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新説 六界探訪譚  作者: 楕草晴子
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4.第二界―6

 一本道の風景や店はここまでほぼ一緒。

 そして悲しいかな、元ネタありの人がいっぱいいるのも一緒だった。

 俺が『うっかり』見てしまう都度コウダは口を挟んでくれる。

 コウダ、実は仕事のためだけじゃなくてほんとに時代劇好きだろ。

 長身で紺の道着っぽい着物を着た細い男の人と、同じく道着っぽい矢羽の模様が入った着物でポニーテールの女の人が並んで歩いているのを見たときは、

「さっき仕事中だった人の息子夫婦」

 ファーストミュージックパサージュ――なぜかここだけ夜のように薄暗くなっていた――で居酒屋のママさんに腕を添えられた黒い着物で袴無しの男――立ち姿が凛としていてなんだか子供は見ちゃいけないような気がした――を見たときは、

「あれは殺人剣の使い手」

 また別の着物姿の男4人と着物姿の女の人が並んで歩いているのを見たときは、

「今捜査網敷いてるから」

 口を挟まなかったのは黄門様くらい。そりゃもういちいちめんどくさい。

 しかし改めてこの出没数、どう考えても連ドラの山場をつまみ食いしているだけの脳内とは思えない。

 テレビの前で動かない安藤さんと、その横で湯呑片手にかわいい孫との時代劇鑑賞にホクホクする爺の姿が浮かんだ。

 BGMはだんだん大きくなってるから、目的地に近づいてるのは確からしい。

 それに伴ってなのか、あの屋敷で見たピンクのバラっぽい花が道端の雑草のようにそこここに見受けられるようになった。

「あの花、雑草なのかな?」

「いや、バラだ。『あっち』だとマッキントッシュっていう名前の変わった品種のやつ」

「詳しいね」

「…相方が」

 このもにょり方は同棲相手だな。

 でもこの花、こんだけ大量に出てきてるってことは安藤さんが好きな花なのかもしれない。

 花屋だから珍しいのも見たことあるんだろう。

 と、急にコウダが俺の腕を引っ張った。

「隠れるぞ。こっち来い」

 脇道に引き込まれる。

 いらっとしてコウダをにらむと、

「お前があそこにいるから」

 え?

 向こうを見ると『フラワーアンジー』の看板。

 その前に学ランの俺が立っている。

 奥から出てきたのは安藤の爺。

 俺は…いや俺二号は、すぐ脇の仏花を取って小銭とともに爺に渡している。

 買いに行ったときに安藤さん出てきたことないんだけど、爺から聞いたのかそれとも実は奥にいたことがあったのか。

 新聞紙にくるまれた仏花を持った俺二号は、いきなり後ろに振り返った。

 コウダに隠れる。

 大丈夫か?

「まいど~」

 安藤の爺の声は俺たちが来た方向にかけられている。俺二号はいなくなったようだ。

「よかった」

「まてまて。まだお前の知り合いのじいさん出っぱなしだから」

 コウダが俺を制しているあいだ、隙間から様子をうかがう。

 困ったことに今度は俺のちょっと後から佐藤が歩いているのが見えた。

 佐藤、クラス委員だからなぁ。

 当然安藤さんと話す機会が多いわけで、ここにいるのは頷けた。

「じいさんいなくなったぞ」

「まって。メモに書いた佐藤がいる」

「どれ?」

「あのテニスラケット担いでるやつ」

 ああ、と声を上げ、また行き過ぎるのも待つ。

 幸いまっすぐいなくなってくれた。

 こんなとこで知り合いに見つかって足止めとは。

 コウダの合図とともに大通りに戻るとなんだか一仕事終わった気になった。

「花好きな子なのか?」

「あの花屋、安藤さんち」

 コウダの顔色が変わった。

「本人が近くにいる可能性が高くなった」

 また唇を噛んでいる。

 そんなに噛んだら血が出るぞ。

「あとまだ20分あるか。でも学校見えたな」

 いわれて見ると確かにあった。

 見慣れた第一中だ。まだ100メートル弱ってとこか。

 校舎の横側で門がないところ。いつもの駅からの見た目と同じだった。

 だとするとあの向こうの角を右に曲がってちょっと行ったら校門があるはず。

 それに道の両側の建物もだいぶ現代寄りのものが増えてきた。

 当初予想は当たっていたということだろう。

 ちょうど学校をぶらぶらしたら20分くらい経つから出てもいい時間になるなとコウダがつぶやくのを聞きながら再び前を向くと、屋敷で見た黒い着物の人と似たような恰好の集団が脇道から歩いてきた。

 『火盗』と書かれた提灯を持っている。

「いないといいなと思ってたんだがな…」

「有名なやつ?」

「火盗改」

「かとうあらため、って何?」

「江戸時代の凶悪犯罪専門の特殊部隊だ。

 岡っ引きは刀持ってなかっただろ。殺すのはNGだからだ。

 こっちは帯刀していて、犯人をその場で殺しても罪にならん。

 むしろ殺されるだけならまだいい。

 このドラマの主人公はな、数ある時代劇のなかでも取り調べで拷問するのが得意だ」

「えっ…正義の味方なんじゃないの?」

「江戸時代のな。だから吐かせるための拷問はありだ。

 時代考証がしっかりしているのがウリなんだ。

 悪人らしい人間は必ず黒という時代劇特有の設定があるから、拷問シーンが入っても正義の味方感は全く崩れない」

「でもドラマでしょ? 放送コードあるじゃん」

「そういうシーンも含めて原作小説にわりと忠実なところがもう一つのウリだ。

 ストーリー性や人間味あるキャラクターも高評価で、大人で現実志向の一見『中』が安定していそうな人ほど好む傾向にある。

 息の長いドラマシリーズだし、小説からドラマ・マンガ・アニメとマルチメディア展開していて『中』での出現率が高い人気作品だ。

 そのうえ向こうの専門分野の凶悪犯罪っていうのは『火付け』つまり放火犯と、もう一つは『盗賊』。

 仲間内では火盗を見たら成果がなくても即退却と言われている」

 コウダの力説から原作にいい意味でかなり興味湧いたけど、今そんなの掘り下げてる場合じゃない。

「でも今回は中に一定時間いないと慣らし運転にならない。

 そうなるとお前はどのみち消えてしまう。

 今のところ向こうは別件で取り込み中だから、残り時間あと20分、いられるだけいたほうが得策だろう。

 アンドウさんがそういうシーンを見ていないといいな」

 …見てるかもしれない。

 俺の中の安藤さん像は、『時代考証しっかり』とか『原作に忠実』とかいうきっちり系のキーワードに弱そうだった。

 じじばば好みのワンパターンと高を括っていた時代劇というジャンルがまさかここまで自分の行く末に影響を及ぼそうとは。

「なんか対策ある?」

「怪しいふるまいをするな。

 あとは入る前に言った通りだ。祈れ」

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