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新説 六界探訪譚  作者: 楕草晴子
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6.第三界―8

高層ビル外壁は相変わらずキャラクターだらけ。

こっちのは競艇? テレビのCMしか見たことないけどこんなのの漫画もあるんだ。

あっちの排球漫画はあれだ。主人公2人のうちチビの方が矢島とときどき似てるやつ。四月一日が持ってるのを借りて読んでる。

次は野球。バッターは…ホンダ。わかるわかる。

その後はスケート? たしかこの人今ファンタンジー系バトル漫画連載中だったはず。こんなんも書いてたんだ。

ゴルフに、将棋、囲碁、カードゲーム、麻雀、もうこれスポーツ関係ねぇな。

料理漫画もある。腕に『特』って字が刺繍されたチャイナ服の少年キャラがすごい勢いで野菜を千切りしてるかと思えば、違う画面では悪役顔の男キャラがケケケと笑いながらこれまた気の強そうな女キャラと背中を向け合って鉄鍋を振るってる。

定食屋ではどう見ても中学生の男の子キャラが紋付袴で白髪のおっちゃんキャラにカツ丼を出してるけど、法律的にいいんだろうか。漫画だから気にしちゃダメか。

次のはひたすらカレー。主人公らしきキャラも他のキャラもひたすら全部ずっとカレー。もうここまで尽くされると華麗ですらある。

寿司に、和食、パン、洋食、ワイン。

ああ、なんか。

もう。

疲れる。

てか疲れた。

多すぎる。

よくよく考えれば今回、最初からぶっ通しでほぼずっと。

分析必須ってわけじゃないところでも、見えるから、映ってるからって理由で何となーく『あれなんだろう』って目線で見てしまっていた。

情報過多ってこれか。

凄い数読んでるんだな佐藤。授業中ずっとってだけのことはある。

でも授業中の片手間って完全に暇つぶしだよな。

好きだからって授業中はだめなんだけど、そもそもそんなんで本当に中身読めてんのか?

『読んだことある』。それだけなんじゃないだろうか。

内容と粗筋と一部の名場面ぽいとこ覚えてて、周りと喋る時に『あのへん良かったよね』とかって話題に出せればそれでいい。そういう感じなんじゃないだろうか。

それはそれで大事なのはわかるけど。

片手間で授業受けて片手間で漫画読んで片手間で女子とデートして片手間で先生の相手して片手間で友達付き合いして片手間で部活やって片手間で親としゃべって。

片手間だ全部。

すごいよ。確かに傍目には全部しっかりやれてんだから。

佐藤が勝ち組なのは分かってる。

どっからどう見ても、多分これからもずっとそうなんだろう。

ああ、もしかして俺の1人分と佐藤の片手間の能力が同じくらいなのか?

…そうかも。残念。俺。

なのか?

あいつ、それでいいのか?

頭ん中全部そればっかで埋まっちゃってどうにもならない。

今の自分全部で、面白れぇってなるような。

そういうのは、佐藤にはないんだろうか。

漫画ってどれも、ストーリーがある。作者やそれに関わる人たちみんなで面白く読めるように仕上げてるはず。

いつも片手間読みだけなんて、それもったいな過ぎるだろ。

ここに出てきたやつ、どれもやばいくらい面白かったし、やばいくらい面白そうなのに。

スポーツ系だろ? 料理にゲームにバトルに…あれ?

変だな、出てきてないのがあるような。

「コウダ、気のせいかもしれないんだけど、最初のボクシングの後、格闘技系のキャラって見た?

あと、ヤンキー漫画的な、ひたすらケンカばっかしてるヤツが少なくない?」

と、コウダが突然手を引いた。

「あの木のプランターの影に隠れるぞ」

もしかしてまたか?

もう右手の高架下はコンクリートから赤煉瓦に変わってきていた。

でっかい植木のプランターが並んでいるその裏、外壁との隙間に丸まってしゃがみ込むと、植木の間から佐藤が見えた。

季節外れの学ランで、小学生が無理して着たようなーーいわゆる七五三ーー状態の佐藤は、見るからに悪そうな連中に絡まれていた。

相手は3人。

1人は坊主頭で剃り込みがある。太いズボンと細い眉毛が怖い。

次は金髪パーマ。カチューシャで後ろに流しているらしい。学ランは前ボタン全開で、覗くTシャツは赤い。そこに、金と黒で2つの竜がでっかく描かれていた。

そして最後。

あ、この人の顔知ってる。確か原口って名前の、俺が入学した年の3年。

警察のご厄介常習犯って聞いた。

そういや他2人もあの当時の悪い先輩って噂の人相と一致してる。

入学前、今の3年荒れてるからってtuittorでみんなしてビビリあってたんだっけ。

でも、なんでか入学してからしばらくでその話聞かなくなったんだよな。

だとするともしかしてこの佐藤、過去の? これ、実話の再現VTRってこと?

「おい、俺らの通るトコ埋めてんじゃねぇよ」

佐藤は不良3人を見ながら、ショルダーバックの上にペラッと被さった蓋の下を必死であさっている。

「原口先輩、でしたよね。あと、藪高知先輩、越智先輩?」

スマホを取り出した。息づかいがはぁはぁと響く。

佐藤の声。そういや今回、最初からずっと普段の佐藤と声一緒だよな。

安藤さんの時は別人みたいだったのに。気になってこっそりコウダに耳打ちしたら、こっそり耳打ちで返事が返ってきた。

自撮り動画を頻繁にとったりすると、対外的な自分の声がよくわかってるから『中』の声もそれになる事がある、佐藤のキャラから推測すると不自然ではないとのこと。

そのやりとりで目を多少離した間に、3人は佐藤を囲み、さらに詰め寄っていた。

原口が正面、そりこみが左手、後ろに金髪。右手は高層ビルの壁。逃げ場なし。

「あ? だったらなんだよったくよ」

「だからぁ!? 俺らの名前当てクイズやってんじゃねぇし」

それでも隙間から逃げようとする佐藤の手を剃り込みがつかんだ。

佐藤は外したが、持っていたスマホは取られた。

うわぁ。はじまった。

「こんないいもん持ってんじゃねえって」

剃り込みはそのスマホを投げ捨てる。

バシッと音がした。こりゃ割れたな。

なのに佐藤は明後日の方向に飛ばされたスマホに全く注意を向けない。

原口と剃り込みを見据えている。

その原口はちっと舌打ちすると、佐藤の腹の真ん中に蹴りを入れた。

佐藤は1m程斜め後ろに吹っ飛ばされた。後ろの金髪を巻き添えにして。

当たっ…た?

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