それは…


「幻影闇龍壊…!」


 そのたった一瞬で勝負はついた。

 黒魔術師の少女の使った『幻影闇龍壊』という技。

 全身に魔力を纏い、拳で相手を貫く技だ。

 破壊力が高く原理は簡単。

 ガレフスの身体を貫通。

 彼は静かにその場に崩れ落ちた。


「さすが『あの子』の『必殺技』の『幻影闇龍懐』、威力が違うよね」


「おぉ…ぐふッ…」


「まだ生きてるよね?少し貴方の名前使わせてもらうよ」


 そう言う黒魔術師の少女。

 自身の命はもうそう長くは無い、ガレフスはそう悟った。

 二分…

 いや、一分も無いかもしれない。

 最後の力を振り絞り、黒魔術師の少女に言った。


「き、貴様…何を目指す…」


「人々の動乱、この国を包み込む漆黒の旋風(サイクロン)!」


「な、何故…」


「ふふふ…さあね…」


 少女が起こすその風。

 まだ小さいそれは、やがてすべてを飲み込む大きな風となっていく。

 カケスギ、コロナ、革命軍。

 様々な物を巻き込んで…!



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