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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第二章 勇者キルヴァへの復讐

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第三十二話 漆黒のハリケーン

 

 その後、コロナは五日眠り続けた。

 眠りに落ちたのは、レイスとパンコと会話してすぐのことだった。

 あれだけ重い怪我を負ったのだ。

 魔法による応急処置、医者による治療。

 それがあったとはいえ完全に回復したとはとうてい言えない。

 もし可能であるのなら、早々に町を出たかったがそうもいかない。

 せめて日常生活が送れる程度には回復してもらわないと困る。


「…ッは!?」


 オリオンからの支援を受け借りた、酒場の宿泊部屋。

 そこでコロナは目覚めた。

 身体中に巻いた包帯。

 それに使われている薬のせいなのか、妙に薬くさく感じた。

 思わず、無意識のうちに鼻を手で押さえてしまった。


「身体は…動くな」


 アレだけの傷を負ったのだ。

 どこか体に異常がないか、それだけが心配だった。

 一応、身体はそのまま動く。

 まだ傷は痛むし戦うことも難しいだろう。

 しかし日常生活は何とかできるだろう。


「あいつらは…?」


 気が付いて部屋を見回すが、カケスギとソミィの姿が見えない。

 気になって隣の部屋を覗く。

 すると、ソミィはそこに寝ているのが確認できた。


「…そうか、まだ朝早いんだな」


 窓から覗く日の高さから、今がまだ早朝であるということが分かった。

 コロナ自身はまだ知らないが、五日も寝ていたのだ。

 時間の感覚がなくなっても仕方がない。


「カケスギは…?」


「呼んだか?」


「うおッ!?」


「ふん」


 そう言ってコロナの後ろに立つカケスギ。

 外を軽く回ってきていたらしい。

 わずかに髪が濡れている。

 町はずれの川で水浴びでもしていたのだろうか。


「五日だ」


「五日…?」


「お前はそれだけ眠っていた。ちょっと来い」


 そう言うとカケスギは酒場の店舗スペースへとコロナを連れていく。

 とはいえこの時間では当然営業はしていない。

 客も店員も誰一人いない。

 カケスギは奥の棚からつまみと瓶に入った酒を取り出す。

 つまみと言っても野獣の干し肉や豆類などの保存食を兼ねたような食べ物だ。

 それと保存の効く果物やチーズなどだ。


「喰っておけ。栄養をつけろ」


「そうだな。随分何も口に入れていない気がするしな」


「当たり前だ。五日だぞ」



「五日か…その間に何があった?」


「まあ待て」


 そのカケスギの言葉を聞きつつ、彼が出した食品を口に運ぶコロナ。

 飲み物は酒と水、どちらともある。

 水の方が今の体にはいいのかもしれないが、酒で食べ物を流し込んでいく。

 何しろ久しぶりの食事だ。

 自制しようと思うが、どうしてもくらいついてしまう。


「喰いながらでいいから聞け」


「ん、ああ」


「この五日間であったことを話してやる」


 そのカケスギの言葉を聞き、黙って頷くコロナ。

 もちろん食事はそのまま続行しながら。

 まずカケスギが取り出したのはルーメの新聞だった。

 キルヴァの失墜とその内容が書かれた新聞。

 それを西方の生花商売業者である薔薇仮面の将ローザ…

 いや、レイスが流通に乗せ国中へばら撒いたらしい。


「本人がばら撒くって言ってただけだからな。今どの程度流通しているのかはしらんが…」


 しかしルーメの新聞の効果は抜群だったらしい。

 たんなる告発ではない。

 以前から民間ではある程度実績のあるルーメ。

 その彼女が発行した新聞ともなれば、匿名の告発などよりずっと良い効果を発揮する。


「この町中でもちょっとした騒ぎになってたみたいだ」


 コロナが眠っていた間、カケスギはこの酒場に来た者の話を何度か聞いた。

 直接その本人から聞いたものもあれば、たまたま耳に入った物もある。

 それによると、この新聞を見た町の人々は怒り心頭だとか。


「まぁそうなるよな」


「なかなか煽り文句に才能があるな、あの女」


「そういえばルーメのヤツは?」


「北の方の地区に売りに行くと言って出て行った」


 縁があれば、また会える。

 そう言い残して彼女は再び旅に出たらしい。

 彼女が置いて言った新聞。

 それを見た民衆は怒りをあらわにしているという。


「そうか、そうだよな…」


 普段の素行も悪く、強烈な選民思想や差別意識。

 数多の女性関係のスキャンダル。

 キルヴァに関しての新聞記事のネタはしばらくは尽きないだろう。

 もし一つずつ上げていくのであればキリが無い。


「一応記事の中身、見てみるか?」


「ああ」


 チーズをかじりながらルーメの新聞を見るコロナ。

 以前、彼女に話した内容を読みやすく噛み砕いたような内容。

 キルヴァがこれまでコロナにしたこと。

 それが大きく扱われていた。


「あ、俺の名前は出さないのか」


 新聞上では、あくまで『元仲間の証言』と書かれていた。

 ほかにも特定されそうな情報は伏せられたり、ぼかされたりしていた。

 つくづくルーメというのは世渡りの上手い女だ。


「ん?この記事…」


「どうした」


「ベルガーにウェーダー、こりゃまた懐かしいな」


「誰だ?」


「三年前の旅で一時期、俺たちの仲間だった奴らだよ」


 三年前の旅のパーティはコロナ、キルヴァ、ノリン、ミーフィアだけではない。

 他にも何名書いたのだ。

 一時期、とは言ってもほんの数日のことだ。

 基本は四人で行動しつつ、たまに必要に応じて助っ人を頼む。

 といった感じだった。

 最も、大抵はキルヴァの態度に怒り出て行ってしまうのだが。

 このベルガーとウェーダーというのも、そう言った者たちだった。

 その彼らの話もルーメの新聞に掲載されていたのだ。

 もちろん、両方とも匿名だがコロナにはそれが誰の物かわかった。


「よく探したな、むぐぐ…」


「喋りながら喰うな」


 カケスギから投げつけられた酒瓶を受け取るコロナ。

 蓋を開けそれを瓶の半分ほど飲む。

 ルーメの新聞の記事、それは確かに真実を書いたものだった。

 そしてそれを真実と納得させるだけの迫力があった。


「リブフートの町ですらこれだけの反響があったんだ。王都ではどうなっているか…」




 --------------------


 ちょうどその頃。

 同じくリブフート内のとある料理店。

 少しオリエンタルな雰囲気のその料理店。

 その店先で食事をする三人がいた。


「やあ、おはよう」


「おはようございまーす」


「うっす」


 あの黒魔術師の少女だ。

 そしてその部下の荒野の盗賊ウルフリーと魔人少女メイヤ。

 二人と共に戦いを見届けた後、暫しの間リブフートに滞在していたらしい。

 戦いの後三人は、とある目的から各自に分かれた。

 そして五日ぶりに再会したという。


「女を売る店の近くの飯屋は朝から空いてることが多いんすよ」


「そいつはいいね」


 ウルフリーに言われ、リブフート内でも早朝からやっている飯屋を訪れた。

 静かにパンとスープを食べる黒魔術師の少女。

 それとは対照的に、朝からよく食べるメイヤとウルフリー。

 当然、この三人もルーメの新聞を入手していた。


「これが国中にばら撒かれている最中らしいよ」


「この新聞がねぇ…」


 ルーメの新聞はセンセーションを巻き起こした。

 これまで貴族制度や勇者制度に不満を持つ者は大勢いた。

 しかし、表だってそれを言うものは少なかった。

 だがこの新聞によって不満が爆発。

 いろいろと各地で問題が起きている。

 黒魔術師の少女は風のうわさでそう聞いていた。


「そりゃあこれが本当ならみんな怒りますよ」


「一般人の不満が爆発ってところだな」


 盗賊であるメイヤとウルフリーでもそれくらいは分かる。

 とはいえ、今はこの三人にできることは無い。

 勇者キルヴァは死んだ。

 とりあえず、彼女たちも最初の目的は達成されたのだ。


「とりあえず、しばらくは静観しようか」


 既にトリガーは引かれた。

 あとは黒魔術師の少女が大々的に活動する必要は無い。

 黒魔術師の少女は裏方に回り、扇動する。

 ただそれだけ。

 それだけでいい。


「ふふふ…」


 キルヴァは死に、革命軍のレイスとパンコは動き出した。

 勇者制度の重大な欠陥であったキルヴァ、その所業が明らかにされた。

 それに反抗する人々の動乱は止まらない。

 コロナ(護人)のカードはしばらくは使えないが、カケスギ(侍)のカードは無傷で残っている。

 ただ一枚、ミーフィア(聖女)のカードが残っているのが気がかりだが…


「そうそう、メイヤ、ウルフリー。以前言ったものは持ってきた?」


「もちろん持ってきましたよぉ、ご主人様ぁ」


「ちゃんとここに」


 メイヤとウルフリーが持ってきた物。

 それは大きな箱だった。

 かなり丈夫そうな物であり、中にはさらに丈夫な箱が入っているという二重構造。

 大柄なウルフリーでも運ぶには少し難しいほどだ。

 しかし黒魔術師の少女は思わず、無意識のうちに鼻を手で押さえてしまった。


「けど黒の姉御、どうするんですかぃ、こんなモノ…」


「ふふふ。ちょっとね…」


 そう言いながら二人が持ってきた箱を見る。

 中身は開けない。

 しかしその中身はとても重要な物だ。


「もうサイクロン程度では済まないよ」


 勇者制度の一角は崩れた。

 この国を揺るがす最初の楔。

 それはあまりにも大きな戦果をもたらした。

 偽りの体制は崩れ去ろうとしている。


「国をも飲み込む人のうねり、ハリケーン!もう止められない…!」




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