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第二話 燃えかすの記憶

 

 コロナはあることを思い出していた。

 遠い日の記憶を。

 かつてのノリンとの約束を。


『私ね、将来はコロナと結婚する!』


『え、ええ~!いきなりそんなこと言われても、困るよ僕…』


『なんでよ~』


『う、う~ん…』


『あ、顔赤くなった!はははは…』


 遠い昔の記憶だった。

 もうその時に戻ることはできない。

 そんな…



 ------------------



 それは単なる一時の夢だった。

 カケスギと共に、コロナは街を出た。

 住処として使っていたスラムのボロ小屋、そこにあった荷物をまとめた。

 売れそうなものは売り、旅の資金に変えた。

 あの町でそろえられる最良の装備を集めた。

 各地を回り準備をしつつ、キルヴァのいるテルーブ王国の『首都クロス』を目指して。

 出発から一週間後。

 コロナたち一行は荒野で野宿をしていた。

 その時、コロナは昔の夢を見てしまったのだ。


「…はッ!」


 勢いよく起き上がるコロナ。

 寝汗と激しい動悸。

 思い出したくも無いものを思い出してしまった。

 そう思いながら周囲を見回す。

 岩を背に寝るカケスギ、そして地面に丸まって寝る荷物持ちの少女。

 その光景に安心感を感じた。

 あの悪夢の中の世界では無い、と。


「どうした、変な夢でも見たか」


「…起きてたのか」


 岩にもたれかけながら寝ていたように見えたカケスギ。

 だが実は起きていたらしい。

 心配になったのか、それとも気まぐれか。

 声をかけてきた。


「寝つきは悪い方だからな」


「いや、なんでも無い…オレ、ちょっとつかれてるのかもな…」


 そう言って苦笑いを浮かべながら誤魔化すコロナ。

 あの夢は懐かしい光景だった。

 だが、今となっては悪夢以外の何物でもない。

 焚火の燃えカスに目をやる。

 ふと、そこにある燃えカスと自分(コロナ)が重なって思えた。


「なぁ、オレの話に付き合ってもらっていいか?カケスギ」


「断る理由も無い。勝手に話せ」


「そうか、ありがとう」


 コロナは昔の自分のことを話した。

 平民ながらもそこそこの実力をもっていたこと。

 魔物の長を倒すため、幼馴染のノリンと旅に出たこと。

 ミーフィア、キルヴァとの出会い。

 それを聞き黙って頷くカケスギ。

 彼はコロナの経歴について断片的なことは知っていたらしい。

 だが詳しいことまでは、さすがに知らなかったようだ。


「悪い、長話になっちまったな」


「暇つぶしにはなった」


「そうか」


 ここでコロナはあることが気になった。

 カケスギが連れていたこの少女のことだ。

 そう言えばこの付き人の少女の名前や出自を聞いていなかった。

 一週間同行しているが何も聞いていない。

 奴隷の類なのか…?


「カケスギ、この子はなんだ?」


「荷物持ちだ」


「アンタの妹か何かか」


「いや…」


 その後のカケスギの話によりこの少女の正体が明らかになった。

 この少女は、かつてカケスギが滅ぼした盗賊団が捕獲していた子供だったのだ。

 攫ってきた子供を奴隷商か何かに売る途中だったのだろう。

 盗賊団を全滅させた後、この少女が牢に入っていたのをみつけたカケスギ。

 彼が気まぐれで彼女を連れだしたのだ。

 特に深い理由は無かった。

 単なる暇つぶしでしかなかった。

 それがその内に、いつの間にか荷物持ちになっていたという。


「この子の名前は?」


「本人に聞いてみろ」


 随分と投げやりな言葉を返されてしまった。

 暫しの沈黙。

 しばらくしてカケスギが再び口を開いた。


「…俺には妹がいた」


「へぇ、アンタに妹が」


「出来の悪いヤツでな。故郷で大事件を起こしそのまま姿を消した」


「そうか…」


 カケスギはそれ以上言わなかった。

 彼に妹がいた、とりあえずそれは覚えておこう。

 コロナはそう思った。

 と、その時…


「…気づいたか、コロナ」


「ああ、『囲まれてる』な」


『ウグゥゥゥゥゥゥゥ…』


『ヴゥゥゥー…ヴゥゥゥー…』


『ガゥゥゥゥゥ…』


 周囲に広がる奇妙な気配。

 どうやら魔物の群れに囲まれたらしい。

 かつて昔のコロナたちが魔物の長を倒して三年。

 統率のとれなくなった魔物はあちこちに小さな集団となり散っていった。

 国は放置しているが、魔物の長を倒しただけでは実は治安は特に良くはならなかったのだ。

 今では各地の村や町で自警団などを作ったり、傭兵を雇い魔物対策をしている。


『ガグゥゥゥゥ…』


『ヴゥゥゥー…ヴゥゥゥー…』


「本来はこういうのを倒すのが勇者の役目だろうに…」


「キルヴァ…アイツはそんなことしねぇよ」


 周囲にいるのはかなり低級の魔物。

 数は十五といったところか。

 恐らくはゴブリンのようなモノだろう。


「カケスギ、俺がやってもいいか?」


「好きにしろ」


「ああ」


『ヴゥゥゥー…ヴゥゥゥー…』


 そう言ってコロナが前に出る。

 彼がその手に持つもの。

 それはかつて故郷の地方を救った英雄が使ったとされる剣。

 それを引き抜き、ゆっくりとゴブリンの群れの方へと近づいていく。

 無効も警戒をしてはいるが、まだ積極的に襲ってこようとはしていない。

 距離にしておよそ数十メートル。

 その距離になった瞬間、コロナは地を蹴った。


「ずあッ!」


『ガッッ…ギィィィィ!』


 一瞬で間合いを詰め、一体のゴブリンの前に立つ。

 剣でその一体の頭部を潰し、その勢いのまま二体の頭部を貫く。

 剣を持っていない片手で首の骨をへし折る。


『ウグゥゥゥゥゥゥゥ!』


『ガァァァァァ!』


『ゲギィィィィ!』


 一瞬の出来事に虚を突かれたゴブリンだが、それを見て一斉にコロナに襲いかかる。

 本能的に集団戦闘が可能なゴブリン。

 だが所詮は低級の魔物。

 かつては護人として…

 そして現デスバトル連勝者のコロナの敵などでは無い。


『ウグゥゥゥゥゥゥゥ!』


「デスバトルじゃこんなもの前座にもならねぇよ」


『ガァァァァァ!』


「そらッ」


 引き抜いた剣をその勢いのまま薙ぎ払い、二体の頭部を潰す。

 さらに蹴りで一体を岩に叩きつけ抹殺。

 再び三体の頭部を叩き割り、残り四体を手刀で切り捨てた。


『ゲッギィィィィ…!』


「あと一体…」


「待てコロナ。あの小鬼…」


「ん?」


 最後というところで、カケスギが彼を止めた。

 残り一体になったゴブリンは勝てないとわかったのか武器を捨て逃げ出したのだ。

 しかしカケスギは相手に情をかけるような男では無い。


「巣に戻るのかもしれん。俺が片づけてくる」


「あ、ああ」


「少し待ってろ」


 そう言ってカケスギはゴブリンの後を追っていった。

 彼の言うとおり、しばし待つこと一時間ほど。


 カケスギは戻ってきた。


 返り血を少し浴びてはいるものの、彼自身に怪我は全くなかった。

 背中には、行きには無かった荷物があった。

 大きな布袋の中には食料や役に立ちそうな物が。

 そして…


「巣を全滅させてきた。戦利品も持ってきたぞ」


「おいカケスギ、なんだよそれは?」


「鳥と女が捕まっていたから連れてきた」


 鳥は恐らく野鳥だろう。

 この荒野にはよくいる鳥だ。

 そして女、どうやら旅人のようだが気絶している。

 茶色の短い髪の女だ。

 軽装に見えるが、その革と鋲で作られた着衣や靴をみるに旅慣れているのかもしれない。


「鳥は食えそうだが女は食えんぞ」


「今から夜食を作る。少し動いて腹が減った。後は好きにしろ」


 そう言ってコロナに鳥と女、荷物を渡すカケスギ。

 荷物の中にはゴブリンが襲った人々から奪ったものが多くあった。

 武器や金品の類、その他道具など…

 とはいえゴブリンが使いこなせるような物ではないのか、ほぼ手つかずだった。

 集めるだけ集めておいた、ということなのだろう。

 数はたくさんある、時間をかけてゆっくり見ることにした。



「う、ううん…」



 しばらくして女が目覚めた。

 カケスギが料理のために再び焚火を付けたのだ。

 火にかけられた鍋の前で。


「ヴェ!な、なになになに!?」


 開口一番で驚嘆の声をあげる女。

 カケスギが鍋で煮ていたのは先ほどコロナが始末した『ゴブリンの腕』だったのだ。

 鍋からはみ出るゴブリンの腕を見れば、確かに誰でも驚くだろう。


「起きたか女」


「ゴブリンは!?あっでも鍋の中に…!???えぇ…?」


「落ち着け」


「ヴェッ!」


 カケスギが野鳥を女にぶつけた。

 落ち着きを取り戻すその女と逃げ飛んでいく野鳥。

 おもむろにカケスギは鍋から煮たゴブリンの腕を取り出し、丸かじりした。


「腕が美味いんだが、この国では喰わんのか?」


「た、食べないわよ!」


「ふぅん」


 匂いがきついため、このテルーブ王国ではゴブリンは食用では無い。

 カケスギも匂い消しのため、大量の香草を使っているようだ。

 血抜きし茹でた腕を豪快に引きちぎり喰らうカケスギ。


「水飲むか?」


「あ、ありがとう」


 コロナから水を受け取りそれを飲み干す。

 とりあえず彼女の話を聞くことに。


「あ、あたしは『ルーメ』、旅の新聞記者をしています」


「旅の新聞記者か、変わってるな」


「内容がカゲキだから…」


 この時代に新聞記者とは珍しい。

 彼女がする新聞は王国の政治を批判するような内容がほとんどらしい。

 民衆や一部の過激派、革命軍などからは評判はいい。

 だが、その内容のせいで国からは常に追われる身となっているという。


「人目に付かない様に荒野を移動してたら捕まってしまって…」


「変なやつだな」


「あ、そうだ!あたしの持ち物!」


 幸いにも彼女の持ち物はカケスギが持ってきていた。

 ゴブリンの巣を壊滅させて得た戦利品。

 その中にルーメの物があった。

 筆記類が入った鞄、そして小型の弓と矢。

 どうやら彼女の武器のようだ。

 だが…


「矢が折れてる…弓も…」


 矢は全て折れ、弓も破損していた。

 これでは使うこともできない。

 治そうにもこんな所では材料も無い。


「…近くの町までなら送ってやるよ」


「本当?」


「いいかカケスギ?」


「チッ!好きにしろ」


「ありがとう!」


 コロナの提案で彼女を近くの村まで送ることになった。

 当面の目的地であったので、そのついでだが。




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