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新説 六界探訪譚  作者: 楕草晴子
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9.閑話休題ー8

向いてない。

その意味が理解できる年になった。

それだけのこと。

『中学生のくせに何言ってんだ』『若いってことには無限の可能性が秘められているんだ!』とかいう人いるんだけどさ。

若いってそもそも何?

それにさ。

だって思うじゃんか。

武藤さんとか田中とか、お金持ちっぽい家のやつらって、親も、その親もなんだかんだ言って『いいとこの人』だ。

そうでも無さそうなやつって親もそうでもなさそうで。

それとはまた別だなぁと思う奴らって、やっぱり親もそう。

そういう別ジャンル出身の同クラのやつらと話しようにも、もう言葉が噛み合わない。

へーそうなんだ、って思ってるように受け取ってもらえるような無表情をその場では作れる。

けど、なんでそう思うのか、その根っこのところが全く理解出来無い。

たぶんああいう『いいとこの人』たちは、『いいとこの人』の人生のルートが何パターンもあって、殆どはそのルートに進むんだろう。

そうでも無さそうなやつらはそうでも無さそうなルートに。

別のやつらは別のルートに。

例えば矢島なんかは、実はいいとこから多少ドロップアウトしたケースのルートが何パターンもあって、そのどこかに行く。

『いいとこの人』ルートに戻って、あのお父さんと同じような感じになる可能性も全然あるだろう。

四月一日はそうでもないけど、ああいうぱーっとした感じの、多国籍ノリノリ組のルートが何パターンもあって、そのどこかに行くんだろうな。

そうやって何だかんだ道が薄ら見えてくる。

俺は?

よぎるのは親父の背中。

玄関で薄汚れた作業着を羽織って、あのボロっちい踵が擦り切れそうな靴を履くために丸まっている。

ブラウザを何度かスクロールさせて、誰かが貼った画像たちでそれを何重にも上書きした。

電気をつけなくてもPCのディスプレイが眩しい。

コウダは『中』で色々見たのはその人の一面でしかないって言ってた。

そりゃ確かにそうだと思うんだけど。行きたいとも思わないけど。

それでも。

どうあがいたって天文学的に遠く離れた別ルートには行ける気がしない。

『環境のせいにするのは違うぞ』『人生ってのはな』『ガンバってればいつの日か必ず』。

クソくらえだ。

そういうお前ら、ホントにそう思ってんのか?

自分に言い聞かせてるだけだろ。

だから。

明日が来るって、結局のところ。

遺伝子っていう条件と生まれた環境で9割方チートかスーパーハードか決まっちゃってるリセット出来無いクソゲーの続きをやらないといけないってこと(BYネットの色んなとこ)。

『残り一割が大事なんだ!』『その一割の、努力、人との出逢いが』。

でもさ、努力については、まず努力する時間と余裕がなきゃ、その一割理論でいくと勝てる訳ねーってことじゃん。

例えば遺伝子ってベースがまったく同じで、陸上短距離走の選手になろうとしてるやつが、チート・サイドとクソゲ・サイドにいたとしよう。

チート・サイド。

親の全面バックアップで学校以外の時間全部トレーニングに割り当てて、食事などなどにも気を使って、コーチとかつけたりして、なんやかんややれるわけだ。

じゃ、クソゲ・サイドは?

財布気にして家の晩飯作って買い出し行って宿題やって、もしかしたら介護とか。

トレーニング? んな時間ねぇよ。

それどころか、親が難有りだったらチート側ではバックアップしてくれるそいつに毎晩ぶん殴られてるかもよ?

その状況で、努力って、できるだろうか。

そいつが努力できないことを責められるだろうか。

じゃ、もう一つの要素、出逢いって?

度々学費滞納するやつにも熱心ないい先生?

家庭の事情でバイト入ってちょいちょい練習休む奴・親にやられた可能性大の青タン作ってここぞのタイミングで試合出れない奴でも大事にしてくれるいいコーチ?

キッチリ金払ってくれる奴に手厚い先生と、キッチリ毎日練習出て試合で実績残せる奴に優しいコーチより、圧倒的に少ねぇだろそれ。

ベースの9割が残り1割にめっちゃ影響して、圧倒的な差が出来るのは自明の理。

ってことはだ。

クソゲ・サイドの残り一割のうち、頼るべきとこって。

一割どころか0.00ーーこっから0が無限に思えるくらい続いてからのーー1%にも満たないようなやつ。

要は運しかないんじゃね?

『いや、そうやって頑張ったという記憶は、必ず将来何かに生かされるんだ!』

やりたいことそれじゃねぇし。

労力重ねてった結果、納得せざるを得なくなってくってことなんじゃん?

消しても消しても無駄に立ち上がるエロい出会い系広告のダイアログの × ボタンをひとつひとつポチる。

あ゛ーーー…。

…マジクソだわ。

てかさっきからなんでこんな腐ってんだ?

別に陸上やりたい欲求そんなねぇぞ俺。

学校あんま好きじゃねえし、部活のああいう雰囲気もダメ。

選手になりたいと思ったことも、全く以って無かった。

でも。

もし、選べる状態だったら?

何か違っていたろうか。

そっちを選んでいたろうか。

逆に、選ばなくたって。

自分で選んだんだって、もっと堂々と言えたんだろうか。

なんでこんな…。

左クリックでブラウザのタブを閉じる前の最後の最後、去年の今頃の鈴木の裏アカに貼られた古い体操服の女子の画像が目に入る。

去年も見たけど。

ブルマってやつ。しかもJKらしい。

これで女子が体育やってた時代があったなんて天国かよ。

古い品につきどこか今と比べてイモ臭い感じがするし、アナログカメラの粗さによって卑猥というよりノスタルジー漂うそれ。

胸のでっかい名前書いたゼッケンなんて今絶対有り得ない。

写真の中の女子達は時代のせいか、武藤さんみたいな痩せ路線のかわいい子よりもそこそこ肉付きが良い子が圧倒的に多い。

俺的には好み。

でも、エロ画像に混ぜて貼る感じじゃねぇな。歴史っていうか。

エロいとかそういうんじゃない大きな流れに漠然と思いを馳せる。

この時代と今と、何が違うんだろう。

写真のバトンを持って走る赤い鉢巻の女子の顔は、脳内でひとりでに安藤さんにすげ替わって動き出した。

カーブに差し掛かる。

安藤さんになった写真の女子のゼッケンがホヨンボヨンと斜めに揺さぶられる様。

う…。

あまりにもあっさり、しかも鮮明にイメージは出来上がり。

さっきまですっかり忘れて記憶の片隅に押しやっていた組体操のときの妄想画像も合わせて雪崩式に崩れ落ちて展開され。

薄暗い頭の中という小部屋に、ピンク色のひとときの幕が上がった。

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