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戯れ  作者: rurihari
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戯れの1 移動制限 1

 それは201x年の春の事。

新学期が始まり、五月病が発症するほど新社会人が仕事に慣れていない時期に全国ネットのニュース番組によって伝えられた出来事があった。


 報じられたのは複数の画像だった。

定点カメラに映った風景に文字が書かれている。その文字は真上から見ると文字に見えるのではなく、定点カメラからの視点から見るときちんと楷書で書かれた文字だった。

 田んぼで古米など色が異なる品種を植えて作るアートを思い出して欲しい。稲が植えられた現場に近づいてみたり、真上から見ると間延びしてるが、観察地点の視点からだと意図した絵が見えるようになる。

同じように定点カメラからの風景は遠近法の画像なのに文字だけがまるで映像に字幕スーパーをつけたようなカメラを見ている視聴者に読み易いように文字を入れたように見える。


 最初は鳥取県の砂丘を映す定点カメラで発見され、SNSで広められると一気に他の都道府県に存在する定点カメラ画像からも発見された。 砂丘には砂を穿って、ビルの壁には雨の滴で、道路には落ち葉によって、空には雲が形作っていた。


 複数の、いや後に判明したが1都1道2府43県の全ての定点カメラから一箇所ずつ報告されたことでワイドショーや掲示板では大いに盛り上がった。

昼の情報番組では過去にはネッシーの写真やミステリーサークルが人の手によって作られたことを紹介するほか、単に映された風景が日本語に見えただけ、これはパレイドリア現象だろうなどと意見が交わされた。愉快犯が全国で連携して起こしたものでないかとの意見もあったが一定間隔毎に画像を表示する定点カメラ画像でならともかく、ビルの上に浮かぶ雲が形を変えながら全ての文字が同時に浮かび上がってくる映像があり、定点カメラに近い場所からは歩行者からも文字は判別できたのでスマホでも撮影されており悪戯とするには無理があった。


 一箇所でその文言が現れたのなら単に日本語に読める文字が偶然に撮影されたといえなくも無いが同時に、同じ文言が、日本語で、日本国内に、全都道府県で撮影されたとなると偶然と断じるには無理がある。 


 みなも のぞき おうらい きんじる


 ひらがなに見える風景の一部が一文字や二文字なら偶然かもしれないが14文字のひらがなで文言として意味が成立することが偶然としてはありえないという説が大筋となった。科学に携わるものはどれほど確立が低くても偶然としてありえる、そもそも原始大気の中でアミノ酸が生まれ生物が地球上で育まれた確立の方が確立としては低いなどとオカルトめいた現象を否定した。


 これが平仮名を読めるもの、つまり日本人に対するメッセージであるとして誰が、何のために行ったのか。禁じるのなら何時から、何時まで、何の移動を禁じるのか? 

「みなも」は「皆も」か?「のぞき」は「覗き」か?という意味のひらがなだけだと分かりにくいがネット掲示板やSNSで交わされた意見で助詞が省かれてるだけでこういう意味ではないかというのが広まった。


「水面 を 除き 往来 を 禁じる」


 ネットでは神による警告か?とその文言については大いに盛り上がったが、その後これといった異常は起こらないまま人は生活に追われて日々は過ぎていく。一か月以上が過ぎてワイドショーはいつも通りの芸能人と現政権の批判、健康情報とグルメレポになり、ネットでも一部のオカルト板を除いて下火になっていく。


 たがその年の夏至に当たる6月21日、否応なく誰に対しての警告だったのかを思い知らされた。


 最初に流れたのはネットニュースの速報とTV画面の上に流れる字幕スーパーでTV上部に流れた東海道新幹線での脱線事故を知らせとなった。直後に通常TVプログラムは中止され、報道フロアを映し出し特番報道に切り替わる。

局のアナウンサーが事故の一報を知らせ、


「死傷者の数など詳しい情報はまだ判明しておりません。」


 と告げた直後に横からスタッフが紙を渡し、アナウンサーはイヤホンからの指示に戸惑っている。

 慌てて紙面に目を落として、東海道新幹線の脱線は一か所だけでなく複数個所に及ぶ上、山陽、

九州、東北、北陸、上越、山形、秋田そして北海道とすべての新幹線で脱線事故が起きており、それどころか在来線でも同じように全国で脱線事故が多発していることが判明。

 さらに航空機の墜落と高速道路を含めた自動車の多重事故が多数発生、アナウンサーは次々上がってくる重大事故報告冷静でいられず声を荒げて読み上げ続ける。他局が報道特別番組を流してもこの局だけは、そう言われた東京ローカル某局も今回は全国同時多発事故の様子を伝えていた。 

 全国の高速道路からの事故報告のほかアクアラインで、関門海峡で、瀬戸大橋で、明石大橋で、時々刻々ともたらされる重大事故報告があまりに多すぎて救急車両はとても足りず死傷者の把握すら追いつかない。CMの後にこれまでに報告があったところをもう一度と一通り読み返すだけでも混乱で正確でなくなっていた。 おそらくとんでもない死傷者の数になること、全国で同時多発に発生したことからこれはテロではないか?との意見もみられた。


 1時間程経ったころスマホから緊急速報メールが鳴り響く。気象庁による地震、津波の災害注意を促すものではない。国や地方公共団体からの緊急速報メールである。


「全国各地で事故が同時多発しています。外出を控え、詳細が判明するまで安全な屋内で待機してください。パニックにならず落ち着いて行動してください。」


 起きた異常は災害という広範囲に避けられない被害が出るものではなく、車、電車、旅客機など移動をしていた状態で事故が起きているということ。元から家にいたほとんどの国民は安全だったので不謹慎ではあるがネットでは退屈を吹き飛ばすような非日常にお祭り状態になった。


 TVで状況を見守っていた国民の目に映るのはヘリで取材に向かった取材クルーが墜落したこと、その報を受けて大混乱する報道デスク。

 そして時速200㎞以上で走行中の新幹線が脱線した現場にたどり着いた目撃者によると緊急安全停止装置が作動したようなあとはなかった。地震で起きる少し横にずれて脱線した様な生易しいものでない。路線から先頭車両は投げ出され、なぜか後ろの車両に追突されて押し出されたように後部が潰れている。窓にから見えたのは内側から塗り潰された赤色だった。

 複数旅客機がパイロットから何の交信もないままいきなり墜落したことで他国からの撃墜の可能性からスクランブル発進した自衛隊機まで墜落。

 消防署、救急隊員、警察官、救急病棟勤務医師、マスコミ関係者、おまけに内閣と関係省庁官僚は当年勤務開始から最も忙しい勤務がひたすらに続いた。


 事故発生の日中からその日は夜通しで事故状況の続報を報道され続けた。

翌日になって判明したことは日本全国で死者数千人規模の甚大な事故が起きたこと。

自然災害が原因のものでないこと。

すべて県境で起きたいうこと。 

 

 だが原因が分からない。


 過去最大の重大事故とその報告数。その惨状もさることながら自然災害でないのにその原因が判明しない。ここで内閣総理大臣は非常事態宣言を発令した。

 全国で起きたこの事故の原因が判明するまでは経済活中止の損失を被っても人命を優先し外出を控えて自宅で待機するように呼びかけた。

事故の後始末も終わらぬ事故現場は警察官により通行は封鎖された。


 しかし県境は別に車が通る道路や線路だけではない。公の機関がその異常を調査中し政府からの発表を待つ前に市井のSNS発信者やインターネット動画共有サービス発信者が実験してその事実や個人の見解をネットで広めてしまった。


 陸と空の異動手段に対して海上保安庁からのまとめでは海に墜落した航空機はあっても船の事故は一切起きていない。

 事故は県境の道路や線路で起きたこと。

 県境に人が通れない見えない壁があること。

 風は通るし他県で発電された電気は通じているので無機物は問題ない?

 

 ここで多数の人間は春の警告を思い出す。


 みなも のぞき おうらい きんじる


 その日から日本は不便になった。



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