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戯れ  作者: rurihari
3/7

戯れの1 移動制限 2

 全国で起きた同時多発重大事故のあと、拙速ではあるが政府が現状を発表した。

 それは日常生活の上でこれまでと同じようには行かないことを政府の発表前に流通業界から漏れていたために国民からの不安にはっきりと答えるためだった。


●201x年6月21日以降 県境を空路、陸路では移動できなくなったこと。


●移動できないのは人だけでなく、人が経済活動で用いる食料およびその原料となる生死を問わない家畜、野菜、穀物などとその種子や苗。


●移動できるものは石油などの製油やガス、電気、建築資材などは問題ない。


●個別にどんな物品が越境できるかは国や自治体が試したリストを参照とのこと。


 

 以上のことがメディアを通じて発表された。

 新幹線が追突されたようにして脱線したのは先頭車両に乗っていた人間が押しつぶされた時に急停止し、後続車両が慣性により衝撃で連結部を押しつぶした上に追突した結果だった。

 航空機はすべてが墜落したわけでなかった。直接海外から成田空港や千歳空港あるいは那覇空港などに無事に降り立った便もあった。この便の航路には日本の他府県を通過していなかった。実際に人を乗せて実験することは人命に関わるのでできないが日本上空を通過する時も都道府県の越境で壁ができるのではないかと思われた。

 その一体その影響を受けるのはどこまでの高度は不明だが国際宇宙ステーションも墜落するのではないかと大騒ぎになったが後に問題がないことが分かった。


 スーパーなどに食料の買占めが起こりパニックが起こりそうなものなのだが発表前から既にスーパー入り口には非常事態宣言による交通網の制限で品物の入荷は未定ですと張り出された時から店頭から食料は消えていた。


 日本で暴動が起きることは稀とされるがこの時は大都市圏を中心に暴動が巻き起こり、6月21日から続く連日のサーキットブレイカー発動で株価下落、在日外国人が日本を危険視して母国へ戻ることを希望するも安全性が確認できるまでは飛行機が使えないことへの抗議行動など荒れに荒れた。

 

 その時 国がメディアを通じて国民に伝えたのは


「流通や移動は不自由になり、便利ではなくなりました。

食べ物が栽培できなくなったわけでも、輸入できなくなったわけでもありません。

工場が潰れて失職するわけでも、住む家がなくなったわけでもありません。

 落ち着いてください。」

 

 という事実だった。 

 

 この現象に原因があるのか?

 何者かによって引き起こされたものか?

 何時まで続くのか?

 恒久的なものなのか?

 国民は疑問を抱いて苛立ったがその答えが国に分かるわけもない。


 不便になった苛立ちをぶつけられた与党には総理大臣を挿げ替えることだけ。そして誰が総理になっても利便性を奪われた国民からの叱責に晒されるだけ。 かといって野党も与党に文句を言うだけでこんな国難の時期に与党に成り代わる政権を取る度胸もなかった。


 その後の水面の移動という点に着眼し詳細な実験を行ったが国道の県境にビニールプールを置いて隣の県に食料を浮かべて移動を試したが県境で止まってしまった。

このことから6月21日時点での水面上の移動しかできないと推察された。

 東京に勤めていた神奈川在住、千葉在住の者が川や海を泳いで渡ろうとしたが対岸で壁が発生して渡れなかったこと、川の浅瀬を歩いて渡ろうとした時も同様であったため水面に浮かべた船などに乗った状態を「水面の移動」となってるようだと判明する。


 そしてここから混乱を伴いながらゆっくりと日本は変化していった。



-東京-


 言わずと知れた日本の中心、法令として首都と規定されてはいないが事実上の首都である。1380万人以上の人口犇くこの大都市が最も影響を受けた場所といってもいいだろう。

 電気や水道は止まることはなかったが食糧供給の先行き不安から暴動が発生した。

 陸路で運ばれていた生鮮食品や加工食品は海路で運ぶしかなくなった。千葉からの漁船を含めた輸送船のピストン輸送ではとても間に合わず、そもそも輸送用の船及び船着場がとても足りない。早急な整備が必要となるのは必定だがこの現象が恒久なのか一時的なのかわからないことから即決はできず、都民の苛立ちは募った。それでも内陸県に比べれば神奈川の県境が多摩川、千葉県との県境が江戸川となってることから両県からの物資が一回の輸送は少ないものの手数で補うことができるだけましだった。

 東京の港の問題はそもそも移動制限減少が起きる前から船舶の往来が多かったこともあり、直接各県から個別に船で運ぶより太平洋側の千葉の都市に集めてから東京湾川に運び、24時間体制で東京港へ輸送することとなり、全国からの食料品、加工品、加工原材料輸送するのにとても船が足りず、操舵する人員も足りず、また海上の事故も増えた。

 暴動が落ち着き、不便を仕方ないものとして受け入れ始めた頃には在日外国人は次々に日本を後にした。親、祖父の世代から根を下ろす世代は日本に残るものもいたがベトナム人や中国人など就労目的で来ていた者はこの移動制限現象が県境だけでなく国境に広がるのではないか?と憶測が瞬く間に広がると潮が引くように去っていった。しかし製造業が原材料などの調達の遅れから稼働率が下がり、製造された物品の流通が滞ることから製造業や小売業などでは労働力は減らしたいところだったので寧ろ経営者側からは歓迎された。 なんせコンビニすら流通が改善されるまでは長期一時休業していたのだから。

 そして東京を去ったのは外国人だけではない。富裕層は金が有っても物が手に入らない、物がある場所への移動も制限される状況を脱するためにいずれ状況が戻ることも考え不動産はそのままに海外あるいは他県に移っていった。 

 国内で移動先が多かったのは北海道で理由は日本海側、太平洋側へも大回りせず船で向かえること。乳製品、食品、穀物、野菜、柑橘類はないが果物の生産量も多いこと。 カロリーベース、生産額ベースでいずれも食料自給率200%を超えている。それに海外からの輸入も空路も大回りすれば不可能ではないため成田を離床していた貨物便は北海道に主に振り分けられていた。 ほかの他府県の空港は上空から他府県の境界がわからないため航空会社側が利用敬遠したことも影響している。

 さらに北海道は広くても一つの道(県)なので陸路での流通網が生きており道内なら人と物品の移動制限がないので内地に比べて利便性が損なわれていないことに尽きた。

 同じ東京でも小笠原諸島は元々空港が存在しない上、同じ東京都からのフェリーでの移動しかなかったので人の移動には大きな問題がなかった。流通問題から物品買い占めが本土で起こった際に小笠原に送る物品が不足したのだがいざとなれば周りの海産物で凌げるため孤島のわりに意外とパニックにはならなかった。

 東京への出入りする人口は昼間人口と夜間人口の差を見ればわかるように近隣県から200万人ほどが通勤や通学、旅行なども含めてあった。

 海上交通網は1300万人の食料の運搬すら全く足りておらず、都心への移動は食料を主とした物資の移動が優先されており、人の移動の船は貨客船の数、係留場の数という物理的な事情から移動時間の割りに交通費も高い。

新幹線や飛行機で他県からの日帰りも可能だった都心での遊興が気軽にできなくなり、また行ったところでレストラン、ファストフードは再開の目途が立たない一時閉店、都心での外食は都内での食糧生産が少ないことから高額、現象発生時の犠牲者の喪に服する意味での娯楽イベントの自粛は無くなっても移動の制限という重しは都民に大きな閉塞感を与えていた。 

 通勤についてもそれまでと同じように毎日東京へ通勤しようにも海路は物資の移動で一杯一杯。そのため埼玉県からは荒川、神奈川県からは多摩川、千葉県からは江戸川の県境を小さなボートでちまちま渡って通勤するのが日常風景となった。大きな船を使おうにも川の深さから無理、理屈で言えば渡し船が渡るところだけ川底を掘り下げればいいのだが早急な工事はなされていない。社食が無くなり、ファストフードも閉店、外食店はかなりの値上げとなり他県からは弁当を持参、そして会社で使う書類などを詰めたバッグを持参して小さな船に乗るにはせいぜい5-6人程度しか一回に渡れない。不便な通勤を強いることとなった企業だが本社機能を別の地域に移すかは即断できず、事業のアウトソーシング、あるいはそれまでなかった県に地方事業所を立ち上げると地方勤務希望者が大幅に増えることとなった。東京の人口推移はその年から急速に減少に転じる。




 -流通-

 

 移動制限減少で最も大きな影響、いやその根幹となった流通問題。

 ともかく食品が陸路を空路が使用できない。北海道から日本海を通り、他府県陸地上空を通らずに移動すれば人や物は問題ないと思われたのだがドローンを使って食材を積んで県境の海を渡ろうとしたのだが他府県の陸地上空に差し掛かったところで食材が引っ掛かり空中で立ち往生となる実験検証結果が出た。 このことからおそらく一旦県境外の海に出ても移動先が日本国内他府県の場合は移動先の県の陸地が壁となると思われた。

 国内の穀物、野菜、果実は海路か河川が県境になってるところは水路だけでの移動となった。

日本海側、太平洋同士の県なら船での移動は大回りしないのでそれほど時間はかからないと思われたがやはり運搬船が足りなさ過ぎた。 TVでの情報は全国でリアルタイムで伝わるので物があるのに手元まで届かない、届きにくい状態は国民が慣れるまで不満不平が上がり続ける。

 では流通に関わる企業はどうなったのか? 

 道路網を使って日本の隅々への輸送を担ったトラックでの輸送業社、宅配業社、郵便業社は割と早くから営業を再開した。移動が制限される食品などを含まないものなら県境の道路手前でドライバーが下りてハンドルを固定して押すか牽引かで運転席まで越境し、その県に控えた別ドライバーが引き継いで運転して貨物を届けた。 だがトラックが県境の主要道路で詰まる事となり食物以外の陸路での移動はより時間を要するようになり、且つ複数ドライバーを介して運ばれることから同じ輸送区間でも関わる人員は増えた。例えば東京から大阪まで一人で貨物トラックを運転していたのを東京、神奈川、静岡、愛知、三重または岐阜、滋賀、京都、大阪と複数人でリレーして運ぶこととなり、長距離でなく他県との県境を何度も往復する勤務となった。それでも待合時間無しで無駄なく上りの車両と下りの車両ドライバーが引き継ぐことは難しいことから余剰に人員が必要となりワークシェアが当たり前となる。

 人件費の問題以外にも後手に回る国を待っていられない複数の運送業者が渋滞を緩和するために共同で県境主要道路周りの土地を借り上げた。ドライバーと車両の交代区間にした土地取得料、トラックを押すアルバイト人員を配備したりしたため販売される物品に送料は転嫁されて物価はやたらと上がった。

   

 ネット通販は海路で運ぶ食品は発送の大幅な遅延が出るため生鮮食品はなくなり保存食だけとなり、越境できる商品も送料高騰を受けて大幅な減少となったがそれでも自分が他県に買いに行く手間を考えればと徐々に回復していく。 だが雑誌、単行本などの書籍類は配送料の転嫁による値上げから一気に電子書籍化がすすむ。



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