第五十四話 ルーメと謎の男
森を抜け、しばし歩くこと半日ほど。
治水の街『クレストコール』の付近のエリアへと足を踏み入れたコロナ一行。
さすがに先ほどの盗賊のような人物も道中には現れなかった。
水の豊かな湿地帯、このエリアはそういったようなイメージを受けた。
「見ろ、街だ」
「あれがクレストコールの街か…」
しかし、そんな湿地帯の中に佇む一つの町があった。
その町の名は『クレストコール』、川の多いこの地区に作られた城塞都市だ。
水も豊富にあり人々の交易の要となっている。
単なる湿地帯の街とは思えないほどの活気がここにはあった。
「すごい、僕のいた村とは比べ物にならないくらい活気がある」
「湿地帯にできた交易都市、というところか」
そう言うケニーとカケスギ。
町は周囲を石と煉瓦でできた壁でおおわれており、外敵からの襲撃に備えている。
そのため正面のメインゲート以外から入ることはできない。
さらに、メインゲートには検問所があり、問題のある人物は入ることはできないようになっている。
この町は交易が盛んな街、問題のある人物は入れないと言うことだ。
とりあえず検問所の前に並ぶコロナ達。
まだ前には数人並んでいる。
「今日は干物を持ってきた、魚や肉に果実。たくさんだ!」
「よし、通れ」
検問所の審査員が旅の商人の品物を眺めながら言った。
商人の持っていた商品の中にあった一枚の干し肉を抜き取りながら。
続いて次の男、そしてその次の女と問題なく続いていく。
そしてコロナ一行の番になった。
「次はお前らか?」
面倒なことは避けたい。
コロナの顔などは出回っていないが、もし引っかかると困る。
偽勇者としてのケニーたちのこともある。
もしされらが知られていたら、少し面倒なことになる。
そこで、マリスは一芝居を討つことにした。
「私は神に使え、ありがたい教えを国に広めて回っている者です」
「ああぁ~…」
「こちらは私の付き人と用心棒の方々です」
普段とは全く異なる口調で淡々と語るマリス。
そして持っていた荷物の中から透明な石のような物を取り出す。
「教えと共にありがたい石を販売して…」
「ああわかった、わかったよ、いいよ通って!」
審査員が投げやりな態度で言った。
宗教家などの、面倒な人物はある程度自由に通れるようになっているようだ。
門をくぐり、町の中へと入ることができた。
あまり変な教えを広めすぎるな、と言われたが。
「姉さん、さっきのは…?」
「いろいろ旅をしてると、妙なことまで身につくものなのよ」
「さっきの石は?」
「これ?以前拾った割れた水晶の破片。綺麗だから取っておいたんだけどね…」
そう言って、先ほど審査員に見せた水晶の破片を投げ捨てるマリス。
聖女ではないが、聖職者であるのは事実。
なので、ある意味では嘘は言っていない。
面倒な検査などを抜け、そのまま入ることに成功した。
「助かったよ、マリスさん」
「面倒な事はごめんだからな」
「ふふ、いえいえ。コロナさん、レービュさん」
町には多くの店が立ち並び、屋台や路上で商売をしている者達が多くいる。
常に人が行き交い、その流れは絶えることが無い。
さすがに危険物や武器類などはほとんど売ってはいない。
だが、それ以外の物ならば何でもそろうのではないか?
そう思えるほどこの市場には物が溢れていた。
「さすがに露店で武器は売っていないんだな…」
そう言いながら、カケスギが近くにいた店の店員に話しを聞いた。
この街に武器を売っている店は無いか、と。
できれば中古品の物がいい、と付け加えて。
当然、無くなった自身の刀が流通していないかを調べるためだ。
しかし…
「中古の武器?この街では出回ってないねェ…」
「そうなのか?」
「ああ。このクレストコールは武器類の生産地でね…」
刀剣類や矢尻、槍。
このクレストコールはその他火薬類などの武器類の一大生産地でもある。
大規模な生産体制が整っていること、材料の調達が容易なこと。
その他諸々の理由から武器生産が発展したという。
そのため中古の武器などはほとんど街中では出回っていない。
単純に、新品を買う方が得だからだ。
「そうか、失礼した…」
中古の流通を探せばなにかヒントがあるかとも思ったが、そう簡単にはいかないようだ。
とりあえずは滞在のための宿を探すことにする一行。
裏道に入り宿を探す。
大きな町では王国側の監視の目も多くなる。
表の店では無く、裏路地にある小さな店を選ぶ。
「…あそこにするか」
「宿と酒場を一緒にやっているのか」
「こういうところの方が楽だ」
そのカケスギの言葉を信じ、その店へと入る一行。
決して上等な店とは言えぬ、アウトローが集まる酒場だ。
店員も客もほとんどいない、薄暗く狭い店内。
僅かに店内にいるのは数人のアウトローたち。
カウンターにいる店員に、オリオンから受け取った証を見せる。
「よろしく頼むよマスター」
そう言うレービュ。
黙って頷く店主。
カウンターの後ろの奥へ続く廊下を指さした。
マリスとケニー、ソミィは早々に奥の部屋に行った。
「訳ありで子供連れなんだ。うるさくはしないさ」
「わかったよ。だが子供に酒は出さんぞ」
「ああ。だが私は飲みたい」」
到着し早々に酒を飲み始めるレービュ。
カケスギは刀を探すため、荷物を置いてすぐに出かけてしまった。
コロナも同じく、自身の剣を探すことに。
とりあえずは中古市場を当たることにした。
「武器としてでは無く、置物として出回ってるのかもしれんからな」
武器としてでは無く、美術品や家具などとして出回っているのかもしれない。
可能性は高くは無いが、その可能性も無くは無い。
街を歩き探索するコロナ。
この街は昔の街並みがそのまま残っている区画と比較的新しい区画がある。
新しい区画を歩き回り、情報を集める。
しかし…
「感じ悪い街だ。単に旅人を警戒している、というわけでも無さそうだな」
街中を歩いていると、どうも奇妙なものを見るような眼で見られている事に気づいた。
この街の人間は身分の低い人間を見下す、そういった傾向があるようだ。
態度に露骨に出ることは無いものの、どこかこの街の人々は冷たい感じがする。
今まで訪れてきた多くの街ではこのようなことは無かった。
排他的な者や身分を鼻にかけた者が多いのだろう。
「なるほどな、他の地区からの来た者が多いのか」
この街の新区画は貴族に人気がある。
そのため、他の街から引っ越しをしてくるものが多いと言う。
排他的な感情を抱く者のほとんどがそう言った者達だ。
「まぁ、碌な情報も無かったしな…」
街外れなら少し落ち着いた場所もあるだろう。
そう思い、中心街から少し離れた区画へと入っていく。
先ほどの場所とは違い古い建物の比較的多い区画だ。
こちら側は先ほどの区画とは違い、昔から住んでいる者が多い。
そのため排他的な感情を抱く者はあまりいないと言う。
「ここが旧区画か…」
古くからの街並みが並ぶ旧区画。
先ほどの新区画よりランクは落ちるものの、こちらも十分美しい街並みだ。
人も疎らにしかいないため、先ほどよりは落ち着いて探せる。
そう思いながら足を進める。
できれば日が沈む前に探したいものだ。
道を歩いていた者に声をかけ、話を聞く。
「ちょっといいか?」
そう言うコロナ。
この区画に武器、或いは家具を売っている店は無いか、と。
できれば中古品の物がいい、と付け加えて。
当然、無くなった自身の剣が流通していないかを調べるためだ。
「う~ん…中古の武器ねぇ…」
「知らないか?」
「この辺りではあまり出回っていないねェ…」
「そうか、ありがとう」
やはり先ほどのカケスギの時と同じような答えだった。
この街では、そもそもそう言ったもの自体が出回っていないのだろう。
これは剣を探すのに骨が折れそうだ。
「ふぅ…」
近くに会った木箱に座り込むコロナ。
この街は広い。
そんな中から剣を探せるのか。
そもそも本当にこの街にあるのか。
そう思っていた。
その時…
「あれは…!」
コロナはある者を目撃した。
それは剣と同じく、この街に来て探していた者…
「ルーメ…!?」
街の奥の道を、何者かわからぬ男と共に歩くルーメ。
間違いない。
彼女だ。
横にいるその男、恐らく王国軍側の人間のように見えた。
とても親しそうに話しているようにも…
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