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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第六章 コーツとノートの伝説

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第七十七話 コーツの決闘

 

 先代の勇者コーツ。

 彼が開拓し、治める村『クレセントコーツ』をコロナたちは訪れていた。

 名を名乗らぬ状態のまま、酒場で意気投合したコロナ一行とコーツ。

 しかし、コーツは国からの命によりコロナたちの討伐をすることに。

 コーツから決闘状を渡され、その決闘をカケスギが受けることとなった…


「…なるほど。そういうことか」


 その翌日。

 酒場で朝食を取りながら話すコロナ一行。

 その一連の話をレービュが頷きながら聞いていた。


「妙な気配を感じたと思ったら、そう言うことだったのか…」


「ああ。そうだ。で、カケスギの奴が決闘を受けるんだと」


 どうやら彼女も、昨日のコーツの侵入には気づいていたらしい。

 いざとなれば飛び出して戦うつもりだった。

 だがその時のコーツには戦う意思が無いことにも気づいていた。


「で、カケスギのヤツが戦いを受けると」


「ああ。どうしても戦いたいらしいからな」


「で、当の本人はどこだコロナ?」


「ああ、それか…」


 決闘を受ける当の本人であるカケスギ。

 その彼は朝から姿を消していた。

 誰にも言わずに。

 とはいえ、コロナには行き先がどこかは分かっていた。

 恐らく預けていた刀を引き取りに行っていたのだろう。


「なるほど、刀か」


「戦いは夕方。それまでは静かに待とうぜ…」


「はは、そうだな…」





 そして時刻は過ぎた。




 あっという間に夕方となった。

 あの決闘状でコーツが指定した時刻だ。

 村の裏の整地された空き地。

 新しく農作物などを補完する蔵を作る予定の場所らしい。

 障害物も無く、人もほとんど訪れないという、まさに戦うにはふさわしい場所だ。


「戦うのはキミでは無いのか?」


「…」


 コーツの問いに対し、黙って頷くコロナ。

 今回の決闘はカケスギが戦うことになっている。

 彼にしては珍しく、積極的に戦うことを望んだのだった。

 普段は流れ作業のように戦いをこなすカケスギが。


「今回はカケスギに任せることにしたんだ」


「そうか…」


 それ以上の会話はしなかった。

 コーツ側もあくまで今回は決闘のみを目的としているらしい。

 確かに討伐ならばあの深夜に襲っていればよかった。

 決闘で決着をつけたい、それがコーツの望みなのだろう。

 それとほぼ同時に、その場に初老の女性がやってきた。


「貴女は…?」


「私はノート。先代の聖女です」


 少し早めに訪れた先代聖女のノート。

 夫であるコーツの戦いを見届けに来たのだろう。

 しかしそこには先客がいた。

 コロナとレービュだ。

 二人の方が若干ではあるが、来るのが早かったのだ。


「そうですか…」


 そうとだけ言って軽く頭を下げるコロナ。

 今回の戦いに立ち会うのはコロナとレービュ。

 そして先代聖女のノートのみ。

 他の者は誰もいない。


「…」


 僅かな観客。

 そしてこの荒地の中央に静かに立つコーツ。

 カケスギが来るのを目を閉じ、黙って待つ。

 それを黙って見守るコロナ、レービュ、ノート。

 今回の戦いはコーツとカケスギの一対一の決闘。

 他者は一切手を出してはいけない。


「…護人のコロナさん」


「えッ!?」


「やっぱり…」


 ノートのその言葉に驚きを隠せぬコロナ。

 このクレセントコーツに来てからは自身の名は出していないはずだ。

 仮にコロナの名を出していたとしても、そこから護人につなげるのは難しい。

 やはりミーフィアの追手か、その考えが脳裏をよぎる。

 しかし…


「数年前、一度だけ会ったのを覚えているわ」


「あッ…!」


 コロナにとっては三年という長い月日。

 だが彼女にとっては僅か三年なのだ。

 その感覚の違いを改めて実感させられた。


「いろいろあったみたいね」


「…知っているんですか?」


 勇者や聖女として戦うこと。

 それは本来はとても過酷なことだ。

 キルヴァなどとは比べ物にならぬほどの過酷な旅。

 それをコーツとノートは成し遂げてきたのだろう。


「勇者キルヴァが貴方にどれほど酷いことをしたのかは知っているわ。本当にごめんなさい」


 そう言って深々と頭を下げるノート。

 キルヴァやミーフィアは彼女にとって後輩にあたる。

 しかしだからと言ってノート達に罪があるわけでは無い。


「あ、頭を上げてください!そんな…」


「いいえ、私たちがもう少し気を聞かせていれば…」


「い、いえ…」


 二人がそう話していたその時だった。

 カケスギがその場に現れた。

 てにはいつもの刀、五光姫狐を持っている。

 取りに行き、軽く慣らしていたというところか。


「先代の勇者、コーツ…!」


「来たか…」


 そう言って対峙するカケスギとコーツ。

 互いに構えをとる。

 カケスギは五光姫狐を。

 コーツはその身の丈ほどの大剣を。


「あんなでかい剣を本当に使うのかあのオッサン…!」


 思わず驚嘆の声をあげるレービュ。

 いくら先代の勇者とはいえ、コーツはすでに初老の域に達した男。

 そんな人物があれほどの大剣を使うとは考えもしなかった。


「アレックス・サンダーでもあんな剣は使えないだろ…」


「かつての勇者としてのコーツは聖剣と大剣の二刀流だったのよ。あれでもまだ足りないくらいよ」


 ノートがそう言った。

 コーツは既に老体であるため、二刀流はもう使えない。

 たとえそれが聖剣でなくとも。

 しかし、だからと言ってコーツが弱体化したという訳では無い。

 当然、彼は大剣のみで戦う戦術を編み出している。


「始まる…!」


 ノートの直観。

 その次の瞬間だった。

 二人が互いに地を蹴ったのは…!


「くッ…!」


 コーツの大剣の攻撃を受け流すカケスギ。

 だがその一撃はあまりにも重すぎた。

 上手く受け流したにも関わらず、手に大きな衝撃が残っている。


「はあッ!」


「速い…!」


 その気迫と速さに押されるカケスギ。

 これがかつて勇者と呼ばれた男の剣の流れ。

 剛の剣として恐れられたあのコーツの剣捌きなのか。


「カケスギが押されてる!」


「あんな大剣なのに…めっちゃ速い!?」


 確かに強力な剣だが、何かが違う。

 しかし決して弱いという訳では無い。

 どこか弱々しく、そして荒々しい。

 まるで燭台の蝋燭が燃え尽きる…

 その瞬間のような…


「ぬぅッ!」


 だがその猛攻も長くは続かなかった。

 僅かに…

 ほんの僅かに攻撃にズレが生じた。

 それをカケスギは見逃さなかった。

 瞬時に鍔競り合いに持ち込んだ。


「くッ…」


「決める…!」


 鍔競り合いに負け弾き飛ばされるコーツ。

 思わず手から大剣を手放してしまった。

 それをカケスギは逃さなかった。

 そのまま地を踏み、蹴りでの追撃。

 刀での攻撃では無い。

 最後の蹴りはコーツにとって完全に予想外だった。


「ここで…その攻撃を…!?」


 意識外からの蹴り。

 今のコーツにはそれに対応できる力は残されていなかった。

 地面に勢いよく叩きつけられるコーツ。


「勝負、あったな…」


 カケスギが冷たく言い放つ。

 勝負はついた。

 この決闘はカケスギが勝利した。

 コーツは敗者。

 負けたのだ。


「ぬ、ぬぅ…」


「俺の勝ちだ」


 そう言ってコーツに刀の先を突きつけるカケスギ。

 しかし不思議なことに、コーツは笑っていた。


「久しぶりだ。こんなに熱く戦ったのは…」


「だが敗北は敗北だ」


 刀に力を込めるカケスギ。

 その視線はコーツの首筋を向いている。

 このまま刀に力を入れれば、すぐにでもコーツを殺せる。


「これが結末か…」


 コーツはそう呟くとそっと眼を閉じた。

 このまま自分はここで死ぬのか。

 しかし、かつて勇者と呼ばれた男として…

 戦いの中で死ぬのも悪くは無い。

 コーツはそう思っていた。

 しかし気になるのはノートのことだ。

 彼女を一人、残してしまうのは心残りだ…


「つあッ!」


 その叫びと共に、カケスギが刀を振り下ろした。

 逆手持ちに持ち替えて。

 しかし…


「何故だ」


「…」


「何故、殺さない?」


 カケスギの構えた刀。

 それはコーツの顔の横の地面に突き刺さっていた。

 たまたま外れたのではない。

 カケスギがわざと外したのだ。

 何故殺さないのか、コーツが問う。


「殺す理由も無い」


「理由など…」


「先代勇者コーツ、お前は証人になるんだ」


 この国はやがて変わる。

 人々の大いなる意志によって。

 それを静かに見届けろ。

 カケスギはそう言った。


「国が…変わる…?」


「そうだ。それはすぐそこまで来ている」


「何を…」


「楽しみにしていろ…」




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