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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第二章 勇者キルヴァへの復讐

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第二十二話 復讐は誰がために

 リブフートの高級宿の一室。

 戦いを静観していたキルヴァとミーフィアが、ノリンの死を知ったのは朝方だった。

 二人はコロナの力を甘く見ていたのだ。

 どうせすぐ戻ってくる。

 仮にノリンが負けても命までは取りはしないだろう。

 そう考えて。

 しかし二人の予想は大きく外れた。


「…やはりアイツ一人では無理だったか」


「どうしますか?ここは私が…」


「いや…」


 街中でのカケスギの急襲から一夜が明けた。

 小奇麗な宿の一室に差し込む朝日。

 ベッドの上で寝ていた二人を撫でるように光が差し込む。


「ノリンが懐柔されたというのは考えられませんか?」


「いや、それは無いだろう」


 ここまで遅くなるのはおかしい。

 間違いなく、ノリンは殺されてしまった。

 二人はそう考えた。

 懐柔されるなどまずありえない。


「ヤツは本気だ」


「そうみたいですね…」


 一通りの行為を終え一旦、休憩に入る二人。

 ベッドに一糸まとわぬ姿で横になる。

 窓から入る朝日の光が二人を照らす。


「いや、俺が行くよ。ヤツを確実に殺してくる」


 そう言いながらミーフィアの身体に手を伸ばす。

 彼女を抱き、優しい言葉で彼女に語りかける。


「お前を失いたくないからな…」


「まぁ。ふふふ…」


 ノリンを殺したであろうコロナ。

 それはキルヴァにとって、復讐などとその気になっている哀れな男でしかない。

 実力でいえばこちらの方が上だろう、そう考えた。

 三年前からパワーバランスは何一つ変わっていない。

 今のコロナを支えているのは虚構の自信。

 虚構の自信を完膚なきまでにへし折り、その果てに殺す。

 それまではせめてその茶番に付き合ってやろう。

  

「ノリンが居なくなってしまったことは残念だけど…」


「けど…?」


「本命はミーフィア、お前だからな…」


 その言葉と共に彼女をゆっくりと抱きしめるキルヴァ。

 実際は、ノリンとミーフィア、どちらが上かなどは考えてもいない。

 しかし今となってはノリンに固執する意味も無い。

 人間的な価値は聖女であるミーフィアの方が上なのだから。

 決闘を受ける、というのは彼女を安心させる意味もある。


「お前は俺が守るからな」


「ふふ、お願いしますわ」


 顔を赤らめつつ抱き合うミーフィア。

 ノリンのいなくなった後、そこにはパンコを迎え入れよう。

 二人はそう考えていた。


「時間も時間だ。食事にするか」


「はい。それでは…」


「…ちゃんと服着てからな」


「あッ…!」


 改めて自分の身体を見るミーフィア。

 そう言えば全裸だったということに今更改めて気づいた。

 身体を拭き、私服に着替える。

 食事は部屋に運ばれてくる仕様だった。

 担当者から簡単な説明を受け、朝食が用意された。


「これは…」


「まあ…」


 受け取った木製のトレーに乗っていた料理を確認するキルヴァとミーフィア。

 木製の器と皿に盛られた料理たち。

 平皿には、謎の白い野菜のような何か。

 もう片方には野菜のたくさん入ったスープ。

 皿にはポテトサラダとパンがのっていた。

 そして茶。

 よくわからない組み合わせのメニューだった。


「…この町ではこういう料理が出るのか」


「白ずくめですね…」


 よく分からない料理だが味は悪くなさそうだ。

 そのままそれを食べる二人。

 確かに味は悪くない。

 しかし印象にも残らぬ料理だ。

 早々に食べ終わり、キルヴァは外出の準備をしはじめた。

 部屋にあった紙に、ペンで何かを書いているようだった。


「一体どこへ?」


「ちょっとな。出かけてくる」


「では私も一緒に…」


 そう言うミーフィア。

 しかし、そんな彼女をキルヴァは制した。

 二人で行動すると、どうしても他人の目についてしまう。


「いや、お前はここにいろ。一緒にいて襲われたら面倒だからな」


「わかりましたわ」


「さすがにこの場所は、奴らも分からんだろうからな」


 そう言って町へと繰り出るキルヴァ。

 彼には会うべき人物がいた。

 その人物に会うため、以前と同じく繁華街を歩いていく。

 そして通った道筋をそのままたどる。

 彼が見つけたのは…


「よお。久しぶりだなぁ」


「おお、これはこれは誰かと思えば。勇者サマじゃないか」


「やっぱりいたか、クズが」


「まぁな。することも無く、暇なんでね」


 そこにいたのはカケスギだった。

 昨日と同じく、串焼きを片手に人間観察をしているようだった。

 何を考えているのか、全く分からない男だ。

 キルヴァはそう思いつつ彼の隣に座る。

 今日は話に来ただけだ。

 戦う気は無い。

 事実、キルヴァからは殺気を全く感じなかった。


「お前のお仲間のコロナ、今どうしてる?」


「寝ている。疲れたそうだ」


「ほぉ~なんで疲れたんだ?」


「ふん、知っているだろう?」


「…まあな」


 口には出さないが、互いにノリンとコロナの戦いは知っていた。

 当然だ。

 そこでキルヴァは、カケスギに対しあることを提案した。


「なあ、お前の名前は?」


「賭椙だ」


「カケスギか。変わった名だ、この辺りでは聞かんな」


「ふ、よく言われる」


「東洋系…か?」


「まぁな」


「率直に言う。俺の仲間にならないか?」


 キルヴァの提案。

 それはカケスギを仲間に引き入れることだった。

 だが、カケスギはその話を無視しひたすら串焼きを貪り続けている。

 そんな中…


「だから俺たちと一緒に…なんだこれ?」


「これいらないからやるよ。喰うか?」


 カケスギがキルヴァに差し出したもの。

 串に刺さった脂身だった。

 脂身が嫌いだからやる、ということなのだろうか。

 そんなものを渡されたところで困るだけだ。

 そう言いたげなキルヴァ。


「いらん!」


「あ」


 そう言いながら、彼はそのまま串を下に叩き落してしまった。

 一方でカケスギは少し残念そうな表情を見せた。

 それを無視し話を続けるキルヴァ。


「金だってやるし地位もやる。女だって…どうだ?」


「興味が無いわけでは無い」


 カケスギはそう言った。

 単純な性格だ、そう心の中でほくそ笑むキルヴァ。

 この男を仲間に引き入れてしまえば、どうということもない。

 だが…


「それじゃあ…」


「だが、他にも条件がある」


「なんだ?」


「その『勇者』の座と『聖剣』を俺に渡せ。そして今すぐここで自害しろ」


「な、なんだと!?」


「ハハハ、そうすればコロナを説得してやるよ」


 達成不可能な条件を付きつけるカケスギ。

 最初から話などまともに聞いていなかったのだ。

 仮にそんな条件を飲んだところで、命を賭けて得られるものは単なる交渉の権利のみ。

 割に合わなさすぎる、ということは誰から見ても明らかだ。


「チッ…ふざけやがって…」


 そう言いながらもキルヴァはあるものを取り出した。

 それは宿泊施設の部屋で彼が書いた紙だった。

 乱暴にそれをカケスギに叩き渡した。


「ノリンの時はそっちが戦う場所を選んだんだ、こちらからも選ばせてもらうぜ」


「ほう」


「…その場所の意味はコロナのヤツにきけば分かるさ」


 そうとだけ言うとキルヴァは去っていった。

 紙には荒くも整った字で戦う場所と時間、条件などが書かれていた。

 決闘の法式にのっとり戦う、ということも。


「ふうん。なるほどな…」


 ちょうど食事も済んだところだ。

 用事ができたのならば、こんなところで人間観察などをする意味も無い。

 キルヴァから受け取ったその手紙。

 それを片手に、カケスギは拠点である酒場へと戻っていく。

 もちろん、後をつけられていないかを確認。

 最大限に注意を払いつつ。

 そして…




「…というわけで、奴と会ってきた」




 酒場の奥の宿泊部屋。

 そこでコロナに先ほどの出来事を話したカケスギ。

 ちょうど寝起きだったのか、半ば寝ぼけ気味だ。


「あーそっかー…」


「大丈夫か、わかってるか?」


「わかってるよ…ちょっと待っててくれ」


 店の裏で顔を洗い、眠気を覚ます。

 髪を軽く洗う。

 そしてノリンとの戦いで傷ついた身体に巻いた包帯を交換する。

 いい傷薬を購入しておいたおかげで随分と楽になった。


「ふう…」


「よおコロナ。気分はどうだ?」


「まぁ、ふつうかな」


「よく言うぜ。一人始末してきたくせにさ」


 確かにそうだ。

 コロナはかつての仲間だったノリンを殺した。

 直接手を下したわけでは無い。だが見殺しにしてきたのは事実。

 しかし…


「別に。何も思わんな」


「ほう」


「嬉しいって感情もないし、悲しいってのもないな」


 コロナはそうとだけ言った。

 カケスギは何も言わなかった。

 そして改めてカケスギが受け取った紙を見る。

 キルヴァの文字で書かれた決闘状。

 場所は…


「北西の山の崖…」


 リブフートの北西にある山。

 その中腹にある滝の近くの崖。

 そこで決着をつけようと言うのだ。


「滝の近くの…崖…」


「ヤツはコロナに聞けば分かる、と言っていた。どういう意味だ」


 その場所の意味はコロナのヤツにきけば分かる。

 キルヴァはそう言っていた。

 それもそのはず。


「滝と崖…俺が初めてアイツと出会った場所に似た場所だ」


「ほう、なるほどな…」


 彼の指定した滝の近くの崖というこのロケーション。

 それは、コロナとノリンがかつてキルヴァと初めて出会った場所。

 そのロケーションに酷似した場所だったのだ。

 それを彼はわざわざ指定してきたのだ。


「ははは。結構面白いことをする奴だな。そんな場所を選んできたか…」


 場所自体は山道を通れば比較的すぐにつく。

 しかし危険な道なのであまり普段は人が通らなくなっている。

 キルヴァ側もある程度は人の目を気にした、というところか。

 時刻は二日後の夜中。

 それまでは少し体を休めることができる。

 武器工商に預けた剣も戻って来るかもしれない。


「…そう言えば、ルーメとソミィはどうした?」


「一緒に街に遊びに行くんだとさ」


 


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