第四十七話 裁くのは誰だ!?
シラクたちの計画は潰えた。
彼らの呼び出した魔物はコロナとレービュによって討伐された。
知能のある魔物は逃げ帰り、小型獣型魔物やゴブリンは倒した。
そしてその首謀者であったシラク。
彼もカケスギによって倒された。
「う、うぅ…」
「で、どうする。こいつらは?」
カケスギによって倒されたシラク。
そしてその仲間たち。
彼らは全員拘束され、街の広場に転がされていた。
そしてそれを囲む街の人々。
「まさかシラクが…」
「魔物を使って…ねぇ…」
「以前から胡散臭いやつだとは思ってたが…」
コロナとレービュが魔物を討伐した後、カカリナが街の者に知らせたのだ。
そしてカケスギのやりとりを隠れてみていた。
彼がならず者たちを討伐する場面。
そしてシラクとの戦いを。
もはや彼らに言い逃れはできない。
「なあ、あんなに愛し合ったじゃないかカルナ…」
なんとか許しを請おうとカルナに話しかけるシラク。
しかしもはや彼女は聞く耳は持たない。
昨日のシラクが彼女を侮辱していたこと。
それを知ってしまった。
「…」
「なぁカル…」
「…ッ!」
「グぇッ…!」
無言でシラクを蹴り飛ばすカルナ。
その蹴り先が彼の口に直撃。
そのままあごの骨を砕いた。
血を吐きその場に倒れるシラク。
彼の様子を見て震えるならず者たち。
「そりゃあ怒るよな…」
「軍にでも突き出すかとも思ったが、そうはならないようだなコロナ」
「そうみたいだな、レービュ」
最初はシラクたちを軍に突き出すかとも思った。
そして法の下に裁きを与える。
しかしどうやら違うようだ。
「みんな、こいつらを川の方に運ぶよ」
「おう!」
「な、なにをするんだ、やめろ!」
「この町には昔からの『解決法』っていうのがあるんだよ」
そう言いながらならず者たちとシラクを川の方へと運ぶ人々。
コロナたちも何人か運んだ。
そして勢いよく流れる激流の前に彼らを並べる。
流れによって削れた岩、轟音を立てる激流。
この辺りは流れが非常に速いのだ。
崖のようになっている部分から川を眺めるコロナ。
非常に厳しい流れだ。
以前レイスが流されたあの川よりもはやいだろう。
「昔は罪人を川の神様が裁いていたんだよ。アンタたちもその方法で裁く!」
「ま、まさか…」
シラクの言葉と共に、カルナが縄を取り出す。
植物の蔦で作られた粗い縄だ。
「察しがいいねシラク。ここに突き落とす!手足を縛ってね」
このオッドクレーツ…
いや、この周辺の街はかつて水害によって苦しめられていた。
この町はまだ比較的高い位置にあるためまだマシなほう。
オッドクレーツより下の地域ともなると、深刻な被害が出ることも多かった。
しかし一方で川による恵みも多かった。
そのため昔の人々はこの地域の川を神聖視したという。
川による罪人の裁きも、そういったところがルーツとなっているのだろう。
「まずは一番罪の軽いコイツから…」
「う、うわぁ!」
「し、新入りぃ!」
その言葉と共に突き落されるならず者の男。
伝達係のチンピラらしく、最近入ったばかりの新入りらしい。
激流に呑まれ流されていく新入り。
しかし…
「あぐッ…うぁ…」
途中何度か、水面から飛び出た石にぶつかる新入り。
激流により叩きつけられ悲鳴を上げる。
だが致命傷にはなっていない。
切り傷が目立つが、いずれも派手に見えるだけの浅い傷だ。
しかも石にぶつかったおかげで、蔦によって作られた縄が切れている。
「う、うぅ…」
「あの男、運がいいな」
「あいつは神様が許してくれるってさ」
両手が自由になり、怪我も少ない。
とはいえ、すぐに川から上がるのは不可能。
だが、このまま体制を保ちながら流されていけば…
流木にでも捕まりながら、川下に行けばうまく助かる確率は高いかもしれない。
「さて、次はコイツを…」
「ひぃ…ッ」
ならず者たちのまとめ役の男を川に突き落とす。
これまでよほど悪事を働いてきたのだろう。
そのまま川に呑まれ浮かんでこなくなってしまった。
女子供でも容赦なく始末してきた非常の男。
その最後にはある意味ふさわしいのかもしれない。
「お前らもだ!」
その後も次々とおとされていくならず者たち。
殆どの者がそのまま川に呑まれたか、岩に身体を打ち付けて死亡した。
だが、ごく僅かなに先ほどの新入りのように助かる者もいた。
「よくわからんが裁きとしては案外機能しているのか…?」
「さぁな」
「あそこで釣れた魚はあんまり喰いたくないなぁ…」
その様子を横で座りながら眺めるカケスギ、コロナ、レービュ。
無神論者ではあるが、その奇妙な様子には目を見張らざるを得ない。
罪の軽そうな、改心できそうな者は助かる。
無理そうな者はそのまま呑まれる。
「なるほど」
カケスギはこのカラクリに気が付いた。
気が付けば極々単純なことだ。
罪の軽そうな者にはすぐに切れる縄を結び付ける。
そして流れの緩やかなところに落とす。
逆に、罪の重そうな者は丈夫な縄をきつく結び、流れの速いところへと落とす。
ただそれだけのこと。
「…そういうことか」
川に突き落す段階で既に罪の重さが決められているのだ。
しかしそれを見た者はそんなことは分からない。
川の流れの強弱など、一見しただけではほとんどわからない差でしかない。
縄も同じく見分けは殆どつかない。
そのため、一見すると超常的な存在である『神』が罪を選別しているように見えるのだ。
「どうしたカケスギ?」
「いや、なんでもない」
とはいえ今言うようなことではないだろう。
そう考えた彼はそのまま静観することにした。
その後もならず者たちがおとされていく。
そしてついに最後。
シラクの番になった。
「なあ、あんなに愛し合ったじゃないかカルナ…」
「…ッ!」
もはやそんな言葉は何の役にも立たない。
逆に彼女の怒りに触れ、そのまま再び蹴られてしまった。
彼には特にきつく縄が縛られた。
そして最も流れの速い箇所へと連れて行かれる。
「た、助けてくれ!こんなの助かるはずがないだろ!」
「神様が許してくれるなら助かるよ」
そう言うカルナ。
一縷の希望はあるように見える。
しかし先ほどのカケスギの予想通り、既に罪は決まっている。
結びの強さ、縄の強度、おとされる場所。
全てもっとも罪が重い者に与えられる物だ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ…ッ!」
「さようなら!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
そのまま激流に呑まれるシラク。
カケスギから受けた傷とカルナの蹴りによる傷もある。
その状態で結びの強さ、縄の強度、おとされる場所。
全てもっとも罪が重い者が与えられるものを受けたのだ。
まず助からない。
しかし本人は一縷の希望を抱く。
そのことを知らないから。
「た、助かり…」
助かろうともがくが当然助かるわけが無い。
実質的な死刑なのだ。
しかしそれでもシラクは助かろうともがき続ける。
一縷の希望。
いや、偽りの希望がある限り…
「終わったか…」
全員を突き落とし、裁きは終わった。
あつまった街の者たちも続々と戻っていった。
そしてカルナとカカリナも…
「まったく…あんな男に引っかかっちゃうなんてね…」
「でもお姉ちゃんならまたいい人見つかるよ」
「そうかな?」
「うん!だってお姉ちゃん美人だし」
「そうだよね!いい人見つけるよ!がんばる!」
先ほどまで裁きをしていたとは思えぬ変わりようだ。
職業柄、気持ちの切り替えは得意なのだろう。
その後、コロナたちに礼を言う二人。
街を守ってくれたコロナとレービュ。
カカリナを助け、シラクとならず者を倒したカケスギ。
「今日も宴会やるわよ。ねぇカカリナ」
「うん、お姉ちゃん。街が助かったんだしね」
昨日に続き、今日も宴会をすることに。
そしてその翌日、予定通りコロナたちは街から旅だった。
お礼として食料を分けてもらった。
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