表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新説 六界探訪譚  作者: 楕草晴子
79/133

9.閑話休題ー10

「んー…」

緊迫の瞬間…。

かと思いきや。

「なんとなく」

「え?」

ちょ、ちょっとちょっと!

いいのかよそんなんで。

渋るかと思ったのに渋られなかったのはありがとう。

だけど、それ理由じゃないんじゃね?

レモンタルトをもぐもぐしながら、お行儀悪く続ける母さん。

「いや、ね。

その人とお付き合いしてて、暫くたって、なんかこう…だんだん会う頻度が減ってね。

…んぐっ。んっ…我ながらおいしい…。

俗に言う自然消滅してきてるのかなーと思ったところで呼ばれた飲み会に宏海が来てて。

どうかなーって感じでこう、なんか、だんだん、ね」

わからん。

何がわからんって、全般的に。

料理に関しては破滅的な才能のなさの母さんが、あのレモンタルトを作れるようになるほどの熱量を持ったにも関わらず、それがだんだん0に寄ってっちゃう意味もそうなる過程もわかんないし。

親父と会ってからそっちの熱量がだんだん増えてくのもわかんなきゃ、得意料理使いまわしてちゃっかりした感じのゆるーいノリなのに、それで結婚して子供作ってるあたりもわからん。

母さんは俺の顔を面白そうにしげしげ眺めている。

きっと『?』がいっぱい書いてあるんだろう。

だんだん母さんは俺の顔や体や意志を通過して遠くの別のものに焦点を合わせていってるようだった。

「むしろ宏海のほうに私が聞いてみたいんだけどね、それ」

それって?

俺の目をじっと見ながら何を脳裏に描いているんだろうか。

淡々と話を続ける。

「私と何で結婚したのか。

何回か聞いたんだけど、教えてくれなくって」

薄笑いを浮かべながら目を伏せる。

離婚してて子育てにはほぼノータッチなのにちょいちょい親父の実家であるここを訪れるっていう謎の関係のせいか、俺的には母さんって世間でいうところの『お母さん』とはちょっと違った存在。

お母さんであるにはあるんだけど…。親しい親戚のおばちゃんと近所の女の人を足してきれいに3つに割った感じっていうのが近いかもしれない。

「真宏は聞いたことない?」

首を横に振る。

「そっかぁ…。

じゃ、もしどっかで聞いたら、教えてね。

そしたらあそこのカフェのケーキ奢ったげる」

まじで!?

一回か二回持って来てくれた超うまかったやつじゃん。

スカイツリーが見えるあの角の手前、あんな近くてガラス張りで、いつも学校帰りに店内が丸見えなのに、値段的に自分で買うって選択肢がない。

あれが見返りなら、ちょっとチャンス見てトライしてみようか。

スナック菓子とか市販の箱のお菓子のほうが基本的に好きな親父からは、金銭的にも絶対に出てこない提案だし。

「わかった」

よろしく〜と冗談交じりに笑いながら紅茶のグラスに口を付ける母さん。

自分がさっき口にした出来事などもうすっかり忘れるぐらい昔のことであるように、おいしい、と呟いて手元のレモンタルトをフォークで切り分ける。

そういやこの辺も実は色々変なんだよな。

母さんと親父って真逆だ。

母さんはカップ麺とかスナック菓子ってジャンキーなものはまず口にしない。

朝早くてもチャキチャキ仕事してるらしいし。

外に出るのは大好きで、母さんが来る休みの間って外出してばっか。

ニコニコしてるとこしか基本見たことない。

明るい性格? そういうんじゃない気がするけど、会った人に不快感を与えることってまずないだろう。

その上、弁が立って押しが強い。

これホント。

自分で理不尽なこと言ってるのが分かってるくせに、嫌だっていったらもう絶対に嫌だし、やるって言ったら絶対にやる。

ちゃっかりうまく丸め込むみたいなことのほうが多い気がするけど、それが無理ならもう力技で外堀から全部逃げ道を塞いで、相手が首を縦にしか振れない状態に持って行く。

それも、『そうしたい』って思ったから、なーんていう雑な理由でだ。

じゃ、親父は?

親父だったら、屁理屈つけたり無茶苦茶な事いったりしてごまかしながらケチつけて嫌だって言ったりやるっていったりぐちゃぐちゃして主張する。

で、ちょっとすると忘れてる。

根っこは単にイライラしてただけ、とか。

理由が雑なのは一緒だし息子的にそれはそれでめんどくさいんだけど、親父の方は一過性のもの。すぐに去ってくれる。

あと、仕事は朝早いけど、休みの日は昼からしか動かない。そして家から出ない。俺が中学入ったらますます出なくなった。

そんなふうに家にずっといるのに、喋んないわこっちが何言っても顔変わんないわ。

二人で話しても押したり引いたりって事態にならない。

自分のことみたいで嫌になるけど、もう『辛気臭い』を絵に書いたような人、それが親父だ。

『なんとか言えよ』ってこっちが言うと、『てめえだっていつもダンマリだろーが。お互い様だ』って突っ返されて黙ってしまう。間違ってはいないからタチ悪いんだこれが。

そのくせ、この例然り、小学校のころはそんな気にして無かったんだけど、喋ったら喋ったで結構口が悪い。

今思えばじいちゃんもあんまり上品とは言えなかったから、俺も含めて3代それぞれ親を見て育った結果だろう。

そうやって改めて比べてみると、やっぱおかしい。

二人の接点が見当たらない。

離婚した理由をあの噂話以外で聞いたことない息子の俺。

なのになんとなく、そっかぁ〜、とライトに納得できちゃうくらいには、なーんにもないのだ。

ホントなんで結婚したんだろ。

あ、これ、もしかして逆からのアプローチ有効?

何で離婚したの? → こういう予定で結婚したけどできなかったんです、みたいな。

でも玉の輿失敗したからって近所の人言ってたしなぁ。

聞いても…うーん、まあでも本人に聞いたことないからな。聞いてみる価値はあるか。

じゃ、早速。

「なんで離婚したの?」

ほう、と関心したようになった母さん。

「来たねとうとう」

待ち構えたように細ーい垂れ目をきりっと持ち上げて俺を見据える。

片腕をテーブルにのっけて体を斜めにし、おもむろに足を組む。

午後のテーブルがドラマかコントの夜のバーカウンターに変身したような。

でも、口調はバーテンダーじゃなくて寿司屋の『へいらっしゃい』みたいだったのは母さんだからだろう。

「いい?」

斜めからチラッと俺に流し目する。

首を縦に振った。

「本当に?」

また縦に振る。

「ファイナルアンサー?」

それ、なんのセリフだよ。わかんねぇし。でも突っ込むと多分話逸れるからスルーで。

「早くして」

溜息と共に、分かった、と言うと、

「それはね」

わざわざまた正面に向き直り、両手を膝について。

「今お母さんが継いでる、お祖父ちゃんがやってた会社が、倒産しかかってたからです!」

えええ!!

親父が玉の輿失敗したからじゃないの!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ