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新説 六界探訪譚  作者: 楕草晴子
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5.共通項―6

 翌週月曜日。掃除当番は階段。

 普段は山田とつるんでいる二人がきゃいきゃいとはしゃぎながら塵取りにごみを集めていく。

 掃除の班の入れ替えがあってちょっと騒がしいメンバーになったため、先週までのあの静けさが恋しい。

 女子の声が耳に響いて多少が疲れるけど、まあいい。

 これが終われば後は佐藤の件の追加情報など打ち合わせして、明後日の当日を迎えるばかりだ。

「クラス替えんとき同クラって知ってキタコレ!! だったわ自分」

「っわかるぅ!

 リアル王子。ってか目元?

 二重瞼で目おっきくて。ハーフっぽいっていうか、んー…」

「エキゾチック?」

「それだそれ!

 で、そっからの、手ですよ。手! 

 ああ見えて実はすっごいゴツいとこがさ。わかるかなぁ、このフェチ心。

 プリントもらうときにちょっと触っちゃったゲヘ。

 しかもさ、夏はさ、水泳あるじゃん」

 二人とも鼻息が荒い。一人が手を打って同意した。

「それな!

 いやもう自分の水着は憂鬱なんだけどさ。

 今年ほどあの授業が待ち遠しかったことないわ。

 も、たまらん! 腹筋割れてんのヤバ~イ!」

 内緒話の声のデカさじゃない上に内容がセクハラちっくかつ親父臭い。

 いいのかそれで。

「王子からのぉー? 鉄板。鉄板。

 そういやお母さんが沖縄出身だって」

「なーる。

 エキゾチック顔の元それかー」

 大興奮の様相だ。

 佐藤だとごっつい手も割れた腹筋もギャップ萌えになるが、多分リアルハーフの四月一日だと

 『モアイ細部までマジ岩だわ濃ー厚ー』

 矢島だと、

 『一部だけゴーレムのホビットって新種じゃね?』

 俺だと

 『うっわ黙々と素手で殺ってそうあのガチやくざ』

 だろうな。

 でも女子たちがキャーキャー言うのもわかる。確かに佐藤いいカラダしてんだよな。

 水泳とか普段の体育の着替えなどなどで同じ男でもちょっと見惚れそうになるスポーツマンらしい筋肉質細マッチョ。

 半袖のこの時期は筋張った腕が日ごろから目立つ。

 四月一日とは違って多分俺と似たような肉が付きにくい体質に、つけれるだけ筋肉つけてる感じ。

 テニス部のほかのやつってあんなじゃないから、個人的に筋トレしてるとみられる。

 どれだけやったら中学生でああなるのか。自分のさぼりまくりで多少浮いたあばらを見ると凹む。

 もてるには筋肉が必要だとわかっちゃいるけど、俺が同じことをしたって自己満足止まりどころかやくざ感が上がるだけ。

 それでもやっぱいるかな筋肉。いるよなぁ。

 道具類を片付けてつるんで帰る掃除班女子を置いて一人歩く。

 女子があんだけ俺が聞こえるところであの内容であの盛り上がりってことはだ。

 俺が誰かに告げ口とかしないと思われているのと同時に、俺が完全に『男』じゃなくて『その他』の枠ってこと。

 あーあ。

 仕方ない。持って生まれたスペックってものがある。

 でも。

 モテたい。

 女子にモテたい。

 このスペックでやりようはないもんか?

 そういやコウダって彼女いるんだよな。

 コウダはどうやって彼女作って同棲するとこまで持ってったんだろう。

 コウダも自分から『中』で言ってたけど、人相は悪いほうだ。『暴れん坊吉宗様』よりはだいぶ俺と路線が近いし、何かと参考になるかも。

 あ、でも鍛えてはいそうだったな。『中』でああいうことがあるからそうしないと危ないからだろう。やっぱ筋肉か。

 いや、でも親父は?

 俺の顔ってベースは割と親父なんだけど、親父だって母さんと付き合って結婚してんだよね。俺もいるわけで。

 ああ、いや、これはやめとこう。

 川藤さんの『中』で見たあれがフラッシュバックしたので親ネタは一旦リセット。

 コウダに聞こう。そうしよう。

 と思っているとちょうどよかった。家の前の小道の向こう側からやってくるコウダもこちらに気づいたようだ。

「おお」

「ん」

 コウダの呼びかけに答えながら玄関のドアを開けた。

 こんな雑なやり取りで意思疎通が取れる関係になってしまったのが悲しい。

「ちょっと待ってて」

 二階の部屋に鞄を置いて着替えて降りると、コウダは前もかぶっていた帽子をとって台所の椅子にすでにスタンバっていた。

「新情報、佐藤のお母さんは沖縄出身」

「他は?」

 一応言っとくか。

「女子トークより、『手がごつい。腹筋割れてる』」

「うーん。スポーツマンだからなぁ。手の形なんて遺伝だし」

「でも他のテニス部のやつら腹筋割れてない。女子の言う通り確かに佐藤だけ凄い締まってる」

「筋肉フェチかもな。色々調べてトレーニングしてる可能性はある。

 スポーツ科学とか」

 効率のいい筋肉の付け方をいろいろ勉強してってことか。きっとプロテイン飲んでるんだろうな。

 コウダの言うようにちょっとしたフェチにまでならないとあれは難しいんだろうか。

 そのコウダは残念やっぱりこれ以上の発展は難しいか、と『中』の前打ち話を締めくくった。

 日常生活でちょいテク使うくらいじゃいい感じの筋肉にはならないと分かってはいるものの、Webサイトの端っこのネット広告に『つけて日常生活するだけでミラクルボディへ! なんとかかんとかパワーリスト』が出るたびに目が離せなくなる俺には無理なんだろうか。

「コウダ、モテるには筋肉いる?」

「は?」

 しばらく俺が見つめると、コウダは両腕を組んで考え込んだ。

「俺も中坊のころ同じこと考えてたけど、人によるんじゃないか?

 付き合いだした頃に相方に聞いたら『そこまで私筋肉フェチじゃない』って言われたし」

 答えが返ってきた! じゃあ、

「どうやって彼女つく」

「黙秘権を行使する」

 沈黙。

「彼女とどこでし」

「黙秘する」

 再度沈黙。

 沈黙…。

 響く時計の秒針の音に耐えられなくなってため息をつきテーブルに目を落とした。

 コウダがふっと笑っている。

「筋肉についてはもう一言続きがあった。

 『あったらあったでないならないで』だそうだ」

 どーでもいいオプションかよ。そんなもんなのか俺の悩みは。

 コウダはもういいか、他ないか、と嫌に優しい声音だ。

 いつものように無表情だけど俺の顔色を窺ってる、というか絶対面白がってる。

 悔しいながら頷くと、じゃ、後は、と明日水曜日の昼の手はずを摺合せし、コウダは帰っていった。

 玄関のドアを閉めて台所に座りなおし、額の脱脂綿を軽く押す。

 当然、まだ痛かった。

 がっくりと首を横に向けてテーブル突っ伏すると、力強い堅さのテーブルが俺の頬っぺたとともに湧いた脳みそも冷やしてくれた。

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