第五十二話 消えたルーメ 失われた剣と刀…?
あの宴会から一夜が明けた。
日は昇り、フェイケスの村が朝の日に包まれる。
その朝日が告げるのは新たな時の始まり。
しかし…
「カケスギ!起きてくれカケスギ!」
「…どうした?コロナ」
「無いんだよ!俺とお前の武器が!」
「何!?」
コロナとカケスギの持つ武器が盗まれた。
聖女の護人として生きた時代の最後の形見ともいえるもの。
かつて故郷の地方を救った英雄が使ったとされるコロナの剣。
そして長い刀身、美術品の様に美しいその刃。
鞘にまで美しい草のような模様の装飾が入ったそのカケスギの刀。
その両方が。
「あ~どうしたんだぁ~」
そう言って出てきたのはレービュ。
酔ったままコロナと共に二階で寝ていたのだ。
ようやく起きたらしい。
「カケスギさんとコロナさんの武器が盗まれたんです!」
「なんだと!?」
その言葉を聞き一発で目が覚めるレービュ。
泥棒が入ったのだろうか?
しかしそのような感じはしない。
「そうだ、貯金!?」
マリスが二階の自室に駆け込む。
これまでの偽勇者としての活動で得た貯金。
それが盗まれていないかを確認するために。
急いで金の入った箱を開ける。
「よかった…無事みたい…」
「姉ちゃん!こっちも大丈夫だよー」
ケニーの貯金も無事なようだ。
同じく、彼が偽勇者として変装する際に持っていた剣も無事だ。
小ぶりではあるが、そこそこの価値がある剣らしい。
改めて全員が下の部屋に集まる。
そしてそれぞれの荷物を確認する。
無くなった物が何かを確かめるために。
その結果は…
「カケスギの刀とオレの剣か…」
「そうみたいだな」
そう言って腕を組むカケスギ。
煙草を咥えようとするも、火をつけ忘れそのまま下に落としてしまった。
吸う気を無くしたのかそのまましまうカケスギ。
長い刀身、美術品の様に美しいその刃。
鞘にまで美しい草のような模様の装飾が入ったその刀。
気に入っていたのか、珍しく落ち込んだ様子を見せている。
「空き巣でも入ったのか?」
「それは無いな、レービュ」
そう言って否定するカケスギ。
盗まれたのは刀剣が二つ。
カケスギの刀は美術品としての価値は高い。
盗むのは理解できる。
しかし…
「コロナ、お前の剣に金銭的な価値はあったのか?」
「いや。正直に言うと、全く無い」
コロナはかつての旅の中で、自身の剣を一度鑑定スキルを持つ商人に見せたことがあった。
価値のある名剣ならばかなりの値段がするはず。
だが、コロナの剣には特別な価値はつかなかった。
昔から伝わる英雄の剣とはいえ、所詮は小さな町の伝承。
資料、歴史的な価値も多少はあったのだろう。
だがそれを含んでもその程度だったのだ。
「それに何故か斬れなくなったしなぁ…」
「ふん」
「鑑定した時にキルヴァから笑われたなぁ…」
遠い日の過去をふと思い出すコロナ。
変な結果が出たことをキルヴァに笑われた、と。
空笑いをしながらそれを思い出していた。
しかし今はそんなことを話している場合では無い。
「空き巣なら剣など何本も持っていかないだろう」
仮に物取りの空き巣とするならば、金になるかわからぬ剣など盗まない。
カケスギの刀のような、一見するだけで価値があると理解できるようなモノならば別だが。
真っ先に狙われるとするならば、マリスとケニーが貯めていた財産だ。
価値のはっきりしないコロナの剣など盗む意味など無いはずだ。
「各々の財布も無事だったしな…」
盗まれたのは二人の刀剣のみ。
金銭の類は一切盗まれていなかったのだ。
これは明らかにおかしい。
「…そう言えば、ルーメはどこだ?」
ここで初めてコロナは気づいた。
ルーメの姿が無いことに。
昨日、マリスと共に片づけをしたのが彼女の最後の姿。
それ以降の彼女の消息は誰も知らない。
「まさか、ルーメさんが…」
「あの姉ちゃんが盗んだのか?」
「可能性は高そうだな。知り合いとはいっていたが…」
そう言うマリスとケニー、レービュ。
消えた刀剣。
それと時を同じくして消えたルーメ。
怪しすぎる。
これで疑うな、という方が無理な話だ。
しかし…
「違う、ルーメはそんなヤツじゃ…」
「ルーメさんいい人だもん、そんなことしないよ!」
コロナとソミィが反論した。
ルーメとは何度か会っているが、そんなことをするような人物では無い。
「カケスギはどう思う?」
「ルーメさん、そんなことしないよね?」
「さあな」
そうとだけ言うカケスギ。
この状況では何も言うことはできない。
証拠は何もないのだから。
しかし…
「俺が気になるのはこの紙だ。昨日までは無かっただろう」
カケスギが見つけたもの。
それは部屋に残されていた一枚のカード。
昨日までは無かったものだ。
先ほど机の上に置かれていたのを見つけたのだ。
それをコロナに投げ渡すカケスギ。
「なんだこれは…?」
「すみません、コロナさん。見せてもらっていいですか?」
「あ、ああ。どうぞマリスさん」
「やっぱりこれは…」
マリスはその紙に書かれていたサインに覚えがあった。
それは藩将『アレックス・サンダー』のサインだったのだ。
かつて偽勇者として訪れようと計画したが、『都会すぎる』と言う理由で辞めた街。
治水の街『クレストコ―ル』を治める藩将だ。
「藩将『アレックス・サンダー』のサインです。それも直筆の…」
「アレックス・サンダー…誰だそいつは?」
「私は聞いたことが無いぞ」
そう言うカケスギとレービュ。
二人のためにマリスが説明した。
アレックス・サンダーは治水の街『クレストコ―ル』を治める藩将。
武闘派の藩将であり、この国でも最強クラスの実力を持つと言われている。
「なんでそいつのサインがここに…?」
「わからん。だが…」
そう言って椅子から立ち上がるカケスギ。
彼の考えは決まっていた。
それは当然…
「そいつのところに行ってみるしかないだろう」
他に証拠が無い今、アレックス・サンダーの元へ行くしかない。
元よりはっきりとした目的地の無い旅だ。
何らかのヒントがあるかもしれない。
その可能性があるだけでも、次の目的地とするには十分すぎる。
「そう言うと思ったぜカケスギ」
「ふん」
「ルーメのことも気になるしな」
他にあては無い。
何故か行方不明になったルーメのことも気になる。
それが真実につながるかはともかく、アレックスの元を訪れる価値はある。
ルーメが盗んだのか?
あるいはルーメが刀剣ごと盗まれたのか…?
「武闘派の藩将か。強いんだろうな?」
「ええ。この国でもトップクラスの藩将と…」
「それはいいな」
マリスの言葉を聞き軽く笑みを浮かべるレービュ。
彼女の旅の目的は強い相手を見つけ、それと戦うこと。
とならば、藩将最強と言われるアレックス・サンダーは間違いなくその目的にピッタリの相手。
これを逃すわけにはいかない。
「いくか、アレックス・サンダーが治める治水の街『クレストコ―ル』へ!」
そう言うコロナ。
次の目的地は決まった。
アレックス・サンダーが治める治水の街『クレストコ―ル』。
最強の藩将と呼ばれる男が待つ街だ。
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それとほぼ同時刻。
とある者がフェイケスの村を訪れていた。
「この村か…」
そこにいたのは大将軍マルクの懐刀の少年ナグモ。
僅か十三歳ながらも、優秀な工作員としての一面と高い戦闘能力を持つ。
東洋の忍びの流れを組む暗殺拳の使い手でもある。
主君であるマルクと聖女ミーフィアとの間で揺れ動く少年だ。
「オッドクレーツでは一歩遅かったが…」
コロナたちの足跡を辿り、リブフートから湯治の村。
そしてオッドクレーツと探してきた。
強力な縮地法が使える彼だからこそできる早業だ。
各集落で情報を集め、このフェイケスの村にやってきたのだ。
「勇者キルヴァがいるという噂もあるが、それはどうでもいいかな」
今、最優先で調べるべき事象。
それはコロナのことだ。
ここ最近、怪しい者が来なかったかを聞き込みをすることにした…
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