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大切な幼馴染と聖女を寝取られた少年、地獄の底で最強の《侍》と出会う  作者: 剣竜
第一章 再起への道のり

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第十話 寝取られた二人

 

 しばらくの間キルヴァの屋敷に身を置くことになったパンコ。

 レイスがいない今、彼女の話し相手となる者がこの王都にはほとんどいない。

 屋敷の主である勇者キルヴァはあまり好きでは無い。

 しかし部屋を貸してくれる、というのはありがたい。


「レイス…はやくもどって来てほしいっす」


 この屋敷に滞在する間、貸してもらった部屋。

 その窓から夜空を眺め呟くパンコ。

 客人用なのか、部屋自体はとてもいいつくりだ。

 彼女の実家でもここまで豪華な作りでは無い。

 ベッドに横になり改めて夜空を見る。

 とその時、部屋のドアを叩く音がした。

 乾いた木を叩く音が部屋に響く。


「誰っすか?」


 キルヴァでは無い。

 彼ならばいちいちそんなことなどはしない。

 ドアを開けいきなり入って来るだろう。

 入ってきたのは…


「ちょっといいかしら」


「あ、聖女さま」


「ミーフィアって、呼び捨てでいいわよ」


 部屋に入ってきたのは聖女ミーフィアだった。

 最近は式典のため、普段よりも仕事が多いらしい。

 その顔にも少しではあるが疲労のあとが見て取れた。


「でも年上っすから」


「別にいいのよそんなの」


 そう言うミーフィア。

 聖女、と言われるだけありその立ち振る舞いからは気品と優しさが溢れている。

 それに少し圧倒されそうになるパンコ。


「…さん付けでいいすか?」


「そちらの方がよびやすいのならね」


 パンコは妙に細かいことを気にする癖がある。

 とはいえ、パンコは十六歳。

 ミーフィアは十八歳。

 気にする気持ちも分からなくはない。

 部屋の椅子に座り、ミーフィアはパンコに尋ねた。


「パンコちゃんはキルヴァ様についてどう思う?」


「むずかしいっすね。何て言えばいいのか…」


 パンコはそう言った。

 もともと、そういうことには疎いのだろう。

 直接的に言葉で表せる人も少ないだろうし、仕方がない。

 ミーフィアはそう考えた。


「私はあの人のことが好きよ。とても…とてもね」


 そう言いながらミーフィアは彼との出会いについて語り始めた。

 元々名家の出身だったミーフィア。

 彼女は幼い頃から聖女としての資質を磨くための修行をしていた。

 しかしそれゆえに外界のことはあまり知らなかった。

 そして十五歳の頃、魔族の長の討伐のための旅のメンバーに加わった。


「ノリンちゃんとの出会いもその時でした」


「コロナって人ともすか?」


「ええそうね。アレは悲しい事件でした」


 魔物の討伐中に仲間を守るために彼は死んだ。

 激しい戦いの最中だったため死体を回収することもできなかった。

 ミーフィアはそう言った。


「へぇ…そうっすかぁ…」


「彼の犠牲があったからこそ、今の私たちがいるのです」


「ふうん…」


「コロナさんのことはこの三年間、一度も忘れたことはありません」


 何も知らないパンコが相手だからか、オーバーリアクション気味に語る。

 若干演技掛かった、先導者や役者のような喋りだ。

 だが実際はキルヴァ、ノリンと共に謀殺した相手。

 コロナのことなど、単なる邪魔者としか考えていなかった。


「当時の私は箱入りの娘で世間のことを何も知りませんでした。あの方は私を一人の女性として見てくれた。聖女なんかでは無く」


「ミーフィアさんにもいろいろあったんすね」


「ええ。まあね…」


 そう言うミーフィア。

 と、そこに部屋の外から声がした。

 それは…


「二人ともいるー?」


「あ、ノリンちゃん!」


 部屋に入ってきたのはノリンだった。

 以前キルヴァに買ってもらったアクセサリーを身に着け随分と上機嫌な様子。


「この前出かけた時に彼に買ってもらったの」


「あらあら」


「いつもいろいろ買ってくれるんすか?」


「うん!パンコちゃんも買ってもらったら?」


「いやぁ、ウチは特に欲しいものもないっすから」


「レイスに買ってもらうの?」


「いや、ちがうっすよ」


 パンコは物欲自体があまりない。

 もちろん全く欲がない、という訳でもない。

 しかしノリンの様にたくさんの物を買う、ということ自体に興味が無いのだ。

 実家が資産家なので大抵の物はすでに足りている、というのもあるのだろうが。


「パンコちゃんの実家ってお金持ちなんでしょ?」


「…まぁそうっすね」


 他人からそう言われるのはあまり気分がいいものでは無い。

 その言葉を聞き、珍しくパンコが不快感をあらわにした。

 金持ちを鼻にかけていると思われたくないからだ。

 例えそれかがそれがノリンといえど。


「パンコちゃんにだから言えるけど、実は私って…」


「ノリン?それは…」


「いいのミーフィア。実は私は…」


 キルヴァの仲間としてのノリンは、とある貴族の娘であると言われている。

 しかし実際は違う。

 元々彼女は、単なる平民の娘だった。

 いや、それ以下の娘だった。

 貧しい町の出身であり、親にも捨てられ孤児として育った。

 親の顔も知らず育った彼女。

 旅の中でキルヴァと関係を深めていく内に、彼からその地位を貰ったのだという。


「だから子供の頃は遊ぶ間もなかったわ」


 コロナと共に旅に出るため、仕事の手伝いの傍らに剣と魔法の修行に明け暮れていた。

 当時はそれでも全く苦にならなかったが、今考えるととても耐えられた生活では無い。

 思い出しただけでも忌避感、嫌悪感が体を襲う。


「けど今は違う。こんな豪華な屋敷に住めて、なんでも買える。なんでもできる!」


「ノリンが私とキルヴァ様以外にその話をするなんて、珍しい…」


「久しぶりの『お客さん』だったからね」


 そう言いながらノリンがパンコの身体に手を伸ばす。

 服の下に手を入れ軽くまさぐる。


「ひうぅ!?」


「ずっとここにいていいのよ…パンコちゃん…」


 三人が話しているその間。

 この屋敷の主であるキルヴァは自室にいた。

 …自身の雇った密偵と共に。


「キルヴァ様、あのレイスについて情報が入りました」


「どうなった?」


 キルヴァの雇った密偵。

 それが伝えに来たのはレイスについてだった。


「はい、調査中に事故にあい行方不明とのことです」


「そうか、へへへ…」


 それを聞き不気味な笑みを浮かべるキルヴァ。

 これでレイスはしばらくは戻ってくることは無い。

 いや、生死不明の状態なのだ。

 もしかしたら死んでいるかしれない。

 その間にパンコを自分の物にすることができる。


「…生死の確認はしなかったのか?」


 コロナのこともある。

 生死確認は重要だ。


「私が直接調べたのではなく、現地の調査班が確認したとのことです」


 調査中のレイスは賊と出会い交戦。

 その最中に激流に落下して行方不明となった。

 密偵はそう言った。


「あの辺りの川は激流です。落ちればまず無事ではいられないと…」


「…わかった。戻っていいぞ」


「は…」


 そうとだけ言うと密偵はその場からすぐに姿を消した。

 レイスは行方不明となった。

 後々に適当なゴロツキを雇って襲わせようかとも思ったがその手間も省けた。

 直接確認ができなかったことだけが気になるが、川に落ちたのはどうやら本当らしい。

 これで心置きなくあの女…

 パンコを…


「また変なこと考えてますねぇ…」


「お前は!?」


「お久しぶりです。旅の黒魔術師さんですよ~」


 風と共に部屋に入ってきたのは、あの黒魔術師の少女だった。

 相変わらず黒装束で身を固めている。

 しかし、仮にも勇者であるキルヴァがその気配を全く探知できなかったのだ。

 この少女は一体何者なのか…?


「今日は勇者サマにあることを伝えに来ました」


 以前の様に不敵な笑みを浮かべる少女。

 キルヴァを小ばかにしたような慇懃無礼なその態度。

 小柄な少女にそのような態度をとられ、怒りの感情が出るも何とか抑える。


「…話せ」


「あなたのお仲間だったコロナさんの居場所を突き止めました」


「本当か!?」


「ええ。藩将ガレフスからの伝言です」


 嘘だ。

 ガレフスはこの少女によって討たれている。

 彼女はその死を偽装し、ガレフスが今でも生きているかのように見せかけているのだ。

 黒魔術師である彼女ならば、その程度は造作も無いことだった。

 しかしキルヴァはそんな事情は全く知らない。

 藩将の地位にある男からの言葉と聞き安心したのだろう。


「どこだ?」


「ミッドシティ、昔は山林事業で栄えた町と聞きました」


「なるほど、ミッドシティか…」


 ミッドシティ、キルヴァも名前は聞いたことがある町だ。

 そんなところに隠れていたのか。

 少し遠いがいけぬ場所では無い。


「とはいえ、さすがにもう町を出ているかもしれませんがね」


「あの辺りは一本道だったはずだ。次の町で張っていれば会えるはずだろう」


「まぁ、そうでしょうね」


 そして続けて少女は言った。

 コロナが革命軍と何らかの取引をしていた、と。


「確かにあの辺りは革命軍の支部がある場所だ。国の手が届きづらい場所だからな」


「これはチャンスじゃないですか?彼を合法的に始末する…」


 革命軍との繋がりがある。

 それを突けば今度こそコロナを始末できる。

 黒魔術師の少女はそう提案した。

 当然、それにのらぬキルヴァでは無い。


「成程、いい案だ…」


「ふふふ…」


「今は味方っていうのもどうやら本当みたいだな」


「おやおや、鵜呑みにしていいんですか?実は私はコロナさんの差し金で、貴方を騙しているかもしれないんですよ?」


「俺は勇者だぞ。ある程度は人の心の真贋を見切れるつもりだ」


「ふふふ、そうですか」


 藩将ガレフスの死を見抜けぬその眼にどれほどの価値があるのか。

 黒魔術師の少女は内心そう思いつつも話を続ける。


「そうなれば、することは一つ…」


「ああ。今度こそアイツを抹殺してやる…!」


 キルヴァというカードを切る少女。

 その目的は…?

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