第五十五話 寝取られたルーメ
クレストコールの旧市街。
そこでコロナはルーメの姿を目撃した。
あの日から行方知れずとなっていた彼女の姿を。
何者かは分からないが、王国軍の男と一緒だった。
「レイスか…?いや、違う…」
ルーメと王国軍の男。
その組み合わせでコロナの脳内に思い浮かんだのはレイスだった。
革命軍と繋がりのある辺境の騎士。
しかし背格好的に彼では無い。
もう少し年上の男のようだった。
「とりあえず話を…!」
ルーメには聞きたい事が山ほどある。
なぜいきなりあらわれて消えたのか。
刀剣の行方は。
それらを聞きだすため、彼女の方へと走るコロナ。
しかし…
「あ、クソッ!見失ったか!?」
さすがに距離がありすぎた。
ルーメ達二人は新市街の人ごみに紛れ、消えて行った。
「何なんだよ一体…」
思わずそう愚痴をこぼすコロナ。
ただ、少なくとも今の状況を見る限り、刀剣とルーメが何者かに纏めて盗まれた、という線は無くなった。
もしこの説ならば、ルーメがある程度自由に行動しているのはおかしい。
追いかけて探すか…?
しかしすぐに見えなくなってしまった。
この時間だともうすぐ日も落ちてしまう。
慣れない夜の街で人を探すのは難しいだろう…
と、その時…
「コロナ~」
「お、ソミィか。どうした?」
コロナの元に走ってくるソミィ。
宿でマリス達と待っていたはずだ。
外出していたのだろうか。
「ひまだからお店さがしてたの」
「なんかあったか?」
「オレンジうってたから買ったよ」
そう言ってコロナにオレンジを見せるソミィ。
半分に割られており、片方はすでに食べたのだろうか無かった。、
もう片方は持ち帰って食べるのだという。
「武器、見つかった?」
「いや、全然…」
街中を探してもそれらしきものは見つからなかった。
唯一の証拠になりそうなルーメもどこかに消えてしまった。
とはいえ、今日はこれ以上探すのは賢明では無い。
しばらくこの街には滞在するのだ。
また明日探すことにすることに。
宿泊施設として借りた酒場にいったん戻るコロナとソミィ。
「戻ったぞ、ソミィも一緒だ」
そう言って酒場に入るコロナとソミィ。
さすがに時間帯が夕過ぎということもあり、客が大勢はいっていた。
その隅でカケスギが酒を一人で飲んでいた。
レービュは飲み過ぎたのか奥の部屋で寝ているらしい。
「カケスギ一人か?」
「ああ」
「ケニーとマリスは?」
「観光だとさ」
久々の田舎以外の街ということで少し気分が上がっているらしい。
ケニーとマリスはそのまま観光に行ったと言う。
特に見るものなども無いと思うが、外で食事でもしてくるのだろうか。
「それよりコロナ、ソミィ」
「なんだ?」
「なに?」
「この街についての情報をいろいろ聞けたぞ」
カケスギは街の情報を集めて回っていた。
刀を直接探すよりも、この街に今何が起こっているのか。
それを調べたほうが速いのではないか、そう考えたかららしい。
「この街が旧市街と新市街に分かれているのは知っているな」
「ああ」
「どうやら新旧市街の間には『確執』があるらしいぜ…」
元々この町に住んでいたのは旧市街の人々。
しかしとあることをきっかけに、この街に貴族階級の人々が住みだした。
この街の新区画は貴族に人気がある。
そのため、他の街から引っ越しをしてくるものが多いと言う。
貴族が多いのは、より多くの税を集めるためだ。
「金払いのいい新市街の貴族の優遇政策もあるんだとさ」
そう言いながらラム酒を口に運ぶカケスギ。
普段は何かよく分からぬ安酒ばかり飲んでいる彼だが、ラムを飲んでいるのは珍しい。
刀が見つからなかったことですこしイラついているのかもしれない。
そのカケスギの隣に座り、料理を注文するソミィ。
「食べもの食べたい」
「いいぞ」
「やったー!」
「今の話はそこの奴に聞いたんだ」
カウンターの端にいる酒飲みを指さすカケスギ。
後の話は彼に聞け、ということか。
その男の隣に座るコロナ。
彼の持っていたコップに酒を注ぐコロナ。
この酒の一杯を飲む時間で話だけでも聞いてほしい
その意味も込めて。
「よお。俺にも話を聞かせてくれないか?」
「物好きなやつらだ…」
「この街は初めてなんだよ。酒、奢るからさ」
「ああ…」
酒とつまみを差出、その男から話を聞くコロナ。
旧市街の昔から住む市民と新市街の移民との確執。
これはカケスギから聞いたものと同じだ。
特筆すべきものは無い。
しかし…
「この町の市将の男『ミュールス』は…」
「市将?藩将じゃないのか?」
クレストコールの街を支配しているのは藩将『アレックス・サンダー』だと聞いた。
この男は市将『ミュールス』という男だと言う。
しかしこれにはちゃんとした理由がある。
「旧市街を担当しているのがアレックス、新市街の担当がミュールスだ」
このクレストコールの街は広く人口も多い。
そのため、市将と藩将が同時に存在し治めているらしい。
旧市街の支配者が藩将『アレックス・サンダー』。
新市街の支配者が市将『ミューレス』。
というわけだ。
「だけど二人とも評判はよくねェな…」
藩将アレックス・サンダー。
公共事業や事業発展のための研究を積極的に行う藩将として知られている。
治水の拡大や公共の施設の建設なども行われている
しかしそれは旧市街の市民から税金を搾り取り作られた物。
しかも市民が使うような物では無い施設や研究なども行われているという。
「とにかく重いんだよ、税金が…」
「キツイんだな」
「あぁ…」
それを治められないものは工場に送られ強制労働をさせられる。
この町の特産品である武器はそう言った施設で作られていると言う。
兵器量産のための工場を税金で作る。
そのために税金を重くする。
そして払えないものを働かせる。
という悪循環だ。
「なによりムカつくのがミュールスの野郎だ」
市将ミューレス。
新市街の貴族たちに媚びへつらう小物だという。
そしてアレックス・サンダーの威を借り、出世を繰り返すしか能のない男だ。
しかし権力だけはあるので逆らうこともできない…
「保身と出世しか頭にない、くだらない野郎さ…」
そう言いながら、酒の入った器を机に勢いよく叩きつける男。
彼もミュールスに恨みがあるのだろう。
アレックス・サンダーだけではなく、市将ミューレスという男。
厄介そうな男だ。
「ちッ…」
酒を自身の器に注ぎ、一気に飲み干すコロナ。
どうも湿っぽい話になってしまった。
残りの酒をその男に私、軽く礼を言う。
と、その時…
「アンタが、ころなって人かい?」
「ああ、そうだけど」
「これを渡すように言われたんだ」
そう言って客の男がコロナに手渡したもの。
それは矢に結ばれた手紙だった。
その矢の形状にコロナは見覚えがあった。
それは間違いなく、ルーメの矢だった。
「おい、これをどこで渡された!?」
「新市街との境界のあたりだよ」
手紙を広げ中身を見るコロナ。
そこには、旧市街と新市街の境界にある橋に来いと言う内容だった。
旧市街と新市街は川で区切られている。
複数の橋が架かっているが、火とのあまり来ない裏町の端に来いというものだ。
ルーメが書いたのだろうか…?
「ルーメの矢…」
「ルーメさん見つかったの?」
「もしかしたら…」
「ついていっていい?」
ソミィがそう言った。
彼女は以前、ルーメに色々と世話になったことがある。
そのため彼女なりにルーメの心配をしているのだ。
黙って頷くコロナ。
彼女を連れ手紙に書かれた場所へと行く。
「ここだな」
「ルーメさんどこ?」
旧市街と新市街の境界にある橋。
この時刻は人通りがほとんど無い。
そのためここを選んだのだろうか。
コロナとソミィが待つ。
「あれは…?」
夜の闇の中からこの地に一人の女が現れた。
律儀にもコロナの視線の先から現れるというおまけつきだ。
この時間に全く関係のない人物がこの場に現れるはずもない。
ルーメだ。
いや、よく見ると隣に男が一人。
「お前がコロナか?」
「ああ。そうだ」
ルーメを連れたその男。
敵意のような嫌な感じが見え隠れする。
少なくとも味方では無い。
コロナの本能が告げていた。
そしてコロナの方を向きルーメが言った。
それは衝撃の内容だった…
「ごめんなさい、コロナ。私は…ルーメは…」
「ほら、もっと大声で言ってやれルーメ」
「この人の…ミュールス様の女になりましたぁ…」
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