第三話 新聞記者の女 ルーメ
荒野で拾った新聞記者の女、ルーメ。
歳は17、バイタリティと行動力に溢れた活動的な女性だ。
ふとしたことから、コロナたちは彼女を次の町まで送り届けることとなった。
次の町には彼女の知り合いの印刷業者がいるため、そこで新聞を刷るらしい。
政府批判の内容を強く含む新聞を書く彼女は、その立場上とても敵が多い。
次の町への道を辿りながら歩く一行。
「荒野の真ん中を通れば大丈夫だと思ったんだけど…」
「危ないだろ」
「周囲の警戒は怠っていなかったのになぁ」
「それで捕まっているのだから、単なるまぬけだな」
「なによ」
「ふん」
そう言うカケスギ。
職業上、敵が多いルーメ。
彼女は移動の際には、人のいない場所を選ぶことが多い。
だが、今回はそれが裏目に出てしまった。
人目を避けようとして、魔物のいる道を通ってしまったのだ。
本人の話によると、どうやら寝ている途中にそのままゴブリンに運ばれて行ってしまったとのこと。
何かされる前に助け出されただけマシかもしれない。
「まぁ助かってよかったじゃないか。もし俺たちが通らなかったら…」
「そうね、ありがとう。感謝しているわ」
そう言いながら歩き続け、丘を越える。
すると次の町が見えてきた。
ゆったりと流れる大きな川が見える。
その川の向こうに町があり、入るには一本の橋を渡る必要があるらしい。
「コロナ、あれみて!」
「どうしたんだ、ソミィ?」
「人がいっぱいならんでる」
カケスギが連れていた荷物持ちの少女『ソミィ』。
彼女が指差したのはその橋の上だった。
関所のようなものがあり、町に入る者を選別しているようだった。
「関所かなにかだな」
「せきしょ…?」
「この先はテルーブ王国の『南地区』、他のエリアから来た人間を検問してるのさ」
このテルーブ王国は広大な地域を支配している王国である。
その区域は多数の地区に分かれている。
別の地区を移動するには、関所を通らなければいけない場合も多い。
仕方なく、関所の順番待ちの列に並ぶ。
「テルーブ王国は昔から魔物の脅威に晒されてきた国だ」
約百年前の魔王軍との戦いである『魔王大戦』を初めとした多数の戦い。
それ以降からこの国は、常に魔物の脅威に晒されてきた。
魔物が人の集落を襲うことも多く、各地で自警団を形成していることもある。
かつてコロナたちが魔物の長を倒すたびに出たのも、それが理由だ。
いわゆる旧魔王軍の『残党狩り』をしていたというわけだ。
「それはしってるよ」
「国の防御を固めるために関所をたくさん置いているんだ」
王都のある『中央地区』には王の統治の下に政府が置かれている。
比較的豊かな生活を送る者が生活している。
それ以外の地区はそこそこ、といったところ。
コロナはソミィにそう言った。
実際は地区ごとに貧富の差がかなりあるのだが、説明すると長くなるので省いた。
もし説明するとしたら長くなるうえに、まだ小さなソミィでは理解ができなくなるだろう。
「そうなんだ」
「あれがあるおかげで、町への魔物の侵入を防いでいるってわけだ」
もちろん魔物だけでは無く、悪人の流入も防ぐことができる。
治安維持のために関所を採用している町はまだ少ないが、有用な施設といえるだろう。
その分、人手もかかるのだが。
「それにしてもたくさん人がいるなコロナ。時間がかかりそうだ」
「そうだなカケスギ」
ふとコロナはルーメのことが気になった。
彼女は以前、敵が多いと言っていた。
それが理由で関所で止められたりはしないだろうか、と。
だがそれはいらぬ心配だったようだ。
「ルーメ、お前は関所通れるのか?」
「あら、なんでわざわざそんなことを…?」
「あ、いや。以前『敵が多い』って言ってたからさ」
「ああ、それなら大丈夫。定期的に化粧や髪形、服装を変えてるから」
そうとだけ言うルーメ。
実際関所を通っても特に何も言われることは無かった。
役人をそのまま素通り。
呆気ないほどにそのまま通り過ぎ、南地区初の町へとはいる。
寂れた町だが人口はそこそこ多そうだ。
「ありがとう、おかげでここまで来れたわ」
「元々この町に来る予定だったんだ。単なるついでだ」
「何かお礼を…」
「いらん」
そう言うカケスギを何とか説得するコロナ。
貰えるものは貰っておいた方がいい、と。
カケスギもその言葉に同意した。
「わかった」
「とりあえずどこか適当な店で食事でも…」
「そこの店でいい」
カケスギが示したのは街の入り口近くにあった酒場だった。
それと同時に空腹からか、ルーメの腹が鳴った。
顔を赤らめる彼女だが、コロナもそれに同調した。
既に太陽も高く昇っている。
昼を少し過ぎているのでそうなっても仕方がない。
「…い、行こうか」
カケスギの言葉を受け、その酒場へと向かう一行。
どうやら旅人向けの宿も兼業しているらしい。
一階が料理や酒を提供する店舗。
二階が宿である貸し部屋となっていた。
「失礼しますよ」
「いらっしゃい、旅の人かい?」
店に入ると同時に店長と思われる男が言った。
木製のカウンターにテーブル、外観の通り落ち着いた雰囲気の店だ。
昼過ぎの時間帯であるため、店内に人は殆どいなかった。
案内された席に座り、料理を注文する。
「ソミィちゃんはなににする?」
「くだもの!」
「俺は酒だ」
ソミィとカケスギの非常にアバウトで漠然とした注文。
とりあえずそれらしいものを注文。
コロナとルーメも注文を入れ、料理が来るのを待つ。
他に客がいないためか、すぐに注文した料理が出てきた。
それをつまみながら今後何をするかについてを話すことに。
「私はこの後、知り合いのところへコレを渡しにいきます」
ルーメが出したのは新聞のネタが書かれたノート。
それを使い新聞を作るのだろう。
コロナたちも今後の予定について考える。
「オレたちはしばらくこの町にいることにするよ」
「急ぐ旅でもないしな…」
コロナとカケスギ、ソミィは暫しこの町に滞在する。
物資を補給や情報収集の意味もある。
以前のゴブリンから奪った物資の売却、処分もしたいところだ。
可能であれば剣の調整もしたい。
だが、こればかりはもう少し大きな町で行った方がいいだろう。
この町には腕の立つ職人は居なさそうだ。
「とりあえず当面の宿を探さないとな」
「あ、それなら…」
ルーメが二日分、この酒場の宿を安く借りてくれた。
食事と合わせて、以前のお礼という訳だ。
礼を言うコロナ。
「ありがとう、助かるよ」
「助けていただいたお礼よ、これくらいさせてください。コロナ、カケスギさん」
「いや、ははは…」
そう言って笑みを浮かべるルーメ。
それにこたえるコロナ。
と、そんな時…
「ん、何見てるんだカケスギ」
「…あれだ」
酒と共につまみを口に運んでいたカケスギ。
その彼が指差した先にあるのは町の広場。
そこにはテルーブ王国の軍人達がいた。
しかし、それは新聞記者ルーメに対する追手などでは無い。
恐らく、この街に住む者たちから税を徴収する部隊だろう。
一人の男を取り囲む数人の兵士。
「さぁ、税の徴収だ」
「そんな…少し前に払ったばかりでは…」
「払えって言ってるんだ文句あるのか?」
「ひ、酷い…」
テルーブ王国の権力を笠にする兵士たち。
おびえる者たちを脅して税を不当を巻き上げようとしていた。
兵士といってもそこらの盗賊や魔物と変わりない。
いや、むしろ権力という笠を持たない分そちらの方がマシかもしれない。
地方にはこう言った暴徒のような兵士が多くいる。
テルーブ王国が抱える多くの問題の内の一つだ。
「俺も昔はお前もあっち側だったんだよな…」
国に護人として祭り上げられ、魔物の長を討伐させられる。
そしてその果てがクズの平民として処分される。
流れ着いた先での地獄のような生活。
それを思い出すと無性に腹が立ってくる。
「ちょっと行ってくる…」
「こ、コロナさん!?」
その光景を見たコロナが店を出て、彼らの前に立ちはだかった。。
自分がかつて守りたかったのはこんな国では無い。
当時、彼はまだ子供だった。
現実が何も見えておらず、周囲から持ち上げられ利用された。
そしてキルヴァに全てを奪われた…
「それが国を守る兵士のやることかよ」
「あ、何だ!?」
そういうと部隊の兵士がコロナに飛び掛かった。
持っていた槍で殴り掛かるが、その攻撃はコロナに軽く避けられる。
「そんなものか?」
軽く挑発するコロナ。
頭に血の上った兵士は、他の兵士達にアイコンタクトで指示を送る。
それが合図だった。
数人の兵士が一斉にコロナへ飛び掛かる。
「チッ…」
一人の兵士を空高く蹴り上げる。
さらに別の兵士の顔面に拳を叩きこむ。
先ほど蹴り飛ばした兵士の持っていた槍で他の兵士三人を纏めてなぎ倒す。
そのパワーと動きに圧倒される兵士。
「ひいぃ!?」
そう言うと兵士は先ほどの者に槍を向けた。
完全に頭に血が上っている兵士。
もはや正常な判断もできなくなってしまっている。
と、その時…
「おい、もうやめろ」
同じ王国の兵の男がそれを止めた。
一般の兵士たちより少し階級が上のように見える。
その初老の兵長が兵士たちを退散させた。
「もういいだろう。持ち場に戻れ」
「チッ…」
「はいはい」
そう言って兵士たちは戻っていった。
初老の兵長に舌打ちをしながら。
それを気にする素振りも見せず、彼は迫害を受けていた男とコロナに対し頭を下げた。
「本当に申し訳ない。ワシがもう少ししっかりしていれば…」
「…この町で一体何があったんだ」
これはちょうどいい。
この初老の兵長から、この町にいる王国軍の兵士についての話を聞くことにした。
いろいろと詳しく聞けそうだ。
一旦、先ほどの酒場へと戻り、話を聞くことに。
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