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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第二章 勇者キルヴァへの復讐

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第二十四話 いざ決闘へ…!

 

「一人はガキだが、いい暇つぶしにはなりそうだ…」


 ノリンを失い、何かが足りない、と思っていたところだ。

 これはちょうどいい。

 この二人の女はコロナとカケスギの知り合いのようだ。

 時間もまだたっぷりある。

 キルヴァは席を立ち、ソミィとルーメのいる席に顔を出した。


「どうも、すこし席を共にしてもいいでしょうか?混んでいるので…」


「…ええ、いいですよ」


「どうもありがとうございます。では…」


 好青年を演じ初めに好感を得る。

 それ以降は得意の話術でうまく丸め込んでいく。

 酒の力もあり、話はすぐに盛り上がっていった。

 この調子ならば、パンコのように連れて帰るのにそう時間はかからない。

 キルヴァはそう考えた。


「ははは、キルヴァさんたら…ひゃー!」


「いやいや、ははは…」


 すっかり酔ってしまったらしいルーメ。

 一方、酒の飲めぬソミィは退屈そうに二人を見ていた。

 ただでさえ今日はいろいろと出かけて疲れているのだ。

 その眼も少し眠そうだった。


「酒飲む?」


「やめとく…あ~」


 そう言って大きくあくびをするソミィ。

 眠っているのならば、そのまま連れて行くと言う手もある。

 しかし、そんな彼女に対しキルヴァは半ば無理矢理に酒を勧めようとする。

 そちらの方が楽ではあるからだ。

 と、その時…


「ほら」


「やめないか、まだ子供だぞ」


「なんだ?誰だ」


 そう言いながら、ソミィにも酒を勧めるキルヴァ。

 しかし、その手を止める者がいた。

 悪態を垂れつつその者の方へとキルヴァが振り向く。

 そこにいたのは…


「ん?うわっ!誰だお前は!?」



 小奇麗な黒いスーツにマント。

 仮面舞踏会にでも出るかのような派手なバラの花びらの仮面。

 男にも関わらず、腰まで届くような灰色の長い髪。

 そして薄い薔薇の香りの香水。

 いかにも怪しさ全開満点な男がそこにはいた。


「ふふふ」


「えぇ…」


 革命軍のパトロンの一人であり、自称西方の生花商売業者。

 薔薇仮面の将ローザだった。

 しかし彼が何者かなどキルヴァは知る由も無い。

 彼の眼にはローザは単なる変人にしか映らなかった。


「そちらの女性の連れでね」


「こいつの…?」


「あ、ローザぁ、久しぶり~」


 酔いながらそう答えるルーメ。

 どうやら嘘ではないらしい。

 せっかくの機会をだいなしにされ、内心では怒りを隠せぬキルヴァ。

 しかし、どうもこの男の雰囲気は好きでは無い。

 というより、これ以上関わりたくも無かった。


「ふん」


 そうとだけ言うと、金をさっさと払ってキルヴァは店から出て行った。

 ルーメとソミィに手を出すつもりだったがその気も失せてしまった。

 そのままミーフィアのいる宿へと帰ることにした。

 そんな中…


「あいつどこかで会ったか…?」


 あのローザという男とは、以前どこかで会ったことがある。

 キルヴァは気がした。

 しかしあんな仮面をつけた男ならばいやでも記憶に残るはずだ。


「…思い過ごしか」


 もしかしたら素顔の彼と会ったことはあるのかもしれない。

 あの立ち振る舞いからどこかの貴族なのかもしれない。

 しかしいちいちそんなことを詮索することはしなかった。

 声色も店の喧騒ではっきりと聞くことはできなかった。

 だが気にするほどでもない。

 彼はそう考えた。


「もどってミーフィアの相手でもするか」


 そうとだけ言うと、キルヴァは宿泊している宿へと戻っていった。

 どうせ戦いまで時間はまだあるのだ。

 それまでゆっくり体を休めておこう。

 そう考えていた。



 一方その頃、先ほどの店。

 ローザとルーメが会話をしていた。

 ソミィは疲れて寝てしまったようだ。

 酔って会話が成立しないルーメに対し、ローザが鋭く言う。


「少しおふざけが過ぎるんじゃないか、ルーメ」


「ふふふ、気づいてた?」


 ルーメのその声。

 それは先ほどまでの酔った女の声では無かった。

 紅潮していた顔も常時に戻り、一気に酔いが覚めたように見える。

 いや、初めからルーメは酔ってなどいなかったのだ。


「何度かキミと食事をしたことがあるが、私は君が酔っているのを見たことが無い」


「私は酒に飲まれるようなことはしないのよ。記者としてね」


 先ほどまでの『酔い』は演技だった。

 本来の彼女は非常に酒に強く、かなりの量を飲んでも全く酔わない。

 その特異体質を利用し、彼女は記事を作ることがある。

 酒の場でターゲットから情報を引出す。

 それが彼女の記者としての必勝戦法。


「今回のターゲットはヤツだったか?」


 そう言うローザに対し、軽く首を横に振るルーメ。

 たまたま遊びに来ていたところを絡まれたのだ。

 結果的にはターゲットにしたわけだが、最初から狙っていたわけでは無い。


「いいえ。偶然会ったの。子供のソミィちゃんにも酒を勧めようとするし最悪」


「この子か、疲れて眠ってしまったぞ」


「今日色々と遊んだからね」


「なるほどな」


「『勇者キルヴァ』、素行が悪く、いろいろと黒い噂もあるし、ね」


「そうか。何か聞けたのか?」


「ぜんぜん。意外と警戒心が強いみたい」


「そうか」


 手を広げ、オーバーアクション気味なリアクションをとるルーメ。

 意外と強かな立ち回りをする女だ。

 そもそも、今日キルヴァと会ったこと自体か偶然だった。

 そこで速攻で情報を聞き出そうとするそのバイタリティの高さこそ、彼女の強さの秘密だ。


「では、本題に入ろうか」


「ええ。お願いね」


 この店にルーメを呼んだのはほかでもない、ローザだった。

 彼は、以前から彼女の新聞の仕入れを希望していた。

 自身の会社の流通に流したいと考えているらしい。

 彼は西方の商売業者にルートを持っている。

 そこで、発行元である彼女に直接交渉をしようというのだ。


「流通に乗せてもらえるのなら私としても助かるわ」


「そうだな。このご時世、女性一人での長旅は厳しいものがあるだろう」


「まあね」


「流通に乗せることができれば、いちいち町に売りに行かなくてもよくなるからな」


 ローザの言葉は的を射ている。

 以前ルーメは旅の途中にゴブリンの群れにさらわれてしまった。

 一応、彼女自身もある程度の戦闘能力を有してはいる。

 しかし、もしコロナとカケスギが通らなければ大変なことになっていたかもしれない。

 自身は記事づくりに集中し、流通はローザに任せる。

 これができるのであれば、さらに新聞づくりに集中できるだろう。


「ぼッ…私の西方の生花商売業者はほぼ全てウチの得意先だ。市民派も多い」


「まぁ」


「そのルートから農業関係の業界にも回せる」


「結構幅広いのね」


「とりあえずだ。ある程度纏まった量があれば流通に乗せられる」


「それじゃあ早速、次の新聞をお願いするわ。普段よりもたくさん刷る予定だから」


 自信たっぷりに言うルーメ。

 それもそのはず。

 次の新聞の記事、それはコロナとキルヴァの関係についてを乗せる予定だ。

 キルヴァの素行が悪いと言うのは、既に一部では有名。

 それをさらに拡散させる記事、となれば売れないはずがない。


「随分と自信があるようだな」


「ええ。いいネタの提供者が見つかったの」


 このネタの提供者、それは当然コロナたちのことだ。

 信用でき、友人や単なるビジネスパートナー以上の関係である彼ら。

 ルーメが信用を置く、数少ない人物たち。

 その彼らからもたらされる情報であれば問題なく記事にできる。


「ほう。それはよかった」


「ふふふ」


「記事の方が楽しみだよ。ははは…」




 --------------------



 そして時間はあっという間に過ぎていた。

 キルヴァの用意した二日という時間。

 光陰矢のごとし、とはまさにこのことだ。

 剣も戻ってきた。

 しかし…


『その剣に関しては全く分からない』


 なぜこの剣が切れないのか、という理由は全く分からなかった。

 刃が擦り切れて無くなっている、落ちている、などではない。

 本当に理由がわからないのだった。

 工商の者にこれ以上迷惑をかけることもできない。

 そのまま引き取り、引き続き棍棒代わりに使うことにした。


「…いよいよか」


 キルヴァの文字で書かれた決闘状に書かれていた決闘の場所。

 それはリブフートの北西にある山の中腹にある滝の近くの崖。

 彼はそこで決着をつけようと言うのだ。

 彼の指定した滝の近くの崖というこのロケーション。

 それは、コロナとノリンがかつてキルヴァと初めて出会った場所。

 そのロケーションに酷似している。

 彼はわざわざそんな場所を指定してきたのだ。


「ふう」


 山道を歩きながら目的地を目指す。

 闇討ちを警戒したが、どうやらその心配はないようだ。

 敵の気配は感じない。

 借りにいたとしても、闇討ち排除を依頼したカケスギに倒されているはずだ。


「キルヴァ…ッ!」


 ノリンとの戦いで破損した籠手とブーツは修復した。

 傷もできる限り治療した。

 普段は使わぬ回復魔法も使った。

 護人時代に愛用していた魔法だったが、近年は使っていなかった。

 コロナが三年を過ごしたあの最低の町。

 そこでそんな魔法を使えば、いいように利用されてしまうのがオチだからだ。


「いいように利用されまくったんだけどな。別の形で。ははは…」


 自嘲を含めた笑いが山道に響く。

 復讐心、嬉しさ、悲しさなどが入り混じった複雑な感情。

 それが今の彼を支配していた。

 かりにこの決闘で勝ったらどんな感情に包まれるのか。

 負けたらどうなるのか。

 自分は死に際に何というのだろうか。


「…行くか」


 足を進め、キルヴァの待つ高台へと足を踏み入れる。

 普段は誰も足を踏み入れぬような広場。

 そこに彼は居た。

 周囲には被害が出ず、思う存分決闘ができる場所となる。


「来たかコロナ」


「ああ」


「ははは」


 その鋭い眼光。

 三年前の彼の『勇者』という肩書きは偽物では無い。

 あの時の彼は間違いなく、この国でもトップクラスの実力者。

 今はどうかはわからない。

 コロナが最も強いのかもしれない。

 それともあの時からパワーバランスは何も変わっていないのかもしれない。


「あの地獄から戻ってきたぜ!キルヴァぁ!」


 三年前から止まっていたコロナの中の時間。

 仲間に裏切られ、全てを失い、凍りついた刻。

 それが今、動き始めようとしていた…



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