とある転移者の覇者道
はぁ
今日も今日とてため息が漏れる。つまらない毎日が続き、くだらない生活を過ごす。
交わす会話は生産性がなく、何のためかわからないまま勉強をする。
「何のために生きてんだろ、俺?」
水の呟いた言葉は誰にも届くことなく消えていく。
「こんなことなら、異世界でも行って、楽しく生きてえーよ…」
別に今の生活に不満があるわけではない。それなりに勉強はでき、それなりに運動ができ、中の上といった程度のルックスも持っている。ただ、少し体の線が細いというのが男として、水の悩みだった。だけど、毎日同じことを繰り返し、目的を持って何かをする、そんなことがない日常はとても退屈だった。
そして、今日も同じように朝起き、支度をして、学校へ向かい歩いている最中だった。
すると突然、本当にいきなり、まるで先程呟いた言葉のせいなのか、あたりの時間が停止した。体は動かすことができないが、思考だけが働く。周囲はまるでサングラスをかけた時のように黒くなり、この世界から音が消えた。
いきなりの異変には関わらず脳は冷静に働く。
金縛り?いや、違う。遠くに見える鳥も動きを止めた。少し前を歩く女性も動いていない。本当に時が止まっていると仮定するなら、自分のみが考えることができているのか?それとも、他者も同じように思考だけは働いているのか?前者だとするなら俺が対象、後者なら無差別のテロか何かか?それに、時が止まっている、これは明らかなオーバーテクノロジー。まさか、本当に神の仕業か?
そこまで考えた時、全ての謎は解明された。
視界の上、空から身軽何かがゆっくりと降りてくる。
近づいてきてわかる。人だ。いや、人に似ている何か。そう、まるで天使のように…。
背中からは羽が生え、白く美しいドレスを身にまとったそれは、俺の前に降りてきた。
「認証コード0122、個体0008から0001へ。対象に接触、及び、対象の時間停止状態を解除すると共にエリア302へと移動の許可を求めます」
女は突然喋り出し、そして次の瞬間にはあたりの景色が変わっていた。そして体に自由が戻ってきた。
「何が起こったんだ?」
目の前の女は俺の問いには答えず、こう続ける
「対象望月水への説明に移ります。転生まで後500秒。カウントダウンを開始します」
「転、生⁉︎」
「こんにちは、望月水様。今回あなたにして貰うことは、あなたたちで言うところの異世界、における生活です。理由を説明させてもらいますと、エリア5896、すなわち地球における人が、エリア958023、エルニアと言う場所においてどの程度生きることができるのかという実験を行うためです。地球の寿命が残りわずかとなって降りますゆえ、地球人の生き残りをエルニアへと転送可能かどうかの先行テストになります。何か質問がございますでしょうか?」
いきなりヘビーな説明をされ反応に困る。俺はよく言えば地球人代表、悪く言うなら人柱として異世界での生活を行うということだ
とりあえず思いつくことを質問してみる。明らかに俺の生死を握られているため下手にでる。
「どうして、数多くいる地球人の中から僕を選んだんですか?」
「偶然ですね」
「なっ!ちなみに、僕がいなくなった後地球での僕の扱いはどうなるんですか?」
「最初からいなかったことになります。その後、あなたと再会することがありましたら記憶の復元が行われます」
「僕が異世界に行く際は着の身着のままなんですか?」
「いえ、こちらをご覧ください」
そう言って女が見せてきたのは道具一式だった。
リュック、服一式、食料、見たことのない硬貨そして、武器だった。
「どうして、武器が?」
「エルニアは地球と違い剣と魔法の世界ですので。科学とは違い、魔法学という法則に縛られた世界ですので少々危険ですので、護身用として用意いたしました」
「えっと、…僕、生きていけますかね?」
「このままでは厳しいと思われます。何しろ、あなたが生活をするためにはどうにかしてお金を稼ぐ必要がありますが、あちらの世界では少々危険な目に合わなければ稼ぐことができませんので」
「冒険者、的な?」
「そうでございます。ですが安心してください。そのため、個体番号0001より望月水様には異世界で生活する際の3つの願いを叶えるよう言われておりますので」
「3つの願い」
異世界で生活する際の、と前置きするぐらいなのでここで、地球に帰りたい、などの願いは叶えることができないだろう。
「えっと、僕がエルニアで生きて行くのはかくていなんですよね?」
「はい」
「なら、エルニアでの安全保証といったような願い事はできますか?」
「むりですね」
即答!でも、想定内だ。多分具体的な、即物的な願いだけしか叶えることはできないのだろう。
「なら、1つ目の願いとして、僕が感情の制御をすることができるようにしてほしいです」
「わかりました」
剣と魔法、そして、冒険者というぐらいなのだから殺すだの、恐怖だのは当たり前なのだろう。そこで自分を律することができなければ間違いなく速攻で死ぬだろう。
そして、2つ目の願いも決まっていた
「僕に、エルニアにおける全ての知識をください」
「わかりました」
と、その瞬間、頭の中に膨大な量の知識が流れ込んできた。頭が割れるように痛い。しかし、なぜか不思議に不安や恐怖といった感情はなかった。そして気づく、1つ目の願いのおかげだろうと。
そして、この2つ目の願いのおかげで、3つ目に取るべき願いは決定した。
「僕に零の掟と七つの法則を刻印してください」
「…わかりました」
女は返事を少し言い淀んだ。まあ、そうだろうな。七つの法則は世界そのものを変える力。いくら制約があろうとその力は個人が持つには大きすぎる。
女は俺の額に手を当て目を閉じた。
「個体0008から個体0001へ。対象望月水のコード0の解放を許可を要請します」
ほんの数秒後、俺の体の中に何かが入ってくるのを感じる。
「これが、零の掟、そしてその力」
「はい、では時間となりましたので転送を開始します。お気をつけて。」
体がだんだん薄くなって行く。転送が始まった。
俺は笑みがこぼれる。
退屈は終わる。これからに想いを馳せる。
さあ!始めよう!俺の覇者道を!!
連載わんちゃんですね