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新説 六界探訪譚  作者: 楕草晴子
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8.第四界ー4

振り返り、投げてチェック、そっと進む、時々トリックアートだけど時々本物、途中でコウダが物色、俺からコウダに『もう行こう』プラス小言、そっと進む、振り返る。

これを繰り返すことさらに5回。

トータルでまだ20分強。

だというのに。

…飽きた。

贅沢なのは分かってる。

でもだって、興味ないもん。

絵とか彫刻とか美術品?

一体何がそんなにいいのか。

腹膨れるわけじゃなし、実生活で役に立つわけじゃなし。

見てるだけだよね。

潤い? 知るかよ。

だがそんな俺とは対照的に、コウダの興奮は止まらなかった。

浅黒い顔でもわかるくらい紅潮してる。

今はさっき見た薄気味悪い目付きでぱっつんおかっぱの着物少女の肖像画を両腕で抱っこしている。

嫌にリアルで暗い色味。この薄ら笑いがかわいいとはどうしても思えない。

むしろ夜中に抜け出してくるとかって怪談が出来そうだ。

でもそんな作品以上に、見つけた瞬間『れいこちゃん…』とニンマリ呟いたコウダのほうが輪をかけてキモかった。

お、何か見つかったのか?

一瞥をくれたのは茶碗。

その両側の絵には興味ないっぽい。

なんでかな?

一方はまだ分かる。肘をついてタバコを吹かす色っぽいお姉さんの、版画? ポスター? よくよく見れば壁に直接描かれたものだからどうしようもない。

でももう一方はちゃんと水彩画なんだけど。

「そっちはいいの?」

コウダは茶碗より『れいこちゃん』と決めたようで、進行方向に向きなおった?

「そっちって?」

水彩画を指さすと、ああ、とちいさく返事。

「あれは『あっち』の異界人と作風がだいぶ違ってたから。売り物にならん」

そういうことか。

コウダは『ヨウヘンテンモクだったら絶対そっちだったけどユテキだったから』とか、『こっちのミュシャは惜しい』『あっちのほうの絵なんて実物ならジョルジュ・シャルパンティエじょうは』とかぶつぶつ言っている。

コウダの蘊蓄に耳を貸す気にもなれない。

興味ないってこういうことなんだな。

時代劇の時はもうちょっとあれなにこれなにってこっちから聞く気になったんだけど。

今回全然だ。

早く進まないかな。

一歩一歩足止めを食らうのが面倒でしょうがない。

これまでの『中』で気を張りっぱなしだったコウダはボーナスチャンスとばかりのウキウキ。

悪いんだけど、ほんとつまんない。

「コウダはこういうの好きなの?」

とうとう10回目に到達した折り返しで確認すると、即答だった。

「『中』で見つかる金目のものはみんな好きだ」

瞬き一つせず真っ直ぐ前を向いた力強い口調。

借金返済を試みる人間の言葉なのは分かるけど、どんだけ借りてたらこの口振りになるのか知りたくもなかった。

「「せーの」」

やった!

突き当たりが曲がり角になってる。

よーやくこのつまんない状況から転換があるかも。

死なない程度だといいなぁ〜。

浮かれる俺をよそに、コウダは今までの浮かれた顔からいつものコウダになっていた。

溜息一つなく渋い表情。

そうそう。これだよこれ。

『中』で散々見てきたコウダの顔。

状況に悩んで決断に不安をかかえて立ち止まるこの。

ちょっと申し訳ない気もするけど、今の顔見たらなんか安心した。

「道すがらまだなんかあるよ」

いちおうプッシュしてみる。

「まあな。あのオヤマダジロウとかこっちのマグリットとか良さそうだけど…いや、でもな…。

うん、あのモディリアーニ、目がある。

トリックアートじゃなかったられいこちゃんとチェンジ」

もうチェックしてんのかよ。

目があったらなんなんだ。それがあると高いのか?

てかどう見てもあれ肖像画。三つ編みの女の子の正面像に目がなかったらキモいだろ。

そもそも多少キモいのに。微妙に口が開いてて歯が見えるし、嫌になで肩だし。

歩きつつも目移りしだしたコウダをよそに、その目線の先とは逆方向の、展示台のようなものの上に広げられた巻物を取り敢えず横目で見てみる。

こっちは全部現物がある。

屋敷から恐る恐る顔を覗かせる男女と、それに対峙する黒い平安時代の『まろ』的な人がかぶってそうな帽子の人々。

てっきり目・鼻・口が線になってるもんと思ってたけど、表情とかは全然キャラクターっぽくなってて、結構見れる。

その隣には教科書で見た鳥獣戯画。

もういっこ向こうは…うわグロいな。人がばっさばさ斬られてる。

時代劇と違って容赦ない絵がキツい。

巻物の絵ってもっとこう…ぼんやりしてて何の話かわかんないもんなんじゃないの?

そういや、コウダ絵ばっかり見てるけどこっちはいいのかな。

コウダに目線を戻すと、もう物色し終わったのか向こうもこちらを向いていた。

「巻物はいいの?」

「出た瞬間に固まるんだ。巻いて持って出たらどうなる?」

そーゆーことね。

「持ち出せたら持ち出したい。右二つなんて国宝だし。

でも『中』の持ち出しは丸ごと厳守。切ったら価値ないから」

あのボロボロ、そんな凄いのなんだ?

ソシャゲのアイテムと違ってなんか呼び出せたり回復したりしない巻物なのに。わっかんねぇな〜。

曲がり角まではまだもうちょっとある。

あの奥の、でっかい木彫りの猿が睨んでる先だから。

足元もいまのところ平坦。

「ムトウさん年の割に色々見てるな」

唐突にコウダが口走った。

「家で見たんじゃない?」

何せ画廊なんだから色々持ってるだろうし。

もしかしたら画集とかあるのかも。

「いや、俺も最初画集なんかで見たのかと思ってたんだが、どうも違いそうだ。

タッチとかキャンバスの風合いなんかがリアル過ぎる。

ただ、あの巻物の一番左、ヤマナカトキワモノガタリな。

あれ、もし事情が『あっち』と同じなら関東では見られない。

モディリアーニもそうだし…あそこにあるジュタイコクチは岡山、あっちのムガは確か島根まで行かないといけないはず。

地方の美術館は辺鄙なとこにあるって聞くし、現地に行って見るのは面倒なはずなんだが」

他にもいくつかそういうのを見つけてるらしかった。

でもこれほんとにそんな遠方に足運んでまでありがたがるようなもん?

『ジュタイコクチ』といったやつも、黒と青と白と黄色と赤くらいしか使ってないせいか、人の顔色最悪だし。

掛け軸は当然白黒だし、子供…なんだろう。呆然となんもないところで立ち尽くしてるだけ。

子供の割になんか体格がデカい気がするし、顎下がぶよっと二重になってるもの気になる。

巻物なんかも含め、この辺にあるもの全部、れいこちゃんに負けず劣らず怪談がつくれそうだ。

「何がいいのこれの」

思わず口をついて出た。

「わからん。俺が分かるのはどれが高そうかってことだけだ」

あんなに嬉しそうだったのになんだそりゃ。

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