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新説 六界探訪譚  作者: 楕草晴子
106/133

12.第五界ー10

感想。

これ、エレベーターじゃなくね?

灰色の砂より一段煌く銀色の鉄骨に囲まれ、上下がやや尖った円柱。

地上のごてごてした建設現場の重機の寄せ集めみたいな。

ガチの人達が使うキャンプ用のごっついランタンを更に重装備にして巨大化させたってのが近いだろうか。

地上にエレベーターだけ単体なんて見たことないから難癖付けにくいとこあるんだけど。

それに確かにあの模型の、縦長の動いてた玉部分をでっかくしたらこんな感じで、間違いないんだけど。

にしても、もうちょっと四角い箱で上矢印のボタンが手元らへんに付いてるのを、エレベーターって言うんじゃなかったっけ。

暑苦しく天元突破したりはしないまでも、他のと合体してバトルに出てもそこまで違和感ないようなビジュアル。

ムダに悩ましかった。

それに何より…。

見るためだけに、首を真上に向けた。

うーん、突き抜けてんなぁ。

当たり前か。大気圏出るんだから。

あんな縮尺の模型でもそこそこ高かった中心の棒。

実物の先っちょは当然見えず。

模型にあった『低軌道ステーション』と思われるものすら遥か上空の点でしかない。

むしろ俺だからギリ点で認識できるけど、普通無理だろ。

模型の存在意義が分かった。

あれなかったらここ来ても感動しようがない気がする。

普段首を上げ慣れてないからちょっと垂直に上を向いてるだけで変な感じ…。

ゆっくりホームポジションに戻し。改めてよく見る。

地上部分はだいぶ劣化してんな。

キズキズだし、へこんでたり、外側捲れてたり。

中の配線的なやつが露出してるとこもあって、廃墟的な。

ガラスなんだろうか、透明な部分が割れたりしてないのが奇跡的。

大きさ的には20人位なら乗れそう。

おっと違う。人は乗れないんだっけ。

荷物…食料とか?

宇宙食のラーメン、ここにパンパンに詰めると何人前だろ。

宇宙ステーションで丸っこい麺を吸い込む日本人宇宙飛行士の映像を思い出す。

あれ、とても一人の腹は満たせない量に見えたんだけどなぁ。

あとは…大丈夫って言われてたけど、念の為。

透明なその内部。

…なにも乗ってない。

動く気配もないし。

よし。

これでエレベーターからなんか出て来る説はほぼ完全に無くなった。

ただの寂れた観光地。終了。

コウダは頻に周りをキョロキョロ。

そういや、ロボットいるって言ってたな。

いたらいたで、なぁ…。

あれ? この場合、『いる』じゃなくて『ある』なのか?

物ならあるんだろうけど、ロボットは人間じゃねえよな。

サンキュー号は完全に『いる』感じだったけど。

あれは『いる』。間違いない。

でもウェブで出て来るチャットボットは『いる』感じないし。でも『ない』とも言い難いなぁ。

思いだすのは親父に借りたスマホで立ち上げて見てたブラウザ。

下らへんに時々出現する『AI』という名前が付いた何者か。

びよっと出て来る『AIが答えます』的な紋切り回答しか出来無い奴。検索結果覗き見して『お問い合わせを!』ってユーザー登録に誘導するようなウザい奴…などなど。

じゃあ、『ある』から『いる』に変わる境目ってどこだ?

んん…取り敢えずAIは微妙な感じだから…『いはしない』けど『ある』、くらいのところにしとくか。

『いる』べきなのか『いはしない』べきなのか。これ、問題だなぁ。

ま、でも今んトコ、この場で決める必要もない。

だってロボットらしきやつーーてか動くものがーー視界に入ってきてないんだから。

「ちょっと裏回ってみる?」

コウダに話しかけると、前を向いたままのコウダから声だけが返ってきた。

「そうしようか。多分エレベーター一周したら時間になるくらいだろうから」

おお、もうそんな経ってたか。

安藤さんのころは『こんな動いてんのにまだそんな残ってんの?』って思うくらい時間進まなかったのに。

慣れたんだな。

これ、成長って言わね?

なんか…スゲえな俺。

これまでながした血と汗と涙とその他の液体が全部、今の俺の力になってる気がする。

感動してる間に引き離されたコウダの側に駆け寄る。

ゆっくりとした足取り。

回って元の正面に戻る事はなさそうな速度。

もうこれで一段落だと思っていいのかな。

多少残念とかって余裕かましちゃえる状況、初じゃね?

踏んだときは死んだかと思ったけど。

入ったときから見えていた真っ黒な空、灰色の大地は、今も延々と続いてる。

そこに何もない。

弐藤さんはこんなとこにロマンとか感じるのかな。

別に自分がロマン感じるかって言ったら全然なんだけど。

夜に上野公園まで行くと案外星も綺麗だから、真っ黒ってなんか味気ないような。

見慣れるとまでは行かないまでも、『夜空』で想像出来る画像とかけ離れた深い暗黒は寧ろ怖い。

コウダと俺の、砂地を踏むサリサリという音は、その怖さを洗うような心地良さがあった。

この靴の中に入った砂とかも、全部出たら消える。

洗濯もしなくていい楽さ。

喜んでいいはずなのに。

俺が覚えてる以外の何も無いってのは勿体無い気が。

あ、コウダも覚えてたら覚えてるのか。

でも俺はコウダじゃない。

コウダも俺じゃない。

だから。

だから?

キラっと何か光る。

光ったのは、エレベーターの丁度正面の真裏からさらに5、6歩進んだところ。

四角い金属の箱だった。

「コウダ」

…しまった。

咄嗟に声が出た。

ヤバイ。

本能がそう告げると、四角い箱は呼応するように自ら持ち上がった。

箱から4本の足が外向きに折れ曲がって生えている。

箱は向きをぐるりと変えた。

側面の中央から出る赤い光の線。

レーザーポインターは明らかにコウダを通り過ぎ、俺を照射した状態で止まった。

動けない。

ポインターも動かない。

コウダは動いた。

鞄からゲートを出し始めたようだった。

ガッッガッ

ピッ

機械音と電子音に続いたのは、聴いたことのある声だった。

「あいうくん?」

弐藤さんの声でその箱は俺を呼んだ。

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