第四話 新たなる旅立ち
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用心棒のゴルドーを倒したソミィ。
しかしそんな彼女を通すまいとバーツの従者である黒装束たちが立ちはだかる。
刀を構えつつ、様子をうかがう。
それに合わせ黒装束たちもサーベルを構える。
「通さないつもり…?」
黒装束も武器であるサーベルを構えてはいる。
しかし顔が見えないため攻撃の意志があるのかが分からない。
単なる牽制なのか、斬りかかろうとしているのか。
それとも…?
「けど…」
黒装束に悟られぬよう、視線を一瞬逸らすソミィ。
その視線の先にいるのはファリナ。
黒装束に見つからぬよう、彼女は物陰に隠れていた。
それに黒装束は気づいていないようだ。
「そのままだ」
「わかった、通すなよ」
「ああ」
幸いなことに、黒装束の意識は今のソミィに向いている。
ファリナの方には向いていないようだ。
何とか彼女をこの場から離すか、そうも考えた。
だがこの状況では難しい。
それに黒装束の仲間が村の方にいないとも限らない。
今ここにいるほうが安全だろう。
「く…!」
そうしているうちに、周囲を囲まれるケニーとソミィ。
バーツと無数の黒装束。
全員が武器を構える。
用心棒のゴルドーは倒れたが、まだ数では勝っている。
彼らはそう考えているのだろう。
「ケニーくん!」
「ソミィちゃん!」
「「相手交代!」」
背中合わせのケニーとソミィ。
二人が相手を交代。
ケニーが黒装束の集団を。
ソミィがバーツを相手にする。
「後は任せて!」
「助かるよ、俺はこいつらを!」
コーツのもとで剣術を学んだケニー。
確かに腕は立つ。
しかし所詮は『強い一般人』の枠は出ない。
あのままバーツと戦っても勝つことは難しい。
他の黒装束とは違い、バーツという男は確実に強い。
「邪魔をするな!」
バーツがその声と共に斬りかかる。
それをそのまま受けるソミィでは無い。
かつてソミィを守ってくれた人。
その彼に追いつくために身に付けた技。
彼が学んでいたものと同じ剣術。
「お願い、『五光姫狐』!」
バーツの攻撃をその刀で受け流す。
あの人から受け継いだ刀。
極東の名工の手により生み出された至高の刀で。
「なぜあなた達は勇者制度復活を狙うの!?」
かつての勇者制度、それはテルーブ王国の暗部。
二度と存在してはいけないもの。
事実、今の歴史書には初代勇者であるカーシュしか掲載されていない。
二代目のコーツの名は消されている。
キルヴァは勇者の名を騙った偽物としてのみ書かれている。
「あの方の…!勇者キルヴァの名声を正当なモノにするため!」
「なんであんなヤツのためにそんな…!?」
「あの方こそが『真の勇者』だからだ!」
バーツのその叫び。
それには一切の嘘偽りも、建前も感じられなかった。
ソミィは理解した。
このバーツという男、彼は『本気でそう信じて戦っている』、ということを。
「この私の命を、あのお方は救ってくれた!それを勇者では無くなんと言う!?」
「ッ…!?」
「ふ、これ以上話しても無駄なようだな…!」
そう言いながら、バーツは取り出した煙玉をさく裂された。
辺りが一気に煙に包まれる。
視界を奪い攻撃してくるか、そう考えるソミィ。
刀を構え、いつでも攻撃を放てる体制をとる。
しかし…
「ここは一旦引くことにしよう…!」
「ま、待って!」
「またいずれお会いしましょう、ファリナ様!ふははははは!」
煙が晴れた時、黒装束の集団とバーツの姿は消えていた。
後に残されていたのはファリナ。
ソミィとケニー。
そして先ほどソミィにやられ、気絶したゴルドーだけだった…
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バーツたちとの戦いから数日が過ぎた。
あの周囲一帯やクレセントコーツの村の中を調べたが、バーツたちの痕跡は出てこなかった。
唯一の手がかりは彼らが雇っていた用心棒のゴルドー。
しかし彼自身も大金で雇われただけ。
バーツたちのことは何も知らなかった。
「結局わからず仕舞い、か」
「ごめんなさい、あたしのせいで…」
「ううん、ファリナちゃんが悪いんじゃないよ」
クレセントコーツの村の入り口。
そこで会話をするファリナとソミィ。
ソミィは数日間この村に滞在していた。
そんな彼女が再び旅に出るという。
…ファリナを連れて。
「本当に行くのか?」
「はい、コーツさん」
村の入り口には10人ほどの人物が集まっていた。
ファリナの親代わりのコーツとノート、友人たち。
ケニーとマリス…
ソミィとファリナが旅に出ると聞き、見送りに来た者達だ。
「この数日、お世話になりました」
「すまない…」
「いえ、これも風の声のお導きですから」
「運命、という訳か」
「私は民の丘を通ってここまで来ました。だから…」
そう言って深々と頭を下げるソミィ。
この数日、世話をしてくれたコーツとノートに礼を言う。
多くの言葉はいらない。
僅かな言葉で彼らは全てを理解できた。
「ほら、ソミィちゃんこれ!」
旅の荷物を纏め、彼女に渡すケニー。
食料の補充などは済ませてある。
コーツとノートが用意した金銭も入っている。
急場は凌げるだろう。
「俺も後で必ず追う!」
「うん!待ってるよ!」
ケニーのその言葉に対し、笑顔でそう答えるソミィ。
そう言ってソミィは再び旅立っていった。
その傍らにファリナを連れて。
海の向こうの大陸からソミィと共にわたってきた馬。
今の彼女の愛馬に乗って。
「行ってしまいましたね…」
「ああ…」
それを眺めながらノートとコーツが呟いた。
いつかこんな日が来るのは分かっていた。
ファリナはキルヴァの娘。
普通の日常は送れない、ということを。
コーツとノートはそれを覚悟の上で赤ん坊のファリナを引き取った。
あの二人もそれは理解していたのかもしれない。
「やはり我らが行くべきだったのではないか?」
「いえ、任せましょう。新しい世代の者たちに…」
数日前、バーツとの事件を聞いたコーツとノートは言った。
我らがケリをつける、旅に同行すると。
しかしソミィはそれを断った。
いくら元勇者と聖女はいえ、すでに引退した老体の身。
いきなりの長旅にはついていけないかもしれない。
「あの子達は言ってくれた。『赤ん坊に罪は無い』、と…」
ノートのその言葉。
それは風に溶けて消えた。
村を出て歩みを始めたソミィとファリナ。
彼女たちにその言葉は届いているのか、いないのか…
「あの、ソミィさん…」
「ん、どうしたの」
「なんでソミィさんは戦うの?」
「う~ん…みんなが好きだから、かな」
かつてのソミィの境遇、それは最悪の状態だった。
両親も知らず、孤児として生きていた。
そこを盗賊に囚われ、奴隷同然ともいえる生活を強いられていた。
しかしそんなとき、彼女はかつての仲間たちと出会った。
彼らについて回るうちに、ソミィはいろいろなことを学んだ。
多くの人々と出会った。
様々な出来事に遭遇した。
「いろいろあったけど、私はこの国が好き!ファリナちゃんは?」
「あたしもすきです。おじさんたちも、友達もいるから!」
「よかった」
ソミィの大好きな、今のこの国。
あの戦いの後の改革で近代化に成功し、古い制度は随分と撤廃された。
しかしあの時代の遺物は今でも残っている。
かつての王政や勇者制度を復活させようと企む者達が…
「ソミィさん、まずはどこに行くんですか?」
「昔の知り合いのところ、かな。そこなら安全だから」
笑顔でそう言うソミィ。
どうやら彼女の話だと少し遠くにその知り合いはいるらしい。
少し時間がかかるかもしれない。
彼女はそう付け加えた。
「大丈夫、あのバーツって人たちには絶対手を出させない」
バーツの所属する組織、それはかつての利権を忘れられぬ者達。
時代の移り変わりに対抗できぬ者が、国の中で小さな争いを起こしているという。
状況だけならば、かつての『反乱軍』と似てはいる。
しかし一番の異なる点は民衆の支持を全く得られていない、というところだろう。
そのため、もっぱら危険な組織として認識されている。
「私が貴女を必ず守って見せるから」
この村にいればファリナは再び狙われる。
それに彼女はもっと大きな世界を見たほうがいい。
近代的でグローバルな価値観を身に付けるため。
この国だけでは無く、もっと、もっと、もっと…!
「ありがとうございます!」
もしファリナが敵の手に落ちたら…
バーツたちは、ファリナを神輿として担ぎ上げるだろう。
かつての制度を復活させるために。
そんなことは絶対にさせない。
「必ず守って見せる…!」
ソミィが持つ三つの長物。
二本の剣と一本の刀に誓う。
かつてソミィが憧れた、あの人たちがそうしたように。
「私たちが大好きなこの国…その未来を…!」
この後、彼女たちは様々な戦いを経験することになる。
多数の楽しいこと、辛いことを。
しかしそれはまた、別のお話…
あと一話だけ、続きます