第六話 藩将からの刺客
カケスギ達がバレースを倒し村を後にして数日後…
何者かが『市将』の地位にあるバレースを倒した。
そのことはすぐさま上層部にも情報が送られた。
国に反逆する何者かがいる、と。
「バレースがやられたか…」
「はい」
「そうか」
バレースよりもさらに上の地位に立つ、この地区一帯を治める男。
藩将『ガレフス』、彼が部下からの伝えを聞いた。
平民の不安を取り除くため、この国では十数年に一度『勇者』という存在を祭り上げる。
そして邪魔者となる『魔物』や『犯罪組織』などを討伐させる。
この国ではそうやって平民の不満を取り除きつつ、現在の政治体制を強化してきた。
「民衆の中には、現在の体制に不満を持つ者もいまして…」
「革命軍か」
この国の政治に不満を持つ者達が集まり組織した『革命軍』。
革命軍は国の中にも多数の支部を持っている。
そんな革命軍を支援するパトロンも裏では多くいると言う。
その中にはある程度社会的地位の高い人物もいると言われているが、定かでは無い。
民衆からの支持が高く、王国側でも把握しきれぬのが現状だ。
「確証はありませんが、もしかしたら…」
「成程…」
そう言って手元にあった酒を軽く飲むガレフス。
仕事中ではあるが、元々かなり酒に強い体質なので特に業務に影響はない。
彼の言うとおり、この国に不満を持つ者が集まり『革命軍』というものを立ち上げるようになった。
バレースを倒したのはそう言ったものではないか、とのことだ。
「ところで、以前上の方から来た『例の件』ですが…」
「勇者キルヴァからの…か?」
キルヴァによるコロナの捜索はすぐに国中の公的組織に伝えられた。
表向きは『かつて死んだ仲間が生きているかもしれないから探してほしい』というものだ。
もっとも、実際は見つけ次第キルヴァが殺しに行くというものだが。
「まったく、情報も全くないのにどう探せと言うのか…」
「しょせん現場を知らない奴らですからね」
「探している、と適当に答えておけ」
「わかりました」
そう返事する部下。
ガレフスの手元には酒と新聞が置かれていた。
バレースの支配下にあった町で流通していたという新聞だ。
珍しいものだが何とか手に入れることができた。
「旅の二人組…」
それはルーメが発行した反政府新聞だった。
出自不明のその新聞が様々なところでばら撒かれている。
このことはガレフスの耳にも届いていた。
どういうルートで出回っているのかは分からない。
これを放っておくと国民の士気に影響が出る。
だがまずは…
「この二人の処分だな」
この旅の二人が何者かはわからない。
だが、早々に始末するに越したことはない。
新聞の出自も調べる必要があるが、先回しでいい。
「あの二人を、『デルモン』と『ガリマ』を調査に向かわせろ」
「はい!」
「あの辺りは道は少ない。すぐに探し出せるはずだ…」
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ルーメの町から旅出たコロナたち。
以前までの進みやすい乾いた荒野とは打って変わり、今回の道は少し面倒だ。
山の中のジメジメとした湿地帯。
一行はそこを進んでいた。
「チッ…進みづらいぜ…」
「文句を言うなコロナ」
「ソミィのヤツ、楽に進んでるなぁ…」
進み辛さに苦言を示すコロナ。
黙って進むカケスギ。
苦も無く進む、荷物持ちのソミィ。
特にソミィはすごい。
あの町で荷物を増やしたにも関わらず、変わらぬ顔で荷物を持っているのだから。
僅か六歳の少女とは思えない。
「それにしても、あれほど喜ばれるとは思いもしなかったな」
バレースを倒した後、コロナたちは村人から多数の礼品を貰った。
感謝の言葉も。
やはり王国の者に不満を持っている人々は大勢いるらしい。
「不満があったのなら自分たちで反乱をすればいいものを…」
一方のカケスギはそんな者達を苦言をしていた。
文句を言うだけで実行に移そうとはしない者達を。
「みんな生活もあるからな。そう簡単にはいかないんだろ」
「ふん」
「それにしてもあのルーメってヤツ、変わってたな」
ルーメはあの町に残った。
コロナたちは次の目的地である『ミッドタウン』とその先の町の名を彼女に告げた。
それを聞いたルーメは言った。
ただ一言、『きっとまた会える』と言って。
「コロナ、1つ聞きたいことがある」
「なんだ?」
「その剣で何故斬らん?」
コロナの剣。
聖女の護人として生きた時代の最後の形見ともいえる剣。
かつて故郷の地方を救った英雄が使ったとされる剣。
名も無き剣だがかなりの一品であることには違いない。
しかしコロナはこの剣で斬っていない。
以前のゴブリンも、役人も。
「いつでも斬れたはずだが…」
「なんか斬れないんだよな、この剣」
刃が無くなったわけではない。
だが何故か『斬れなくなった』という。
しかし異常に固い剣なので、今は棍棒の様に使っているのだ。
重いので鞘ごと殴れば、並みの棍棒などよりも使いやすいらしい。
「昔は斬れたんだけどなぁ。なんでだろうな?」
「知るか、そんなガラクタ捨ててしまえ」
「棍棒としては最高なんだよ。折れないしな…」
と、その時コロナたちの前に二つの陰が現れた。
鉤爪と軽装の鎧を付けた二人組の男だ。
共に眼だけを出した無地の仮面をつけており、その表情は分からなかった。
「おいカケスギ」
「…わかってる」
「よし、じゃあ俺一人でやらせてもらうぜ」
そう言って一歩前に出るコロナ。
立ちはだかる二人はほとんど全く同じ姿。
背丈、恰好。
不気味である。
違いといえば仮面の色くらいか。
片方は灰色、もう一人は白色だ。
「市将バレースを倒したのはお前たちだな?」
「ああそうだ」
「素直に死を受け入れるのならそのガキだけは見逃す。しかしどうせ抵抗するのだろう?」
「当たり前だ!」
コロナが叫ぶと同時に跳び上がり、仮面の男たちに攻撃をしかける。
避けて近くの木に飛び移る仮面の二人。
それを追ってコロナもその上に飛び乗る。
軽い拳で仮面の男たちに攻撃を仕掛ける。
流石にその一撃で仮面の男を倒せるとは思っていない。
この技が果たしてどこまで通用するのか。
そのテストというわけだ。
「ちッ…」
「中々の腕だな」
攻撃を受けていない、もう一人の男が言った。
コロナの拳は灰色の仮面の左手の鎧を少しくへこませた。
だが、破壊まではしなかった。
同じ個所に再び攻撃を当てることができればダメージを通すことはできるかもしれない。
だが、何度もうまくはいかないだろう。
「自分は高みの見物か!?」
その戦いを見ていたもう一人の白い仮面に対してコロナが叫ぶ。
白い仮面が眼を鋭く光らせた。
攻撃対象を変更したコロナを迎え撃つつもりだ。
「楽でいいよなぁ!」
そう言ってコロナは白色の仮面に拳を腹に一発叩き込む。
この一撃を喰らえば確実に大きなダメージを与えられる。
今までもデスバトルの試合では、この一撃で多くの敵を倒してきた。
だが…
「はッ!」
その白色の仮面はコロナの拳を読み、掌で抑えながら受け流したのだ。
そしてその反撃と言わんばかりにコロナに蹴りを入れる。
反撃など想定していなかったコロナ。
それを喰らい、木の上から地面に叩きつけられてしまった。
「ぬおっ…とと…」
白い仮面の男はただ高みの見物をしているだけ。
そう思ったコロナには若干の油断があった。
しかしそれを抜きにしてもこの白い仮面は強い。
素の実力も並みの人間を遥かに超えている。
今の蹴りもただの蹴りでは無い。
的確に攻撃が最も有効になる箇所を狙った蹴り。
無駄のない動きだ。
「ちッ!」
コロナが再び男の頭上まで跳び上がった。
身体を大きく捻り上空から延髄切りを仕掛けるつもりだ。
デスバトル時代の必殺のパターンの一つ。
しかしそれも避けられてしまう。
逆に受けたのはカウンターの一撃。
「無駄なことを…」
さらに拳を打ち付けるも避けられてしまった。
そして反撃の一撃を受ける。
どうも身体がおかしい。
「グゥゥ…」
先ほどから身体の様子が妙なことに気付くコロナ。
妙に息切れが激しい。
それも当然のこと。
いつも彼が戦っていたデスバトルの試合では試合時間が定められていた。
そのため体力をある程度温存して戦うことができた。
弱い相手をわざと生かし、その試合時間を休憩にあてる。
その後、試合終了時間ぎりぎりに殺すといった具合に。
だが今回は違う。
「本物の実戦…」
感覚ははっきりとしている。
だが、身体が追いつけない。
彼の身体はこの数年でデスバトルに最適化してしまっていたのだ。
デスバトルの試合であればとうの昔にコロナが勝利しているだろう。
だがそれが実戦に対する感覚を鈍らせてしまっているのだ。
木の上から地上に降りる二人の仮面。
「お前を片付けたら、次はあの二人だ」
灰色の仮面がカケスギとソミィの方に視線を向ける。
黙ってそれを受け流すカケスギ。
怯えるソミィ。
キルヴァに会うまで死ぬわけにはいかない。
だが…
「こんなところで終わるわけには…」
「落ち着けコロナ!冷静になれ」
頭に血がのぼったコロナをカケスギの言葉が制した。
それを聞き、一旦呼吸を整える。
今、戦っている環境が実戦であるだけ。
あの二人自体は恐るべき強さという訳では無い。
現実的な範囲での強さでしかないのだ。
「冷静になれば対処できぬ相手ではないはずだ!」
「そうか…焦って忘れてたぜ…」
焦りが目を曇らせ、敵の強さを何倍にも見せかけていた。
確かにこの二人は強い。
だが、倒せないわけでは無い。
「来い!」
そう言って剣を引き抜くコロナ。
仮面達も鉤爪を構えた。
これまでは隠し玉としていた鉤爪を。
「ずあッ!」
引き抜いた剣を構え、仮面達と交錯する。
鉤爪による傷が租のみに生々しく刻まれた。
流れる鮮血。
だが、それに見合ったものは得られた。
「うぅ…」
そう言って倒れる灰色の仮面。
もう戦えぬよう、コロナがその腕を踏みつけへし折った。
仮面はその激痛で気を失ってしまった。
「次はお前か?」
「ひ、ひぃぃ!」
そう言って白い仮面はその場から逃げ出した。
攻める時は強い。
攻められると弱い。
「俺の嫌いなタイプだな…」
「お、おい!仲間おいてくなよ!」
「その辺に捨てておけ!もう追ってこようとは思わんだろう」
その様子を見ていたカケスギはそう言った。
実力はあるが、実戦の勘を取り戻さないといけない。
だが、逆に勘を取り戻せば…
護人時代の勘、そして今の実力。
これが合わされば…!?
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