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新説 六界探訪譚  作者: 楕草晴子
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9.閑話休題ー13

「まこ…母さん、目、細いだろ」

うん。そーね。俺もだけど、基本『開いてる?』って感じだよね。

「垂れ目で、昔からで」

そりゃそうだろ。整形して糸目にするなんて聞いたことない。

「笑うと線みたいになってふにゃっとしてな」

うん。

「で…」

うん。

「だから…」

うん。早くして。

「かわいいなぁ、と…」

もごもごもご…。

その場で胡座のまま前屈して顔を隠す親父。

眼下に、っていうか限り無く俺の爪先近くに来ている整髪料で申し訳程度に整えた油っぽい後頭部。

ほんのり漂う加齢臭。

筋ばって赤らんだ耳と首筋。

全くその姿勢から動かない親父。

思った。

き。

キモっ!!!

きもすぎだお!!!!!!

全身が総毛立ちそうな悪寒と吐き気。

川藤さんの『中』とは違う。

リアルでのリアル親による直球親ネタ。

やめてくれよまじで!!!!

息子である俺の嫌悪感ーー下唇を上の歯で口の中に巻き込んでなんとか口から出さずに押さえ込めているだけのーーをよそに、親父はばっと力強置く上半身を持ち上げ、さらにずずいと俺に迫った。

目がでかい。

怒ってる時のあのサイズに迫る勢いだ。

「で?」

瞬き、動きなし。

親父が近すぎて俺も動けないから、こっちも、動きなし。

「まことは?」

え? えっと?

先日からの掃除と仕事で寝てない充血した目は気持ち悪さで弱りきった俺を今にも射殺しそうだ。

「だから真…ああ、悪い。母さんは?」

ああ、母さんか。名前で呼ばれると一瞬わかんないや。

待ち構える親父は鬼気迫る表情。

そんな期待するような答えじゃないんだけどなぁ。

でもまあ、確かに聞いたからいいか。

「母さんは」

ごくり、と生唾をのむ親父。

なんか申し訳ないけど、言うしかない。

せーの。

「『なんとなく』だって」

その瞬間、目の前のおっさんはカチリと固まって。

そして。

わなわなと腕が震え出す。

え?

あ、あぁっと、もしかして?

カッと見開いた目と、眉間に寄ったシワ。

白目の血管が一部切れている。

まずい!!

「それじゃねぇよーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

家がびりびり振動した気がする。

テレビの音くらいじゃ全く消えてない雄叫び。

てか、えっ?

なんで????

聞かれたことフツーに答えただけじゃん??

そこまでキレるこっちゃねーだろ。

親父は無理矢理落ちつけた声で続けた。

「それは、俺も、聞いたこと、ある!!」

え? あんの?

じゃそもそもなんで俺にまた聞いたの??

エネルギーを使い果たしたのか放心する親父。

「どーしたの!?」

びっくりしたらしくーー当たり前だーー飛んできた母さんの不安気な顔を眺める親父。

その放心は半泣きに近付いた。

悟られまいとしたのか、急に立ち上がってずんずん台所の奥へと分け入り、お菓子の棚の脇へ。

あ!

取り出したのはあの、まだ冷えてないコーラ。

ずっとダイエットということで封印していた0カロリーじゃないフツーのやつ。

いいの? 常温だよ? 微温いよ? しかも、すっごく甘〜いよ?

どんっ、プシュッ

乱暴に持ち上げたせいか、俺の気のせいか。いつもよりも『プシュ』が大音量のような気がする。

荒ぶる親父はさらに冷蔵庫を開け、母さん作のレモンタルトの残り半分を取り出した。

え。待って。まさか?

そのままそれを手に取って端っこから直で齧り付く。

う、うわぁ…。もったいねぇ…。

だいぶ久し振りに見た親父の甘味自棄食い。

いつもながらコーラにケーキなんてよくやるなあ。

母さんも見慣れてるからびっくりはしないものの、首を傾げている。

テレビのお笑いは佳境。

親父の険しい一口一口はまた一段大きくなった笑い声と効果音をバックにちょっとしたドラマのようだ。

母さんがこっちに来てこそっと。

「何喋ってたの?」

向かいで口元に手を添えてそう一言する母さんの背後から、俺を見る親父の目が光った。

ビタッと自棄食いの手を止めて。

さっき叫んだ時の形相と同じ顔。

コ、コワイ…。

中学にもなって親父ごときに怯んでどうすると言われるとその通りなんだけど、それでも怖いもんは怖い。

「ねえ、教えて」

母さんがずずいっとこっちに顔を寄せてくるのを避け、必死に首を横に振る。

向こうからのオーラは治まる気配がない。

「ん〜? そういうこと?」

母さんが親父の方を向くと、親父は俺を睨んでたのなんて何処吹く風。

また自棄食いモードーーを装ってるだけか?ーーで残りのレモンタルトをむしゃむしゃむしゃ。

こりゃ今のうちだな。

「ご馳走様。宿題あるから」

えー? という母さんの変な声を階下に置いて一段とばしで狭い階段を上ると、いつもの俺の部屋になる。

あーよかった。

でもどっかで聞きだしたネタ母さんに喋らないとケーキは食えないからな。

どうしようか。

しかし。

やっぱ今回もかぁ…。

母さん襲来の一番面倒なところ。

それは親父と母さんの間に挟まれることだった。

しかも二人共、確信犯。

ほんといい年こいて二人してやめてくれよ。

単体でもめんどくせえってのに。

これまではじいちゃんという緩衝材があり、俺も多少愚痴ったりしてたんだけど。

『子はかすがいっていうしなぁ』

かすがいって? と聞くと、じいちゃんは奥の院から自分が仕事で昔から使ってた大工道具類を取り出し、さらにその箱の中をほじくって見せてくれた。

コの字型の金属製のそれ。木材を止めるのに使うんだそうだ。

この家も俺が建てたんだぞーと話ついでに自慢してたなぁ。

だから親父も残す方向にしたんだろう。

確かに大工としては自分で建てた家に住むってドリームかも。

それはさておき、つなぐのに使うと聞いたとき、

『もう離婚したのに?』

『そこが男と女ってやつよ。

ふふ…お前にゃ災難だろうがそのうちわかる…かもな…うフフフ』

突如脳裏に出現した雲形の吹き出しの中で頭に輪っかを乗せたじいちゃんは、親指を立ててニヤリとし、吹き出しごと消えた。

うーん…。

じいちゃん、俺、まだわっかんねぇわ。でもって、もしかしたら一生わかんねぇかもだわ。

だって今の親父と母さん、俺で繋がってるっていうより、俺にもたれてる感じじゃね?

かすがいの画像を思い出す。

あんなのに大の大人二人がもたれ掛かったら。

もたれ掛かった側に刺さるか、そうじゃなきゃ、かすがい側が曲るか折れるか倒れるか…。

二人に押し潰されてきゅうっと潰れ、漫画みたいに目がバッテンになった自分を想像するのは簡単で。

それを避けるべく、数学のプリントを取り出した。

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