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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第二章 勇者キルヴァへの復讐

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第二十一話 魔人少女と荒野の狼

本日二回目の投稿です。


 

 ノリンがコロナに殺された。

 それはつまり、キルヴァたち勇者パーティとコロナ一行の激突を意味していた。

 その戦いを誰よりも心待ちにする者がここにいた。

 それは…


「はやくしないと、二人のバトルを見逃しちゃうよ!」


 藩将コーリアスから奪った馬。

 それを駆るのはあの黒魔術師の少女だった。

 リブフートへと向かい、馬を走らせていた。

 邪魔者になる藩将と市将の片付けに少し手間取ってしまった。

 しかしそれも終わり、後は二人の戦いを見届けるだけ。

 荒野を抜け、その先の谷を越えればリブフートはすぐそこだ。


「幼馴染ちゃんと聖女サマはともかく、あの二人の戦いは絶対に見ないとね」


 そう言いながら馬の脚を早める。

 荒野を勢いよく駆け抜ける馬。

 と、そこで…


「ん?」


 黒魔術師の少女はあるものを目撃した。

 恐らくリブフートに向かう途中だったのだろう商人の馬車。

 商人の乗る商人の馬車が、盗賊に襲われていた。

 棍棒を振り回し、商人の馬車を威嚇している。

 この隊の隊長と思われる眼帯の男が大鉈を振り回し、馬車を斬り付ける。


「あ~らら。やばいことになってる」


 澄ました顔でそう言い放つ黒魔術師の少女。

 無視してもいいが、助けるといいことがあるので助けることにする。

 単なる気まぐれだ。

 ずっと馬の上にいたため、身体を動かしたかったというのも理由の一つだ。


「ちょっと運動していこうかな」


 砂煙を上げ、盗賊たちの方へと荒野を疾走する馬。

 中に乗っていた商人の男とその家族が外に引きずり出されていた。

 全員を縄で縛りあげる盗賊たち。

 抵抗を封じるため。

 そして後々奴隷として売りさばくためだろう。


「あ~あ」


 見たところ、商人の男の他には妻と思われる女性が一人。

 そして息子が一人と娘が二人いた。

 その奥には老婆も見える、祖母だろうか。


「お、おい!馬が来たぞ!」


「なんだ、乗ってるのはガキじゃねぇか!ぶっ潰せ!」


 そう言って襲い掛かる盗賊たち。

 しかし相手が悪かった。

 黒魔術師の少女は自身に絡んできた男に蹴りを一発はなった。

 たった一発の蹴り。

 それだけでその男は数人の仲間を巻き込み、荒野の地面に叩きつけられた。


「子どもだからといって油断したらだめだよ」


 あっという間に、商人を襲っていた盗賊は全滅した。

 隊長と思われる眼帯の男を一人残して。


「うくく…うがぁ!」


 それを聞きやけくそになったのだろうか。

 先ほどの大鉈で黒魔術師の少女に突撃を仕掛ける眼帯の男。

 もっとも、黒魔術師の少女にとっては避けられぬ攻撃でも無い。

 カウンターの一撃を受け、眼帯の男はその場に沈んだ。

 部下を纏め、一目散に逃げて行った。


「ふう。終わった」


「あ、あの。ありがとうございました」


「別に気にしなくていいよ」


 所詮は体操代わりの暇つぶし。

 自分が勝手に身を動かしただけなのだ。

 礼を言われる理由など全くない。


「い、いえ。ぜひお礼を…」


「う~ん…」


 腹も減ってきたところだ。

 礼の代わりに食事でも貰おう。

 そう考え、商人から食事を分けてもらうことに。

 馬の分も忘れずに。


「じゃあ、時間もちょうどいいし、食事を…」


「その程度でよければ…」


 少し離れたところでキャンプを開き食事をいただいた。

 さらにそこで先ほどの盗賊たちについて話を聞くことができた。


「さっきの男たちは盗賊集団『血濡れの狼(ブラッドウルフ)軍』の奴らでしょう」


 この近くには二つの盗賊集団がありこの町や周辺の村を脅かしているという。

 二つの盗賊集団は戦力が均衡しているだけに、小競り合いが多いと言う。

 それぞれメンバーは二十人にも満たない。

 しかし、リーダーが強いと言う。


「その盗賊について話聞けるかな?」


「ええ。いいですよ」


「おねがいね」


「はい。片方は魔物の盗賊軍、ゴブリンやオークなどで構成されています」


 はぐれ者の魔物たちをまとめ上げて構成された盗賊軍。

 リーダーは若き魔人の少女『メイヤ』。

 赤い肌と同じく赤く長い髪。

 小さな二本の角が特徴の怪力魔人少女だ。


「もう一方は王国軍崩れの、人ですが魔物以上に残忍な連中と聞きます」


 元王国軍の兵士を集めて構成された『血濡れの狼(ブラッドウルフ)軍』。

 そのリーダーは王国軍出身の男『ウルフリー』。

 常に狼の毛皮を腰に巻く変わった大柄の男だ。

 かつて三匹の狼を、一切の傷を負うこと無く仕留めたという。

 見た目は不精髭を生やした豪快な快傑。

 だが実際は小技や卑怯な手をとくいとする小物らしい。


「なるほど、ありがとう」


 そうとだけ言うと、黒魔術師の少女は商人たちに別れを告げた。

 彼女の目的、それはこの盗賊たちに接触することだった。

 近くに二つの組織の拠点があると教えてもらった。

 そこへと馬を走らせ向かう。


「ふふふ、やってるやってる」


 荒野を抜けた谷の入り口。

 そこでは魔物軍とブラッドウルフ軍が小競り合いを起こしていた。

 待ってましたとばかりに二つの組織の構成員たちが戦いを始めていく。

 ブラッドウルフ軍側が獲物となる商人を逃してしまったことで怒りが溜まっていたのだろう。

 魔物軍側に因縁をつけ、争いに発展したのだ。


「おいウルフリー!お前も戦え!」


 そう言うのは魔物盗賊軍のリーダーであるメイヤ。

 自信も戦いに参加し、敵の部下を蹴散らしていた。

 戦わずに後方で指示を出すウルフリーに対し叫んだ。


「へへへ、リーダーはどっしりと構えておくものなのさ」


 そう言うのはブラッドウルフ軍のリーダーであるウルフリー。

 部下たちの小競り合いを見ながらゆっくりと酒を飲んでいた。

 しかし…


「な、なんだ!?」


 突如信じられぬことが起きた。

 戦っていた魔物軍、ブラッドウルフ軍、両方の兵士が一斉に倒れたのだ。

 理由は分からない。

 しかし何故…


「ど、どうした!」


 高台から降り、部下に駆け寄るウルフリー。

 死んだわけでは無い。

 気絶しているだけだ。

 だがいくら叩いても起きる気配はない。

 と、そこに…


「お前のせいか!ウルフリー!」


「魔物軍のメイヤか!お前が…!?」


 ウルフリーとメイヤ。

 二人はともに相手がやったのだと思っていた。

 しかしどうやら事情が違うらしい。

 その首謀者、それは…


「私の仕業ですよー」


 そう言って現れたのは黒魔術師の少女だった。

 昏睡の魔法を使い、両軍の兵士を気絶させたのだ。

 戦闘能力の低い者ならば、この魔法で短時間だけならば気絶させることができる。

 混戦でだれが仕掛けたのかわからぬ状況であれば、なおさら。

 リーダーであるメイヤ、ウルフリーを残して。


「テメェが俺の部下を…!」


「ふふふ」


「ふざけやがって!覚悟しろ!」


 そう言ってサーベルを抜くウルフリー。

 しかし一見怒っているようだが実はそうでは無い。

 ウルフリーの心は非常に穏やかだった。

 彼にとっては部下など替えの効く人足程度にしか考えていない。

 怒っているふりをし、不意打ちをしようという考えだ。

 しかしメイヤは…


「お前か!ガキもウルフリーも二人纏めて始末してやる!」


「なに!?」


「てりゃ!」


 メイヤも彼女に攻撃を仕掛ける。

 彼女のふるう大型の解体ハンマー。

 それが黒魔術師の少女に襲い掛かった。

 建物などを破壊するときに使う、人の身の丈ほどもある大型ハンマーだ。

 その攻撃の巻き添えを喰らい吹き飛ばされるウルフリー。


「おっと!」


 だが、黒魔術師の少女はそれを軽く避け解体ハンマーを捕縛。

 高台からメイヤを突き落した。

 そしてそれに続くように黒魔術師の少女も下に飛び降りる。

 だがメイヤは突き落された際にできた怪我も無視。

 再度黒魔術師の少女に襲い掛かる。


「頭の回るガキは嫌いなんだよ!」


 先ほどよりも素早く、正確に解体ハンマーを振る。

 だがそれもその全てを黒魔術師の少女に避けられる。

 避けようと、黒魔術師の少女は後ろに跳び上がろうとする。

 だが…


「へ、へへ…」


 先ほど弾き飛ばされたウルフリーが後ろから黒魔術師の少女を抑え込んだ。

 まさかのコンビプレーを見せたウルフリーとメイヤ。

 さらにウルフリーは左腕のバンテージの中に隠していた仕込み刀。

 それを展開し、黒魔術師の少女に斬りかかった。


「へッ!死ね!」


「やだよ」


 だが、黒魔術師の少女はそれをさらに回避。

 そしてウルフリーの後頭部に蹴りを入れ、メイヤの構える解体ハンマーの方へと吹っ飛ばした。

 解体ハンマーにぶつかったウルフリーは気絶。

 メイヤもその際の衝撃で意識を失った。


「ふふふ、ちょうど『眷属』を探していたところなんだよね」


 これから旅を続けるに当たり、黒魔術師の少女が欲していたもの。

 それは自身に隷属する『眷属』だった。

 それもある程度の実力があり、忠誠心を『植えつけやすい』存在の。

 これは例えば、コロナやキルヴァのようなはっきりとした『自分という存在』を持つ者ではだめだ。

 悪意を持つ、周囲から浮いたはぐれ者。

 それがベスト。


「さてと、ちゃっちゃとやりますか」


 メイヤとウルフリー。

 二人を寝かせ、隷属の眷属化の魔術をかけていく。

 最初は魔人のメイヤから。


「う、う~ん…」


「あ、起きちゃった?」


 施術途中にメイヤが目を覚ました。

 だが意識が戻っただけだ。

 まだ身体は動かせない。


「な、なにを…アタシに一体…」


「メイヤちゃんって言ったっけ?キミには私の奴隷になってもらうよ」


「え…?え!?」


 その言葉に耳を疑うメイヤ。

 一瞬意味が分からずに戸惑うが、すぐにそれが危険なものであると本能的に察知した。

 だが逃れることはできない。


「やだ!ちょ…んん!」


「大人しくしてねー」


「んあッ…は、はい…」


 彼女の左腕を指で軽くなぞり、隷属の証を刻んでいく。

 魔力で描かれたその紋様。

 これはかつて魔王軍で使われていた『隷属の紋様』だ。


「気分はどう?メイヤちゃん」


「最高です、ご主人様ぁ」


「そう、よかった」


「うふふ…」


 恍惚とした眼で黒魔術師の少女と自信に刻まれた紋様を見るメイヤ。

 どうやら紋様はうまく作用しているようだ。

 その効力は心の中にある悪意を増幅させ、施術者に隷属させるというもの。

 性格が荒くなり、攻撃性も増してしまう。

 だが、身体能力の向上に加え、施術者に対しては忠誠を誓うようになる。


「さて次はウルフリーの方だけど」


「い、いやー、忠誠ですか?あなたにならば喜んで従いますよ!」


「そう?」


「もちろん、ほらこの通り。味方にでもなんでもなりますよ」


 そう言って武器を捨て、大人しく両方の手を出すウルフリー。

 抵抗の意志は全く無さそうだ。

 これは楽でいい。

 そのまま紋様をさっさと刻んでいく。

 それをよく分からないような目で見るウルフリー。


「はい、終わったよ」


「なんすかこれ?」


「契約の証みたいなものかな?」


「はぁ…よくわからないが…」


 実はこの紋様には効き辛い者もいる。

 最初から隷属しようと言う意思のある者。

 そして根からの悪人である者だ。

 ウルフリーの場合、早々に降参し諦めたためこのような結果になったのだろうか。


「へへへ、どこまでもついていきますよ姉御」


 そう言うウルフリー。

 最も、彼にそんなまともな忠誠心などがあるわけでは無い。

 彼は損得勘定で動く男。

 この少女について行った方が、地方でケチな盗賊を続けるよりも得。

 そう考えたのだった。


「じゃあ行くよ、二人とも」


「はあい、ご主人さまぁ~」


「メイヤ、お前そんな性格だったっけ?」


 黒魔術師の少女に対し、媚びたような甘い声で話すメイヤ。

 紋様の効果でメイヤの性格が若干変わってしまったのだ。

 だが、当然ウルフリーはそんなことは知らない。

 まぁいいか、とそうとだけ考えた。

 ある程度の実力者の元で働けるのだ。

 食いはぐれることはあるまい。

 多少の理不尽は我慢だ。


「二人とも移動手段ある?」


「俺は馬があるんで」


「アタシは走っていきます。体力には自信がありますからぁ」


「準備する時間少し上げるから、早く来てね」


 そう言い、二人に準備させる黒魔術師の少女。

 目的地はコロナとキルヴァのいる町リブフート。

 勇者とかつての仲間。

 その二人の戦いを見届けるために。


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