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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第三章 動乱を煽る者

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第三十四話 勇者制度の歪み

 

 王国中に出所不明の新聞がばら撒かれた。

 以前から謎の怪文書として王国側でも噂にはなっていた。

 しかし、現体制に対する批判などゴシップ色が強い物が多く信憑性に欠ける内容も多かった。

 そのためか、特に問題視はされていなかった。

 しかし今回の新聞は違った。


 以前から問題視され続けていた勇者キルヴァ。

 その彼が行った所業を纏めたレポートが乗せられていたのだ。

 さらに元仲間の証言。

 その仲間に復讐され、キルヴァとその婚約者であるノリンが死亡したという内容。

 それは国中で様々な問題が起こるきっかけとなっていった…



 --------------------



 テルーブ王国の首都クロス。

 その王城の一室にてある男が大きな悩み事を抱えていた。

 彼の名はこの国の軍を率いる大将軍マルク。

 軍服に赤いマントと金色の羽飾りを付けた、威厳に満ち溢れたその男。

 その姿はまさに、幾多の戦場を潜り抜けてきた歴戦の戦士そのもの。

 もうすぐ六十近い年齢だがその瞳の眼光は全盛の戦士のそれに引けを取らない。

 だがその表情はとても暗い。

 城の一室にある椅子に座りながらため息をこぼす。


「一体どうしろというのだ…」


 彼の目下の悩み、それは国中で出回っている怪文書の乗せられた新聞であった。

 以前から様々な問題行動の多かったキルヴァ一行。

 その所業が掲載された新聞に触発され、国中では不満が噴出。

 一部では軍が動くほどの暴動が起き始めていた。


「だから私は以前から言っていたのだ。あんなガキを勇者などという役職に就けるな、と…」


 マルクは現在の勇者制度に反対だった。

 約百年前、国を救った伝説の男。

 彼の一番弟子である先代勇者コーツ。

 初代とコーツの二人のみがつくことを許された伝説の席。

 それが勇者というものだった。

 それ以降空席だった席に座ったのがキルヴァだった。

 しかし…


「あんな男がどうなったところで自業自得じゃないか…」


 キルヴァが権力を振りかざし様々な悪行を重ねてきたことは知っている。

 マルクにも報告が入り、それを止めようとしたことがあった。

 しかしキルヴァ本人に言っても当然言うことなど聞くはずがない。

 ならばと他の重臣たちに話を持ちかけたものの、それも一蹴されてしまった。


『国のために働いているのだから多少の問題行動は眼を瞑ろう』


『平民が何を言っても問題では無い』


 そう言われ、キルヴァの問題行動は黙殺され続けてきた。

 平民の不安を取り除くため、この国では十数年に一度『勇者』という存在を祭り上げる。

 そして邪魔者となる『魔物』や『犯罪組織』などを討伐させる。

 この国ではそうやって平民の不満を取り除きつつ、現在の政治体制を強化してきた。

 しかしそれが有効だったのは初代勇者のみ。

 二代目のコーツの時点で既にギリギリだった。


「くッ…」


 国側が『勇者』を祭り上げ、国と国民の『共通の敵』を倒させる。

 マッチポンプのようなものだが、これが意外と効果があった。

 国が一体となりその敵に抵抗しようとする。

 周辺国からも支援を要請できる。

 勇者という架空の英雄を生み出すことができる…


「この欠陥制度自体をどうにかしなければ…この国は持たんぞ…」


 キルヴァたちが倒した『魔物の長』、これ自体も実はそう強大な敵では無かった。

 武闘派の藩将である『ガレフス』や『コーリアス』、『アレックス』たち。

 そしてその配下の兵士。

 これらを全て動員すれば、駆逐自体は用意だったのだ

 勇者制度の歪み、国を維持するためにこのような行為を繰り返し続ける。

 何しろ欠陥だらけの制度だ、どこかで歪みが生まれる…


「しかし…」


 あの新聞により一気に不満が噴出。

 軍で無理矢理暴動を鎮圧するレベルにまで発展してしまった。

 しかしそれはマルクの本心では無い。

 元々彼は民衆派の良将として名高い人物。

 しかし今回、彼はこの国の王から直々にこの王城へと召喚された。

 そして直々に命を受けた。


『この暴動を完全に鎮圧せよ』


 という命令だった。

 キルヴァたちの行動に対し、マルクは散々警告を上げ続けてきた。

 しかしそれを無視したの王国側。

 だが今回の怪文書とその暴動に対してはすぐに反応するという対応の違い。

 マルクはこの王国の体制に不信感を抱いていた。

 しかし…


「ナグモ!いるか!」


「はい、ここに…」


 マルクが呼び出したのは懐刀の少年ナグモ。

 僅か十三歳ながらも、優秀な工作員としての一面と高い戦闘能力を持っている。

 東洋の忍びの流れを組む暗殺拳の使い手でもある。


「お前に一つ調べてほしいことがある」


「この新聞のことでしょうか?」


「いや違う。国の他の重臣、そして聖女ミーフィアのことだ…」


 ナグモにその詳細を伝え、任務に向かわせる。

 他の重臣が信用ならぬ今、多少その情報を得ておいた方がいい。

 マルクはそう考えたのだろう。

 それに彼一人だけならば多少の無理をさせることができる。


「あとは…」


 いくら上層部に不満があるとはいえ、マルク自身も王国側の人間。

 王からの命令を無視する訳には行かない。

 別室にいる部下の元へ行き、命令を下す。


「グフ、いるか?」


「はい」


 先ほどのナグモとは異なり、中年の将軍だ。

 地区の藩将や市将をまとめる立場にある男。

 それがこのグフという男である。

 だが国中の藩将と市将をたった一人でまとめ上げると言うのはさすがに難しい。

 そのため、彼の管理の眼は殆ど行き届いていないと言うのが現状である。

 監視の目の増員を上に求めたが、断られ続けているらしい。


「この怪文書事件の一連の対応についてだが…」


「はっ…」


「発行元はこの際無視しても構わん」


「ですが、しかし…」


「どうせイタチゴッコだ。目に出る成果も得られんしな…」


 上層部が求めるのは眼に見える成果だ。

 発行元を叩いたところで数人が刑罰を受けるだけ。

 そもそも現在その所在するまともにわからないものをどうすればよいのか。

 捕まるまでに多数の人員と時間を導入して結果がそれでは割に合わない。

 それよりも、暴動を起こした者を手当たり次第鎮圧し首謀者を捕まえる。

 こちらの方が手っ取り早く、愚かな上層部にもわかりやすいだろう。

 マルクはそう考えた。

 民衆にも暴動の無力さを知らしめることもできる。


「とにかく暴動が起き次第、ただちに鎮圧せよ」


「わかりました」


「各地の藩将と市将にも伝えておけ」


 王からの命令を無視することはできない。

 とりあえずはグフに任せることに。

 この程度の命令ならば各地の藩将と市将たちでもすぐにできるだろう。

 情報を得るためにできる限り殺さずにとらえること。

 という命令も付け加えた。


「あとはナグモの情報を待つとしようか…」


 他の重臣。

 そして勇者パーティ唯一の生き残りである聖女ミーフィア。

 その調査をナグモは任された。

 とはいえすぐに行動に出るわけでは無い。

 焦らずゆっくりと、しかし確実に。

 それが彼の得意とする戦術だ。


「聖女ミーフィア…」


 ナグモ自身も彼女の言動には違和感を覚えていた。

 ミーフィアは数日前にこの王城へと転がり込んできた。

 そして自分が狙われている、と話した。


「あの女の言っていることは…」


 不当な復讐劇とやらに巻き込まれ命を狙われている。

 自分は関係ない、と。

 ミーフィアはそう言った。

 国の重臣たちもほとんどが彼女を信じた。

 なにしろ聖女の言うことだ。

 だが、マルクはその言葉に違和感を覚えた。


「矛盾は無いが…」


 ナグモも同意見だった。

 彼女の話を聞く限りでは特に不審な点は無かった。

 その後の話でもスジは通っている。

 しかし…


「何かがおかしい」


 言葉にはできぬ違和感。

 それを感じ取っていた。

 その理由も何かは分からない。

 しかしミーフィアの言うことは何かがおかしい。

 その理由が何なのか、それを考えながらナグモは城を歩いていた。

 と、その時…


「あら、あなたは…」


「み、ミーフィア…様…!」


「確か将軍様のところの…」


「な、ナグモです…」


 ナグモが城の廊下ですれ違ったのはミーフィアだった。

 キルヴァ殺害の報告に来たのち、ちゃっかりと城に居座っているのだ。

 他の者も特に何も言ってはいないらしくそのまま暮らしている。

 仲間二人を失い、傷心だというが…


「あの、怪我をされたと聞きましたが、大丈夫でしょうか…?」


「これかしら?ええ、大丈夫よ」


 以前カケスギに折られた右手。

 それを見ながら言うミーフィア。


「そうだ、ちょうど話し相手が欲しかったの。ちょっと今からいいかしら?」


「え、ええ。まぁ…」


「よかった。それじゃあ、今借りている部屋で話しましょう。ゆっくりとね…」


 ナグモの首筋にゆっくりと手を伸ばすミーフィア。

 そのまま彼を自室へと誘い入れた。

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