第五十一話 偽勇者廃業と消えた女
魔物討伐を終えたコロナとレービュ。
そして偽勇者一行。
その最中で偽勇者一行はあることに気が付いた。
いま目の前で戦っていた男の名前、それが『コロナ』であるということに。
「キルヴァがいるって聞いて来てみたら…」
「すみません…」
「ごめんなさい…」
ケニーとマリスが借りている小屋。
そこで話すコロナ。
それに対し謝り続けるケニーとマリス。
魔物の討伐をした後に謝礼を受け取った後、彼らに本当のことを話したのだった。
ある程度ケニーとマリスも察してはいたようだったが…
「別にいいよ。悪いことはしてないみたいだし」
コロナ自身は特に気にしてはいない。
少なくともキルヴァ本人より悪いことをしていなければ。
しかし今の世間の情勢を見る限り、偽物として活動をするのはやめた方がいいだろう。
コロナはそれを伝えた。
「都市部では勇者一行に対するバッシングが強くなっているらしいからな。」
ルーメの新聞新聞。
それを見た民衆は怒りをあらわにしているという。
普段の素行も悪く、強烈な選民思想や差別意識。
数多の女性関係のスキャンダル。
キルヴァに関しての悪行はもし一つずつ上げていくのであればキリが無い。
「ここら辺で名を騙るのはやめた方がいいぜ」
ルーメの新聞はセンセーションを巻き起こした。
これまで貴族制度や勇者制度に不満を持つ者は大勢いた。
しかし、表だってそれを言うものは少なかった。
だがこの新聞によって不満が爆発。
いろいろと各地で問題が起きている。
マリスもそれは風のうわさでそう聞いていた。
「…わかりました」
「それが賢明だ」
「けど一つ聞きたいことがあります」
「何だ?」
「護人コロナは死んだはずでは…?」
「ああ、それか…」
マリスはそれだけが気がかりだった。
コロナは死んだと世間では言われていた。
しかし目の前にはそのコロナがいる。
まさかこの男も偽物なのか、と一瞬、彼女の脳裏に浮かぶ。
「キルヴァの悪行が書かれた新聞は読んだか?」
「え、ええ」
「そこに掲載されてた『殺されかけた元仲間』っていうのが俺だよ…」
新聞上では、あくまで『元仲間の証言』と書かれていた。
ほかにも特定されそうな情報は伏せられたり、ぼかされたりしていた。
それがコロナであると言うことを説明した。
「…というわけだ。殺されかけたけど生きてたんだ」
「なるほど」
「まぁ、偽物を騙るのをやめるのならそれでいいよ。今やるのは自殺行為だ」
いくら田舎ばかり回っているとはいえ、いつかはボロが出るかもしれない。
現に今回の魔物討伐も危なかったのだ。
もし田舎で本物のキルヴァを知る者がいるとしたら…
「そうですね…」
「お金も結構溜まったし、おれ達なんとか仕事を見つけるよ!」
「そうか、偉いぞケニー!」
「うん!」
本物のキルヴァとは違い随分とかわいげのある少年だ。
そう思いながら彼の頭を軽く撫でる。
マリスとしても、この偽勇者がいつまでも続けられる行為とは思っていなかった。
なので、これが潮時だろう。
そう考えたのだ。
「そう言えばお連れの方は…?」
「レービュか?そう言えばどこに行った?」
そう言って小屋の中を見まわすコロナ。
小屋自体は複数の部屋があるがそこまで広くは無い。
しかし彼女の姿は無かった。
いつの間にか宿に戻ったのだろうか。
と、その時…
「おーい!」
外からレービュの声が聞こえた。
扉を開けると、両手に紙袋を持った彼女の姿が。
そしてその後ろには…
「久しぶり、コロナさん!」
「る、ルーメ!何でここに!」
そこにいたのは新聞記者の女、ルーメだった。
あのキルヴァの新聞を作った本人であり、コロナとも交流のある人物だ。
彼女は職業上、あちこちを旅することが多い。
たまたまこの近くにいたのだろうか。
「お前の知り合いだっていうからな、連れてきたんだ」
「オッドクレーツのシラクの事件を聞きつけてね」
それを聞きつけやってきたのだろう。
やはりバイタリティと行動力に溢れた活動的な女性だ。
彼女も何やら紙袋を抱えていた。
そして…
「レービュが金が入ったと言っていたからな…」
「いろいろ買ってきたの」
カケスギとソミィもいた。
どうやらレービュは宿にカケスギ達を呼びに行き、買い物をしていたらしい。
そしてその間にルーメと再会したようだ。
そして紙袋を差出、レービュが言う。
「せっかくだから宴会でもしようと思ったんだ」
「人は多い方がいいだろ?」
そう言いながらケニーとマリスの小屋に上がるカケスギ達。
カケスギは紙袋からつまみと瓶に入った酒を取り出す。
つまみと言っても野獣の干し肉や豆類などの保存食を兼ねたような食べ物だ。
それと保存の効く果物やチーズなど。
「おいガキ!」
「ひッ!あの時の怖い人…」
カケスギに対し、ケニーはあまりいいイメージを持っていない。
初見時に睨み付けてきた怖い男。
それが彼がカケスギに持つイメージだ。
しかし…
「お前にも買ってきたぞ」
「あ、ありがとうございます」
そう言ってケニーに瓶を何本か渡すカケスギ。
中身は酒では無い。
果汁を絞ったジュースだ。
「そこのソミィと一緒に飲め」
「ちょっとちょうだい」
「う、うん」
その言葉の後、マリスはすぐにつまみのポテトとソーセージを持ってきた。
本来はケニーと食べるために作っておいた料理だった。
とはいえ、無事に魔物も討伐できたことや、多くの人々との出会いがうれしかった。
そして何より、偽勇者としての活動をやめることができる、ということがうれしかった。
彼女自身、このままではいけないと感じてはいた。
しかし止めることができなかった。
「どうぞ」
「お、ありがとう!」
そう言ってつまみを受け取るレービュ。
ここで偽勇者としての行動を止めてもらえてよかった。
もしもう少し続けていたら破滅していたかもしれない。
「あたしも手伝うわ。えっと…」
「マリスです」
そう言って聖女の衣装は脱ぎ、改めて私服に着替えるマリス。
髪を結び、動きやすい恰好になる。
「マリスさん、料理、手伝いますね」
「ええ、ありがとう」
マリスとルーメが作る食事。
それを食べながら酒盛りを始めるコロナとレービュ。
なんだかんだで気が合っているのだろう。
「最近は酒飲める機会が多くていいなぁ、コロナぁ」
「そうだなぁ、レービュ。ははは…」
一人で静かに飲むカケスギ。
ソミィと共にジュースを飲むケニー。
「ソミィちゃんていうんだ、よろしく」
「うん、よろしくね」
そんな宴会は夜が深くなっても続いた。
普段は公共の酒場で飲むため、ある程度は自重している。
しかし今日は違う。
身内での飲み会であるため自由にできる。
テンションが上がったのかさらに酒盛りの激しさは増していった。
「ヒャハハハ…」
「ハハハ…」
一気に飲んで急に酔いが回ったのだろう。
夜が深くなってきたころにはレービュとコロナ。
二人は完全に酔っぱらってしまっていた。
所狭しと、テーブルの上におかれた空の酒瓶と料理の皿。
「あまり深酒は悪酔いしますよ、レービュさん」
「あー…そうだなぁー…」
酒瓶を抱えた状態で酔い、倒れていたレービュ。
彼女にそう言うマリス。
小屋の二階に来客用の部屋がある。
そこで休んではどうかと提案した。
「二階に部屋が空いてますから、そちらでお休みになってください」
「ありがとう、そうするよ…おい、コロナ!」
「う、うーん…なんだよ…」
「二階で寝ろってさ」
「あ、ああ…わかったよ…」
同じく酔って倒れていたコロナを無理矢理起こす。
そして二階で寝ることに。
カケスギは椅子に座ったまま寝ていた。
机に顔をうずめながら。
「このまま寝かせておこう…」
そう言いながら毛布だけをかぶせるマリス。
ケニーとソミィもその隣で寝ていた。
そのままでは風邪をひくかもしれない。
ルーメと共に二人を抱え、寝室に寝かせる。
「ふぅ…」
「ひと段落ついたわね」
そう言って椅子に座るマリスとルーメ。
残っていた酒をマリスの器に注ぐ。
「はいっ」
「あ、どうも」
ずっと偽の聖女として活動してきた。
その前は貧乏シスターとして働き詰めだった。
こうやってゆっくり酒を飲むなんてどれくらいぶりだろう。
そう思うマリス。
「後はあたしがやっておきます。マリスさんも少し休んでください」
「え、いえ…」
「こういうの慣れてますから」
「それじゃあお言葉に甘えて、お任せします…」
マリスもつかれていのだろう。
本来ならば客であるはずのルーメに任せ、寝てしまった。
それからだった。
ルーメが…
コロナの剣、カケスギの刀が…
一緒に消えたのは。
もしよろしければ、ブックマークやポイント評価などお願いします。
また、誤字脱字の指摘や感想などもいただけると嬉しいです。




