第三十九話 流転する革命軍
シンバーの演説。
それは大きな反響を呼んだ。
民衆の怒りを体現したトライデントを用いたそのパフォーマンス。
彼が後日行うと言ったデモにも多くの民衆が参加するだろう。
もうその勢いは止められない。
怒りの炎が民衆に着いてしまった。
しかし、それを好ましく思わぬ者達も多く居た。
「それにしても久しぶりだな、ローザ」
「今はローザじゃない。レイスだ」
「あの覆面もつけてないっすからね」
山林の町ミッドタウン。
そのとある喫茶店の店先で話す三人の男女。
革命家オリオン、そしてレイスとパンコだ。
今日のレイスは騎士としての正装をしていた。
薔薇仮面の将ローザとしての姿では無い。
一人の男、レイスとしてオリオンに会いに来た。
「しかしいいのか?俺とこんなに堂々と話して」
「キミの素性は国には割れていないからな」
そう言いながら茶をゆっくりと口に運ぶレイス。
どうせこの辺りに国の者はいない。
仮にいたところで、オリオンと会話をするレイスは『一市民と会話する庶民派の騎士』にしか映らない。
普段から民衆と会話をすることが多い彼だ。
その行動は普段と同じであり、問題視などされない。
「それに二人とも、仕事はいいのか?」
「どうせ大して意味の無い仕事だ。お飾りのような…」
「地位だけでたいして意味の無い仕事ばっかりっすからね」
レイスとパンコ、この二人は普段は地方での雑務などをしている。
二人の騎士という地位を考えれば、消化試合じみた地味な仕事だ。
出世も見込めぬ、飼い殺しのような状態だ。
レイスは腕だけならば、市将にでもすぐになれるといわれている。
しかしレイスが平民出身であるため、それをよく思わぬ者もいた。
そのためそのような仕事に流されたという。
それにパンコもついて行ったというのが実情らしい。
革命軍として動きやすいため、本人たちはあまり気にしていないようだが。
「それにウチらを呼んだのはオリオンっすよ」
「ああ、そうだが。こんなにすぐに来るとは…」
「しかし、キミが急に会って話したいとは…」
「すまない。だが、王都にいる仲間から連絡が届いたんだ」
王都にも革命軍の仲間がいる。
特に王都には情報の伝達要員や活動員、工作員などの特に多くの仲間がいるという。
レイス達がキルヴァの首を渡し、晒すことを依頼したのもそんな者達だ。
その彼らからの手紙が来たと言うのだ。
「連絡?何すか?」
「これだ」
そう言って手紙を見せるオリオン。
そこにはキルヴァの晒し首に対する反響が書かれていた。
前半はレイス達の目論見通りのことが書かれていた。
それを見て喜ぶ二人。
しかし…
「シンバー・ホーンズ…!?」
「やはりあの男か…」
過激派シンバー・ホーンズ。
レイスも彼のことはある程度は知っていた。
その彼の演説により、キルヴァの晒し首は予想以上の反響になった。
シンバーが絡んでくることはある程度予想できたが、さすがにこれは想像以上。
もしかしたら、彼らが独自の革命を起こしてしまうかもしれない。
手紙にはそう書かれていた。
「少しまずいな、これは…」
「ああ…」
「そうっすか?」
シンバーの活動がここまでの反響を呼ぶとは思いもしなかった。
本来、オリオンやレイス、パンコの革命軍は穏健派に位置する。
革命に穏健とは妙な話だが、これはあくまで例え話だ。
「このように人々を扇動されては、こちらの革命がうまくいかないかもしれん」
「国側に余計な警戒をさせてしまう…」
シンバーの活動はただ暴れまわるだけ。
仮に彼が革命を起こしたところで成功する可能性はほぼ無い。
王国と民衆、双方に無駄な血が流れるだけだ。
これはいけない。
「なるほど…」
「ただ暴れまわるのと革命は大きく違う」
来るべき時までは牙を隠し、来るべき革命のときまでは目立った活動を行わない。
そして革命に必要な最低限の戦いしか行わない。
というのがオリオンの所属する穏健派だ。
もちろん戦いで血は流れるだろうし、各人の死は覚悟している。
無血革命を成功させるような団体では無い。
あくまで分類として穏健派と便宜上はよんでいるだけだ。
しかしシンバーは違う。
「彼の活動は、我ら革命軍とは全く違う」
「怒りの衝動のままに動き、傷つけるだけだ」
「以前、シンバーの活動中こんなことがあった…」
かつてのシンバーの活動の中であったことだ。
過激な活動を止めるために注意をしに来た国の役人に怪我させかけた事件があった。
銛を改造したトライデントでいきなり殴りかかろうとしたのだ。
さすがに周囲が止め、そのままシンバーは捕まった。
その時は殺意が無かったと判断され、軽い刑で済んだが…
「ウチらとは考えが違うってことすね」
「そうだ。全く違う」
「ストレスの発散としてデモを行う。確かに怒りのはけ口としてはいいかもしれないが…」
内に怒りをため、暴発するよりはいいかもしれない。
個人個人が暴走し大事件を起こすよりは。
しかしだからといってシンバーの行動が正しいともいえない。
彼の行動は単なる暴力的な八つ当たりに近い。
暴力的に行動し、ストレスを発散すればその場で解散する。
「…シンバーに掛け合ってみるか」
「オリオン、できるのか?」
「ああ。アイツは旧友だ。それにうまくいけば味方にできるかもしれない」
そう言うオリオン。
だが相手は国でも悪名高い過激派のシンバー・ホーンズ。
いくらオリオンの旧友とはいえ、そう簡単にうまくいくかは分からない。
最悪の場合、返り討ちに会いそのまま殺されてしまうかもしれない。
レイスもパンコも不安そうだ。
「恐い人って話っすよ」
「もしよければ僕たちも一緒に…」
そう言うパンコとレイス。
ここでオリオンに倒れられては革命は失敗する。
しかしそれだけでは無い。
純粋に友として、彼を心配しているのだ。
だが、その二人をオリオンが制した。
「いや、俺一人で十分だ。アイツの性格は俺がよく知ってるからな…」
過激派シンバー・ホーンズ。
彼は国や貴族を憎んでいる。
国に賛同する貴族だけでは無く、『貴族』そのものを。
一般の民衆以外は全て敵、と認識しているのだ。
そんなところに国側のレイスと貴族出身のパンコが出て行っても攻撃の的になるだけ。
まずはシンバーに味方の貴族や国側の内通者がいることを理解させなければならない。
そのことをレイスとパンコに説明するオリオン。
「質問があるっす」
「なんだ、パンコ?」
「…シンバーって人はなんでそんなに国や貴族を憎んでるんすか?」
パンコが尋ねた。
彼女の疑問はもっともだ。
普通ならばそんなに憎しみを抱いた人間にはなりはしない。
彼のその憎悪はどこからきているのか。
それが気になったのだ。
「それは…」
「うん」
「…俺にも分からない」
シンバー・ホーンズ。
彼は昔は普通の少年だった。
ごくごく普通の少年であったのだ。
家族も健在。
国から罪を受けたとはいえ、それは過激な活動を始めてからのこと。
過激な思想に走る直接的な原因では無い。
「もしかしたら、俺の知らないようなとても深いところに理由があるのかもしれないな…」
そう言いながら、オリオンは茶を飲んだ。
旧友である彼も知らないトラウマ。
それがシンバーを悲しき憎悪の獣へと変えてしまったのかもしれない。
もしそうならば、それを理解できなかった自分にも責任がある。
そう考えると、とても悲しい気分になった。
シンバー・ホーンズ。
彼を突き動かすものは何なのか…
「俺は王都へ向かう。シンバーと話をつけてくる…」
そう言うオリオン。
旧友である自分の意見ならば、シンバーも聞いてくれるかもしれない。
しかし今のシンバーは得体の知れぬ憎悪に駆られた獣。
果たしてオリオンはどうなるのか…?
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