第四十六話 朝日は誰がために昇るか
英雄シラク。
しかしその英雄という名は自作自演の襲撃事件をでっち上げて作られたものだった。
ふとしたことからそれを知ったコロナ一行とカカリナ。
そしてカケスギの言った言葉。
『レービュ、お前には『救世主』になってもらう』
その言葉の意味、それは…
「なるほど、カケスギの言っていたのはこういうことか」
「俺たち二人で魔物を撃退するってことか」
「頼む、コロナ」
「任せろよ、レービュ」
風俗街オッドクレーツ。
その入り口となる門の物陰に隠れながら二人が言う。
魔物は夜明けとともに来る、シラクたちはそう言っていた。
ならばその魔物を全て撃退してしまえばいい。
簡単なことだ。
「お願い、二人とも…」
「カカリナ、あんたはここにいなくてもいいんだぞ?」
レービュがそう言うも、カカリナは聞かなかった。
ソミィと共に店に隠れていればいい。
そう言ったのだが、どうしてもこの戦いを見届けたいのだと言う。
もし何かあった時のための証人になるために。
「ううん、いさせて」
「…わかったよ。だがどうなっても知らんぞ」
「うん!」
そう言いながらレービュは戦う準備を始めた。
古い材木とボロ布を組み合わせて作った松明。
それを何本か作り、村の前においた。
油をしみこませた布に火打石で火をつける。
そしてそのたいまつの火を別の松明にうつしていく。
「何してるんだレービュ?」
「みればわかるだろコロナ。松明を作っているんだ」
「けど何故…?」
「すぐにわかるよ」
そう言って軽い笑みを浮かべるレービュ。
松明を村の前に並べ、敵を待つ。
人の盗賊ならば警戒するかもしれないが、相手は魔物の群れ。
それも低級のゴブリンが多数だという。
松明が数本置いてあったところで気にも留めないだろう。
「そろそろ夜明けだな」
「ああ…」
「お願い、二人とも…!」
連なる山々。
そこから昇る朝日。
太陽は誰にでも平等に光を与える。
たとえそれがどのようなものであっても…
「…来たな」
「夜明けと共にか…」
夜明けと共に山から下りてくる魔物の群れ。
ゴブリン、オーク、小型犬型魔物の群れ。
知能をほとんど持たぬ魔物たちで構成された連合軍だ。
『ガグゥゥゥゥ…ッ!』
『ウグゥゥゥゥゥゥゥ!』
『ガァァァァァ!』
『ゲッギィィィィッ!』
『ゲギィィィィ!』
『ヴゥゥゥーッ!』
まさに魔物のサラダボウル。
その数は予想よりも数倍は多い。
百体近くはいるのかももしれない。
一体一体の戦闘能力は低いが、まとまると厄介だ。
いや、厄介どころでは無い。
普通ならばこれだけの魔物を相手にすれば、人間の住む街などかるく捻られる。
「レービュ、作戦通りにいくぞ」
「ああ。任された…」
レービュは魔炎使いだ。
その能力は一対一では無く、多数の敵が存在する乱戦でこそ真価を発揮する。
逆にコロナは多数の敵が存在する乱戦は得意としない。
一対一での戦いを得意としている。
ノリンやキルヴァといった実力者を倒してきたことがそれを証明している。
「ひゃはは…」
そう言ってレービュは先ほど作った松明を手に取る。
油を吸った古布。
それにより轟々と燃えている。
その松明の火にレービュが手を伸ばす。
そしてその火を『掬い取った』のだ。
まるで山のように積まれた塩をその手に取るように…
「熱くないのか?」
「まあね…」
手に炎を掬い取ったレービュ。
何も燃える物が無いはずの炎。
それは彼女の手の中でより一層勢いを増していく。
魔力を送りこみ、威力を高めているのだろう。
「相手が魔物ならやりやすい…!」
その言葉と共に迫る魔物の群れに狙いを定める。
勢いよく燃える手の中の炎。
それを勢いよく手のひらから撃ちだした!
「炎鳥燐恢の奥義…『火蜂』!」
撃ち出された火の粉。
それが魔物たちに着弾する。
肉を抉り、体の中から焼くのだ。
『ガァァァァァ!』
『ゲッギィィィィ…!』
数体の魔物が倒れる。
人間ならばすぐに消火をするだろう。
しかし今この攻撃を受けているのは低級の魔物だ。
そんな知能は無い。
『ゲギィィィィ!』
『ガグゥゥゥゥッ!』
しかしレービュの攻撃を気にも留めず、他の魔物たちは突撃してくる。
すぐさま第二陣の攻撃をレービュが放つ。
「言っても分からんだろうが、それ以上は死ぬぞ」
近づけば近づくほど『火蜂』の威力と命中率、殺傷能力は上がる。
先ほどは百メートル以上離れていたので小さなゴブリン数体を倒すにとどまった。
しかしそれ以上近づくと、威力は格段に増す。
「コロナ、リーダーのオーガは任せた!」
「ああ、援護は頼むぜ」
一対一の戦いならばレービュよりもコロナの方が強い。
雑魚散らしをレービュに任せ、リーダーとその取り巻きをコロナが叩く。
それがこの作戦だ。
「火蜂の一刺しは強烈だろう!」
レービュの『火蜂』、それを受けたゴブリンの皮膚が抉られた。
腕を吹き飛ばし、身体を貫通する。
隙の多い技だが大人数を相手取る軍団戦では最高クラスの能力を持つ。
これほど援護向きの技はそうは無い。
殺傷能力も高く、まさに蜂の一刺しにふさわしいといえる。
そしてその援護を受けながら、リーダーであるオーガの元へと走るコロナ。
「邪魔だ!」
手刀をその勢いのまま薙ぎ払い、ゴブリン二体の頭部を潰す。
三体の小型犬型魔物の頭部を叩き割り、ゴブリン一体を手刀で切り捨てた。
さらに蹴りでオーク一体を岩に叩きつけ抹殺。
立ちはだかる敵を倒し、奥のオーガへと向かう。
身長三メートルほどもある魔物。
ゴブリンやオークを束ねるリーダー格だ。
『話ト違ウゾ!アノ男、騙シタナ』
「お前がボスかァ!」
「コロナ、そいつを叩け!」
『邪魔ダ!』
レービュの言葉を聞くまでも無く、オーガの攻撃を回避するコロナ。
思い切りバックへと跳び、拳を構える。
「そこだッ!」
オーガの腹部へ全力の拳を叩きつけ、コロナの拳が深く腹部に突き刺さる。
コロナを捕えようとするオーガだが、軽快に動く彼を捕えるのは至難の業。
「これで…!」
オーガの攻撃の反動の反動を利用しオーガの頭部に蹴りを叩きこんだ。
よろめきながら、オーガはその場に倒れた。
『ヴゥゥゥー…』
それを見た他の魔物たち。
勝ち目がないと悟った魔物位置は一目散に逃げ出した。
後に残ったのは、そんなことすら理解できぬ知能の低い魔物が十体ほど。
それを軽く始末し、魔物を撃退することができた。
「あとはカケスギの方か…」
一方その頃。
自らの計画を狂わされていたとも知らぬシラク。
予定通り夜明けより少し遅れて現れ救世主を演出。
そのまま魔物を討伐しようとしていた。
しかし…
「何か様子がおかしい…」
寝床としていた店から飛び出し、様子をうかがう。
なにやら街の外が騒がしい。
だが魔物の襲撃が街にまで及んでいるわけではないらしい。
これはどういうことか。
不安を覚えたシラクは、魔物の襲撃を依頼したならず者の元へと急ぐ。
「な、これは…」
「よお、遅かったじゃないか。英雄サマよぉ…」
シラクの仲間が当面の隠れ家としていた空家。
その前に積まれたシラクの仲間であるならず者たち。
そしてその上に座っていたのはカケスギだった。
「す、すまねぇシラク…」
「い、一体これは…」
「全てタネはばれている。昨日のお前たちの話をカカリナが全て聞いていたそうだ」
カカリナから聞いた話。
昨日シラクとならず者が話していた内容。
それらを全て暗唱するカケスギ。
「くッ…」
「魔物は俺の仲間が討伐している。お前の出る幕は無い」
「…それがどうした」
シラクが剣を抜く。
そしてその剣先を静かにカケスギに向ける。
「今すぐ貴様を殺し、お仲間も殺してやる!」
カケスギ、コロナ、レービュ。
この三人を抹殺し、予定通り魔物に街を襲わせる。
その後で魔物を撃退すれば当初の予定と何ら変わりない。
シラクの計画はまだ、狂ってなどいない。
「さっきの話は否定しないんだな。カカリナの話を…」
「カルナの妹か、あいつも見つけ次第殺してやる。魔物に殺されたと言えば皆も信じるだろうからな!」
「随分と自信があるようだが…」
「それですべて丸く収まる!まずは貴様からだ!」
シラクが剣と共に斬りかかった。
偽りの英雄とはいえ、その実力までは偽りでは無い。
確実に命を絶つ太刀筋。
カケスギはまだ剣を抜いていない。
対等な勝負などでは無く、シラクがカケスギを殺すためだけの攻撃だ。
「地獄を楽しんで来い!」
ここでカケスギを始末する。
そして街の外のコロナとレービュを倒す。
魔物をしばらく放置した後に殲滅。
カカリナを最後に始末し魔物の死体と共に始末。
それで計画に狂いはない。
…はずだった。
「やめておくよ」
「へ…?」
「負ける理由が無い」
カケスギのその言葉。
それと共にシラクは倒れた。
その場に切り捨てられ、鮮血が辺りに飛び散る。
刀を抜きシラクの攻撃を受け止める。
そして反撃。
それを一瞬のうちに行ったのだ。
「さて、一通り片付いたか…」
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