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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第四章 治水の街の解放

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第六十三話 名刀『五光姫狐』

 レービュが放った大技。

 それは周囲を巻き込みかねない大技だった。

 轟々と燃え上がる大きな炎の狼。

 ここが水路の中枢エリアだからこそ使うことができたのだ。

 周囲に燃え広がることは無い、このエリアで。


「『火夏狼(カゲロウ) 』!受けろ!そしてそのまま燃え尽きろ!」


 その声と共に勢いよく燃え上がる『火夏狼の炎』。

 レービュもめったに使わない技。

 その威力はとても高い。

 アレックスも直撃する訳には行かない。

 そう考えた。


「く…!ヌアァッ!」


 アレックスの叫び。

 それが周囲に響き渡る。

 水路に飛び込み逃げようにも距離が離れている。

 走り抜ける時間も無い。

 彼とレービュの戦いの場を中心に大爆発が起こった。

 この一撃が勝負を決める一撃となるだろう。


「レービュの姉ちゃん!?」


「どうなった…?」


 その戦いを眺めるケニーとカケスギ。

 二人が叫ぶ。

 爆炎で二人の姿が見えない。

 いったいどうなったのか。

 その答えは数秒後に出た。


「うあああああッ!」


 その声と共にレービュが爆炎の中から放り出された。

 そして爆炎の中からゆっくりと歩いてくるアレックス。

 身体中焼け焦げてはいるものの、致命傷にはなっていない。

 負けたのはレービュだった。

 噴水に叩きつけられ、そのまま水路に叩き落されてしまった。

 なんとか這い上がるも、体力はほとんど残されていなかった。


「危なかったぜぇ…今のは…」


「まさか…お前も…!?」


「そうだ、貴様と『同じタイプの魔法』を使えるんだよ!」


 アレックスは『不思議な技』を使うと街の者から聞いた。

 しかしそれが何かまではよく分からなかった。

 強力な攻撃系の魔法だとは聞いたが、それ以上は知ることができなかった。

 レービュが使うのは炎を増幅させ操る能力。

 アレックスは…


「俺が使うのは『電気』!天空に輝く雷霆(サンダー)を操ることができる!」


「なんだと…!」


 レービュの火夏狼の炎による攻撃を受ける直前。

 発生させた電気を増幅させて雷撃攻撃を放った。

 そしてレービュのその炎を相殺したのだ。

 炎を増幅させて使用するレービュ。

 電気を増幅させて使うアレックス。

 原理は同じだ。


「で、でんき…?」


 それを聞いたケニーは疑問符を浮かべた。

 この時代、国、地方では『電気』とはあまり聞かない単語だ。

 ある程度の学があるのならばわかるだろう。

 だが、彼は教会で最低限の知識しか学ばなかった。

 知識の無い彼には電気が何か分からなかったのだ。


「冬に布を擦るとたまにチクッと来るだろ」


「うん」


 カケスギの言った言葉を聞き、その情景を頭に思い浮かべる。

 冬に布を触ったりすると確かに、たまに痛みが発生する。

 それを思い出すケニー。


「それだ」


「ああ!あれかぁ!けどそんなもので戦うなんて…」


 カケスギの言葉を聞き納得する。

 しかしそんなものであの炎を打ち消すことができるのか。

 そう考えた。

 と、そこに…


「ふんッ!」


 アレックスが勢いよく腕を振る。

 それと共に彼が腕に巻いていた毛皮が帯電。

 そこから電撃が発射された。

 彼の放った電撃はケニーの横の壁に直撃。

 そのまま壁に大きな跡が刻まれた。


「ヒェッ…」


「これで満足か?ガキが…」


 アレックスが腕に巻いていた毛皮。

 それは静電気を発生させるためのモノだった。

 腕を大きく振ることで静電気を発生させる。

 そしてそれを魔力で増幅させ攻撃に転用する。

 それが彼の使う『不思議な技』の正体だった。


「この国ではまだ電気はあまり研究されていないみたいからな。結構有用なんだよ」


 テルーブ王国ではまだ電気の研究はほとんどされていない。

 攻撃魔法の一種に『雷撃』の魔法とその派生技が存在する程度だ。

 これはかつてコロナの仲間だったノリンが最も得意としていた魔法。

 攻撃射程外からの雷撃による遠距離攻撃が可能である。

 その戦法でノリンは以前コロナを苦戦させたのだった。


「電気の仕組みも碌にわからねェバカは単なる攻撃魔法としてしか使っていないようだが…」


 アレックスは海外を相手に商売をしている。

 そのため、この国には無い知識を知ることができた。

 この電気を生かした戦術、そしてそれを増幅させる魔法もそれだ。

 これを利用した産業も彼は現在考案中であるらしい。


「どれ、とどめを刺してやるか…」


 そう言ってアレックスが再び電撃を放つ。

 吹き飛ばされ、倒れたレービュに向かって。

 さきほどケニーに放った物より威力は低い。

 だが威力は十分。

 しかしダメージを受けた彼女には避けることができない。


「ちッ!」


 それを見たカケスギが彼女の前に飛び出した。

 彼女をかばうために。

 しかしそのまま攻撃を受ける気など全くない。

 手に持っていた剣、それでアレックスの雷撃を切り裂いた。

 着弾と同時に衝撃も発生する雷撃攻撃。

 その衝撃は剣から発生させた衝撃で雷撃を切り裂くことで相殺できた。

 しかし…


「うぐッ…!」


「馬鹿が!電撃を浴びたらどうなるか位わかるだろう!」


 いくら電撃攻撃による衝撃は消せても、電気そのものは消せない。

 残った電流が一気にカケスギの身体に流れ込んだ。


「ぐッ…ぬぅぅぅぅ…」


「ほう、耐えられるだけの体力はあるようだな」


「ケニー、今すぐレービュのヤツを連れていけ!」


「う、うん!」


 倒れているレービュをケニーに任せるカケスギ。

 急いで彼女を連れ、ケニーはその場から離れる。

 しかしそれをそのまま通すアレックスでは無い。

 二人に向け雷撃攻撃を放とうとするが…


「野暮なことするなよ、赤毛皮」


「あ?」


 そう言ってアレックスに向け剣を向ける。

 しかしそれを見た彼はそれを鼻で笑う。

 カケスギの持っている剣は先ほどの雷撃を受けすでにボロボロ。

 とても戦闘に使えそうな物では無かったのだ。

 衝撃を殺す際に剣が大きなダメージを肩代わりしていたのだろう。


「そんな剣で戦う気か、東洋人?」


「これで十分だ」


 剣を大きく振りかざしアレックスに斬りかかるカケスギ。

 二本の剣による勢いある連撃。

 だがその攻撃にはいささか精彩を欠いているようにも見えた。


「はあッ!」


「ぬッ…こんな剣で…」


 カケスギが使っているのは盗賊から戦利品として獲た剣。

 碌に手入れもされていなかった、二級品もいいところの武器だ。

 今回の戦いのためにある程度はカケスギが手入れをしたがそれでも限界がある。

 そしてその限界を超えた酷使。

 それによってカケスギの持つ二本の剣は既にボロボロだった。

 と、そこに…


「カケスギさん!刀ありました!」


「姉さん!?」


「マリス!」


「ここにたくさん!」


 アレックスの屋敷の中から叫ぶマリス。

 大量の刀剣の入った入れ物の傍ら、カケスギに数本の刀剣を見せる。

 この国の物だけでは無く、様々な国の刀剣が保管されているようだった。

 まさに刀剣のサラダボウル。


「落とせマリス!」


「けどたくさんあってどれか分からない!」


「全部窓から投げろ!すぐに!」


 カケスギのその言葉を信じ、アレックスの保管部屋に会った剣と刀を投げるマリス。

 彼女のいるのはカケスギのいる地点からそう遠くは無い。

 何本もの剣と刀が地面に降り注ぐ。

 そんな中、カケスギは一本の刀を手に取った。

 大量に降り注ぐ剣と刀の中から一本。

 中には向き刃の物もあったがそれらを全て避けて。


「これだ、間違えるわけが無い!」


 マリスが投げた刀剣。

 その中からたった一本を掴む。

 そしてそれと同時に鞘から『刀』を引き抜く。


「よくも俺の武器を…死ねッ!」


「この『五光姫狐(ごこうひめぎつね)』を!」


 マリスから受け取ったカケスギの刀。

 名刀『五光姫狐(ごこうひめぎつね)』。

 彼の故郷の昔話に倣い名づけられたその刀。

 その刀から発生した衝撃がアレックスの雷撃を再び切り裂いた。

 カケスギから離れた位置で発生した衝撃だ。

 先ほどのように感電することも無い。


「貢物の中にあったヤツか。気にいってたんだがな…」


「刀、返してもらったぞ」



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