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新説 六界探訪譚  作者: 楕草晴子
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4.第二界―7

 こんなレッツダンシングっぽいBGMで祈れってか?

 そのBGMの出所は音の感じからして校庭のようだった。

「校庭に安藤さんいたらどうする?」

「本人が後ろを向いていたら、走らないでゆっくり歩いて校内に入ろう。

 侍がいなさそうなところに行きたい。

 もしこっちを向いてたら学校周りをまわるコースに変更だ。

 本人に気づかれないのが一番だし、商店街から離れれば多少人どおりが少なくなっているから、多勢に襲われるのはなくなるだろう」

 安心できそうなんだと肩の力がちょっと抜けた。

 だから『暗殺系の人はいるかもしれないけど』という不穏な一言を付け足さないでほしかった。

 だいぶ減ってきた着物姿の人たちをあんまり疑いの目で見たくない。

 例えばああいう。

 坊主頭で丸顔のがっしりした着物の男の人が、時々かがんだり明後日のほうを見回したりしている。

 目をつぶったまま杖を少し前のほうに突き出して雨どいらへんの壁をトントンしながら進んでいるところを見ると、目が見えないのかも。

 江戸時代だと点字ブロックも音声案内もないから、今以上に大変だったろうなぁ。

 そしてその雨どいがある建物の一軒先には着物のディスプレイ。呉服屋だ。

 つまりあのおばちゃんたちの言っていたあたりに来ているということ。

 店先の暗いところに巻物のように何本も巻物のように巻いた布地が置いてある。

「コウダ、戦利品にああいうののは?」

「ん?」

 残り15分強あるが、キープは早めのほうがいいのでは。

 和服の生地って高いはず。

 路地裏に入ったら店なんてないだろう。

 ずっと案内してもらってばっかりじゃコウダに悪い気がした。

「いや、いい」

「なんで」

「布は硬化したら使えない。

 それに事件の臭いがする」

 なんじゃそりゃ。

「悪人が事件起こしたくなるほどいいもんありそうなの?

 あの『越後屋』って店」

 …しまった。振り返っちゃった。

 軽く斜め後ろ。

 さっきの盲目の杖の男に正面から向かい合って越後屋入口に男が二人。

 うち一人の男は抜刀している。

「ああ゛っ」

 俺の声じゃない。

 声の主は越後屋から出てきた男。

 地面に崩れ落ちる。

 でも問題はそこじゃなくて。

 杖、刀だったの?

 いつ抜いたの!?

 ていうか、目、見えてないんじゃないの!!??

 あの恰幅のいい男性が振り上げた刀を返してもう一人を切りつける瞬間。

 すぐ横を通りかかった別の男がこちらを見た。

 見覚えがあるぞあの顔。誰だっけ。

 男は軽く首を傾げ、火盗みの集団のほうに歩いていく。

「お前声でかい。

 振り返るなって言っ」

「ごめんコウダ誰かと目が合った」

 コウダの言葉が途切れた。

 その横顔を見ながら脳内リピートされるのはさっき見た映像。

 杖を突いているところから刀抜いて一人目を切りつける瞬間が何度再生しても見当たらない。

 二人人出てきて向かいの男が杖をついている、の次は、もう一人に向かって振り上げた刀が返される、だった。

「おい! 分かれてずらかるぞ!!」

 俺とコウダを挟んで、見るからに悪人面の数人が言いながら走り去っていく。

 コウダが振り返り、すぐさま前を見た。

「校舎の向こう側の角を曲がって門があったら入るぞ!」

 言われるがままコウダとともに走り出すが、後ろの足音が多い。

 チラ見。

 多いはずだ。

 乱闘騒ぎにさっきの火盗改が加わっている。

 さらにさっき目が合った人を先頭に、乱闘に加わっていない火盗改の一部が追いかけてきていた。

「目が合うのってここまで悪いの!?」

 コウダは怒りのエネルギーで走っているように見えた。

「越後屋の品の良しあしをしゃべったろ!」

 喋っただけだ。

「そのあとあの悪人面のやつら、俺らを挟んで逃げる相談したろ!」

 まさかやめて。

 ほんとやめて。

 仲間じゃないから!

 走りながら後ろから追っ手が近づいている。

 特に先頭の、さっき目が合った着物姿の人が飛びぬけて速い。

 他の火盗よりだいぶ先に追いつかれそうだ。

 なんかないか。

 思い出せ。

 『内世界の生き物は無敵です』

 手引き読んだろ俺。

 『攻撃は一時しのぎにはなりますが、』

 一時しのぎにはなる!

 でも今やれるのって物投げるくらいじゃね?

 散歩気分だったから指定があった服装以外は手ぶら。

 それでもまぐれに期待して一応ズボンのポケットに手を当てた。

 なんとあった。投げれるもん。

 右手に握る。

 でも投げたくない。

 なんかの買い物のおつりだろうこの百円玉。

「火盗もやっかいだが先頭が…」

 コウダがチラ見しながらぼやくから、その先頭を確認すべくこっちも後ろをチラ見した。

 まだ距離があるにはあるが、さっきよりだいぶ近くなっている。

 どっかで見た顔だけど思い出せない。

 どこで見たんだ?

 こっちは曲がり角まで来た。

 曲がろうと左足に力を入れると、スニーカーが滑ってこけそうになる。

 ホームセンターの1000円スニーカーにグリップを期待しちゃだめだな。

 でも今はポジティブに、『履くだけで直立二足ドリフト走行できるようになってる』と言い換えておこう。アビリティ増えた気がする。

 方向転換して右。校門が見えた。

「くそ、予定どおり暗殺系引きやがって…」

 コウダはもう喋らんぞとばかりに前を向いて走っている。

 これ以上ピッチを上げるのは難しい。

 俺の足が持つのは短距離程度の距離だけだ。

 でも向こうはヒーロー。多分スタミナ切れはないだろう。

「おいおい! てめぇらぁ!」

 背後から知らないガラの悪い声。

 声の主のほうを足を止めずに振り向く。

 先頭の男が仁王立ちして止まっている。

 わかった!

 ハリウッド映画に出てる俳優。

 だいぶ若いけど、綿部兼だ。

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