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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第四章 治水の街の解放

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第六十一話 紅き巨人に挑め

 ベルアードを倒したレービュ。

 彼女の得意技である魔炎。

 今の戦いではまだその全容を見せていない。

 レービュの一撃がベルアードの腹に深々と刺さった。

 それを受けベルアードはその場に倒れた。


「次はアレックス・サンダー!お前だ!」


「よくもベルアードを…!」


 部下がやられ、怒りに震えるアレックス。

 その彼がレービュの前に立ちはだかる。


「うッ…!」


 レービュが驚くのも無理は無い。

 最強の藩将であるアレックス・サンダー。

 彼は身長二メートルを遥かに超える長身の大男。

 三メートルはあろう巨躯だ。


「生きて帰れると思うなよ女ぁ…!」


「でかい身体と腕だな…!それになんだよその毛皮のアクセサリーは…」


「ハハハ」


 レービュを見下ろしながら威圧をかけるアレックス。

 極端に大きな筋肉を持っているわけではない。

 だが、それでも人並み以上はある。

 その威圧感は半端では無い。

 腕に付けている大きな毛皮のリストバンドのせいで、その腕がより太く見えた。

 と、そこに…


「おい、ここにアレックス・サンダーというヤツがッ…!?」


「カケスギか!」


「レービュ、お前の方が先に着いていたのか」


 正面の門から堂々と入ってきた男。

 それはカケスギだった。

 その周りには彼を止めようとして倒されたアレックスの部下たちが倒れていた。

 後ろには見つからないように隠れているケニーとマリスもいる。


「お、お前ら!大丈夫か!?」


「あ、アレックスさん…すまねぇ…」


「こいつ…強い…」


 カケスギに倒された部下たちを目の当たりにし、さらに怒りを強めるアレックス。

 しかしそんな彼を無視し、カケスギは屋敷の敷地内へと入っていく。


「コロナのヤツは?」


「まだ来てないよ」


「迷いやがったなあのアホ…」


 カケスギが敷地内を確認し、コロナが来ていないことを嘆く。

 真っ先に飛び出していったにもかかわらず、迷っていたのではそう言われてもしょうがない。

 しかし…


「よくも仲間たちを!」


「全員で囲め!相手は一人だ!」


「これだけを相手にして勝てるか!?」


 その場に残っていた部下十数名が全員でカケスギを囲む。

 それとほぼ同時にカケスギがレービュに視線で合図を送る。


『雑魚は片付けておく』


 …と。

 それを受け、レービュが改めてアレックスの方へと視線を移す。

 驚きを隠せぬのは彼女だけでは無い。

 アレックス・サンダーの規格外の巨躯に驚きを隠せぬケニーとマリス。

 掴み所のない、深く不気味な眼光。


「アイツ本当に人間か?」


「まるで魔族みたい…」


 常人のそれよりも一回りは巨大な手。

 そして何よりその巨体。

 人間のそれよりも、どこか魔族に近いものだった。


「こんな人間がいるなんて…!」


「レービュの姉ちゃん!がんばれー!」


 ケニーの応援がその場に響く。

 アレックス・サンダーはゆっくりと構えをとる。

 その巨躯に圧倒されるも、同じく構えをとるレービュ。

 そして勝負の幕は上がった。


「どいつもこいつもふざけやがって…ッ!」


 その叫びとともにアレックス・サンダーがパンチを繰り出した。

 何の変哲もない拳の一撃。

 しかし、三メートルの巨躯を持つ彼が使うとその威力はかなりの物となる。

 巨体であるため、腕もその分長いのだ。

 リーチも常人の数倍はある。


「うおッ!」


 腕でガードすることでダメージを軽減したレービュ。

 攻撃を受け流し反撃をするつもりだったが、それもできなかった。

 その大きな体からは想像できぬ素早い攻撃。

 この男を常人と同じ尺度で考えてはいけない。

 レービュはそう感じていた。


「ハァッ!」


 再び拳の一撃を繰り出すアレックス。

 戦略などまるでない、単なる拳の連打。

 しかしその一つ一つ威力がとても高く、まさに必殺級の威力。

 まともに受ければひとたまりもない。


「うわっ…!」


 今度はなんとか避けるレービュ。

 反撃に出ようにも攻撃が止むことが無い。

 そして隙も無い。

 単純な拳と蹴りの連打だからこそ、逆にレービュにとって攻め辛いのだ。

 複雑な攻撃ならば、相手を煙に巻くくらいはできるのだが…


「負けるなー!」


「魔法、魔法使って!」


 ケニーとマリスの野次なのか声援なのかよくわからぬ言葉がとぶ。

 だが確かにマリスの言うとおり。

 魔法は有用だ。

 さきほどアレックスの部下が使用していた調理器具。

 そこから炎を掬い上げる。


「これで…」


 手に炎を掬い取ったレービュ。

 何も燃える物が無いはずの炎。

 それは彼女の手の中でより一層勢いを増していく。

 魔力を送りこみ、威力を高める。


「火蜂!」


「無駄だ!ガキが!」


「なに!?効かなッ…!?」


 火蜂の火力など気にも留めず、アレックスはそのままレービュを殴り飛ばした。

 アレックスの攻撃の勢いに火蜂がかき消されてしまったのだ。

 そのまま彼女は勢いよく水路に頭から叩きつけられてしまった。


「うぇッ…!」


「レービュの姉ちゃん!」


 ケニーが叫ぶ。

 なんとか受け身を取ったレービュだが、完璧とは言えなかった。

 今の攻撃で額を切ったのか、目の上から血が流れおちるレービュ。

 それを手で拭い、スカーフを額に巻き止血する。

 そして水路か這い上がる

 水没したせいで用意していた火種が全てダメになってしまった。


「ッ…」


 火種を入れていた皮袋を捨てるレービュ。

 もうこれはあてにならない。


「はははッ!どうした?がんばれよ」


 余裕の笑みを見せるアレックス・サンダー。

 それに対し、勝負の序盤にもかかわらず追い詰められたレービュ。

 しかしあきらめたわけでは無い。

 アレックスの三メートル近い巨体。

 それはストロングポイントであるとともに、ウィークポイントでもある。

 レービュはそう考えた。


「なんとか近づけば…!」


 攻撃のリーチが長い分、懐に潜り込まれたら脆いのではないか。

 そうでなくとも限界まで近づけば攻撃のチャンスは生まれる。

 今の様にある程度距離をとっても、ただ的になりに行くだけだ。

 ならば…


「なんとしても!」


「ハァッ!」


 足に力を込め、拳に力を込める。

 それと共にレービュへと殴り掛かるアレックス。

 一撃一撃が必殺級の威力の拳。


「小物が、うざってぇんだよ!」


 このままではマズイ。

 そう考えたのかレービュに足払いを賭けるアレックス。

 しかしレービュは反撃が来ることもある程度は想定済みだった。

 それを避けつつ、彼の背後へと周る。


「こんな技も使えるんだぜ、私は!」


 アレックスの背後を取ったレービュ。

 そのまま彼の後ろから腕で喉を締める。

 呼吸器官を締めることで気絶を狙うつもりだ。

 しかも、今のレービュはアレックスの三メートルの巨体にぶら下がるような形で技をかけている。

 つまりレービュ自身の全体重を技にかけているのだ。


「ぬッ!?」


 彼女の平均程の身長がここで生きた。

 レービュの体重は比較的軽めだ。

 だがそれでも人間だ。

 当然だが数十kgはある。

 それを首に受ければ、さすがのアレックスでも無事では済まない…


「く、くぅ…!貴様…」


 アレックスの首に半ばぶら下がるように、技をかけ続けるレービュ。

 普通ならば数秒で決まるこの技。

 しかし何かがおかしい…


「レービュ姉ちゃん!その技、効いてないよ!」


 観戦していたケニーが叫ぶ。

 その声と共に、それまで動きを止めていたアレックスが反撃に出る。

 レービュの腕を振りほどき、腕を掴む。

 そしてそのまま彼女を地面の石畳に叩きつけた。


「うッ!がッ…!」


 石畳に叩きつけられ苦悶の表情を浮かべるレービュ。

 顔を打ったらしく、鼻と口から血が流れる。

 改めてアレックスの首に視線を移す。

 技をかけている時にはあまり気にしなかったが、彼の首は非常に太い。

 恐らく弱点となる部位であるため、何らかの方法で鍛えたのだろう。


「ちッ…」


 そう言いながら口に溜まった血をはき出す。

 顔に残った流血の後を再びスカーフでふき取るレービュ。

 ここからどう巻き返すかを、攻撃を避けながら考える。

 考えている間にも攻撃は続く。

 それらを避けつつ、時にはあえて受けて流しながら。


「ここで魔炎を使っても…」


 攻撃を受け意識が飛びそうになりながらも、必死でそれを繋ぎとめる。

 諦めずに再び立ち上がり、攻撃を受け流す。

 しかし考えを張り巡らせるうちに、ほんの少しだが体の動きも鈍くなってしまう。

 そこをアレックスに突かれてしまった。

 腹に痛恨の一撃である蹴りを受け、レービュがその場に転がりながら悶絶する。


「ガッ…はぁ…」


 ここで魔炎を使っても決定打にはならない。

 しかし火種となる炎があれば『炎鳥燐恢の奥義』が使える。

 炎を魔力で増幅させる特殊な攻撃魔法。

 彼女の故郷では妖術として伝わっていた技である。

 扱いは難しいが、通常の魔法よりも魔力消費が低いのが特徴だ。

 だが…


「火種…ッ!」


 火種が無ければその技は使えない。

 炎鳥燐恢の奥義は既にある炎を増幅させて使う技。

 しかし先ほど水没した際に、持ってきた火種は使い物にならなくなった。

 火薬は水にぬれ、油は水路に落としてしまったのだった。


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