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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第四章 治水の街の解放

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第五十七話 最強の藩将アレックス・サンダー

 

 夜が明けた。

 日は昇り、治水の街であるこのクレストコールが朝の日に包まれる。

 その朝日が告げるのは新たな日々の始まり。

 しかしそれが全て良いことという訳では無い。

 旧市街の市民で税金を納められなかった者は工場に送られ強制労働をさせられるのだ。

 この町の特産品である武器はそう言った施設で作られていると言う。


「それで、要件と言うのは一体なんだ?市長夫婦さんよ?」


 水路を庭から眺めながらそう言うのは、旧市街の支配者である藩将『アレックス・サンダー』。

 ガレフスやコーリアスなどの武闘派の藩将の中では最強と言われる男だ。

 クレストコール旧市街に作られた屋敷。

 周囲を水路に囲まれた変わった屋敷だ。

 水路やその管理施設などもこの周囲に一体に密集している。


「この俺も忙しいんだ。手短に話してもらいたいね」


 色が明るすぎるせいか、極端に赤に近い茶色の髪。

 その髪をかき乱しながらそう言うアレックス。

 彼は身長二メートルを遥かに超える長身の大男だ。

 三メートルはあろう巨躯。

 化け物のような極端に大きな筋肉を持っているわけではない。

 だがそれでも人並み以上はある。


「も、もうすこし労働者の待遇を良くしてくれないか?」


「みなさん疲弊しています!もうすこし休みを…」


 この街の市長である中年夫婦。

 その二人がアレックスに対し直訴に来たのだ。

 兵器量産のための工場を税金で作る。

 そのために税金を重くする。

 そして払えないものを働かせる。

 この悪循環では労働者の身も心も疲弊してしまう。


「このオレのやり方に文句があるのか?市長さんよ?」


 そう言いながら水路に足を突っ込み座るアレックス。

 身体が大きいと椅子もすぐに用意できなくて大変だ。

 そう考えながら話を続ける。


「このオレが藩将になってからこの街はどれだけ発展したと思う?」


 かつてクレストコールは単なる水路の街だった。

 昔からその景観を崩さぬ街。

 しかしさすがに施設の老朽化が目立ち、早急の解決が望まれていた。

 そこに新たな支配者としてやってきたのがアレックス・サンダーだった。

 十年近く前のことだった。


「この街はかつては苔だらけのレンガまみれだった…」


「別に君の功績を否定するわけでは無いんだ。ただ…」


「その街をここまで近代化させてやったのは誰だと思っている!?」


 怒りに満ちた表情で水路の床のレンガを叩き割るアレックス。

 しかしそれにも気圧されず、市長は話を続ける。


「君にとっても作業効率が下がるのは損だろう!」


「使えなくなったヤツは捨てればいい。新しいヤツを持ってくればいいだけだ」


 疲労がたまり働けなくなった物は切り捨てる。

 そして新たな者を連れてくる。

 その繰り返しだ。


「つ、連れてくるのだって時間がかかる。探すのも面倒だろう」


「まぁな」


 たくさんの休みが欲しいわけでは無い。

 作業効率が良くなるだけの休みでいい。

 それがほしい。

 そう言う市長夫婦。


「考えておこう。おい!」


 そう言って庭の水路から屋敷の入り口にいる部下に合図を送るアレックス。

 この二人を下がらせろ、という合図だ。

 と、そこに…


「私が連れて行きます」


「ん、お前はミュールスのヤツが連れてきた…」


「ルーメです」


 昨晩、ミュールスに言われこのアレックスの屋敷へとやってきたルーメ。

 アレックスに対しては、こちらの屋敷の方が近いから、と伝えておいた。

 それを聞き彼も笑いながら屋敷へ招き入れてくれた。

 適当な部屋を彼女に貸したというわけだ。


「まあいい。旧市街までお二人を連れて行ってやれ」


「はい。さぁ、行きましょう」


 そう言って市長夫婦の手を取り、ゆっくりと屋敷から出ていくルーメ。

 それを見送るアレックス。

 その後すぐに、彼はは先ほどの部下を再び呼んだ。


「おい、後で俺のペットの羊共の毛を刈っておけ」


「わかりました」


「ミュールスのヤツはどこだ?知っているか?」


「いえ…?知りません」


「女を置いて何処へ行きやがったアイツ…」


 そう呟くアレックス。

 一方のルーメ。

 先ほどの市長夫妻を旧市街まで連れて行く。

 ルーメはその二人と面識があった。

 何しろその二人は…


「大きくなったなぁ、ルーメ」


「何年ぶりかしら…」


「久しぶり。お父さん、お母さん…!」


 その二人はルーメの実の父と母だった。

 アレックスが藩将になった後、実の娘であるルーメを巻き込まぬため遠い町へ彼女を預けたのだ。

 それからは一度もあっていない。

 しかしそれでも実の娘の顔を忘れるわけが無い。

 いくら成長していたとしても…


「会いたかった…!帰ってきたの、私…」


「こうやって会うのはいつぶりだろう…」


「けど何故アレックスの屋敷に?」


「うまく話を合わせたの」


 懐かしさからくる涙を堪え、そう言うルーメ。

 この街が危険な町であると言うことは知っている。

 しかし今のこの国はどこに行ってもそう大差は無い。

 それに、策もある。


「だがルーメ、この街は…」


「わかってる。あのアレックスの支配でしょ…」


 周りに怪しまれると危険だ。

 すぐに体勢を直し歩き始める三人。

 歩きながらも小声で話を続ける。


「実はすごく強い人たちをこの街に呼んだの…!」


「その者たちに倒させようと言うのか?アレックスを…」


「うん」


「それは無理だ。奴には誰も勝てない…」


 かつて市長はアレックス・サンダーを討伐する策を練ったことがあった。

 近くの名のある盗賊やならず者に大金を出し、彼を襲わせたのだ。

 しかし、それは失敗した。

 あっという間に十人近く居た盗賊たちを、アレックスは倒してしまったのだ。


「あの男は牛も一撃で蹴り殺す怪力…そして『不思議な技』を使う…」


「知ってる。だから…」


 アレックスを確実に倒すための策は練っている。

 昨日のコロナに対する一件もそうだ。

 カケスギの刀を盗んだのも…


「悪いことしちゃったかな…」


 今更になって後悔する訳には行かない。

 全て自分で決めたことだ。

 たとえこの先の自分に待ち受けるものが何であったとしても。

 その道が地獄へ続こうとも。

 この街を解放するためならば…


「ルーメ、今何を…?」


「ううん、なんでもないの」


 アレックスの屋敷の敷地から旧市街へとたどり着く三人。

 歩きながら話しているうちに、意外と時間がたっていたようだ。


「ごめんね、お父さん、お母さん。私はここまでしかいけないわ…」


「ルーメ…」


「…会えてよかった。じゃあね」


 そう言ってルーメは新市街の方へと走っていった。

 アレックスの水路管理施設とはまた違う方角。

 ミュールスの屋敷へと戻るために。


「アレックスを…あの男さえ倒せば…」


 かつて彼女はアレックスの暗殺を何度か試みたことがあった。

 彼が別の街を訪れ、隙ができた際に。

 しかし正面から戦って勝てる相手では無い。

 毒矢による狙撃や毒の混入などの毒殺。

 しかしそのどれもが通用しなかった。

 矢は全て防がれ、毒は見抜かれた。


「あいつを…」


 レイスやパンコ、オリオンの革命軍を頼ったこともあった。

 しかし革命軍はあくまで国の革命にのみ動く組織。

 一つの街のみを特別視する訳には行かない。

 革命成功後は積極的に動いてくれると言うことを約束してくれた。

 だがそれがいつになるかは分からない。

 しかも、革命後にアレックスに勝てるほどの戦力が残っているとは思えない。


「アレックスを倒すためなら…!」


 放っておいても、コロナとカケスギはいずれアレックスと衝突しただろう。

 カケスギの目的は国盗り。

 アレックスはその過程で確実に邪魔になる存在だ。

 しかしその衝突がいつになるかはわからない。

 現状、ルーメが知りうる最強の戦力である二人。

 二人を最高の状態でアレックスにぶつける。

 それが彼女の計画だった…


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