第十五話 交錯する二人
山の麓にある町。
その町の名は『リブフート』という。
周囲を川と山に囲まれ作られているのだ。
古くから天然の要塞都市として知られている。
市場も豊富にありこの地区を行きかう人々の交通の要となっている。
単なる町とは思えないほどの活気がここにはあった。
「へぇ、結構大きな町だな」
そう言って街を入り口から眺めるコロナ。
大きなゲートが作られた町の入り口。
あの山の中の集落を旅立ってから三日後、コロナたちはこの町にたどり着いた。
「来る前は単なる田舎町かと思ったが、そうでもないらしいな」
そう言って、吸っていた煙草を投げ捨てるカケスギ。
そして大きな町の中では刀は嫌でも目立つ。
そのため布で覆い隠すことにしている。
町には多くの店が立ち並びんでいる。
屋台や路上で商売をしている者達が多くいた。
「いい町だな。ソミィもそう思うか?」
「うん!」
常に人が行き交い、その流れは絶えることが無い。
さすがに王都や大都市には劣る。
だがよほどの物でなければ何でもここで買えるのではではないか
そう思えるほどこの市場には物が溢れていた。
「このような賑やかな町は数年ぶりだな」
「それにしてもいろいろな店があるなぁ…」
コロナは以前から寄りたい場所があった。
それは武器屋だ。
彼の持っている『斬れない剣』、これを見てもらうつもりだ。
確かに今までは棍棒として使っていた。
だが、これから先はやはり剣として使わないと困るときも来るだろう。
「滞在する場所を探そう。よりたい場所があるならばその後でもいいだろう」
「ああそうだな」
「以前あの男からもらったアレがあるだろう」
「ああ。探すべきはオリオンの知り合い…か」
以前、ミッドタウンで出会った革命家オリオン。
彼の息のかかった者の経営する店であればある程度は支援をしてくれる。
オリオンから受け取った、彼のサイン入りの革命軍の証。
それを懐に忍ばせつつ、それらしい店を探す。
「表通りでは無い裏路地の店だな」
「ああ。確かそう言っていたはずだ」
大きな町では王国側の監視の目も多くなる。
表の店では無く、裏路地にある小さな店。
そのうちのどれかが革命軍とつながっているという。
「…あそこだな」
「わかるのかカケスギ?」
「臭いでわかる」
そのカケスギの言葉を信じ、その店へと入る。
アウトローが集まる酒場だ。
決して上等な店とは言えず、店員もほとんどいない。
薄暗く狭い店内、屯するアウトロー。
しかしそんな店内にも関わらず、酒の品ぞろえだけは妙に充実している。
カウンターにいる店員にそれらしく、オリオンから受け取った証を見せる。
「…」
黙ってカウンターの後ろの、奥へ続く道を指さす店員。
なるほど、オリオンの言ったこともあながちウソでは無いらしい。
カケスギとソミィは早々に奥の部屋に行った。
コロナも後を追おうとした、その時…
「あ、コロナ!久しぶり!」
「お前は新聞記者の…!」
そこにいたのは、かつてバレースの町で別れた新聞記者の女。
ルーメだった。
彼女は以前、『いずれ会うことになる』と言っていた。
それはこういうことだった。
元々彼女はこの町に来る予定があったのだろう。
「新聞を売りに来たの。ここの町は買ってくれる人が多いから」
「やっぱり革命軍の…?」
「ふふ、そうね。そっち方面にもたくさん売れるの」
ずいぶんとたくましい人だ、そう思うコロナ。
席に置いてある彼女の荷物に目を移す。
新調した武器であろう輝く弓と矢。
それに丸めた新聞の束。
そして原本らしきもの。
「ここは怖そうな人が多いけど、基本みんなやさしいからね」
そう言うルーメ。
周りはアウトローだらけだが、彼女が言うのならまぁ優しい…
のだろうか。
と、そこで奥の部屋から荷物を置いたカケスギが出てきた。
「おいコロナ、そこらへん回ってくる。散歩だ」
「ああ。わかった」
「奥の部屋、自由に使っていいそうだ。メシは各自」
そうとだけ言い残しカケスギは外へ出て行った。
部屋は使ってもいい。
だが食事は自分で用意してほしいとのこと。
「じゃあ、私もまだ回りたいところあるから」
「そうか」
「また夜、ここで会いましょう」
ルーメも荷物を背負い酒場を出て行った。
ただし武器である弓と矢は店に預けた。
どうやら彼女も革命軍からのなんらかの支援を受けているらしい。
「…俺も行くか」
剣の調子を見るため、鍛冶屋か武器屋を探すことに。
店にいたアウトローに場所を聞き、安価で腕のある職人のいる武器屋を教えてもらった。
これからそこへ行くつもりだ。
「中央街道をずっと北に行けばわかるぜ。一発でな」
「ありがとう、助かるよ」
「この町一番の腕の職人がいるからな。おすすめだ」
アウトローの男から聞いた武器屋へと向かうコロナ。
正確には武器屋と工場が一体となったような施設らしい。
十年以上前に多くの職人が集まり、自然とできた店だという。
「お、ここか」
様々な施設が一体となっているからか、他の建物よりもひときわ目立って見えた。
ここならば、斬れなくなった剣も見てもらえるだろう。
そう考えながら、彼は店の中へと入っていった。
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一方その頃。
キルヴァたち勇者一行も同じくリブフートを訪れていた。
宿をとり、そこを拠点としてコロナを探す。
キルヴァ、ノリン、ミーフィアの三人で。
「あまりいい宿じゃないけど我慢してくれ」
いま彼らが宿泊しているのはリブフートで最も豪華な宿。
とはいえ、普段暮らしている屋敷よりは数段劣る。
多少の不満はあるらしい。
「やっぱり、パンコちゃん連れてきちゃダメだった?」
「ダメだ!」
コロナが生きている、というのはこの三人だけの秘密。
(正確にはガレフスの名を借りたあの黒魔術師の少女も知っているがここでは除外する)
パンコを連れてくることはできない。
「大体あんなヤツ役に立たないだろ」
「今回のことは私達だけで内密に終わらせましょう、ノリン」
「はーい」
パンコは暇つぶしの相手にちょうどいい、そう考えていたノリン。
だが二人に反対されては仕方がなかった。
今回の目的はあくまでこの町にいる可能性の高いコロナを探すことだからだ。
「とりあえず各自で探すぞ。いいな」
この町の地図を広げながらキルヴァが言った。
広い町ではあるが三人で別れて探せばそう時間はかからない。
とはいえ建物の中にいる場合はさすがに見つけるのは難しい。
だが、ある程度時間をおいて何度か探せば見つかるはずだ。
…この町にいれば。
「うん」
「はい、わかりましたわ」
「あまり派手には動くなよ…」
コロナを見つけたら一旦引き、連絡を入れること。
キルヴァはそう言った。
各自宿を出て町に分散。
コロナを探す。
「私は公的機関の方を当たってみます。何か情報があるかもしれないから」
「まかせるぞ」
「時間があれば居住エリアの方も一応…」
「俺とノリンは繁華街の方を探す。いくぞノリン」
「わかった」
ミーフィアは王国側の人間が集まる公的機関に。
キルヴァとノリンは繁華街の方へ。
とはいえ、この町の繁華街といってもかなり広い。
人の少ない裏町をノリン、人通りの多い表街道をキルヴァが探す。
「見つけたらすぐ教えてね」
「ああわかってるよ!お前もな」
「当然!」
そう言って一旦別れる二人。
キルヴァはとりあえず、人が多く集まる場所からしらみつぶしに探すようだ。
確実にいるかはまだ断定できぬ今、そちらの方が確率が高いと判断したのだ。
一方、ノリンは…
「もしコロナがいるとするなら…」
ノリンとコロナは幼馴染だった
キルヴァと出会う以前は、元々は二人で旅をしていたのだ。
コロナの行きそうな場所などすぐにわかる。
昔、彼は旅で訪れた町に真っ先に行っていた場所があった。
それは名の知れた武器職人がいる武器屋、あるいは工場だ。
「この町で一番の武器工商…」
コロナを探すべく、鍛冶屋か武器屋を探すノリン。
町にいた者に武器商の場所を教えてもらった。
この町で一番腕の立つ、という武器商を。
「中央街道を北に行けばつくよ」
町の者から聞いた武器屋へと向かうノリン。
正確には武器屋と工場が一体となったような施設らしい。
十年以上前に多くの職人が集まり、自然とできた店だという。
「ここね…」
ノリンがたどりついた店。
それは先ほどコロナが入店したあの店だった。
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