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新説 六界探訪譚  作者: 楕草晴子
86/133

10.第〇界ー4

サーッと血の気が引いていくのが自分でわかってしまう。

相手はそのまま微動だにしないけど…どう来る?

次の瞬間。

瞬きもせずサッとそのまま軽く敬礼するように右手を額辺りに翳し、軽く前にふりだしながら、左手でパイプを落ちないように軽く挟んで挟んで。

ニヒルな笑みを浮かべたその人は、また元のように列になったファン(?)の相手に戻っていった。

え? え? え?

「言ったろ、ここは大丈夫だって」

大丈夫ってそーゆー意味?

だったらだったでちゃんと言ってよ。それ大事だからさぁ…。

ホッと一息付いたところにいつものコウダ補足情報。

「あれは俳優さん。名前は…なんだっか…あー」

おいおいあんな嬉しそうにしといてわかんないのかよ。

「確か高い豆と同じだったはず…。

大納言? いやもっと短かった気が…。

『あっち』だとここにはいないはずの人のうちの誰かなんだけど…」

唸るコウダを放置してグラウンドと周りを見回す。

親子でワイのワイのする姿もあり、びしっと体操座りする姿もあり。

誰もケンカとかはしてない。

てか自分のやりたいことをやるので手一杯胸一杯な模様。

大玉転がしは皆体格がイイやつばっかり出場している。

そういや矢島、あの競技の一番の敵は左右の他のクラスの奴等じゃなくて玉だって言ってたな。

身長が低くてつらかった奴はそれが未練になるんだろう。

「ボク、今日お父さんお母さんは?」

俺とコウダが居る保護者席じゃなくて、通路を挟んだ隣で成されたこの問い掛け。

生徒席の間からはそれに対し、

「いえ、今日は、僕一人なんです!」

「私も!」

「俺も!」

あれ? 嬉しそう…?

でも声が元気な割に、声の主は皆明らかに顔色が悪い。

なんつーか今にも倒れそうな。

「昔は親なんて見に来てたら恥ずかしかったからな。

でも病弱だとそもそも出られない事が多い上、出場できても危ないから親が絶対来る。

親に来てほしかった奴もいる。親が来ないで大丈夫になりたかった奴もいる。

行ってあげたかった奴もいれば、行かないであげたかった奴もいるってこった」

ついこの前俺も似たようなこと考えたけど、やっぱそういう奴いるんだ。

先生達はそんなん構う暇ないとばかりにばたばたしてるけど、やっぱり泣いてたり楽しそうだったり満面の笑みだったり。

もしかして先生になりたかった人とか? 多そうだなぁ…。

その先生の一人のすぐ横で、おっちゃんがむちゃくちゃデカい撮影機材を組み立てている。

周りの誰かがわぁっと声を上げた。

「ビデオカメラ!?」

「えーーー!! ホンモノ!?」

わらわらと集まる子供と羨望の眼差し。

でも向こうには同じような人だかりが、写真撮影用のカメラーーにしてはデカいーーに集まってる

あんなデカいカメラ…うん? もしかしてフィルムカメラ? 博物館かよ。初めて見たあんなの。

時代に応じてやりたかったこととか欲しかったものが違うってわけね。

デジカメどころかスマホで足りるし、むしろ常日頃何時何所行っても自分で自分達撮ってる奴がいる現代。

写真って別に何時でも撮れるしありがたがる気持ちって全くわかんないけど、昔はあんなんだったんだ。確かに持ち歩くのは無理だなあれじゃ。

普通に人だかり無しでスマホとかケータイとか、もっとちっちゃいカメラやビデオカメラっぽいので撮影してる人もいる。

でもそんなのもたずに応援に精を出してる人もいる。

日傘にサングラスを外さずにじっとしてる人もいる。

体操座りしてるのも…とにかくいろいろだ。

くっちゃべってたり親に絡み付いたり友達ともちゃもちゃしたり。

「ウルスラこれ絶対似合うって」

金髪で青い目で三つ編みの女の子。

桜の花のついた髪飾りを着けてあげてるのは友達だろうか。

「やーー! かわいい!! 超似合ってる!!

やっぱ日本人には桜だって!」

三つ編みの女の子は髪の左右の先っぽの飾りに指を添え、愛しげに見つめた。

四月一日がハーフ差別の実情について愚痴ってたのを思い出す。

曰く、出稼ぎ労働者が多いこの界隈だとそんなに目立たないけど、田舎のやや人口密度低めのとこだった小学校転校前まで親ごと完全に除け者だったとか。

『「四月一日さん」じゃなくて、「あそこんちのガイジンさん」だったからね。

大人でさえそんなんだから、小学生は? って話でさ。

体育の着替えんときは特にひどかったよね』

普段話の流れとか状況をきちんと話す四月一日が水泳の着替えについては内容を喋らなかったあたり余っ程だったんだろう。

あの女の子も…。

そうかと思えば、あっちで後ろ頭を手でさすりながら、照れくさそうにする男の子。

「えー! 山田君、ハーフなの!?」

「え? え? 国どこ?」

「中国と日本」

「ほんとに〜! じゃ、中国語喋れるんだ!!」

呪文のようにちんぷんかんぷん唱えると黄色い歓声が上がった。

そっか、あの子みたくアジア系だと見た目わかんねぇからなぁ。

さぞモテたかったんだろう。

『巷の「ハーフ」のイメージってすげえストライクゾーン狭いもん(by四月一日)』。

砂煙が舞う中、騎馬戦の野郎どもは熱い戦いを繰り広げている。

いる人みんな楽しそうで何よりなんだけど。

見ている側としてはちょっと疲れたな。

てか立ってる必要なくね?

コウダはもうとっくにそう思っていたらしく、ザラ付いた地面に座って思いっきり脚を伸ばしている。

バカンス気分でいいのか。

ピンと伸ばしてた背筋の力が一気に抜けた。

膝を折り崩れるように尻から着地すると、砂地がズボンの裾から多少脚に入り込んだ。

借物競争でメガネを借りてきている奥手っぽい女の子の赤らんだ笑顔を観ながら声援をBGMにボーッとすると、この運動会が先日の体育祭にリンク。

そっから母さんが来た所までが順番に回想出来た。

コウダに次はこうするって言われて。

体育祭終わって。

家の掃除がされていって。

秋休み来て。

母さん来て。

晩飯食って。

映画館行って、ご飯食べてきて。

3人で家でピザ取って食べたりして。

あとは…。

イライラした。そうだ。

回想、ここでやめとこ。

改めてグラウンド。

赤と白の玉が二つの籠の周りで様々な曲線を描いて飛び交っている。

コウダもそれを眺めてボーッとしてて。

一休み、ということだろう。

いつもなんかしてるからな。

あれ? でも。うん?

よくよく考えると俺、コウダの事って未だにあんま知らないような。

俺が知ってるコウダって?

その1. 通称『コウダ』。本名不明。

その2. 30代半ば。だったはず。

その3. 俺のいるこの世界(『こっち』)の平行異世界(『あっち』)の人。

その4. 彼女あり。同棲中。

その5. 借金あり。

その6. プロの泥棒。『あっち』から『こっち』の人の『中』に入って物を盗ってきて売るのが仕事。

その7. 説明したがり。時々狡い。大人。

その8. 俺のことは調べたらしくよく知ってる模様。

箇条書きにすると意外と数あった。

けどコウダのとこ知ってるって言えるレベルかっていうと、う〜ん…。

あのリストの同クラのやつらより、いやそれどころか親父や母さんより余っ程顔合わせて喋ってる気がするんだけど。

その割に情報少ないよな。なんでだろ。

玉入れの籠が片づけられると、今度は騎馬戦のようだった。

ああ、そうか。

思い至って納得した。

喋ってるって言っても、全部打ち合わせ。

だらっと話す機会って無かったよな。

この前母さんに思い切って聞いてみて、色々初耳情報採れてスッキリしたってのもあったし。

もしかしたら、聞いたらちょっとだけ、今まで思ってた『なんで?』は解決するかもしれない。

「コウダ」

左右に並んだ二段の人間の塊がぶつかり始めるのを見て勇気づけられた好奇心。

コウダは目だけこちらに向けた。

「コウダって、なんでこの仕事してるの?」

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