俺、なんかやっちゃいました?
俺は 小野行長、平均的な高校生……だった。
だったというのも俺が高校に入って一年、特に目立つ生徒だった記憶は無いし、別にここは異世界ではないし俺は死んだことがない。
「ユキさんおはようございます! お元気そうで何よりです!」
コイツは美少女ではない、歴とした男のクラスメイトである。なぜ舎弟のような言葉遣いなのかさっぱり分からない、去年は普通の関係だったはずなのだが……
「おはよう、その言葉遣い辞めてくれないか?」
「いえ、アニキに失礼な言葉は聞けません!」
「さよか……」
ちなみにであるが、俺は全くモテない。去年高校入学で過去のロンダに成功してウキウキの学校生活を夢見ていたのであるが悲しいくらい縁が無かった……
それはまあいいのであるがなぜかみんなに一目置かれるようになった今年から今までより距離を置かれている気がする……去年は世間話くらいする女の子がいたのであるがなぜか始業式以来ほぼ話しかけられない……なぜだ……
キーンコーン
授業が始まる、特に成績がよいわけではないが落ちこぼれてもいないので指名されない程度に空気な存在になろう。
またチャイムが鳴り昼休みになる、今日も来るかな?
「おにいちゃーん! 愛する妹が来ましたよー!」
昼休みに入ると同時に金髪の女の子が入ってきた、今の俺と話をする唯一の女子、それが「妹」だ。
「はいはい、誤解されるようなこと言わない」
コイツは成実、この一言で分かる程度に重度のブラコンだ。
「なあ……高校に入ってから毎日俺のクラス来てるけどさ……友達いないの?」
「まさか! いますよ! でもお兄ちゃんが優先ですから」
こんな調子なので俺はクラスで浮きまくっている、兄妹そろっていると話しかけられることはほぼない。
「お兄ちゃんは友達っていないんですか?」
おおっと会話のデッドボールが飛んできたぞ、頭を狙ったビーンボールだ。
「ししし失礼な! ちゃんとおるわ!」
「参考までに聞いておきますけど誰ですか」
成実の目から輝きが消える、死んだ魚の目で俺に聞く……怖い……
「ごめんなさいフカシました」
「まったく……お兄ちゃんには私がいるんだから強がらなくても一人にはならないですよ、そこは安心してください」
不思議と心地いい、これがバブみってやつだろうか? いや、妹相手にバブみとかやべーよ。
「お兄ちゃん……なんだかとてもやましいことを考えてませんか? 私はそれもバッチコイですが」
という妹との他愛もないやりとりをした後成実は自分のクラスに戻っていった。
それと同時にチャイムが鳴り昼休みが終わった、俺は昼休みいっぱいを妹との会話に費やしていた、まあ……便所メシよりマシか……
しょうもないことを考えていると午後の授業が始まった、そこで俺は教科書を忘れていたことに気づく。
あちゃー忘れたよ、しゃーない隣の人に見せてもらおう。
「あの……浅野さん、教科書忘れちゃったんだけど見せてくれない?
「ひっ!」
明らかにクラスメイトにするリアクションじゃない反応が買ってきた、隣の浅野さんは何か考えた様子で少しして……
「貸します……」
「えっ? いや見せてくれればいいんだけど……」
「いえ、私は隣の人に見せてもらうので使ってください」
そんな嫌ですか……
こうして俺は午後の英語の授業を乗り切った、とはいえあの反応には傷ついたが……
走行している間に下校時間だ、別に部活に入っているわけでもないし帰るか……
「お兄ちゃん! かわいい妹が来ましたよ! 一緒に帰りましょう!」
何やら「!」マークがいくつも見えそうなテンションで成実が入ってきた。
「帰るか……なあ……昼は俺に友達いないの?って聞いてたけどそういう自分はどうなんだ?」
「失敬な! 私はちゃんと友達くらいいますよ。まあお兄ちゃんが優先なんですけどね」
憤った風に成実が言う、この年頃は家族に反抗するのが一般的らしいがうちの妹様には当てはまらないようだ。
夕日の帰り道を二人で家に向かって歩く、さすがに手をつないだりはしないが見方によってはカップルに見えなくもないのだろう。
二人で家路を歩きながら、ふと「俺たちが兄妹で仲ったら」などというせんない妄想を浮かべる。
伸びる影には悩みがない様に足下から伸びていた。
「お兄ちゃん、愛してますよ」
成実が唐突にいつもの台詞を言い俺の腕に自分の腕を絡めて体をくっつけてくる。
ドキドキしないと言えば嘘になるが妹である、あくまでも妹なのだ。
影が一つになりさらに伸びる、夕日は山に突っ込もうかと言うくらい下の位置にあった。
「なあ……俺たちはちゃんと生きていけるのかな? 時々不安になるんだ……いずれ俺か成実が家から出たときにさ……」
言葉は最後まで続かなかった、ただ隣からは嗚咽が漏れてきて俺は不安を増やすだけだった。
家に着き、もう成実の嗚咽も泣きはらした目もすっかり元に戻っていた、とはいえ俺はさっきの後にひたすらお説教をされたのではあるが。
「ただいま」
「ただいま」
俺たちが家に入ると夕食の準備がしてあって「レンチンして食べてね」とポップなフォントでメモが貼ってあった。
「二人ともラブラブだねー」
両親はいい年して我が世の春を謳歌しておりしょっちゅう俺たちを置いて出かける、無責任だと糾弾する気は無いが成実のブラコンはこの辺から来てるんじゃないだろうか。
「ふう、まあメシにしようぜ、今日は、酢豚か」
「パイナップルをいれないあたり分かってるよね」
「そうか? 俺は別にいいと思うんだが」
俺は二枚の皿に酢豚を分けてレンジに入れる。
ブーンと音を立てながらターンテーブルが周り、マイクロ波が酢豚を温める、言いようのない不安はすっかり消えて食事へ意識が向かっていた。
こうして俺たちの一日は終わる、特にイベントは無い普通の一日だった。




