第三十三話 さあ、次の舞台へ…
キルヴァを倒し一週間が過ぎた。
コロナはそのうちの五日を寝て過ごしていた。
あの戦いで非常に大きな傷を負ったのだ。
肉体的、精神的なショックも大きかったのだろう。
各種治療のおかげで日常生活が送れるくらいには回復した。
しかし本気での戦いとなるとまだ辛いかもしれない。
「コロナ、ソミィ、明日この町を出るぞ」
宿泊部屋にいたコロナとソミィに、カケスギがそう言った。
コロナがある程度動けるのであれば、もうこんな町になど用は無い。
今までは彼の療養のために滞在を長引かせていた。
だがもうその必要もないだろう。
旅の準備に一日、それだけあれば十分だ。
明日旅立つことにする。
「明日か…わかった」
「ソミィもな」
「うん!」
既にある程度の旅の支度はしてある。
カケスギは刀の調整と各種仕入器具などの小道具の調達。
これはすでに済ませてある。
ソミィは服や口など身の回りの物の一新。
以前、ルーメと共に買ってきた。
コロナは…
「そう言えばオレの服は?」
治療のため、今のコロナは上半身が裸の状態だった。
そこに包帯や小さな添え木などがされている。
キルヴァ戦の際に着ていた服があるはずだ。
それをカケスギに尋ねる。
しかし…
「…着るのか?」
「ああ。そりゃあ…」
「コロナ、お前の服ボロボロでもう着れないぞ」
カケスギの言葉に驚くコロナ。
確かに傷はついたが、そこまで大きなものだったかはいまいち覚えていなかった。
「え?」
「ソミィ、持ってきてくれ」
カケスギにそう指示されたソミィ。
彼女がコロナの着ていた服や身に纏っていた装備品を隣の部屋から持ってきた。
聖剣の斬撃で所々引き裂かれ、とても着れる状態では無かった。
ここまで酷いと修復するのも難しいだろう。
「これはひどい…」
攻撃の際に発生したキルヴァの返り血やコロナ自身の血でどす黒い赤に染まっている。
今までも服や防具が破れたり破損したことはあった。
以前の戦いの際も肩当てを一部破損するなどしてはいたのだ。
それでも破損した部分を別の布や金属材などで補強し着用していた。
しかし、これではさすがに着ることはできない。
「いくら丈夫な革素材でもこれじゃあな…」
「戦いの最後の方はもう記憶とんでたからなぁ」
自身がどれくらいの傷を負っていたのか。
戦いの最後はほぼ本能のみで動いていた状態だった。
コロナ自身もどれほどの傷か把握していないのだ。
当然、身に着けていた物の破損具合など分かるわけが無い。
しかし改めてみると、かなり破損している。
「籠手もダメだな。ほらっ!」
「…そうか、確か聖剣をこれで受け止めたんだったな」
聖剣を受け止めた鋼鉄製の籠手。
かなり無茶をさせてしまったそれも、当然破損していた。
今回の戦いのために新調した品だったがすぐ壊れてしまった。
「無事なのだけ渡しておくぞ」
無事だったのは重い鉄板を入れたブーツ、ナックルダスターくらいだった。
腕を護るための肩当はキルヴァに鎖骨ごと両断されてしまった。
「何か新しいのを買ってきた方がいい、服なら貸すぞ」
「…そうだな、金はあるしな。いろいろ買ってくるか」
カケスギから替えの服を借り、笠を被り外に出るコロナ。
無いとは思うが、ミーフィアの放った追手がいないとも限らない。
申し訳程度の変装だがしないよりはマシだろう。
昼間の大通りを、怪しまれぬ範囲で警戒しつつ買い物を済ませていく。
そして数時間後…
「戻ったぜ」
そう言ってカケスギから借りた服の入った袋を手渡すコロナ。
どうやら買った服をそのまま着てきたようだ。
以前のレザーとは異なり、上着は動きやすい形状布製の物に。
装飾として腰布も付けた。
「なぜ腰布を…?」
「特に意味は無い」
「そうか」
戦いで壊れた肩当ても、軽量で丈夫なタイプの物を買い直した。
壊れてもいいように、修復しやすいタイプのものだ。
そしてキルヴァとの戦いの反省を生かし、レガースなどの防具も増やした。
レザーグローブや籠手などはより軽量な物に。
キルヴァとの戦い、いや今までの戦いでは露出した肌の部分に傷を負うことが多かった。
これでそれも防ぐことが出来るだろう。
「まぁ以前の泥臭い格好よりはいいんじゃないか?」
「私、こっちのほうがいーなー」
「ははは、ありがとう」
服や装備品、それ以外にもある程度の支度もしてきた。
以前まで使っていた袋も買い替え、少し大きめのずた袋に。
「コロナ、外で妙な気配は感じなかったか?」
「ミーフィアの追手か、気になるのか?」
「ああ。一応な」
「少なくとも追手はいなかった。今のところは」
今のところはいない。
それはまた後ほど現れる、ということかもしれない。
以前も追手が来ることはあったが、今後はさらにそれが激化するかもしれない。
「そうか。だが今後はどうなるかわからんな」
「ああ。そうだ…」
少し休憩をはさみ、コロナとカケスギの二人で酒を飲むことに。
宿泊している酒場のカウンターに座り、二人で並ぶ。
ソミィもいるが、彼女は話には混ざらず食事をとっていた。
肉か何かを挟んだパンを食べていた。
「コロナ、勇者サマの死を前にどういう気分だ?」
「別に。何も思わん。嬉しいって感情もないし、悲しいってのもないな」
そう言いながら酒を口に運ぶコロナ。
悪酔いしかしないような安酒だが、それでも今日は妙にのど越しがいいような気がした。
既に日が沈んでいる。
時間的に他の客も入っており、少し騒がしい。
しかしそれでも二人で語り合う分には十分すぎるほどだった。
「ほう」
「ノリンの時と同じさ。何も感じない。終わってみると、案外こんなモノかなって…」
「まぁそんな物だろうな。それに…」
キルヴァとノリンは死んだ。
しかしまだ一人、ミーフィアが残っている。
ミーフィアをあの二人と同じように抹殺しない限り、仲間への復讐は終わらない。
しかし彼女は自身の追放魔法でどこかへと逃げて行ってしまった。
「コロナ、あの聖女サマはどうする?逃げ回られたら面倒だが」
「あいつの性格はよく知っている。逃げるような奴じゃない。確実に追ってくるさ」
そう。
彼女の性格をコロナはよく知っている。
仲間だった時代から、その性格は隠しきれていなかった。
ミーフィアのその執念深い性格。
それを彼はよく理解していた。
「ははは、追う側だったお前が今度は追われる側になるのか」
これまでのコロナは追う側だった。
キルヴァたちを追い詰め、復讐する。
しかしこれからは違う。
ミーフィアに追われる側。
しかしだからと言って追うのをやめるわけでは無い。
追われ、追う側。
ある意味ではミーフィアとコロナは同じ立場になったと言えるだろう。
「そうだな。そうかもしれんな」
「ふふふ。それにまだ、討つべき物がある…」
カケスギの言う討つべき物。
それはこのテルーブ王国そのもの。
民衆の間では水面下で現体制に対する不満が溜まり続けていた。
欠陥だらけの勇者制度、一向に減ることの無い魔物、重い税金。
この他にも挙げればキリが無い。
「オレを見殺しにしたこの国…!」
この国に抵抗をするものは他にもいる。
オリオンやレイス、パンコが所属する革命軍がそれだ。
時代は少しずつ、確実に動いている。
そして近年、それが徐々に表に噴出し始めてきた。
もうそれは止まらない。
止められない。
それらは革命軍の原動力となり、人々の間に不満として積もっていった。
「次の相手はこの国、『テルーブ王国』そのものだ」
「この王国そのもの…!」
「そうだ。俺たちでこの国の牙城を崩す…!」
そう言いながら杯を交わす二人。
次の二人の目標。
それは聖女ミーフィアの抹殺。
そしてこの国そのもの…!
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