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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第三章 動乱を煽る者

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第三十六話 先代勇者コーツの伝説

 

 ミーフィアは首都クロスへと戻った。

 何やら暗躍の動きを見せる彼女。

 レイスとパンコはそれぞれ自分たちの本来の仕事へと戻っていった。

 革命軍として行動をしつつも、通常業務をこなさないといけないのが辛いところだ。

 キルヴァの首と聖剣は途中で合流した革命家オリオンに渡された。

 聖剣は後の革命の際の切り札となるため大切に隠して保管。

 首は後ほど公開すると言う。

 そしてコロナ一行は…


「あぁ~ソミィ…」


「気持ちいいよぉ~…」


「いいよなぁソミィ…」


「うん~…」


 コロナとソミィ。

 二人がいるのはとある山奥の宿。

 だがそこにカケスギの姿は無い。

 カケスギは一人酒を飲みに出ていってしまった。

 夜の闇の中、二人の声が辺りに響く。


「頭がふわふわする~…」


「あつ…」


 一糸まとわぬ姿になり、甘い声を出す二人。

 二人がいるのは、湯治のために訪れていた温泉だった。

 山奥の小さな集落にある宿。

 二人がいるのはとある温泉宿。

 カケスギの勧めで湯治に来ていたのだ。

 彼がリブフートの酒場にいたとある客から教えてもらったのだという。


「うへ~…」


「のぼせるなよ。危ないと思ったら湯からでろよー」


 山奥の宿ならば足取りもつかみにくい。

 キルヴァからコロナが受けた傷は意外と大きかった。

 少なくとも跡は確実に残る。

 無理矢理旅を続けるよりはある程度時間を取り、確実に回復させる。

 治療の魔法などと合わせてしばらく療養をしたほうがいい。

 そう考え、ここへとやってきたのだ。


「カケスギは…?」


「お酒…飲みにいったよ~」


 コロナの問いに対しソミィが答えた。

 いつものあいつらしいな、そう思いつつ、また別のことを考える。

 こんな山奥の湯治の温泉宿の近くに、酒が飲める場所等あるのだろうか。

 そう考えつつもその温泉の湯に身をゆだねるコロナ。

 露天の湯がとても心地よかった。


「こんな山奥にあるのか、酒場なんて…?」


 彼の考えはある意味当たっていた。

 湯治が目的の施設ばかりが立ち並ぶこの山奥の村。

 そこには酒屋はほとんど無かった。

 あるのは最低限の生活用具が揃った雑貨店が数店。

 それと医者や薬屋等を兼ねたなんでも屋が一店のみ。


「…チッ」


 湯治の村は長期滞在が基本なので単なる温泉宿とは違う。

 意外なことにカケスギはそのことを知らなかった。

 しかもここは山奥なので酒の入荷自体が難しい。

 村中を駆け回ってもそれらしい酒場は見つからなかった。


「もう一度探すか…」


 そう言いつつ来た道を戻ろうとするカケスギ。

 しかし村の外れに一見、店があるのが見えた。

 ろうそくの小さな明かりが僅かに灯っているだけ。

 うっかり見逃すところだった。

 酒場かどうかはまだわからないが、少し顔を出してみることに。


「酒場かここは?」


「…」


 中にいるのは店長らしき老人が一人。

 カケスギの言葉を聞き黙って頷く。

 これは運がいい。

 カケスギはそのままその店に入った。

 小さな店だがしっかりと掃除の行きとどいた店内。

 酒の種類も山奥にしては悪くは無い。


「この店で一番の酒は何だ?」


「コイツだ」


 そう言って店主が取り出したのは器に入った白い酒だった。

 その匂いにカケスギは覚えがあった。

 これは…


「珍しいな。俺の国の酒に似ている…」


「東洋の移民が昔、作り方を伝えていったんだ」


 この店主が趣味で作っている酒。

 それは米を利用してつくられたものだ。

 この村の近くで店主が趣味で稲を栽培しており、それを原材料として作っているという。

 正確に言えば、カケスギの知る物とは製法などは違う。

 だがそれからは随分と懐かしいにおいを感じた。


「東洋の…」


「そう、ワシにだけ、な」


「自家製の酒か」


「少し飲んでみるか?」


 どうやらこの店主、なかなかのやり手らしい。

 こんな山奥でこのような酒と出会えるとは思わなかった。

 カケスギは軽くその酒を口に運ぶ。


「…うまい」


「だろ?」


 先ほどまでこわばっていた店主の顔に軽い笑みが浮かんだ。

 どうせほかに客もいない。

 このままゆっくりと飲むことにした。

 木製のカウンター席に座るカケスギ。


「店主、一つ聞きたいんだが…」


「なんだ?」


「そこに飾ってある髑髏、そりぁなんだ?」


 店の一角に飾られた髑髏。

 カケスギはそれが気になったのだ。

 単なる髑髏ならば彼も気に留めなかったかもしれない。

 しかし問題はその大きさだ。

 普通の人間の二倍は軽く超えるであろうその髑髏。

 カケスギはそれが気になったのだ。


「こいつかい?」


「ああ」


「これは数十年前、世間を荒らしていた魔人ジャイアント・フリッパーの髑髏さ」


 そう言いながら、店の棚からつまみを取り出す店主。

 干した木の実や干した獣の肉。

 干し魚など、味が濃く保存性の高いものばかりだ。

 しかし酒のつまみとしては最高だ。

 それを口に運びながら、カケスギはその話を聞く。


「魔人…」


「魔物と人のあいの子さ。昔話、聞いていくかい?」


「断る理由もない」


 かつて約百年前に討伐された魔王軍。

 その残党、或いは生き残りの子孫か。

 数十年前、魔人ジャイアント・フリッパーが下の町を荒らしていた。

 当時はまだ国の軍が弱く、まともな対抗手段も持ち合わせてはいなかった。

 しかし…


「それを討伐したヤツが居た」


「誰だ?」


「先代の勇者コーツさ!」


 老人の店主の言った『勇者』という言葉。

 思わずそれに反応してしまうカケスギ。

 コロナの敵だったあの男、キルヴァのことを思い出してしまったからだ。


「世間じゃキルヴァとかいうクソガキが勇者だとか抜かしているが、ワシは認めん!」


「ほう。俺も同意見だ」


「ははは!おもしろいな!」


 そう言いながら店主の持っていた盃に酒を注ぐカケスギ。

 共に呑もう、ということなのだろう。

 それを受け、そのまま盃の酒を飲み干す店主。

 カケスギの隣の席に座り、話を続ける。


「コーツ、ヤツは本物だった!」


 かつて村を訪れたという先代勇者コーツ。

 彼は村人の願いを聞き入れ、魔人討伐を行った。

 そして魔人ジャイアント・フリッパーを聖剣の一刀のもとに倒した。

 食事と僅かな礼金をほんの少しだけ受け取り、三日ほどで村を後にした。


「ワシはあの時、その戦いをこの目で見た…」


 一瞬。

 たった一瞬で勝負は決まった。

 人間の数倍の巨躯を持つ魔人ジャイアント・フリッパー。

 それをコーツはたった一撃で倒した。

 一撃、その一撃で村の者は救われたのだ。


「ワシは当時から酒場をやっていてな。コーツと酒を飲んだこともあった」


「ほう」


「その時、それを受け取ったんだ」


 新しい店の名物になるかもしれんな。

 そう言いながらコーツは処理した髑髏を置いて行った。

 彼が飾れるように、下手なりに処理したそれを。


「先代の勇者コーツか…」


 カケスギはコーツについて知ったのはこれが初めてだった。

 だがその話を聞き少し興味を持った。

 これほどまでに、この老店主を熱狂させるそのコーツという男に…


「コーツは今でも生きているのか?」


「さぁな。旅が終わった後のヤツ行方は分からん…」


 旅が終わった後、コーツは受け取った地位を返納。

 謝礼金や受け取った資産のほぼ全てを貧しい者に分け与えた。

 その後、手元に残された僅かな金を受け取りどこかへと旅立っていったという。

 現在の行方は分からないが、年齢を考えれば病に倒れていてもおかしくは無い。

 あるいは…


「辺境の村で静かに暮らしてるのかもな」


「先代の勇者、コーツか。一度会ってみたいものだ」


「ワシも歳じゃなければ、もう一度会ってみたいな…」


 隣の席の店主の盃に再び酒を注ぐカケスギ。

 さきほど店主が取り出したつまみをかじりながら。


「店主、もう少し話を聞きたい」


「長くなるぞ」


「かまわんよ」


「ハハハ、それじゃあ今日は飲み明かすか!」


「そりゃあいい」


 二人の酒宴は朝まで続いた。


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