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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第三章 動乱を煽る者

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第四十九話 お前たちは何者!?偽勇者

 

 田舎の村であるフェイケス。

 農業と林業を主要産業とする村だ。

 とくに特徴なども無く、極々平凡な村であると言われている。

 ただの一つを除いては。

 この田舎の村フェイケスに『勇者キルヴァ一行』がいるという。

 しかしその勇者一行は偽物であった。


「だ、大丈夫かな。マリス姉さん…?」


「心配ないわ。バレてないはずよ。ケニー」


 偽ミーフィアの女『マリス』、歳は二十一歳で本物のミーフィアより一回り近く年上だ。

 偽キルヴァの少年、『ケニー』、十二歳と本物のキルヴァよりも年下となる。

 それが二人の正体だ。

 もちろん、本物の二人とは一切関係が無い。

 二人の名を騙り、勇者パーティとして旅をしているらしい。


「自分に自信を持って、ケニー!」


「う、うん。マリス姉さん…」


 二人は今、村の者の好意で借りた小屋にいる。

 そのため多少は大声を出しても問題は無い。

 しかしあまり目立ちたくはない。


「あの変な旅人の二人…」


 先ほどであった妙な二人組、コロナとカケスギ。

 それを思い出しつつ、聖女としての衣服を脱ぎ、部屋着になる偽ミーフィアことマリス。

 その長い髪をひもで結ぶ。

 変装の際にはそのままにしているが、本来は結んでいるのだ。

 素の自分の姿になり、ベッドに寝転がる。

 そして部屋の天井を黙って眺める。


「…」



 ふと彼女は昔のことを思い出した。

 自分たちが偽勇者パーティとして活動をすることになった頃の話を…




 --------------------



 二人はかつて、別の田舎の村で暮らしていた。

 親は死に、二人で貧しくひっそりと生活をおくっていた。

 とはいえ、当然子供二人だけで暮らせるほど楽では無い。

 二人は教会に住み込みで働きつつ、生活を送っていた。


『あの…神父様…』


 当時のマリスは教会でシスターとして働いていた。

 しかし聖職者としての仕事よりも別の仕事の方が多かった。

 それは『とある理由』により出入りする『金銭の会計』だった。


『客か?』


『はい』


『通しておけ、準備させる』


 教会とは名ばかり。

 実際は娼館のような場所だった。

 訳ありの少年少女を集めて働かせていた。

 決していい環境とは言えず、病気で倒れる者も多かった。

 そこの会計士として彼女は働いていた。


『ちゃんと仕事しろよ。少しでもサボったらお前もアッチいきだからな』


『は、はい…』


『行く場所が無いお前を使ってやってるんだからな。感謝しろよ』


 先代のまともな神父がいた昔はちゃんとした教会だったのだ。

 だが、世間の混乱と共に悪化していった。

 先代の神父から現在の悪徳神父に変わり、このありさまだ。

 しかも、訪れるのは客だけでは無かった


『おい、神父さんよ!』


『商売するならうちに金払ってからしな!』


 その周辺一帯を縄張りとする組織。

 そのならず者たちに目をつけられたのだ。

 しかし悪徳神父はあくまで教会であり商売などしていないとの一点張り。

 金を払うことはしなかった。

 それが原因で揉め事も多くなっていった。

 そしてある時…


『おい、マリス』


『なんですか神父様?』


『今度からお前も出ろ』


『えッ…!』


 娼婦として働く者に対する妨害工作。

 それがならず者たちにより酷くなっていった。

 そのため、ついに働き手が居なくなってしまったのだ。

 そんな中、悪徳神父が目をつけたのが会計として働くマリスだった。

 いや、彼女だけでは無かった。


『そういえばお前には弟がいたな』


『ケニー…!』


『そいつにも男をとらせるか』


『そ、それは…』


 マリスはおいつめられていた。

 このままでは自分だけでは無く、弟にまで手が及ぶ。

 それだけは避けたかった。

 そこで彼女は驚くべき行動に出たのだった。


『…よし!』


 会計として働いていたため、ある程度の金を動かすことはできた。

 その金を纏め着服。

 そして…


『神父様!起きてください!』


『どうした?まだ夜だぞ…』


『火事です火事!』


『なに!?』


 娼館として使われていた教会に油を撒き、火を放ったのだ。

 会計士である彼女ならば人のいない時間を意図的に作り出すこともできた。

 うまく隙を作りその間に油を撒いた。


『この金の像と箱だけは持ってきました!』


『金は!?』


『残念ながら…』


 ただ金を着服したのではいずればれる。

 火事で焼失してしまったということにしてしまえばいい。

 そう考えたのだ。

 残された最低限の金品のみを運び出し、注意をそちらに移す。

 既に火は回っておりまともに運び出せるものはほとんど無かった。

 大勢の野次馬が外には集まっていた。

 そこには…


『へへへ!古いだけによく燃えるぜ』


『解体する手間が省けたぜぇ』


 そこにいたのは以前から妨害工作をしてきたならず者。

 火事を聞きやってきたのだろう。

 悪徳神父はそのならず者たちが犯人だと確信した。

 一方のならず者たちは単なる事故による火事だと思っている。

 つまり、その時点でマリスがやったとはだれも考えていなかった。

 そしてマリスは行動に出た。

 弟であるケニーを連れ、町から逃げ出したのだ。

 着服した金を持って。


『逃げるわよケニー!』


『ど、どうして!?姉さん!』


『もう私達はこの町にはいられないの!』


 悪徳神父をならず者にけしかけた。

 一方のならず者には、悪徳神父が罪を着せようとしている、と伝えた。

 両者が争うように仕向けたのだ。

 どちらも悪人。

 どうなっても構わない。

 マリスはそう考えた。


『お金ならあるわ!新しい町で暮らしましょう!』


『なんでそんな大金を…』


『いいから!』


 荷物を纏め町を出た二人。

 別の集落を転々とし、仕事を探す。

 しかしそんな二人にまともな仕事が回ってくることは無かった。

 結局、盗んだ金を切り崩しながら、マリスの日雇いの仕事で生活をする毎日。

 途方に暮れる二人。

 と、そんな中…


『…ん?』


 仕事帰りのマリス。

 そんな中、彼女はある物を拾った。

 それは『勇者キルヴァ』についてが書かれた新聞だった。

 コロナがキルヴァを倒した直後のルーメの新聞。


『勇者…』


 そこに書かれていたのは勇者キルヴァの蛮行の数々。

 しかしマリスが注目したのはそこでは無い。

 彼女が注目したのは『勇者』が死んだ、ということだ。


『…これよ!』


 勇者キルヴァの知名度は高い。

 しかし彼がどのような姿をしているかまではあまり知られていない。

 当然だ、実際に会ったものなど限られている。

 伝達で知るくらいしかできないからだ。

 偽勇者として各地を回り、金を集める。

 そうすれば生活も楽になる。

 マリスはそう考えたのだ。


『無茶だよそんなの…』


『やるしかないわ!私が『聖女ミーフィア』を演じる!』


『け、けど…』


『あなたは『勇者キルヴァ』を演じて!』


『ゆ、勇者…!』


 最終的に、弟であるケニーもそれに賛同した。

 勇者という言葉に惹かれたのだろう。

 街で旅人としての装備を揃えた。

 金だけはあった。

 勇者としてふさわしいような高額な物を。

 聖女としての衣装はシスター時代の物を流用した。

 回る町は田舎を主とした。

 本物のキルヴァを知るものと出会う確率を少しでも下げるために。


『頼むわ、『勇者様』!』


『任せてよ『聖女様』!』


『ふふふ…』


『へへへ…』


 勇者のネームバリューは絶大だった。

 町を訪れれば歓迎される。

 仕事をすると言えば多数の仕事が舞い込んできた。

 例の新聞は悪質なデマだと説明した。

 情報の伝達が遅い田舎ならば騙しやすい、そう考えたのだ。


『あの新聞は偽の情報ですわ』


『そうそう。僕たち生きてますし…』


 偽物とばれては困るため、決して驕ることはしなかった。

 町の仕事を受け、金をためる。

 金はできる限りため、節制を心掛けた。

 そしてある程度貯めたら次の町へ行く。

 それを繰り返していた。

 長期滞在はボロが出やすくなる。


『お金たくさん溜まったね、姉さん』


『そうね…』


 二人の目標は安住の地を見つけること。

 そこに小さな家を買い住まう。

 偽勇者としてでは無い。

 ケニーとマリスとして。


『今の私は『聖女ミーフィア』。このまま欺きとおして見せるわ…!』


 金を貯め安住の地を見つける。

 それまでバレるわけにはいかない。

 規模こそ違うが、偶然にも本物のミーフィアと同じような状況になっていた。



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