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新説 六界探訪譚  作者: 楕草晴子
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6.第三界―4

 え? また!!??

 佐藤。

 高架下から空地、俺たちのほうへ、悠然と近づいてくる。

 さっきとは別の女の子が隣を陣取っていた。

 かわいい。髪は多分染めてる。私服。中学生か? 化粧してるけど多分そう。

 超ミニスカで太ももがまぶしい。さっき食らいそうになったあの必殺技ぐらいまぶしさを感じる。

 今度の二人もさっきのあの二人と同じようにゆっくり喋りながら歩いていた。

「え~? 『たくみクンはマンガとか読まない系っ!』って思ってたけどチョーオタクじゃん」

「オタクってわけじゃないよ。授業中暇だからさ」

「それでベンキョーもできちゃうってやっぱてんさぁい!」

「そんなんじゃないよ。

 でもユイちゃんがそう言ってくれるなら、ちょっと自信持っちゃおうかな」

 名前呼びかよ。

 さっきの女子に見せていたのとほぼ同じ照れ臭そうな声色。

 それに反して、胡散臭い詐欺師みたいに作り物めいた笑顔。

 むかつきつつ気持ち悪くなりつつ。

 ありがたいことに、俺たちには見向きもしない。

「ねぇじゃあ、どーいうの読むの?」

「ふつうに少年誌のとかなんでも。

 たまにだけど、少女漫画も読んだりする」

「えー!? マジでぇー!」

「時間がありすぎて最近のメジャーどころ読み尽くしちゃって、今マイブームは古いやつ。

 もう俺らの親世代あたりって本より漫画読んで育ってるわけだし、社会人になったときの教養の一環かなーと」

「んー? きょーよーって、本じゃなくてもいいの?」

「それはそれで読んでるけど、本じゃ間がもたなくって。

 読むの自体速いんだ。新書とか15分か20分で読めちゃうんだよね。

 今時の話題の新刊なんか、字おっきくて紙分厚い、内容薄いやつ多いから余計。

 フォトリーディングできるわけだし、そういうやつを15分20分かけるのって無駄でしょ」

 なんだこれ。

 本なんて手に取ることもない俺の日常、それに『すごーい』という女子の舌ったらずな相槌諸々全部含め、何かボーダー通り越して俺の内心が真っ白な無になってしまいそうだった。

「マンガはその…ふぉとりーでぃんぐできないの?」

「できなくはないけど、あれは意味をつかむだけだからさ。

 漫画は楽しみたいんだ。だからやってないよ」

「そーいうのって…センコーにばれるとさぁ、たくみクンみたくユートーセーだとやばくね?」

「たまには悪いことして先生にも注意させてあげないとさ。

 全部できたら可愛げないじゃん。

 まあそれでも、前見つかったときこれを机にたたきつけられたのはちょっと本気でイラっとした。

 スマホ壊れたらどうしてくれんのってさ」

 鞄から出した文庫本を持ってやっぱり爽やか風の、でもいつもより作り物めいた笑顔。

 浅黒い肌にあり得ないくらい白い歯がまぶしい。

 佐藤クンマジヤバーイ、と女の子のほうも媚びるように笑った。

 二人は二人の世界のまま俺たちの横を通り過ぎる。

 それは二人が夢中だからだろうか、俺が佐藤から見てモブキャラだからだろうか。

 ダメだろ佐藤。武藤さんにちょっかいかけたうえ、さらに二人。

 けしからん。そういうのは好きな子とするもんだ!

 っていっても、『好き』とか『好きな子』って正直 よくわかんないけど。

 それはさておき登場3回目。

 コウダが今までしてきた話の通りなら、俺たちが見てないところで『中』が変化して佐藤が移動したと考えるのが妥当。

 3回も出てきているということは、もう深層意識下で俺たちの侵入がばれつつあるのでは。

 こんなに早い段階ではっきり見つかってるわけでもないのに大ピンチということを信じたくなかった。

 コウダは首をかしげている。

「ちょっとサトウくんが出過ぎだ。

 『中』の住人と目も合ってないのに、そんなに何回も本人に遭うケースが過去事例であったかどうか…」

 記憶を辿っている。

 でもそんな考える時間、今はない気が。

「とにかくここにいるの危ないよね。

 後ろにもこのまま線路の方向に沿って進むのも無理なら、やっぱ高架下行くしかなくない?」

 俺の言葉にしぶしぶといった表情。

 その目の前の割と近いところに、俺たちが佐藤君やらに注意を払っている間に新たに出現したと見えるキャラクターが対峙していた。

 つるつるの坊主頭に角が生えたいかにも悪の帝王っぽい男キャラ。でっかい3D髑髏が腹らへんと両肩に入ったごてごてとした悪そうな服に真っ赤なマント。

 鞘に収まった真っ直ぐな剣――これも凄く黒くて暗い見た目の禍々しいやつ――を横一文字に鞘から引き抜いた瞬間、そこから出た黒っぽい三日月の衝撃波のようなものでその向かいになぜかあった大きな岩が上下に真っ二つになった。

 斜め上方向に繰り出されたそれを小さな袴姿の少年は飛び上がって回避したようだ。

 三日月のそれはかろうじて高架にはかからず空へと消えていったため、景色はそこまで変わらなかった。

 でもコウダのしぶしぶ顔は決めた顔になった。

「走るぞ。暗いところは基本的に危険だからな」

 それであんなに渋ってたのか。

 でも行くしかない。

 高架下の空地のほうへ向き直ってスタートダッシュのための一歩目を踏み込む。

 空地にはさっきの白い猫とイケメン。

 それ以外にも気になるものがいっぱいだった。

 短めの髪でおでこにくるっと巻いた毛束が落ちた、ダッサい眼鏡で青い髭剃り痕のある上品なしゃべり方のおっさん? のキャラクターが白馬に乗って現れ、眼鏡をはずした瞬間明らかにキャラデからして違うサラサラヘアのイケメンになるという怪現象。

 上空から飛来したのは、恐らくバトル漫画キャラ。男の中の男、筋骨隆々のターザンっぽい腰巻一枚の男が、何か膜のようなものを広げて着陸し、誰かに『ただいまー』と優しい笑顔で呼び掛ける。

 広げてた膜の格納先も男の中の男。スタジオジーフリー作品アニメの狸以外で見たことないけど、そこでほんとにあってるのか?

 そして着陸場所のすぐ横から、腰蓑をつけた坊主頭のおっさんがピ~ヒャラ~のBGMとともにキタキタ言いながらちょっとした速さで左右を行き来してこちらに寄ってくる。

 モリオブラザーズのクリボウみたい。きっと触ると俺小っちゃくなるわ。

 うおっ。触っちゃいそうだったじゃないか。いきなり速度を速めるところまでそっくりだ。

 かいくぐれたことに感謝しながら高架下一歩手前まで来る。

 入口らへんでメタルっぽい革ジャンのちょっと怖い見た目のキャラがスピーカーのスイッチを入れた。

 ドラムとエレキギターの禍々しい不協和音に続いて、サツガイセヨ、サツガイセヨという爆音が高架下に響きわたる。

 この曲。ずいぶん前に映画化されてたそのまんま。

 佐藤、よくこれ授業中に読めるな。並の人間は腹筋崩壊するぞ。

 もしかしてあの辺にいたの、実はギャグ漫画系だったんじゃ…。

 そうか。佐藤の腹筋はギャグマンガで割れたのか。そんな鍛え方思いつきもしなかった。

 やっぱあいつ、違うな。

 後方で歓声が上がる。ボリュームも上がる。ついにあのお方が来たか。悪いけど無視。

 次の一歩、ついに暗がりに足を踏み入れる。

 高架の向こうの点のような光まで、歩道には人がいない。

 こもった空気と湿気。舞い上がるホコリ。排気ガスのにおい。金属をはじくような音。

 たくさんの、聞きたくもない大きな雑音たち。

 ガードレールを挟んだ車道側は、線路から線路が載った天井の隙間からまばらに入り込む光に照らされ、キャラクターがひしめいていた。

 これ、攻撃されたら終わりだな。

 暗いからか妖怪的なのが多い気がする。

 向こう側の歩道寄りのほうにもいっぱいいるけど、近いところしか視界に入れられない。いや、入れたくない。

 でっかい槍を持った多分俺と同じくらいの年の男の子と、トラ模様の絶対トラじゃない生き物は、ムカデなのか何なのかわからないでかいものとバトル中。

 白? 銀? の髪で顔に稲妻のような模様が入った少年は、左手が真っ赤にただれたようなグロテスクな様相。

 ヨーロッパっぽいファンタジーな衣装。敵も髑髏のイメージが見え隠れするぐちゃっとした感じで、エクトプラズムっていうか悪魔っていうか。

 その先で、左目以外を覆う黒いフェイスマスクをつけた大学生くらいのTHE文科系って雰囲気の男のキャラクターが…うわ、なんか出てる。

 思い出したぞ。あれ人間食う話のやつだ。敵…は見ないようにしよう。

 あえてよかった探しするんなら、巨人のほうじゃなくてよかった。

 それでもひき続く恐怖心を脚の回転力につなげて走る。

 日本の首都の名前を冠した駅の高架だけあって幅があるのはそうだけど、それでも100メートルはないはず。

 状況が状況だけに気のせいなのか実際に現実よりも長いのか。

 全然進んだと思えない。

 ガタンガタンガガガタン

 列車が走る振動で全体が揺れる。

 出口の明かりが大きくなっていることを信じようとしたとき、目の前が湯気のような気持ち悪い塊で遮られた。

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