第六十二話 燃えろ!炎の魔導少女・レービュ
アレックス・サンダーのすみかである水路中枢地区へと走るコロナ。
街中を進むカケスギ、マリス、ケニー。
水路を行くレービュ。
最も早く到着したのはレービュだった。
アレックスと交戦する彼女。
そして少し遅れてカケスギ、マリス、ケニーが到着。
周囲の雑魚を倒した。
その一方…
「クソ、こっちの道は失敗だった!」
細い路地を直進して進むコロナ。
だが結局それは遠回りにしかならなかった。
行き止まりの道が多く、他の者達に比べ時間がかかってしまったのだ。
「目的地は分かってるのに…」
小高い丘の上にある治水施設。
そこを目指せばいい。
しかしその道筋がわからない。
人に聞こうにも、この地区の者はほとんどがアレックスの兵器工場で働いている。
そのため日中は不在の者が多いのだ。
「誰か~…お!」
その時コロナは、少し大きめの邸宅の庭に人影を見た。
他の家よりも大きめの敷地と家。
庭におかれたイスとテーブル。
この旧市街の中では金持ちの部類に入ると思われる。
「少し聞きたいことがあるんだ。いいかな?」
「この街では見ない顔だな」
「ああ。旅の途中なんだ」
できればゆっくりと話したいがそうもいかない。
椅子に座る痩せた中年男性。
彼に道を聞くことにした。
軽く話すと、彼はこの街の市長であるという。
とはいえ、今となっては権力も何も無い、飾りとしての市長だが。
「アレックス・サンダーの屋敷にはどう行けばいいんだ?」
「…彼に何の用がある」
「ちょっとな」
「そうか」
アレックスの名を出した途端、一気に警戒されてしまった。
やはりあの男は街の者には嫌われているのだろう。
それを改めて実感させられた。
話題を変えるため、コロナは別の話をきりだすことに。
「アンタは働かないのかい?街の人はみんな働いているみたいだが」
「ああ。今日は休みを取らされたよ」
市長はアレックスに労働者の待遇改善についてを訴えに行った。
しかしそれは却下された。
そんなことを考えるのは疲れているからだ。
そう言われ、半ば無理矢理家に押し込められたのだと言う。
「その新聞…」
市長がテーブルに広げていた新聞。
それは以前ルーメが書いた新聞だった。
「ルーメ…」
「…あの子を知っているのか?」
「ああ。俺の仲間だ」
コロナのその言葉には一切の偽りはない。
それを聞いて何かを察したのだろうか。
市長の警戒が解かれたような気がした。
「アレックスの屋敷はそこの道をずっといけばたどり着ける」
「本当か!?」
「ああ。路地には入らず、そのまま行くんだ」
「けど何で…」
「あの子の知り合いだろう?」
「…ありがとう!」
そう言ってコロナはその場を去っていった。
市長に言われた通り、路地には入らずそのまま進んでいく。
先ほどまでと違い、確実にアレックスの屋敷へと近づいている。
そんな感じがした。
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一方その頃…
アレックスとレービュが戦っているその傍ら。
カケスギが部下たちを相手にしていた。
盗賊から戦利品として奪った安物の剣。
それを二本、両手に持つ。
「二刀流は好きじゃ無いんだけどな」
普段は一本の刀で戦っているカケスギ。
二刀流も使えなくはないが、得意という訳でもない。
しかしそんなことはお構いなし、と言わんばかりにアレックスの部下がたち襲いかかって来る。
「やれ!!」
「これ以上奴らを暴れさせるな!」
周囲から攻撃を繰り返すアレックスの部下たち。
剣を持つ者、棍棒を持つ者、素手で殴りかかって来る者。
しかもチームワークのとれた見事な動き。
単なる雑魚という訳でもなさそうだ。
だが…
「どけ!」
その距離になった瞬間、カケスギは地を蹴った。
一瞬で間合いを詰め、一人の部下を思い切り蹴り飛ばす。
そして別の部下の前に立つ。
振りかざされた棍棒を剣で受け止め、反撃で蹴り上げる。
逆の剣でその一人の斬り倒し、その勢いのまま二人の頭を殴り飛ばす。
その手とは逆の手で、別の部下の足の骨をへし折る。
「うぎゃあぁぁ!」
「次はどいつだ!?」
そう言ってカケスギが剣を構える。
しかしそれと同時に剣が砕け散った。
先ほど棍棒を無理矢理受け止めたせいだろう。
「チィッ、折れたか」
折れた剣を捨て、別の剣に持ち変える。
いつも使っている刀ならばこうはいかない。
カケスギの地元である東の国で作られた名刀の一本。
それがあれば…
「こいつ強いぞ…」
「さて、次は…うぐッ…?」
カケスギの猛攻に虚を突かれた部下。
だが、一瞬カケスギの身体がふらついた。
理由は分からない、しかしそれを見て一斉に部下たちが襲いかかる。
「今だ!」
「こんな時に…!」
態勢を立て直し、剣をその勢いのまま薙ぎ払い、二人を切り捨てる。
さらに蹴りで一人を地面に叩きつけた。
ふらつく身体を無理矢理動かし、残った部下を水路に叩き落した。
叩き落された部下はそのまま流されていった。
「カケスギの兄ちゃん、もしかして…」
「そうだ、カケスギさんの刀!」
その戦いを見ていたケニーとマリス。
彼の持つ砕けた剣をみたマリスがアレックスの屋敷へと走り出した。
先ほどカケスギから頼まれていたこと…
彼の刀を探すためだ。
「ケニー、貴方はここにいて!」
「けど姉さん…」
「いいから!お願い…!」
それを聞き、その場に残るケニー。
一方のレービュ。
先ほど水没した際に、持ってきた火種は使い物にならなくなった。
火薬は水にぬれ、油は水路に落としてしまった。
アレックスとの戦闘でこれは致命的と言える。
「そら、じわじわと片付けてやるか…」
転がるレービュの頭を掴み、徐々に握る力を強めていくアレックス。
アイアンクローをかけつつ彼女の身体を持ち上げ、頭から地面に叩きつけた。
額を割るような一撃。
彼女の頭に激痛以上の痛みが走る。
「ツ…ッッッ!」
余りの痛みに叫ぶこともできない。
意識が飛ぶ、という段階はとうに過ぎている。
痛みのせいで感覚が覚醒し、それがさらに痛みを掻き立てる。
「どうだ、あの世が見えてきたか?」
「クゥッ…!」
しかしそれでも先ほどの傷が痛むからか、頭が回らない。
思考が浅いところで止まってしまう。
言葉にするのも難しい、何とも言えぬ感覚。
痛覚は研ぎ澄まされる一方、思考能力の低下がはっきりとわかる。
「う…ぐ…ッ」
「…つあッ!」
「ウグゴァッ!」
最後の力を振り絞り、身体を大きくひねるレービュ。
そしてアレックスの顎に渾身の蹴りを叩きこんだ。
アイアンクローの体制が解け技から解放された。
そして距離を取り、態勢を整える。
「チィ…」
額に流れる血をスカーフで拭う。
そして先ほどの調理器具から再び炎を掬い上げる。
しかし…
「これじゃ足りない…!」
まだアレックスを倒すには不十分。
そう考えた彼女は調理用の油に手を伸ばした。
バーベキュー用に使うものだったのだろう。
「何を考えている?ガキの浅知恵で…」
「試してみればわかるさ」
調理用油の缶を蹴り飛ばすレービュ。
辺りに油が広がっていく。
そして…
「炎鳥燐恢の奥義…」
炎を油に投げ入れる。
それと共に一気に燃え広がっていく炎。
周囲が水路でなければ、さらに燃え広がり大火災になっていただろう。
その炎を魔力で操り形成していく。
「この魔法は…!」
「『火夏狼 』!」
炎で形成された魔物。
その大きな口を開き、勢いよくアレックスを包み込もうとしている。
それを見たケニーが叫ぶ。
「あの火力でアイツが燃え尽きればレービュの姉ちゃんの勝ちだ!」
それまでの技とは明らかに違う大技。
普段ならば周囲への影響を考え、使うことは無い。
しかしここは水路の走る管理施設。
周囲に燃え広がることは無い。
「この技は…!?まさか…!」
「受けろ!そしてそのまま燃え尽きろ!」
その声と共に勢いよく燃え上がる『火夏狼の炎』。
レービュもめったに使わない技。
その威力はとても高い。
アレックスも直撃する訳には行かない。
そう考えた。
「く…!」
一瞬後退するアレックス。
水路に飛び込み逃げようにも距離が離れている。
走り抜ける時間も無い。
「ヌアァッ!」
アレックスの叫び。
それが周囲に響き渡る。
彼とレービュの戦いの場を中心に大爆発が起こった。
油と魔力の両方が反応し爆発したのだった…
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