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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第三章 動乱を煽る者

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第三十七話 晒されたキルヴァの首

 

 王都クロスの郊外。

 そこにそれは突如置かれていた。

 コロナとの戦いの末、敗北したキルヴァ。

 その彼の切断された首。

 恐怖で目を見開いた表情のまま固まり、木で作られた台座に置かれたソレ。

 その周りにはたくさんの人だかりができていた。


「お、おいこれって…」


「ああ。勇者キルヴァの…」


「あの新聞は本当だったのか…」


 その首が晒された台座の横にはルーメの新聞が張り付けられていた。

 とはいえ、その新聞はこの王都でも出回っている。

 ほとんどの者がその新聞の内容を知っていた。

 半信半疑な者もいた。

 しかし…


「やはりこの新聞に書いてあったことは本当だったのか…!」


 こうしてキルヴァの首が大勢の前に晒された。

 新聞に書かれているだけでは不十分。

 それが真実であると示すものが必要だった。

 示すもの、それがこのキルヴァの首だったのだ。


「コイツはオレ達と同じ出身の護人コロナを殺しやがった!」


「どうせ平民だと馬鹿にしやがって!」


「女癖も悪く、権力に任せて傷害、窃盗何でもアリか!?」


 人々の怒りは止まらない。

 その怒りはあっという間に王都中に駆け巡った。

 いや、王都だけでは無い。

 徐々に、ゆっくりと。

 他の町にも広がりつつあった…



 そしてその騒ぎは王城にも届いていた。

 朝が明けると共に突然晒されたキルヴァの首。

 当然、ミーフィアはキルヴァの首が刈られていたことなど知らなかった。

 城は大騒ぎとなっていたのだ。


「ミーフィア、キミの話を聞きたい」


「はい」


 勇者キルヴァ一行の唯一の生き残り。

 聖女ミーフィア。

 彼女は王の前に召喚されていた。

 話が外部に漏れるとまずい。

 王座の前に呼び出されたのはミーフィアとその他僅かな人間のみ。

 大将軍マルク、親衛隊隊長の女騎士エリム、総将グフ。

 そして記録係の書記が二人。

 ミーフィアを王の前に。

 残り五名が横に並ぶ。


「ミーフィア、この新聞に書かれていることはどこまでが本当なんだ?」


 大将軍マルクによる尋問。

 それに対し、ミーフィアはコロナのことをまず説明した。

 彼が復讐者である、ということは事実。

 だがそのきっかけを作ったのはノリンである。

 自分たちは関係ない。

 ミーフィアはそう誤魔化した。

 キルヴァが殺されたのは完全な逆恨みである、と。


「…ぬぅ」


「以前も話したと思いましたが?これで満足でしょうか、大将軍マルク?」


「あ、ああ…」


 以前から『自分にだけ』都合のいい話は用意してあった。

 新聞の記述と矛盾しない範囲での都合のいい作り話を。

 そしてそれを暗唱できるように記憶もしてある。

 それを皆の前で披露する。

 簡単なことだ。


「つまり新聞に書かれた『勇者キルヴァの悪行一覧』コーナーは嘘である、と…」


「はい、当然です」


「…だが、たとえばこの無銭飲食だが」


 そう言いながらマルクが一通の手紙を取り出す。

 それは以前、王城へと届いた請求書だった。

 勇者キルヴァ一行が行った無銭飲食行為。

 その請求書だ。


「ここに実際に被害の報告も来ているが」


「それは恐らくノリンが行ったものかと…」


 実際はキルヴァが後に王城へ請求書を送れ、と言ったものだ。

 これだけでは無い。

 他の手紙も取り出すマルク。


「一般人への暴行…」


「それもノリンですわ。キルヴァ様の元婚約者ですから、共にいることも多かったので。報告した方もなにか勘違いをされてキルヴァ様がやったものだと報告したのでは…」


 白々しいまでにノリンに罪をかぶせるミーフィア。

 どうせ既に死んでしまっている身だ。

 死人は何も語らない。

 それならすべての罪をノリンにかぶせてしまえばいい。

 都合の悪いことを全て。

 どうせバレはしないし誰にも真相は分からない。

 多少苦しい言い訳だが、現時点では反論できる材料もマルクには無かった。


「ぬ、ぬぅ…」


 現段階では証拠が圧倒的に足りない。

 懐刀のナグモに任せ、証拠を集めるか。

 そう考えながら、彼はこれ以上の言及を止めた。

 キルヴァ一行が他にも問題行動を起こしているのは知っている。

 焦る必要は無い、じっくり証拠を集めればそれでいい。


「護人コロナは生きているんだな?」


 続いて質問したのは親衛隊隊長の女騎士エリム。

 この新聞にはコロナの生存は書かれていない。

 しかし以前の話から、コロナの生存は聞いている。

 改めてそれを王の前で確認することに。


「はい、彼は生きています」


「コロナがキルヴァを殺したんだな」


「はい」


 ミーフィアにとっては随分と楽な相手だ。

 大将軍マルクとは違い、エリムはそこまで頭が回らない。

 口先で騙すのは用意だ。


「首を切って晒したのもヤツの仕業か?」


「いいえ、それは分かりません」


 今のコロナには協力者がいる。

 さらにその協力者は『革命軍』の可能性が高い。

 ミーフィアはそう言った。

 以前、キルヴァが黒魔術師の少女から提供された情報をそのまま言ったのだ。

 コロナが今どこにいるかは分からない。

 しかし晒し首はその革命軍が晒したのではないか、と。


「協力者が誰かは分かるか?」


「え、ええ。弓使いの女と東洋人の男カケスギ…」


「他には分からないか?」


「ええ。私が知っているのはこの二人だけですわ」


 ミーフィアには、あの黒魔術師の少女は敵か味方かわからない。

 それに仮に話したところで、王国側にどうにかできるとも思えない。

 仮に伝えたところで情報が錯乱しても困る。

 彼女が知っているコロナ側の人間、『弓使いの女』と『カケスギ』のみを伝えた。

 少し短いがエリムの質問はここで終わった。


「そうか…」


 そう言って引き下がるエリム。

 もっとも、彼女自身としてはもう少しコロナについての情報が欲しかったところ。

 しかしそれは今ここで話すべきことでは無い。

 また後日、ミーフィアから個人的に聞き出すことにした。


「次はこちらの資料について問いたい。市将、藩将の襲撃事件についてだが…」


「それは私には関係の無いことでは…?」


「いや、そうとも限らんのだよ」


 そう言って話を切り出したのは総将グフ。

 手には紙の束を持っていた。

 数か月前、市将バレースが討たれた事件。

 バレース自身も問題が多く、民間人や彼の部下などの様々な証言から彼は失脚した。

 だが、そのバレース自身が気になる証言をしていた。

 彼を倒したと思われる人物。

 それがコロナと思われる人物だった。


「さきほどエリムの質問の際に『東洋人』と言ったが、バレース襲撃の際にも東洋人の目撃証言がある」


 もちろん東洋人の目撃証言がある。

 だからコロナが関係している、というわけではない。

 しかし奇妙な偶然だ、とミーフィアに揺さぶりをかける。

 軽い笑みを浮かべながら。

 それとは対照的に、ミーフィアには焦りが見えた。


「そしてこれを境に現在に至るまで、市将、藩将の襲撃事件が起きている…」


 市将バレースとラナヒス。

 藩将ガレフスとコーリアス。

 そして若き市将候補レイス。

 五人が謎の襲撃を受け、そのうち三人が死亡している。

 ガレフス、コーリアス、ラナヒスの三人だ。

 唯一、レイスは大怪我を負わずに済んだが、戦いの際の記憶が曖昧だと本人は言った。


「もしこれらがコロナという人物によるものだとしたら…?」


「え、ええ。きっとそ…」


 全ての責任をコロナになすりつけてしまえばいい。

 先ほどノリンにしたように。

 しかし…


「それを引き起こしたキルヴァ一行の…」


「え?」


「いや、今となってはミーフィア。キミの責任も問わないといけないな…」


 大将軍マルクの配下の者は勇者キルヴァ一行に対し良いイメージを持っていない。

 当然、このグフもだ。

 今回の新聞騒ぎで、勇者キルヴァ一行の民間のイメージは地に落ちたも同然。

 多少無理矢理にでも処分をしたい、と考える者は大勢いる。

 もしこの市将、藩将襲撃がコロナの仕業であるのならば、それのきっかけを生んだミーフィアも裁くべき。

 グフはそう言った。


「そ、それは…」


 まさかそんな方向へと話をきられるとは思いもしなかった。

 ミーフィアとしては憎きコロナとその一行。

 そして既に死亡したノリンに全て罪を着せることができればそれでよかった。

 焦るミーフィア。

 このグフという男も中々強かな男。

 大将軍マルクといい、警戒すべき者が多いのは厄介だ。


「まぁ今は証拠が無い。これからの調査を楽しみにしていろ」


「くッ…」


 苦虫をかみつぶしたような顔のミーフィア。

 これら一連を書き記していく書記の二人。

 その後もミーフィアに対し王の前で尋問が続けられた。

 中には明らかに精神を疲弊させるだけが目的の質問もあった。

 王の前で失態を演じさせられたミーフィア。

 彼女が解放されたのはそれから数時間後のことだった。

 開放された彼女の顔には焦燥の表情が浮かんでいた。


「も、もう少し嘘を固めないと…このままじゃいずれ証拠を掴まれる…」


 所詮は嘘で固めた証言。

 真実を曲げることはできない。

 ならば真実を埋めるだけの嘘をさらに用意しなければならない。

 しかし、今の彼女にそれができるのだろうか…?

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