第六十六話 崩れる迅雷 アレックス・サンダー撃破
アレックスと戦うコロナ。
戦いの舞台は屋敷内へと移った。
遮蔽物が多い建物の中とはいえ、ここは相手のフィールド。
上手く戦うことができない。
そんな中、ケニーがアレックスの電気攻撃を無力化させた。
「ありがとうケニー、助かったよ。後は任せてくれ、絶対に倒して見せる…!」
複数の部屋を突き抜け、戦いの舞台は屋敷の広間に。
奥には二階へ行くための階段。
二階まで吹き抜けの天井。
置物や絵画などが飾られた広間だ。
「電撃が使えなくても十分に戦えるんだぜ」
アレックスの言葉は偽りでは無い。
そう感じるコロナ。
なんとか彼と一旦距離を取り、体制をたてなおす。
再び攻撃の連打が始まった。
アレックスの拳をギリギリで避ける。
その拳が背後にあった壁に直撃、衝撃と共に一撃で破壊された。
「あんなもの受けたら身体が粉々になっちまうぞ…」
「じゃあ避け続けてみろよ!」
「くッ…!」
何とか股下を滑りアレックスの背後に回る。
そしてコロナが攻撃を放った。
先ほどの腕折りは既に見切られた技。
この状況で使用しても通用するかどうかは分からない。
それならば…
「これでどうだ!」
「うおッ…グッ!?」
重い鉄板を仕込んだブーツによる、全力を込めた蹴り。
通常の蹴りよりも威力は高いが、隙が大きいこの技。
背後にうまく回ったおかげで発動することが出来たのだ。
後ろから放たれたそれはアレックスの胸部に大きなダメージを与えた。
骨の数本は確実に折れただろう。
それを受け、力なくその場に倒れるアレックスの身体。
断末魔も上げる暇も無く、無言で崩れ落ちた。
「やった?コロナ兄ちゃん?」
「ああ。さすがにこれを喰らえば無事では済まないはずだ」
かつてキルヴァとの決戦の際に使用したこの技。
その時は彼の顔の骨を砕くほどの威力を見せた、
顔面だけでは無く脳にまでダメージを与えるほどの威力だった。
さすがに今回の蹴りではそこまでのダメージは与えられなかった。
だが、無事なわけが無い。
しかしその時、驚くべきことが起きた。
「くぅッ…今のは効いたぜ…」
攻撃を受け絶命したかに思えたアレックス。
しかし彼は立ち上がって見せた。
体内に傷を負ったのか、口の中を切ったのか。
口から血を流してはいるが、致命傷では無いように見える。
先ほどのお返しとばかりに、アレックスがコロナにゆっくりと歩み寄る。
「じゃあ次はこっちのば…」
「させるか!」
そう言ってケニーが全力でアレックスに突撃した。
剣をカケスギが与えた傷に向け、斬り付けたのだ。
「ガキがぁ…!」
彼からの攻撃は想定外だったのか、その攻撃をアレックスは避けることも無く受けた。
しかし傷に直撃したとはいえ、大きなダメージを与えるまではいかなかった。
多少傷口が広がる程度でしかなかった。
しかしその攻撃がアレックスの逆鱗に触れた。
技を放った張本人であるケニーに反撃を放つ。
「邪魔だ!」
「ケニーッ!」
ケニーをかばうため、彼を抱き転がるコロナ。
しかしアレックスの蹴りを横腹に喰らい、二人は吹き飛ばされてしまった。
ただの蹴りとはいえその威力は絶大。
まともに受けたコロナは骨の数本は折れてしまっただろう。
壁に叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべるコロナ。
「う、うぅ…」
「下らねェガキ共め…」
「…くそ!」
コロナが再び蹴りを放つ。
しかし所詮は怒りに任せて放った技だ。
直撃することは無くむなしく空を切る。
「くっ…」
「まださっきの刀使いの方が手ごたえがあったな。ハハハ!」
倒れているコロナを指差しながら嘲笑うように言うアレックス。
それに反論しようとするコロナに対し、さらに追い打ちをかけていく。
「本気で来な。そうすれば少しは相手になるだろうぜ」
「ずっと本気だ…!」
衝撃波で攻撃を仕掛けるコロナ。
だが、今の彼は完全に頭に血が上った状態。
そんな者の攻撃など当たるわけも無い。
連続で放つも全て空を切るのみ。
「ケニー!逃げてくれ!」
「俺が逃がすと思うか」
そう言うと、アレックスはケニーに向け壁の残骸を投げつけた。
本人にとっては軽い一撃だが、その攻撃を受けるケニーにとっては違う。
残骸とはいえレンガだ。
今の彼ではその攻撃を避けることはできない。
直撃すれば大怪我は免れない。
「ケニーぃッ!」
今、コロナのいる位置からでは攻撃を打ち消すことは不可能。
衝撃波のうてない絶妙な位置にいる。
しかし、攻撃から外すことはできる。
地を駆け、ケニーの前に立つ。
そして彼が盾代わりとなり、残骸を身体で受けて止めた。
「うぐッ…」
残骸を受けた背中全体に鈍い痛みが広がる。
思わず膝を地面に着けてしまった。
痛みを殺し無理やり作った笑みを浮かべるコロナ。
苦しさを彼に見せぬように作った笑顔。
しかし、それが無理矢理作っているものだということにケニーは気付いていた。
「コロナ兄ちゃん…」
「あ、あいつ強いよな…厳しいぜ…」
「『護る者』があるっていうのは大変だな、ガキが」
「うう…」
「足枷もいい所だな、ハハハ」
アレックスがコロナに手刀を振り下ろした。
いつものコロナならば避けられるだろうが今は違う。
ケニーを守りながらの戦い。
しかしそれが足かせだと感じることは無い。
かつての旅の中で得た《聖女の護人》という力。
それを持つ彼からしたらこんな状況は何度も経験してきた。
「くぅ…」
しかしその時とは違う点もある。
このアレックスの異常な強さだ。
と、その時…
「ケニー!コロナさん!」
「姉さん!」
「マリス…!」
吹き抜けの二階部分からマリスが顔を出した。
その手にはコロナの剣が。
カケスギの刀である五光姫狐とは違い、武器庫には無かったその剣。
それをコロナに渡すため、別の倉庫を探していたのだ。
「ケニー!渡して!」
「う、うん!」
「ありがとう、二人とも」
そう言ってマリスがケニーに剣を投げ渡す。
そしてそれを受け取るコロナ。
しかし、不思議とアレックスはそれを妨害しなかった。
何故なら…
「そんなものでどうする気だ?」
「決まってるだろ。お前を倒す」
「それでか?ハハハ!」
アレックスは知っていた。
この剣が『斬れない』剣だということを。
この剣とカケスギの刀を手に入れたときだった。
アレックスは部下であるゲルツに試し切りをさせた。
カケスギの刀『五光姫狐』は鋭い切れ味を見せた。
しかしこの剣は違った。
全く斬れなかったのだ。
「なまくら以下の鉄クズでか?」
「…わかったんだ。この剣がなんで『斬れなくなった』のか」
「あ?」
ケニー、マリスを護るように立つコロナ。
二人だけでは無い。
外には戦闘不能になったレービュとカケスギもいる。
ここでコロナが負ければ、残りの者は助からない。
この街の虐げられている人々も。
そしてルーメも…
「この剣が本当に切れないかどうか、試してやる」
そう言ってその剣の先をアレックスに向ける。
「俺が試したんだ。そんな観賞用にもならないくず鉄になにができる?」
「そうかなッ!?」
「ふざけやがって!死にぞこないが!」
拳を構えコロナへと突進するアレックス。
その迫力の前にコロナは一歩も怯まなかった。
今必要なのは怯むことでは無く、アレックスを倒す攻撃を放つこと。
自身の身体から今はなてる最上の攻撃。
それは…
「これで倒す、絶対に!」
「死ねクソガキ共がぁッ!!!」
コロナとアレックス。
二人の激突。
互いに戦いの中でダメージを負っている。
ここでの一撃が勝負を決める。
「クァッ!」
アレックスの鋭い拳の一撃。
雷撃を使えぬ今の彼にとってはまさしく最上の一撃。
コロナの身体を確実に砕く一撃だ。
しかし…
「すあッ!」
「なに…ッ!避け…」
その攻撃を避けるコロナ。
当然だ、直撃する訳には行かない。
その代わりにこの剣による攻撃を確実に当てる。
その強い意志を持ち、構える。
「そこだ!」
そしてアレックスの身体に剣の一閃を叩きこむ。
先ほどカケスギが居れた斜め一文字の傷。
その傷と対になるように。
まるで×の字のような大きな傷がその身体に刻まれた。
「ヌアァッ!?がッ…!」
再び彼の身体から鮮血があふれ出る。
それだけでは無い。
アレックスを倒すにはまだ、足りない。
カケスギの与えた傷。
そしてコロナの与えた傷。
二つの傷が交差する一点に渾身の拳を叩きこんだ。
「ウガアアァァァッッ!!」
これまで聞いたことも無いような絶叫。
×の字の交差点の傷に深々とめり込むコロナの拳。
それと同時に彼の体内へコロナ自身の魔力を瞬間的に流し込んだ。
そして拳と共に放たれた衝撃波。
それらを受けたアレックスの身体は屋敷の壁を突き破り外へと叩き出された。
ボロボロの身体でもはや戦闘の続行は不可能。
アレックスが最後にコロナに尋ねた。
「な…ぜ…その…剣で…」
「俺は《護人》だ。護る者がいるから斬れるんだよ」
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