第五十八話 伝えたかった言葉
夜が明け朝を迎えた。
コロナたちは少し遅めに起床した。
宿泊施設として使っている酒場で少し遅めの朝食をとる。
とはいえこの時間では当然営業はしていない。
客も誰一人いない。
店員が一人、申し訳程度にいるだけだ。
「カケスギぃ、ソミィは?」
「まだ寝てる」
「昨日のショックが強すぎたのかなぁ」
昨日の出来事はカケスギに話してある。
彼らは軽く流したが、子どものソミィには少し刺激が強かったのかもしれない。
トラウマにならなければいいが。
そう考えながら酒場のテーブルに座る。
「お、ケニーにマリス。起きるの早いな」
「兄ちゃんたちが遅いんだよ」
「普通の人はもう働いている時間ですよ」
残ったパンを齧りながらそう言うケニー。
そしてマリスの言うとおり、確かにコロナたちが起きるのが遅かったのだ。
昨晩、シルバが帰るまで酒盛りをしていたのだ。
「うぅ~」
そう言いながら部屋から出てきたのはレービュ。
ここしばらく、彼女と一緒に過ごしてみて分かったことがあった。
彼女は朝が苦手らしい。
適当に顔を洗い、椅子に座るレービュ。
「まだ眠いのかレービュ?」
「そうでもないんだが…あぁ…」
固いパンとスープ、チーズくらいしかない朝食。
作り置きと保存食なのでこれは仕方がない。
一人だけいる店員が料理を用意する。
とは言っても、元々作り置きのものなのですぐに出てきた。
作り置きできる物、長持ちするものなどを大量にストック。
あらかじめ調理しておき、少しずつ個別に出す。
こういった酒場はこのように食事の用意をすることが多い。
「できれば野菜か果物が欲しいんだがな」
そう言うカケスギ。
とはいえ所詮は酒場と兼業の安宿。
そこまで求めるのは難しいところだ。
簡易的とはいえ、食事を出してくれるだけでもかなり良心的だ。
もちろん、カケスギもそれは理解している。
自分で買ってきた柑橘系の果物と葉物の野菜を食事の合間に食べていた。
「喰ったら行くぞ」
「もう行くのかカケスギ。早いな」
「私は賛成。早い方がいい」
カケスギの言葉に賛同するコロナとレービュ。
それに対し疑問符を浮かべるケニーとマリス。
ケニーがコロナに尋ねた。
「行くってどこにさ?」
「ん、ああ。この街の藩将アレックス・サンダーのところに、だ」
結局ルーメから話は聞けなかった。
だが、あのサインのことを考えるとやはりアレックスの元に武器があると考えたほうがいいだろう。
どちらにせよいずれは戦うべき相手なのだ。
間違っていたらそれはそれ、だ。
「アレックス・サンダー、ヤツはこの街に圧政を強いている…」
「街の人を助けるんだ!スゲー!」
「ハハハ…」
軽く笑うコロナ。
確かにそう言うことにはなるかもしれない。
事実、以前のバレースの町はそうなった。
今回も勝てばそうなるだろう。
勝てば…
「よし、行くか」
食事を終え、酒場を出る一行。
いつもの刀の代わりに、以前に盗賊から戦利品として奪った剣を三本。
そしてサーベルを携えるカケスギ。
奪ったうちの一本はコロナに貸した。
「武器の調整は大丈夫かコロナ」
「ああ。いい感じだ。以前のキルヴァの時と同じくらいな」
そう言いながら拳を数回、開いて閉じてを繰り返す。
籠手とナックルダスター、どちらも調子は悪くない。
カケスギから受け取った剣もちょうどいい。
「レービュ、お前は?」
「私は武器とか無いからな。まぁ火種とか油とか用意しただけだ」
皮袋からそれらを取り出すレービュ。
魔炎で戦う際にはそう言った者があると楽らしい。
使用魔力が少なくなり節約にもなるという。
「それで、昨日の変態はどうした?」
「シルバか、あいつは…」
昨日遭遇した羽根仮面の将シルバ。
彼にも声はかけてあるが、ここにはいない。
戦いになったら来る、そう言って昨日の彼は去っていった。
「まぁ、後で来るだろ」
「もともと三人で行くつもりだったし、まぁいいだろう」
そう言って歩みを進めるコロナ一行。
この時間は旧市街の者の半数近くはアレックスの工場で働かされている。
そのため日中にもかかわらず、人の気配はほとんど無かった。
と、その時…
「あら、コロナじゃない」
「お、ルーメか」
そこに現れたのはルーメだった。
昨日の一方的なルーメの発言。
彼女自身、当然心の中に罪悪感を持っている。
アレックスを倒すために彼を利用するようなことをしてしまった。
だがもう引き返せない。
そう考え、さらに彼の怒りを引き出そうとする。
だが…
「あなッ…」
「…倒してくる。アレックス・サンダーをな」
「…」
「街の人から聞いたよ。お前がこの街の出身だってことも」
昨日の酒場での町の人々との会話。
その中でコロナたちはこの街について多くのことを聞いた。
アレックス・サンダーの所業。
なんとか待遇改善のために奔走する市長夫妻。
そしてその市長夫妻にはかつて『ルーメ』という娘がいたこと…
「武器を盗んだのもお前だろ」
「…ええ」
「そんな小細工しなくても、直接言えばよかったじゃないか。アレックスを倒してくれって」
「そんなこと言えるわけないでしょ…」
断られては希望が無くなる。
それが怖かった。
だからあんな滅茶苦茶な方法に走ってしまった。
しかし…
「断らねぇよ」
そう言うコロナ。
どうせいつかはアレックスとは戦わなければならないのだ。
それが少し早まっただけ。
それに…
「俺は元勇者パーティだぜ。困ってる人を助けるのが仕事だ」
「まぁその勇者に殺されかけたんだけどな」
「うるせー!カケスギ」
「ハーハハハハ!」
最初からコロナは昨晩のルーメの発言の真意を見抜いていた。
ノリンやミーフィアのソレとは明らかに違う。
その言葉の重みを。
「…ルーメ、ただソミィにだけは謝ってほしい」
ソミィ。
彼女はまだ子どもゆえにその真意がわからなかった。
昨日のショックが強すぎたのかまだ部屋で寝ている。
コロナは軽く流したが、子どものソミィには少し刺激が強かったのかもしれない。
トラウマにならなければいいが。
「そこの酒場の部屋にいるから、相手してやってくれ」
「このまま俺たちが負けて死んだら、ソミィの世話しろよハーハハハハ!」
冗談めいた口調でカケスギが笑いながら言った。
負ける気など一切ない。
そうとでも言いたげな、自信を込めた言葉だった。
「アレックスは必ず倒す、約束する」
そう断言するコロナ。
カケスギとレービュの二人もその気持ちは同じだ。
そう言って屋敷へと歩いていく一行。
しかしそれを再びルーメが止めた。
「ち、ちょっと待って」
「まだ何かあるのか?」
そう言うレービュ。
呼びとめたルーメの言いたかったこと。
それはアレックスの部下についてだ。
腕の立つ者が数名、配下として存在している。
最強の藩将『アレックス・サンダー』というのは彼のみの力で得た称号という訳では無い。
アレックスの実力だけでは無く、彼らの存在がそれをより強固なものにしているのだ。
「わかった、気を付けるよ、ありがとうなルーメ」
「…あなたを騙そうとしたあたしの言葉を信じてくれるの」
「嘘は言っていない。眼を見れば分かるさ」
三年間、地獄のような場所で生きてきたコロナ。
そんな中で生きていく内に彼は人の言葉の真贋を見抜けるようになっていった。
キルヴァたちの言葉をもっと早く見抜けていれば…
その願いから身に付いた力だ。
もちろん完璧とは言えないし間違えることもある。
しかしそれと人の臭いである程度は見抜けるつもりだと自負している。
「みんな、ごめんね…」
「じゃあな、行ってくる…!」
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