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第五話 勇者キルヴァの眼光

 

 一方その頃…

 テルーブ王国の王都クロスにて。

 キルヴァはあの黒魔術師の少女の言っていたことがいまだに信じられなかった。

 コロナが生きている、ということを

 確かにあの時は生死確認はしなかった。

 だが、あれで生きていると思う方がおかしい。


「チィッ…」


 しかしそんなことを気にしてもしょうがない。

 どうせあの男が生きていたとしても、できることなど無い。

 何かを言ったとしてもその言葉に信用など無い。

 仮に復讐に現れてももう一度殺せばいい…


「ノリン、ミーフィア!いるか!?」


「あたしだけよキルヴァ。ミーフィアは城で仕事だって」


「ノリンだけか」


 聖女として名高いミーフィア。

 当然、様々なところから仕事の依頼が入ってくる。

 祭事、儀式の進行、占術…

 上げればキリが無い。

 あらゆる魔法に精通した彼女だからこそできることだ。

 現在の三人の生活は国からの金とミーフィアの収入でもっている。


「街に行くぞ」


「買い物していい?あたし欲しい物が…」


「ああ、なんでも買ってやるよ。さっさと着替えろ」


「はーい」


 外出用に着替え出かける二人。

 とくに理由など無い。

 ストレスを買いもので晴らそうというわけだ。

 街へとくり出し買い物と食事をする。


 それを暫し楽しむ。


 ただ適当に物を買い散財する。

 荷物は使用人に渡し、屋敷へ運ばせる。

 その為に街を歩いていると、ふと声を掛けられた。


「お、勇者様!」


「ん、おまえは確か…」


「騎士団の『レイス』です。以前式典で一度会ったことが…」


「覚えてねぇよ、そんなの」


 キルヴァに声をかけたのは、騎士団所属の青年騎士レイスだった。

 キルヴァと同じく歳は十八。

 平民出身の人当たりのいい男と評判だ。

 だが世渡りが下手で出世とは程遠いと声もある。

 普段は地方での任務に就いており、今回は報告のためたまたま王都に来ていたという。


「そちらは確か…」


「婚約者のノリンです。よろしくおねがいします」


「こちらこそ」


 そう言って頭を下げるレイス。

 仕事柄、平民出身と馬鹿にされることが多い彼だがその仕草はとても丁寧だ。

 むしろ、彼よりも遥かに立ち振る舞いの悪い者が遥かに多い。

 貴族出身とはいえ、心まで上品な物は少ないからだ。


「チッ…」


 小さく舌打ちをするキルヴァ。

 彼はこのレイスという男のような存在が嫌いだ。

 平民から成り上がり、人に好かれる好青年が。

 と、その時…


「お~いレイス~」


「あ、パンコ!」


 そう言って現れたのは赤い髪をした細目の少女騎士。

 レイスの知り合い、『パンコ』だった。

 背の高いレイスと並ぶと小さく見えるが、それでも身長は平均程はあるらしい。

 歳は16だが、それよりも実際には幼く見える。


「いやぁ、久しぶりに王都にきたから迷っちゃったっすよ~」


「ははは、どこに行ったのかと思ったら迷子になってたのか」


「迷子じゃないっす。むしろレイスが迷子じゃないっすか?」


「いやそれはないと…」


「ないとは言いきれないっすよ」


 変わった性格の少女ではあるが、パンコはこれでも国でも有数の良家の出身なのだ。

 平民に対しても理解の深い『シヨーク』家の一人娘。

 レイスとは同業者でもあり幼馴染の関係。

 そのためなのか、よく行動を共にしている。


「でも王都ってやっぱりきれいっすね。いろいろな店もあるし」


 同年代の少女よりも少し子供らしさが残るパンコ。

 あまり王都に来たことが無いのか、妙にそわそわしている。

 そんな彼女の話を無視し、レイスが話を続ける。


「今日は聖女様はお留守ですか?」


「お城の方でお仕事があるらしくて…」


「そうでしたか。いやそれにしてもノリン様はいつもお美しい」


「えぇ~いや~ははは」


 ミーフィアはやはり知名度が高く、出会い頭にきかれることも多い。

 だが彼女は今日は仕事でいない。

 しばらく会話を続けるレイスとノリン。


「ウチは美しくないんすか?」


「俺はキレイだと思うぜ」


「ほんとうっすか?」


「はは、当然だ」


「嬉しいっす」


「ははは…」


 キルヴァの軽い世辞だったが、それをうけ喜ぶパンコ。

 しかしそれは『随分と単純な女だ』と、彼に思わせるには十分な対応だった。

 ここでキルヴァはあることを思いついた。

 ちょうどミーフィアも居なく退屈していたところ。

『このパンコという女も自分のものにするか』、と。


「おいノリン?」


「なに?」


「この二人をぜひ屋敷に招待したいんだが…いいか?」


 この言葉は女を連れ込みたいときにキルヴァが使う合図だ。

 ノリンもそのことは知っている。

 よく彼がやる手だ、と。

 とはいえ、彼の本当の愛は自分にある。

 他の誰でもない…

 ノリンはそう思っている。

 だからこそ、いつもその言葉にはこう返している。


「ええ、もちろん」


 レイスとパンコには断る理由も無い。

 そのままキルヴァの誘いを受け屋敷へと向かった。

 キルヴァの屋敷には常に数人の使用人がいる。

 突然の客人にもすぐに対応できる。

 軽い料理と酒でもてなしつつ、四人での会話が弾む。


「ねえパンコちゃん、レイスとはどんな関係なの?」


「レイスとは幼馴染っす」


「え~そうなの?恋人とかじゃないの?」


「ち、違うっすよ。そんなのじゃ…ないっす」


 ノリンの言葉を聞き、顔を赤くするパンコ。

 はっきりとした恋人ではないが、異性としては意識し合ってるのかもしれない。

 ノリンはそう思った。


「キルヴァさん、聞いていますか?」


「何をだ?」


「最近、市将のバレースさんが殺されたって話ですよ」


「田舎の話だろ、知らねぇよ」


 実はあまり会話は弾んでいないのかもしれない。

 当然、このバレースはコロナとカケスギが倒した男だ。

 とはいえまともな情報が入ってきておらず、話を切り出したレイスも詳細は知らない。

 そしてキルヴァの言うとおり、田舎のことなので当然彼も知らない。


「そういえば…キルヴァさんには昔、もう一人仲間がいませんでしたっけ?」


「ッ!?」


「えッ…?」


「確か…コロナという…」


 レイスの言葉を聞き、一瞬言葉を詰まらせるキルヴァとノリン。

 その『コロナ』の名前…

 以前の黒魔術師の少女もこともあり、その名には過敏になっている。

 もちろん、レイスが意図的にこの話題を出したわけでは無いということはキルヴァとノリンは理解している。

 しかしそれでもなお、気になるものだ。


「たしか彼は僕の様に平民出身と聞きました」


「護人らしいっすね」


「できれば彼にもあいさつを…」


「アイツは…死んだんだよ」


 そうとだけ言い、声のトーンを下げる。

 そして悲しそうな表情をする。

 これだけ。

 これだけでこれ以上の言及をさせないようにした。


「あ、そ、そうでしたか…。ごめんなさい」


「このことは話したくない」


「申し訳ない、ずっと田舎にいた者で情報がはいってこなくて…」


「死んだ…っすか…」


 レイスとパンコの二人もこれ以上は話さなかった。

 聞いてはいけないことを聞いてしまった、そう感じているのだろうか。

 しばらく重い沈黙が続く。

 部屋に響くのはパンコが食事をとる音だけ。


「…お酒もっと飲む?」


「ウチはあんまりお酒は…」


「いいからいいから」


「まぁ、じゃあえんりょなく…」


 そう言って酒を進められるがままに呑むパンコ。

 同じようにキルヴァに進められたレイスも酒を飲む。

 そうやって進められるがままに酒を飲んだ二人はすっかり酔ってしまった。


「うぅ…」


「酔っちゃったのね。別室で寝てた方がいいわ」


 そう言われ、ノリンに別室に案内されるレイス。

 そしてパンコも…


「今なら抵抗もできないからな…」


 これが女を抱く際に彼の使う手段だった。

 国に認められた勇者という立場を使い、気に入った女を屋敷に招く。

 そして酔わせ勢いに任せて一夜を共にする。

 もし何か言われてもその地位を使って揉み消せばいい。



 ----------



 行為を終え、パンコから離れるキルヴァ。

 顔を枕に埋めうずくまるパンコ。

 彼女の顔は見えぬが震え声とも笑い声とも取れぬ…

 泣き声の混じった声だ。


「なんで…なんで、こんなひどいことを…するんすか…?」


「俺は国に認められた『勇者』だぞ、なにしてもいいんだよ」


「そんな…」


「身体キレイに拭いとけよ、あいつにバレるかもしれないぜ」


 キルヴァから投げ渡されたタオルで体を拭くパンコ。

 その間、両者は無言だった。

 乱れた髪を整え、服を直し、キルヴァの部屋を後にする。

 そしてレイスの寝かされている部屋に戻り、彼を起こした。


「何かあったのかい?」


「う、ううん。なんでもないっすよ」


 二人の様子をこっそりと眺めるキルヴァ。

 レイスに対しパンコは無理矢理な作り笑いをして見せた。

 幼馴染であるレイスにだけは今回のことを知られたくないから、か。

 キルヴァはそう考えた。


「ねえレイス…」


「どうしたの?」


「ウチ、先にもどってもいいっすか?」


「ああ。別にいいけど。僕はしばらくキルヴァさんの屋敷にいるよ」


「そうっすか…」


 そう言いのこし、屋敷を出るパンコ。

 彼女はそのままはどこかへ歩いていった。

 王都滞在中に手配していた宿に戻るのだろう。

 それを窓から見ながらキルヴァが呟いた。


「ああいう女もいいな。胸もでかいし…」


 パンコの魅力はそれだけでは無い。

 彼女はこのテルーブ王国でも有数の力を持つ名家の一人娘だ。

 もしそれを自分のものにできれば、さらに大きな権力を持つことができる。

 しかしそれには邪魔な者がいる。

 …レイスだ。


「あいつには席をしばらく外してもらうか…」




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