第二十五話 決戦!コロナvsキルヴァ
キルヴァの指定した決闘の場所。
それはリブフートの北西にある山の中腹にある滝の近くの崖。
彼はそこで決着をつけようと言うのだ。
近くには川の激流が流れ、滝の下に広がるのは湖。
過酷な環境下にあるこのフィールドだ。
そしてコロナとノリン。
二人がかつてキルヴァと初めて出会った場所を強く意識したこの場所。
彼はわざわざそんな場所を指定してきたのだ。
「あの地獄から戻ってきたぜ!キルヴァぁ!」
そう叫ぶコロナ。
ここに至るまでの三年間。
彼の生活は地獄そのものだった。
辺境のスラム街の最底辺の地へと流れ着いたコロナ。
まともな仕事などできず、あらゆることをやった。
窃盗、殺人、賭博、ドラッグ、売春、投棄、考えられる犯罪にはほぼ手を染めた。
そしてそんな中でカケスギと出会った。
これまで過ごした時間が繋がり、今の自分がここにいる。
「ハッ!ノリンのヤツを殺しやがって。よく言うぜ」
「随分と軽く言うなキルヴァ。婚約者が死んだんだぞ?もっと悲しめよ」
「コロナ、お前こそ幼馴染が死んだんだ。泣いて悲しめ」
「へっ」
「ふん」
互いにそう言いあう二人。
キルヴァからすればノリンは替えの効くどうでもいい存在。
コロナからすれば裏切った憎き相手。
そう言う意味では、二人にとってノリンはある意味では互いに同じような存在。
二人にとってノリンとは、死んでしまえばもう『どうでもいい』存在なのかもしれない。
「コロナ、あの月を見ろよ」
「なんだよ」
「随分と明るい。戦いやすいだろう?」
「まあな」
明るい月、満天の星空。
復讐などという言葉とは似つかぬ、美しい空。
ノリンの時もそうだった。
復讐というくらい言葉には全く似合わないような幻想的ともいえる空。
その下で血みどろの戦いが繰り広げられるのだ。
そう考えると妙な気分だ。
「俺がお前とノリンと出会ったのも、こんな場所だったよなぁ?」
キルヴァの言った『ノリン』の名に僅かに反応してしまう。
水底に沈んだ『アレ』ではない。
かつて、共に旅をした『あの少女』のことを思い出してしまった。
まだ自分を裏切る前のあの少女のことを。
もう絶対に戻っては来ない、あの少女を。
「そうだな。あの時、お前は一人で剣の練習をしていたな」
「覚えていたか。これは光栄だ」
「まぁな」
「わざわざお前の復讐の茶番に付き合ってやるんだ。感謝しろよ」
「やけに素直だな」
「俺が勝つに決まってるからな。優しいだろ?惚れたか?」
「いや?別に」
今、キルヴァの目の前にいる男。
それはノリンなどという『雑魚』を倒し、その気になっている哀れな男。
実力でいえばこちらの方が上だろう、どうせ戦えば勝つのだ。
せめてその茶番に付き合い、踊ってやろうではないか。
キルヴァはそう考えた。
その上でその虚構の自信をへし折り、殺す。
この三年でパワーバランスが何一つ変わっていないことをその身体に刻みこんで。
「大人しく朽ち果てていればよかったものを」
「ふん…」
そう言うコロナ。
キルヴァの会話にも挑発に乗ることなく聞き流していく。
初めてコロナがキルヴァと出会ったその瞬間。
その時、コロナは彼のことを尊敬していた。
自分と同じ歳にも関わらず『勇者としての素質と実力を持っていた彼を。
そして、裏切られるギリギリの時までその考えは変わらなかった。
だが、今は違う。
そんな考えはもう存在しない。
「キルヴァ、聞きたいことがある」
「なんだ?」
「オレを殺すと、最初に言い出したのはだれだ?」
以前戦ったノリンは言った。
キルヴァの奴に脅されて仕方なく、と。
もちろんこれは単なる言い訳だ。
それくらいは分かる。
しかし、この発言からわかることがある。
コロナ殺害の発案はキルヴァによるもの、ということ。
それは本当なのか?
「最初に考えたのは俺だ。お前が邪魔になったからな」
ノリンとミーフィア。
二人を確実に手に入れるにはコロナが邪魔だった。
当時のパーティ内で彼を孤立させ、三人で殺す。
それかキルヴァがノリンとミーフィアにの提示した案。
元々は王国側の人間のキルヴァ。
平民出身であり、貴族にはなりえないコロナは既に邪魔者になっていたのだ。
「その案にノリンとミーフィアは快くのってくれたよ」
キルヴァと結ばれれば彼の愛を受けることができる。
そしてもう一生、金の心配をしなくてもいい。
国からは最高の待遇を受け、生活することができる。
ノリンとミーフィアに断る選択肢は無かった。
「そうか…」
後ろから剣で貫かれるコロナ。
刺したのはノリン。
辺り一面に流れ広がる鮮血。
あの時のことを思い出すと今でも気分が悪くなる。
「あの二人は本当にいいヤツだ。なんでも言うことを聞いてくれるし身体もいい!」
「…」
「ノリンがベッドの上でお前のことをどれだけ罵っていたか教えてやろうか」
「いや、別にいい」
そうとだけコロナは言った。
隠しきれぬ怒りの感情が含まれているようにも聞こえた。
目の前にいる男、キルヴァ。
全てコイツのせいだ。
「キルヴァ、お前はこの世の地獄を味わったことがあるか?」
「はッ!そんなものあるわけないだろ」
「絶望、敗北、悲しみ、恨み、憎悪、死!それらが渦巻く世界。オレはそこから這い上がってきた」
凍り付き止まった三年間。
その分の怒り。
仲間に裏切られた悲しみ。
それらを言葉にしてぶつけるコロナ。
「随分と苦労したみたいだなぁ。いい加減休んだらどうだ?墓の下でな」
それをあざ笑うかのようにキルヴァが言う。
コロナがどのような経緯をたどってきたかなど、彼は全く知らない。
当然だ。
そんな物知っても何の意味も無い。
目の前のコロナを消してしまえば、それでいいのだから…
「お前こそ勇者なんて重くて固い肩書きなんて捨てちまえよ。ずいぶんと楽になるぜ?」
「ハハハ、冗談はその存在だけにしな」
そう言って笑い飛ばすキルヴァ。
しかしその手は聖剣へとのばされている。
いつでも戦闘態勢に移れる。
そんな姿勢だ。
それを受け、コロナもゆっくりと戦闘態勢をとる。
「キルヴァ、お前にも見せてやるよ。地獄を」
「ほう」
「そして俺の地獄が終わるのは、お前のいるその場所だ」
キルヴァを倒し、勇者の名を地に落とす。
そして初めてコロナの人生は再び動き始めるのだ。
三年前に止まった、あの時から。
「キルヴァ!今日ここでお前を倒す!確実に!」
「やってみろよ平民の護人風情が!」
「後悔するなよ!」
その声と共にコロナはキルヴァへと攻撃を仕掛けた。
それはつまり、二人の戦いが始まったということだ。
コロナとキルヴァ、二人のぶつかり合い。
その衝突。
激闘。
戦いの果てに待つのはコロナの復讐か、キルヴァの勝利か。
それとも…?
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コロナとキルヴァ。
二人の戦いが始まった。
今、この場所は彼ら二人だけの空間となった…
かのように思えた。
しかし、厳密には違った。
その戦いを見る者は意外にも多かったのだ。
それは森の動物や川の魚たちだけでは無い。
「コロナ…」
川の対岸のさらに森の奥。
そこにいるのはカケスギだった。
この戦いの一部始終を見届けるために。
もちろん、二人の戦いに干渉などはしない。
たとえコロナが負けようとも、それを運命としてありのままに受け止める。
それが彼に対する礼儀でもある。
「見届けよう。この戦いを。俺が証人となる」
いや、この戦いを受けたキルヴァに対してもだ。
外部からは一切の手を出さないこと。
それが最大の敬意だ。
理由や発端はどうであれ、決闘を行う二人に外部から手を出す権利は無い。
そして戦いを見届ける者はカケスギだけでは無い。
その森のまた別の場所。
そこにいたのは聖女ミーフィア。
彼女もまた、戦いを見届けようというのだ。
気配を殺し、遠くから戦いを見続ける。
「キルヴァ様、早く戦いを終わらせて下さい」
そう言って膝をつき、祈りをささげるミーフィア。
その祈りの姿だけならば、まさしく聖女そのものと言えるだろう。
しかしその祈りの内容はあまりにも理不尽かつ身勝手な物だ。
コロナ側からすればたまったものでは無いだろう。
「そして二人でずっと共に…」
そしてその心にはノリンのことは一切ない。
むしろ、邪魔者が消えてくれて清々するとまで思っていた。
ノリンが消えれば、彼の心は全て自分の物となる。
とても聖女とは思えぬ思考。
ノリンの代わりとしてパンコを迎えておけばそれでいい。
頭数合わせの暇つぶしにはなるだろう。
すべてを終わらせいつも通りの生活に戻る。
そしてもう一組…
湖のちょうど向こう側。
キルヴァたちのいる高台が何とか見える位置。
そこにいたのはあの黒魔術師の少女。
藩将コーリアスから奪った馬を使いここまで来たのだ。
「大人しくしていてね」
馬をその場にとめる黒魔術師の少女。
なんとか二人の戦いには間に合ったらしい。
そして彼女には新たに仲間が増えた。
荒野の盗賊ウルフリーと魔人少女メイヤ。
その二人と共に戦いを見届けるつもりだ。
「凄ぇ、暗闇なのによく見えるぜぇ、黒の姉御」
「向こうの二人がよく見えますよ、ご主人様ぁ!」
「紋様の効果で身体能力全般が上がってるからね。それくらい当然」
荒野の盗賊ウルフリーと魔人少女メイヤ。
二人が黒魔術師の少女から得た力に驚いている。
彼らには隷属の証として紋様を刻んである。
その効力で全体的な身体能力が上がっているのだ。
そのため離れた位置であるコロナとキルヴァの戦いも見ることができる。
まるで昼間同然に。
「あのサムライのバカと聖女サマもいるみたいね。それに…」
黒魔術師の少女がカケスギ達の気配を僅かに感じたらしい。
とはいえ、どこにいるかまではさすがにわからぬようだ。
勝負の傍観者に興味は無い。
彼女が興味を持つ者。
それは…
「あの二人の戦いで『時代』は間違いなく変わる…」
「そうなんすか?」
「ああそうだよ。ウルフリー。聞屋のカードがあるからね」
黒魔術師の少女が持つカード。
彼女の手札には魔人少女メイヤと荒野の盗賊ウルフリーが加わった。
キルヴァの手札からはノリンが消えた。
そして今日この時、さらにカードが変わる。
そしてキーカードとなるのは『聞屋』、『革命軍』、そしてとある『二枚』のカード…
「さあ二人とも、時代が変わるその瞬間を私に見せて!」
コロナとキルヴァの戦い。
あの二人の戦いで『時代』は間違いなく変わる。
コロナが死ねば、カケスギや革命軍が動く。
キルヴァが死ねば、それは勇者制度そのものを揺るがすことになる。
どちらにしろ、何らかの形で国が動く。
やがてすべてを飲み込む大きな風となっていく。
それはまさに漆黒の旋風となる…!
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