第二十三話 町へ行こう
おねロリすき(鉄の意志)
街へと出かけたルーメ。
しばらくの間、新聞を書くために部屋にこもっていた。
そのせいで記事のアイデアに煮詰まってしまったのだ。
そこで、気分転換に遊びに行こうという訳だ。
新聞記者ルーメとしての顔は、一部の政府関係者の間にて知れ渡っている。
そのため、彼女が私用で出かける際は髪型や化粧を変えることにしている。
今日はボーイッシュな雰囲気の服に身を包むことにした。
「たまには遊ばないとね。ソミィちゃんも」
「わーい!」
ソミィも一緒だった。
ルーメが出かける際、カケスギから頼まれたのだ。
すこしソミィと遊んでやってほしい、と。
少し金も受け取っている。
彼なりに、ソミィに女性との交流も持ってほしい、とのことなのだろう。
「ルーメさん、いつもとちがうね」
「まあね。大人にはいろいろあるのよ」
「ふーん…」
少し伸びた髪をサイドテールに。
普段は被らぬキャスケット帽をつける。
ボーイッシュな服装にして町へとくり出す。
当然、この周辺には様々な店や娯楽施設などもある。
そこを適当に回ろうと言うのだ。
新聞の売り上げもあるので金にも困っていない。
むしろ使いたいくらいだ。
「さ~て、どうしますか…」
「どこいくの?」
「う~ん…そうねぇ…」
このリブフートはテルーブ王国でもなかなか大きい部類に入る町だ。
単なる商店だけでは無く、娯楽施設も当然たくさんある。
街を適当に散策しながら、酒場から持ち出した地図を見る。
行き場所に困るくらい、いろいろな店があった。
「お腹すいた」
ソミィが言った。
しかしその一言で、まずいくべき場所が決まった。
「最近はずっと酒場で食事してたし、たまには違うところに行きますか」
「うん!」
そう言って二人は新鮮な魚の料理を出すという料理屋へと向かった。
その店はこのリブフートでも比較的有名な店らしい。
レストランと言うほどでもない、町の片隅にある小さな店だった。
高級すぎず、かといって大衆食堂のような雑多とした印象でもない。
隠れた穴場、そういった印象を受ける店。
早速入店する。
「あ、魚!」
「店の中で魚を飼っているのね」
「いらっしゃいませ」
川を模した生け簀が置かれた、落ち着いた雰囲気の店内。
建物は二階建てだが、一階部分と二回が吹き抜けになっている。
窓に近い席に座り、適当に料理を注文していく。
「ソミィちゃん、何か食べたいものはある?」
「くだもの!」
「うん、何個か追加で注文しておくわ」
「ありがとう」
礼を言うソミィ。
以前もそうだったが、彼女はくだものが好きらしい。
理由を聞くと、カケスギがよく買ってくれたから、とのことだ。
果物ならば割と何でも食べるが、特に好きなのは木の実のようだ。
他にも旅の途中で自分で取って食べていたからというのも理由の一つだという。
「カケスギさんのことがすきなのね」
「うん!」
「コロナのことも?」
「うん!友達」
「ふふふ…」
話に花が咲く中、早速料理が運ばれてきた。
生魚の薄い切身にオリーブオイルがかけられたクルード。
魚と野菜のスープ、蒸し魚のバジルソースがけ。
そして籠に入ったたくさんのパン。
旅の途中では、普段はあまり食べぬような料理。
それらを食べながら二人はさらに話に興じていた。
「スープに魚がたくさん入ってる」
「このお店は川魚の料理で有名みたいね」
「そっちの少しちょうだい!」
「はい。小皿に取ってあげるね」
そう言いながら食事を楽しむ二人。
結構な量があったが、すぐに食べ終えた。
会計を済ませ店を出る。
「…よし、何か買いに行こう!」
「うん!」
その後、食事を終え再び街へとくり出す。
次にどこへ向かうかを歩きながら考える。
行き交う人々、人通りの多い道路。
他の町では見られぬ店や建造物の数々。
もちろん、このリブフートにあるのはそれのようなものだけでは無い。
名所もたくさんあると聞く。
まずルーメが眼にとめたのは服飾店だった。
「服のお店…?」
「そう言えばソミィちゃんって、他に服持って無いの?」
「うん。いつもこれ」
自身の身に纏っている服を改めて見るソミィ。
ゴミ捨て場から拾ってきたようなボロ。
一応洗ってはいるが、痛みがひどい。
ソミィが自分で探してきた服らしいが。
「だったら新しいの買わない?」
「え…?」
「金は私が出すから」
「やったー!」
そう言って喜ぶソミィ。
前々から欲しいとは思っていたが、なかなかカケスギに言い出せなかったらしい。
タイミングがつかめず、ついつい後回しにしてしまったという。
早速ルーメを引っ張り店へと入る。
女性向けの服が多く並ぶ店だ。
雑多とした店が多い中、比較的小奇麗にまとまっていると言える。
「店員さーん!ちょっといいですかー!」
「はい、なんでしょうか?」
「この子の服を選んで貰えませんか?」
店員にソミィを任せ服を選んでもらう。
カケスギ達の旅に同行しやすいよう、丈夫で動きやすい服を。
何着か候補を選び試着室へ入って行く。
そしてしばらくして…
「ルーメさん、これにする」
ソミィが選んだのは、今のルーメが来ている服と似たデザインのモノだった。
ボーイッシュなカントリー風の衣服。
大きめのキャスケット。
「あ、私とお揃いだ」
「うん!」
「でも確かに、この服装は動きやすいしいいかもね。他にも少し買っていきましょうか」
店員に元々来ていた服を畳んで紙袋に入れてもらう。
そして代金を払い店を出る。
新しい服を着て少し恥ずかしそうにするソミィを連れ、別の店へと向かうルーメ。
そこでも別の服や下着も何着か買い、それも紙袋に包んでもらった。
「せっかくだから靴も買った方がいいわね」
「靴?」
「これからカケスギさんたちと旅を続けるんでしょ?靴も新しくした方がいいわ」
「いいの?お金は…」
「大丈夫、子どもがそんなこと気にする必要ないって。遠慮しなくていいからね」
靴もボロボロだったので買い替えることに。
こちらも丈夫で履きやすいものを選んだ。
ある程度自分で修理できるようなタイプの靴だ。
他にも旅で必要な物を購入していく。
訪れた店で購入した商品を入れた紙袋を抱えながらソミィが言った。
遠慮するなと言われて買ってもらったが、少しやり過ぎたと感じてしまう。
だがを支払った当の本人であるルーメは特に気にしていないようだ。
「こう見えても一応、新聞屋の社長だからね。お金は結構余裕あるから」
「でもこんなに…」
「私、人が物を買っているのをみるのが好きなの。あくまで個人的な趣味だから」
他にも何か所か店により、髪を整えた。
ほかにも、これからの旅に必要な小物をいくらか購入した。
そうして遊んでいるうちに時間は過ぎ、もうすぐ日が落ちる程になっていた。
天に昇る太陽が徐々に傾き始める。
それと共に、街には帰宅する者達で溢れかえり始める。
店を出ると、既に人通りが少しづつ増え始めていた。
激しい喧騒が辺りを包み始める。
「時間も遅くなってきたし、夕食を食べて帰りましょうか?」
「うん!」
「じゃあ、あそこで!」
「わーい」
そう言ってルーメは一軒の店を指さした。
少しオリエンタルな雰囲気のその料理店。
夕食時近くだからか、多くの人で賑わっていた。
店内だけでは無く、店外にも数個の席があった。
なかなか繁盛しているようだった。
人気店なのだろうか。
「結構混んでるみたいね」
店の窓から店内を覗く。
ほぼすべての席が埋まり、店員もあわただしく店内を駆け回っている。
てんてこ舞いの状況だ。
なんとか店員に話し、案内をしてもらうことに。
店の奥の落ち着いた雰囲気の席に着き、適当に料理を頼む二人。
「ソミィちゃん、カケスギさん達とはいつごろ出会ったの?」
「う~ん…ずっとまえかなぁ。コロナとはすこしまえ」
ソミィにも正確な時期は分からないらしい。
しかし結構な時間を共に過ごしていることは確実だ。
「カケスギさんとコロナ、あの二人だけじゃ頼りないからね」
「そうかな?」
「ソミィちゃんがちゃんと面倒見てあげてね」
「?」
「あの二人だけじゃお酒ばっかり飲んでそうだから。たまに注意してあげないとね」
「うん」
「変なお肉も食べすぎないように言ってあげてね」
笑いながら話すソミィとルーメ。
しかし、その話を後ろの席で聞く一人の男がいた。
口に煙草を銜え、機嫌の悪そうな顔をしているその男。
手に持っていた酒の入ったコップをゆっくりと机に置く。
…そこにいたのは勇者キルヴァだった。
「…あの二人、あいつらの知り合いなのか」
彼はカケスギに決闘状を渡した帰りだった。
宿でミーフィアと顔を合わせ食事をする気にもなれなかった。
ノリンがいない、ということに慣れず、町の店に寄ったのだった。
その先でたまたま、彼女たちと遭遇したのだ。
二人の存在をキルヴァは知らなかった。
しかし、その話の内容から、彼女たちがどういう存在なのかは確認できた。
その出会いに心の中でほくそ笑むキルヴァ。
「これはいい…」
吸っていた煙草を灰皿に放り込み、残っていた料理を平らげるキルヴァ。
ノリンを殺したコロナ、そして自分をコケにしたカケスギ。
あの二人には恨みが溜まっていたところだ。
その二人の女が目の前にいる。
となれば…
「一人はガキだが、いい暇つぶしにはなりそうだ…」
ノリンを失い、何かが足りない、と思っていたところだ。
これはちょうどいい。
どうせあの二人はこの『キルヴァ』の顔も知らないだろう。
時間もまだたっぷりある。
席を立ち、ソミィとルーメのいる席に顔を出した…
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