第五十九話 毒使いを倒せ!
アレックスの屋敷のある水路中枢地区へと向かうコロナ一行。
旧市街の高台にある施設。
そこが彼の住む屋敷だ。
裏の山とつながった小高い丘にあり、水路の管理施設も兼ねているという。
「俺たちも行くのか?」
「あまり戦いは得意では無いのですが…」
「いや、戦わなくてもいい。頼みたいことがあるんでな」
ケニーとマリスにそう言うカケスギ。
長物を何本も担いでいるにもかかわらず、普段と同じように動けるのはさすがと言える。
旧市街を駆け抜けアレックスの元を目指す。
と、その時…
「コロナ!」
「どうしたカケスギ!?」
「一旦別れるぞ、嫌な予感がする」
「…わかった」
「私は水路から行かせてもらうぞ」
そう言って別ルートに分かれる三人。
街中を進むカケスギ。
細い路地を無理矢理進むコロナ。
水路を行くレービュ。
全員で固まって進むよりも別ルートで進んだ方が速い。
そう考えたのだろう。
はっきりとした最短ルートが存在しないこと。
敵との遭遇の可能性。
それらを考慮した結果だ。
「ケニー!マリス!お前たちにはやってもらいたいことがある!」
アレックスの屋敷のある水路中枢地区へと向かうカケスギ。
コロナ、レービュとは別のルートで走っていく。
敵との遭遇する確率を減らすために。
ケニーとマリスはカケスギと共に進む。
「なんだよカケスギの兄ちゃん」
「無理なことでなければ…」
「アレックスの屋敷に着いたら俺の刀を探してほしい」
剣はアレックスの屋敷の宝物庫におかれているらしい。
そこを探し出し見つけてほしい。
カケスギはそう言った
「屋敷に侵入しろってこと!?」
「敵は全て俺たちがひきつけておく」
突然の提案に驚く二人。
とはいえ二人とも全く戦えないわけでは無い。
アレックスの圧政で傷ついている人々のことを考えればその程度など…
「わかったよ!」
「頼むぞ」
そう言いながら旧市街を走る三人。
と、そこに…
「お前たちがゲルツの言っていたヤツらだな」
「…かもな」
「ここから先は通さんぞ」
痩せた細い体の割に二メートル近くもある長身。
不健康そうな肌にどこか毒々しい目つき。
正直なところ、あまり強そうには見えない。
そんな男がカケスギの前に立ちはだかった。
カケスギがケニーとマリスに、隠れるようにサインを送る。
それを受け物陰に隠れる二人。
「この街の守衛長であるこの『テズリー』がお前たち三人を始末してやろう」
「わかった。始めよう」
「ふふふ。てあッ!」
その声と共に腰に巻いてある鞭を取るテズリー。
それを思い切りカケスギに向けて振り放った。
数メートルは有ろう長い鞭を自在に操り攻撃する。
鞭と言えば打撃系の攻撃をイメージするが、彼の鞭は違う。
「毒か」
「そう、この街の周囲に自生する毒草から作ったものだ!」
「ふん」
避けるカケスギ。
毒棘の鞭とはいえ、避けてしまえば意味が無い。
そのまま刀の代用品であるサーベルを抜き、手に取る。
以前、襲ってきた盗賊から奪ったものだ。
そのサーベルで鞭を切り落とそうとするカケスギ。
「…ッ!」
だが、そのサーベルに鞭が当たってしまった。
当たっただけでは無く、鞭はそのサーベルに巻きつく。
そして…
「はあッ!どうだ!」
サーベルに食い込む棘の鞭。
細かい棘が何本もサーベルに突き刺さっている。
そしてそのまま鞭による締め付けでサーベルをへし折ってしまった。
「あいつ、鞭でサーベルを壊した!?」
「単なる鞭でしょ!そんなことできるの!?
「ハハハ!どうだこの鞭の味は!」
テズリーの鞭攻撃に驚くケニーとマリス。
単なる毒の鞭使いでは無い。
そう考えながら、手に残されたサーベルの持ち手を投げ捨てる。
腰に掛けた二本の剣の内、一本を引き抜き構える。
「気を付けてカケスギの兄ちゃん!」
「器用に動く鞭だな」
「ふふふ…」
そう言いながら、不気味に笑うテズリー。
嫌な笑みだ。
そしてその視線をケニーとマリスに向ける。
「えッ…」
「ちッ…!」
「そこだ!」
テズリーが羽根飾りに仕込んだ毒針。
それをケニーとマリスに向け放った。
羽根飾りに仕込まれた小さな針とはいえ、そのすべてに毒が塗ってある。
戦いの最中の突然の奇襲。
二人が避けることはできなかった。
だが…
「ああ…」
「か、カケスギさん…」
「貴重な毒針だろ。デタラメにばら撒いたら…もったいないだろうがッ…!」
「人質に取ろうと思ったが、自分から当たってくれるとは都合がいい」
ケニーとマリスの二人をかばったカケスギ。
その身に毒針が食い込んでいく。
出血が無いのが逆に不気味なほどに。
やがてカケスギの身体に変化が表れ始めた。
思わずその場に膝をついてしまう。
「この毒は致死性も無ければ後遺症もほとんど残らない」
「あッ?」
「ある程度時間が立てば体の中で完全に分解されるからだ」
「かッ…」
「そんな弱い毒を何故使っていると思う?」
身体の自由を奪う毒が、彼の持つ鞭の棘と毒針に仕込まれてある。
ある程度の量を摂取すると体の動きを封じられる。
しかし致死性も無く、時間が立てば分解される。
何故彼がそんな毒を使うのか。
それは即効性にある。
この毒はとても扱いやすく、そして即効性が非常に高い。
そのため、魔物を狩る際に用いられることがある。
「もう身体も動かんだろう。毒で動きを封じた後、ゆっくり殺せばいい」
そう言いながらカケスギに近づくテズリー。
いくら分解されるとはいえ、それには数時間はかかる。
調達しやすく、扱いやすく、安価。
それでいて大量に持つことができる。
この羽仕込みの毒針は彼のお気に入りの武器だ。
しかし…
「グッ!!」
自身の足を剣で貫き、毒による意識にかかった朦朧とした感覚を吹き飛ばす。
その痛みで自身の感覚を覚醒させるカケスギ。
そしてその手で剣をテズリーに向ける。
先ほどまでの毒で震えた手つきでは無い。
強い力の込められたその手。
「こんなもので倒れていられるか」
「く、クレイジー…!」
淡々と言葉を吐くカケスギを前にし困惑を隠せぬテズリー。
これが先ほどまで毒を受けていた者なのか。
そう思うほどに。
「さあ、続きをしようか」
「な、何…!?」
「その前にこれ返すぜ。借りっぱなしじゃ悪いからな」
身体に刺さっていた毒針の羽根を勢いよく引き抜くカケスギ。
先ほどまで毒が回っていたとは思えぬほどの動き。
そしてそれをテズリーに向け逆に投げ飛ばした。
「返したんだからちゃんと受け取れよ」
「毒が回ったはずだろ?動けないはずだろ!」
先ほどのお礼とばかりに毒針の羽根を勢いよくテズリーに叩きつけるカケスギ。
自身が毒攻撃を受けるとは思っていなかったのだろう。
何の対処法も無く、そのまま受けてしまうテズリー。
毒が回ってきたのか動きが段々鈍くなってくる。
「う、うわあ!毒が…!」
「まったく…」
カケスギの鋭く素早い攻撃がテズリーの身体を切り裂いた。
胸から下半身にかけて刻まれる大きな傷。
勝負は完全についた。
自身の武器である毒針の羽根が突き刺さったまま、地面に倒れるテズリー。
「次はもう少しまともな技を身に付けてこいよ」
そう言いながら、マリスとケニーに視線を移す。
後を追うぞ、と言いながら。
それを受け、再び進む三人。
「カケスギさん、体は…?」
「大丈夫だマリス」
「そう…」
「行くぞ」
そう言うカケスギ。
少し時間を喰ってしまったが止まっている暇はない。
再び道を進むことに。
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