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新説 六界探訪譚  作者: 楕草晴子
109/133

12.第五界ー13

で、だ。

「予定通りいけば次が最後だ」

そうだよね。

「終わって1ヵ月位経って、影が濃いままだったら問題ない」

そうなんだ。

「で、誰にする?」

「誰も」

「誰もっていうのは?」

「やりたくない」

「ニトウさんのことは気にするな」

「そういうんじゃない」

軽く嘘だ。

メインは完全にそれだけど、それだけってわけじゃないっていうのがホントのとこ。

何度も何度もあの後考えたものの。

やっぱり他人の『中』はだめだ。

安藤さんだって、佐藤だって、武藤さんだって、弐藤さんだって。

見られたくはなかったはずだ。

そして普段は皆おくびにも出さない。

なんのために?

忘れてる可能性もある。

でも、もしかしたら自分のためかもしれない。

もしかしたら周りのためかもしれない。

もしかしたら、俺のためかもしれない。

勝手に覗いていいわけがなかった。

だから、ダメだろ。

「なんか他ないの?」

「ない」

「またあの0回のとこ行けばいいじゃん」

多少は何とかなってたし、定期的に行ったらおけーじゃね?

「多少しか効果がない。

あのときの影の薄さ覚えてるだろ。

根本解決にはならん」

「でも毎日行けば」

「馬鹿言え。俺が付き合えん」

ぴしゃりと撥ねつけられ。

「でも」

「いい加減にしろよ」

コウダが武藤さんの後の帰り道に近い苛立ちを見せ始める。

「俺は仕事だ。

金が要る。

お前のおままごとみたいな言い訳に付き合ってるわけには行かないんだ。

言うだけ言って『なんとかしてよ〜』か、え?

ふざけんなよ」

今までに無い生生しい本音が剥き出し。

大人をやる気がなくなってきたか。

でも、確かに代案がない。

それについてはコウダの指摘は最もだった。

じゃあ、何とか…時間稼ぎしよう。

「わかった」

コウダはそれを聞くや安堵し、

「じゃあ、」

「月曜日」

「は?」

「月曜日までに代案考えてくる。

それまで待って」

「あ゛?」

ふざけんなよ、と続くかと思った。

けど続かなかった。

代わりに胸倉を掴まれる。

「おい、てめぇ耳ついてんのか?? あぁ?」

うっわ、ガラ悪りぃ。

前に武藤さんの後に切れてた時よりも口調だいぶ悪くね?

まあでも今は。

場所柄、その態度を取られるのは俺にとって寧ろ好都合。

周りの観光客&通行人ーー親子連れも当然ーーの結構な割合が俺達を凝視してる。

これ以上、手は出せまい。

コウダもそのことに気付いたようだ。

チッと舌打ちをして手を離した。

深呼吸か溜息か分からない呼吸を数回繰り返し、口を閉じ。

「案出なかったら、次、ムカイくん」

例のひっどい目付きで睨みながら、俺の返事を待ってる。

充分な譲歩だった。

「わかった」

「今のうちにムカイくんがどういうやつかだけいつも通り聞かせてくれ」

「しなきゃだめ?」

「上目遣いしてもお前三白眼だから可愛げねえぞ」

別に上目遣いしたわけじゃ…。

それにサンパクガンって何。目つき悪いって意味か?

「時間限られてるから」

急かすように言うコウダ。

しぶしぶだけど、しょうがない。

「ビビリ」

「それはメモに書いてある」

「クラス内モブ。可もなく不可もない。

体育はやや苦手。コンピュータ部って名前の半帰宅部所属。

あんま喋るほうじゃない。

けど、俺みたいにタイミングつかめないっていうより、言うのが怖い感じに見える。

あとは知らない。

本当に面識があるってレベルでしかないから」

「そうか。

まあそれでも出たほうだな。

後着けたりして、一応ここの…本屋の向こうの、潰れた靴屋があったろ。

あの角で待てばイけそうだったから、当日は…」

「まだ決まったわけじゃないでしょ」

危ない。

コウダのことだ。

うっかり合意っぽい路線を放置しようもんなら、なし崩しで『そうなったんだろ』的な方に持ってってしまうこと請け合い。

コウダはじと〜っと俺を見続ける。

「『ムカイくんでやることになったら』、来週の木曜日、靴屋の角な」

嫌味ったらしく付け足した。

じゃあな、をわざと大きな声で言って、ゆっくりゆうっくり立ち上がって居なくなる。

大人って子供だ。

子供も子供で、偶に大人。

さっと立ち上がって、家に。

今日は四月一日んちに行く約束がある。

普段はこれが始まってからあんまりそういうのを入れないようにしてたんだけど、今日はもし長引いても『用事が』的なことを言って有耶無耶にしたかったから。

この辺俺の大人なところの気がしてるんだけど、どうだろう。

前はそれが多少、自慢できる所のように思ってた。

でも今、自分の中にあるその『大人』はただ狡い生き物でしかない。

そして自分が益々そうなっていってる事も、今後もそうだろうってことも、残念ながらとっくに知ってた。

『中』に入りだして余計に。

そうなることがいいことなのか、全然分からなかった。

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